「ツェレハッピーバレンタインですわっ♪」
「……」
「なぜお閉めになるのですか!!?」
夕食後の出来事だった。偶には学食で夕食を済ませようと思い、食堂のディナーセットで腹を満たしたのちに自室に戻ってきたカミツレだった。鍵を開けて入った途端、そこには師匠であるヨランドが満面の笑みを作って自分を出迎えている光景が広がっていたので思わず一歩下がって扉を勢いよく閉めてしまった。以前の楯無の一件が軽くフラッシュバックして頭痛を感じつつも呼吸を整えながら意を決して扉を開ける。
「もうツェレそんな反応はあんまりではありませんこと?」
「……」
「またですの!!?」
本日2回目。そこにいたのは確かにヨランドだ、正直いきなりの来襲程度では驚く事なんてしない。だって束に毎回毎回いきなりやって来られているのだから。国家代表がこんな所にいていいのかとか色々仕事があるんじゃないか、とかそんなことはこの際どうでもいいのである。しかしあのヨランドがメイド服を着て自分を待ち構えているなんて光景を目にしたら現実逃避をしたくなるものだ。
「今日何回目の驚きだ……」
「んもうツェレ!!いきなり扉を閉めるなんてレディに対して失礼ですわよ、それも2回も!!」
「それは謝りますけど……んじゃ言わせて貰いますよ。何やってんすか」
思わずテンションがダダ下がりの真顔で言ってしまうツッコミ。もう色々あって疲れているのでハイテンションでやってられないのだろう。目の前では青を基調としているメイド服を見事なまでに着こなしているヨランドの姿が目に入っている。本来は彼女が主としてメイドを従える側の立場だろうに……本気で何をやっているんだと思うカミツレにヨランドは豊満な胸を張りながら、自信たっぷりに言って見せた。
「本日はバレンタイン、日本では愛する男性へとチョコを送る日だと聞きますわ。そこでこのヨランド・ルブラン、愛するツェレの為に最高級のものを取り揃えてそれをご用意いたしましたの!!そして聞く所によると日本にはメイド喫茶にて特別なイベントが開かれるというではありませんか。ですのでメイド服にてツェレをお出迎え致しましたの!それに実は一回着てみたかったのです♪」
「アッハイ、ソデスカ」
つまりメイド服については半分ぐらいはやってみたかったという事なのだろう。まあもうそこは良いという事にしよう、もう言うだけ無駄だろう。
「というか、居て大丈夫なんですか……?ちょっと前に国家代表の仕事についてレポートを書く機会あったので色々調べたり聞いてみたら凄い忙しいみたいじゃないですか」
カミツレはもうこの際ヨランドがいる事には突っ込むことは諦めた、だが代わりにここにいて本当に大丈夫なのかについてツッコミを入れた。政府との打ち合わせや国内での活動や自身の鍛錬に各種外交にも出向いたりもする。それに加えてヨランドの場合は大貴族の当主という立場まである、ハッキリ言って凄まじく多忙な筈。
「大丈夫ですわ、今回は確りと仕事を終わらせてきましたの!明日まで暇がありますの!!」
「それなら良いですけど……それってフランスに帰るまでの時間とちゃんと計算に入れてますよね?」
「……あっ」
「……おい師匠」
「だ、大丈夫ですわ……束にお願いしますので……」
これは自分からも束にヨランドを送るようにお願いしておいた方がよさそうだという事にため息をつきつつも取り敢えず席に着くことにした。
「ま、まあ細かいところは置いておきまして早速プレゼントですわ!実は普通のチョコレートではあれかと思いまして、思いきってチョコレートケーキに致しましたの!!それはツェレがお一人の時にゆっくり食べられるように工夫を凝らしておいたものを冷蔵庫に入れておきました」
「ケーキか……良いなぁそれも」
「では本命は……こちらをどうぞ♪」
そう言ってヨランドは懐から何から小さな箱のようなものを取り出してそれを手渡す。それを受け取りながらそれを開けてみるとそこには何やら細い円筒形上のものが入っていた。何かと思いながらヨランドの顔を見てみるとふたを開けてほしいと言われて、あけてみた。そしてそれの正体にようやく気付けた。これは口紅だと。
「これって口紅ですか?」
「ええそうですわ、中には口紅の代わりにチョコが入っておりますわ」
「なんて器用な事を……でも面白いですね」
「少し、失礼しますわね」
カミツレの手からそれを取ると中に入っているチョコを軽く出した。本物の口紅のように出てくるそれは菓子作りの腕前が超一流だと称されるヨランドの技巧が施されている、鮮やかな赤いチョコからは甘いチョコとイチゴの香りが鼻腔をくすぐってくる。そして彼女はそのまま、少し伸びたチョコを舌先で湿らせるとそのまま手慣れた手つきで自分の唇へと塗っていった。丁寧に塗り終わるとヨランドはカミツレを抱き寄せながらまっすぐ、見つめてきた。
「さあツェレ、私ごとチョコを……召し上がってください♪」
「そ、そう来ましたか……」
ある意味自分と同じ大きさのチョコを作ってきた束以上にインパクトがあるやり方だ。だがしかしその威力は壮絶でとても魅惑的で吸い寄せられるような不思議な魅力を持つ唇となった口をそっと尖らせてキスを強請るヨランドにカミツレは抗う事が出来ずにそのままそっと唇を重ねた。
「んっ……ぁん」
「チュッ……レロォ……」
通常のそれよりもはるかに甘くて魅惑的なそれに瞬時にカミツレの思考は解けていく。優しく、相手を傷つけないように舌を動かして唇のチョコを舐めていく。そしてある程度舐め終わるとヨランドが舌を出して深く絡めてくる。生暖かく柔らかな舌がチョコを溶かしながら舌と絡み合って口いっぱいにチョコの味が広がっていく。キスが終わった時には二人の間には普段よりも粘り気がある光る橋が出来ていた。
「はぁはぁはぁ……お代わり、致しますか?」
「お願い、します……」
二人は口紅チョコがなくなるまで、キスをし続けた。互いの唇に、舌にチョコを塗っては互いの口内を蹂躙し続けた。
私「や、やっと終わったバレンタイン……」
妻「ホントかかり過ぎですよね。」
私「これからは比較的に書きやすい特別編か……」
妻「まあ頑張ってくださいね、私はそんなあなたを見て愉悦しますから♪」
私「んなこと言ってると犯すぞ」
妻「えっ……ぜひ♪」
私「……冗談だから本気にしないで」