「ねぇカミツレさん、キスしません?」
「いきなり何言ってんのかな君は」
一日休みである事を利用して今日の夜に行い食事会の仕込を行っているカミツレの元へとやって来た乱。取り敢えずカミツレに抱き付いた後、調理をしている彼の姿を見ながらそんな言葉をぼそっと呟いた。それに即座に返球する辺り、カミツレもIS学園で様々な事を経験しているからだろう。
「何、欲求不満なの?」
「別にそんな事ありませんよ、カミツレさんに愛してもらってますから。でもなんかしたいなぁ~って思ってつい」
「そっか、俺はてっきり惣流さんの真似でもしてるのかと思ったよ」
「まさかの投球に乱ちゃん、見逃し」
そんな風な会話をしている二人だが、乱はしっかりとした用があった事を思い出して話を始める。
「あっそうだ。カミツレさん実は私の家族が今度イギリスに行く事になったんですよ」
「へぇっそうなんだ」
「なんでもイギリス政府と台湾政府が連携と親交を深める一環とかで……もしかしたらイギリスに別荘を持つかも知れないって話が来ているってお父さんが言ってました」
そう言えば乱のご家族にはカミツレは挨拶をして居なかった、乱はしているのに。まあ乱とセシリアの場合は外堀を埋める為にバレないように会いに行って、逃れられないようにする為に行ったほうが正しいのかもしれないが。
「お父さんたちもなんかイギリスに引っ越すのもありだなぁって言ってたし」
「いや、それは良いのかな……台湾政府的に」
「なんか家に凄い人が来るらしいんですよ、だからマジで引っ越そうかなぁって政府の相手に愚痴ったらしいですよ。そうしたらなんか一等地に完璧な警備体制の家建てるって事になったらしいですよ」
「あ~……なんか、申し訳ないな。完全にそれ俺のせいじゃん」
事実として乱の友人だけではなく、唯の同級生やら近所の住人までが少しでも乱達の家族と少しでも友好な関係を築こうと必死になっているらしく混迷した状況になってしまっているらしい。それも明らかに婚約を結んだカミツレの原因があるのかもしれないが、家族の方はそれほど気にはしていないらしい。
「正直助かってるらしいですよ?お父さんの勤める会社だとなんか次々に契約の話が持ち込まれて父さんは一気に大出世、何時の間にか家は豪邸になるし家賃やら光熱費とかも政府持ちになって万々歳。アタシが代表候補になってた時点でも結構余裕あったのに」
「なんか、逞しいな」
「お父さんは凄いですから、肉体面でも精神面でも」
取り敢えず乱のご家族が自分に対して暗い感情を向けて居ないというのが分かっただけでも御の字。ハッキリ言ってホッとする所、まだ束のご両親にも挨拶に行っていないのでそれらを思うと自分の事を好意的に思ってくれて居ると会いに行きやすい。
「カミツレさんの方だって大変だったんじゃないんですか?政府の人達とか」
「ああっでもお爺ちゃんとかが全部怒鳴り散らしてたし、リチャードさんの手配でセキュリティとかも万全だったから其処まででもなかったかな」
「確かに……白鯨さんに怒鳴られたら思考がフリーズしそうですもんね」
「俺はマジでフリーズして死を覚悟したね」
夏に実家へと帰った際に祖父が日本への所属要請やら交渉をしてくる政府の人間を一喝、片手で湯飲みを粉砕する姿を見せ付けたりして確固たる意思と力でそれらの要請を拒否して来た事を知ったカミツレ。改めてリチャードに感謝と祖父の偉大さを知る。
「カミツレさん」
「ほいお茶」
「あっなんで分かったんですか?」
「そんな顔してたからね」
一通りの調理が終わったカミツレは自分と彼女の分のお茶とお茶請けに煎餅やらを持ってきた。それらを喜びながら受け取る乱は静かにお茶を飲んで落ち着く。
「あ~っなんかこうして穏やかに過ごすのっていうのもいいですねぇ」
「だねぇ~……訓練ばっかりで激しいのに慣れてたけど昔はこんな風にのんびりしてたなぁ」
IS学園に入学してからカミツレのスケジュールの大半は自らの鍛錬と予習と復習で埋め尽くされていた。それらはセシリアのお陰でイギリスの代表候補生となってからはある程度緩和されているが、それでも十分過ぎるほどなハードスケジュールに入る部類。こうしてのんびりとするのも久しぶりな気がする。
「そんなカミツレさんのご褒美ですっ♪はいアタシの愛を沢山込めたチョコレートです!!」
「実はちょっと期待してたんだよね。有難う乱ちゃん。早速開けてみてもいいかな」
「勿論いいですよ♪」
少々簡素な入れ物だがそれでも十分なほどに丁寧にラッピングされたそれを開けてみると、そこにあったのは大きなハート型のチョコに「カミツレさんへ愛を込めて♡」と書かれていた。乱らしい直球な贈り物に流石に恥ずかしさが滲み出してくる。
「えへへっ王道にど真ん中直球ストレートしてみました!!」
「剛速球でね、これは受ける側としても相当恥ずかしいな……」
「でも下手に考えるより愛は伝わりますよね♪」
「あはははっごもっともで」
下手に変化球で挑むよりも正直に思いを伝えられるような直球で挑む。そんな乱らしさが溢れているチョコを受け取って口にしてみる、程よい甘さと僅かな苦味で後味もしつこくなくて美味しいチョコに笑顔がほころび、乱も嬉しそうにしながらチョコを食べるカミツレを見つめるのであった。
「カミツレさん、キスしたいとは言いませんけど……一緒にお昼寝しましょ♪」
「いいよ」
その後、部屋にはカミツレの腕枕の上で幸せそうに眠る乱とそんな彼女を見ながら優しく身体を撫でる優しい笑みのカミツレの姿があったそうな。
妻「なんか、普通過ぎません?」
私「いやいやいや普通でいいじゃん」
妻「だってこれ明らかに激しい私へのあてつけじゃないですか」
私「自覚あるなら自重してくれないから」
妻「自重したら私じゃないかなって思って」
私「学生時代から言ってるけどさ、自重を覚えて」