IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

312 / 341
第312話 バレンタイン特別編 その3

「だぁぁぁっまた負けたぁっ!!」

 

ピット内へと戻ってきたカミツレは「大将軍」を解除しながらその場に倒れ込むかのように寝転んでしまった。今回は近接戦闘能力向上訓練ということで射撃武器は一切使わずに近接武器だけで戦闘を行った。ブレードだけではなく「極ドライブ」で槍や杖なども展開しながら戦ったのだが、対戦相手の能力が余りにも高い為に一向に攻め切る事が出来ずに敗北してしまった。

 

「分かっちゃいたけどさ……いざこう、ボロボロに負けると来るなぁ……」

『物の見事な大敗北でしたね……まあ相手が相手ですから致し方ないとも思いますが』

「千冬さんが相手だったからなぁ……」

 

そう、今回カミツレが戦っていたのは千冬なのである。どちらかと言ったら近接戦の方に適性があるカミツレだがBT兵器を搭載している「大将軍」の影響からかBT兵器を交えた射撃戦が比較的に多くなって、近接戦の腕が鈍ってきていると千冬に指摘されその特訓をしていたのである。が、千冬曰くそれなりに善戦したと言われたが本人からすれば全ての攻撃をいなされ、あしらわれた末に大敗したとしか思えないような結果であった。

 

「流石にレベルの差が激しかったな……正確無比な鋭く素早い一撃……。最後の連撃って全部同じ箇所じゃねぇか?」

『そうですね、僅かなズレ自体はありましたが同じ場所に命中してますね。間違いなく最上位の剣の使い手だからこそ出来る技ですね』

「うわぁっ……流石千冬さんですわぁ」

 

最後まで防御に回っていた千冬だが、ある一定までカミツレが踏み込んだ瞬間に嵐のような凄まじい連撃を加えてきた。防御の隙間を突くかのような鋭く素早い連撃は殆ど同一箇所を狙っての物だった。矢張り凄まじい技量だと尊敬を抱かずにはいられない。

 

『ソニックアローのデータも石森プロから頂いた超全集を元に作ったのに、千冬さんには効果がないなんて……』

「全くだよ……というかさ、今回近接オンリーなんだからソニックアローの弓部分活用出来てないぞ。結果唯のショートブレードみたいになってたし」

『いやだって折角データ作ったんですから』

「お前カチドキって名前なんだから、せめて火縄橙DJ銃と無双セイバー作れよ」

『……あっ』

「おいクソたわけかキサン」

『酷くない!!?』

 

そんな風なやり取りをしている時の事だった、此方側のピットへと普段のスーツへと着替えた千冬がタオルを首に掛けながらやってきた。その手に自分の分のタオルを持って此方へと投げてくる。

 

「すいません千冬さん」

「何だ、随分と楽しそうにしていたな」

「馬鹿な子供に一発文句を言っただけですよ」

「やれやれっまあカチドキなら致し方ないか」

『ええっ……千冬さんまで私にそういう認識してるんですかぁ……』

「「カチドキだし」」

『マジ解せねぇ……これじゃあローギアにダウンです……もういいです、ドライブ見てきます』

 

そう言って黙り込んでしまうカチドキ、普段からの行いが行いなので二人からすればもうある意味常識の範疇内の出来事同然なのである。タオルで顔などを拭うカミツレの隣に千冬は座り込みながら、今回の訓練での総評を口にする。

 

「矢張り私の思った通り、射撃面に集中し過ぎているな。悪い事ではないがそれを理由に近接の鍛錬をしないと言うのはアウトだ」

「う~ん……最近一夏対策の為に射撃訓練を増やしたのが仇になっちゃいましたかね」

「確かにあいつの場合は近づけさせなければ、剛の剣を食らう事はないからな。まあ分かりやすい対処法だからな、だが相手の分野で勝つと言うのもまた一興だろう?」

「それはもっと強くなってから考える物じゃないんですか?」

「何、考えるだけなら無料(タダ)だ」

 

正直千冬の言いたい事も分からないわけでもないが、それだけ一夏の剛の剣はやばいのである。「白式」が改修され新たな武器と「夏之型」を得た今となっては近接を挑む事自体が愚策。ならば射撃戦で圧倒するのが一番簡単で確実な戦い方とも言える。

 

「何れ奴も射撃を覚えるし、それに対する機動もマスターする。私の弟だ、私がヨランドにやったような戦法をやらないとは言えないだろう?」

「千冬さんが言うと冗談に聞こえないし、貴方の弟って言われるとマジでそうなりそうだから嫌だな……あ~もう分かりましたよ、これからは両立を計ります!!という訳でご指導ご鞭撻をお願いしますこれからも!!」

「うむっそれでいい」

 

強くなる為にはそれが一番の方法、これからも千冬に訓練を付けてもらいながらも頑張っていくとしよう。と思っていると頭の上に何かが置かれた。それを置くと千冬は頬を赤くしながらそっぽを向いた。

 

「一歩、前に進んだご褒美だ……受け取っておけ!!」

「これってもしかして……チョコ、ですか?」

「そ、そうだ文句あるか!!?」

 

頭に置かれたそれを開けてみるとそこには歪な形をしているが、そこにはトリュフチョコが入っていた。手にとって見ると酷くデコボコしていてお世辞にも上手く出来てるとは言い難いが、しっかりとチョコがそこにあった。

 

「もしかして、千冬さんが自作して?」

「……そ、そうだ!私とて一応女だ、こういう時ぐらいは自作するのが筋だろう!!だが失敗したからな、それでも一番出来がよい物だが多分まずいぞ!!だから食う時は他のチョコと一緒にだな……」

「(アムッ)」

「ああっ!!?」

 

そんな千冬の言葉など全無視してカミツレは迷う事無く、それを口へと放り込んだ。確かに甘みがかなり弱い上に苦味が強い。失敗していると言うのも頷けるがそれでもカミツレは次々とそれを食べていく、千冬は何処かあわあわしながらそれを見守っていたのだが、全て食べ終わるとカミツレは静かに手を合わせてごちそう様でしたと千冬に頭を下げた。

 

「態々有難うございました千冬さん、とっても甘くて美味しかったですよ」

「な、何を馬鹿なことを……苦かっただろうに」

「いえ甘かったですよ、ほら」

「んんっ―――!!?」

 

カミツレは強引に千冬を抱き寄せ、そのまま唇を重ねる。まだチョコの味が残っている唇が重なり合う、それに思わず驚愕する千冬だがそれは不思議と甘く感じられた。自分が味見した物よりも甘美な味わいをしたそれに驚いていると、笑顔を向けられた。

 

「ねっ?好きな人と一緒だと美味しくなるんですよ」

「……ああそうだな。だが今度はちゃんと美味く作るさ」

「楽しみにしてますよ、それじゃあその前にもう一回味わいます?」

「―――ああっ是非味合わせてくれ」




私「珍しくカミツレが攻め、千冬さんが受けって感じの話でした」

妻「やっぱり慣れない事をしてちょっとしおらしくなってますね千冬さん」

私「君にも似たような事があったからね、それを参考にしたよ」

妻「私にそんな事ありましたっけ……忘れました」

私「あったよ、都合が悪いことは忘れるんだから……」

妻「てへっ♪」

私「許さんよ♪」

妻「なんか当たりが強いです」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。