IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第310話 バレンタイン特別編 その1

2月14日、バレンタインデーは、世界各地でカップルの愛の誓いの日とされる乙女達の聖戦である。発祥がどうたらこうやらは一切合財関係が無い。その日は乙女達にとって重要な意味を成すのだから。チョコレートを持って愛しい人へ向けて感情と思いをぶつけて、絆を深めたり、紡ぎあったりする重要な日なのである。

 

―――そうそれは……IS学園でも変わらないのである。

 

 

「あぁっ~……今年もこの季節が来てしまったか……」

「うるせぇよっつうかなんでお前俺の部屋にいんだよ。嫁の部屋にでも行け」

 

 

あくる日、世間は2月の14日という大イベントに染まりきりニュースにチャンネルを合わせれば、今からでも間に合うバレンタイン特集やら、何処のチョコが人気やら義理チョコグッズやらで盛り上がっている。そんな波はIS学園にも届いているのだがそんな日に一夏はカミツレの部屋にやってきて料理をしているカミツレを尻目にテーブルに項垂れるのであった。

 

「だってバレンタインだぜ?一歩外に出たら速攻で女子に囲まれて、此処まで来るのにも相当苦労したぜ俺」

「俺の部屋を避難所(ヘイブン)扱いすんな、というかこういうイベントだからこそイケメンであるてめぇは勝ち組だろ」

「……今ならそう思うだろうけど、昔の俺は多分なんで本命扱いのチョコとか全部義理とかどうせ本命居るならそっちに気合いれればよかったのにって思ってたからな……」

「死ね」

「直球!?」

 

箒との関係が変化した事で漸く恋心と周りから向けられて来る感情にも理解が及ぶようになった一夏にとっては、過去の自分は本当の黒歴史でその時の自分の行動やら全部が嫌な経験でしかない。あの時のチョコだって今思えば本命であった物もあったかもしれない、だがそれらを全て義理だと思っていたし量も多かったので男友達と分かち合っていた事もあった。本当に申し訳ないことをしたと今なら理解出来る。

 

「っつうかカミツレだって貰ってたんじゃねぇのかよ!!」

「自慢じゃねぇが、母さんとファームで働いてた人以外からは貰った事ねぇ」

「……えっ嘘だろ?」

「マジだよ、俺よりも普通にイケメンでコミュ力高い奴いたからな」

 

カミツレは婚約者の存在や技量などの事で色々と忘れられがちだが、本人自身は長髪な事以外は割と平均的で平凡な人間である。本当に忘れられがちだが、容姿などは平凡なのである。しかも当時はISなどに関わる前の事なので長髪な農家の次男程度にしか見られていなかった。故にそんなカミツレにチョコを送る女子など皆無であった。因みにかずみんは言うまでもないが、みーたんからのバレンタインプレゼント企画に当選して気絶した事はあった。

 

「なんか、凄い意外だ……」

「まあその分、母さんがすげぇのをくれてたから気にしてなかったわ」

「愛理さんなら確かに凄いの送りそうだな……因みにどんなの?」

「3段チョコケーキワンホール」

「……」

 

それを言葉を失いながらも一夏はカミツレの肩を叩きながら、取り敢えず箒の場所に行こうと席を立つのであった。扉が閉まる音がする中で出来上がりつつあるスープの味を確かめながら、このIS学園でどうバレンタインをやり過ごそうかと思考を巡らせようとするのだが直後に扉がノックされる音を聞いてそれを捨て去るのだった。なぜなら―――自分にそんな平穏が来る訳が無いのだから。

 

「カミツレさんその、今宜しいでしょうか……?」

「ああっ大丈夫だよセシリア」

 

昔と違って、今では自分を愛してくれる女性がしっかりいるのだから一人でのんびり何てことはありえないのである。

 

 

「ほ、本日はお日柄もよく絶好の……えっと、んもう緊張して言葉がで、出てきませんわっ!?」

「取り敢えず落ち着いたらどうだセシリア、なんか何時もの君らしくないぞ」

「で、ですが今日は私達乙女にとってはとても重要な日なのですわ……今日の為に様々な努力をしてきたと言うのに……!!」

 

悔しそうに口角を歪めているセシリアを見つめながらもカミツレはそんな彼女を微笑ましく見ながらも、何処か緊張しながら照れくさそうにしている。彼女がどうして此処に来てくれているのかはもう察しがついているからだ、だが敢てそれを口にするほど自分は野暮ではない。懐から取り出した綺麗にラッピングされたそれで口元を隠すようにしながら、頬を赤らめながら此方を見つめてくる彼女が何処か愛おしい。そんな彼女を一歩リードするように近づいて抱き寄せる。

 

「カミツレさんその……もう妙な事を考えるのは止めますわ。改めて、愛するカミツレさんへと心を込めたプレゼントをご用意いたしましたの。どうかお受け取りくださいますか……?」

「勿論。有難うセシリア」

 

ニッコリと笑うカミツレにセシリアは思わず、安心と喜びの笑みを浮かべる。そして同時に彼の唇へと自分の唇を軽く重ねた。

 

「私が一番、ですわねっ♪やっぱりカミツレさんの一番は譲れませんわ♡」

「そう言われると男冥利に尽きちゃうねぇ、俺も君の一番で居られて光栄だよ」

 

そう言うとカミツレは許可を取ってからチョコが収められている箱を開けてみることにした。綺麗にラッピングされているそこにはハートが散りばめられているチョコパイが収められていた。様々な色をしたハート型の小さなチョコが鮮やかで綺麗なチョコパイを華やかにしている。

 

「うわぁっ凄いなこれ……作るの大変だったんじゃないか?」

「パイ生地を作るのがそれなりに……でもカミツレさんの為に頑張りました!!」

「セシリア……本当に有難う、そのさこれ一緒に食べないかい?」

「わ、私もいいのですか!?はっはい是非!!」

 

バレンタインデーの特別な始まり、それは様々な味のチョコが散りばめられた華やかなチョコパイから始まるのであった。そして二人のキスは甘くとろける味が続いていた。




私「いやぁバレンタイン大変だったなぁ……というか何で私がチョコ作ってるの?可笑しくない?」

妻「昔から作ってきたのに今更ですね」

私「その癖、君はチョコ作らずになんでワインを送ってきたのよ」

妻「酔わせて襲おうかと思って」

私「その前に、全部母さんと飲んだ感想は?」

妻「美味しかったけど悔しいです……割とマジで」

私「勧めた甲斐があったぜ」

妻「謀りましたね!!?」

私「君の不幸を呪うがいい」

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