「うううっ……」
「ちょっと本格的に大丈夫ですか千冬さん!?」
「あ、安心しろこれでも、以前は世界の頂点に居た女だ……この程度の痛みで……ガハッ!?」
「吐血!?」
「あ、安心しろこれは、さっき飲んでいたカシスジュースだ……」
「紛らわしいなおい!?」
千冬の部屋へと急行したカミツレ、漸く胃痛が治まって来た千冬は身体を起こしながらカミツレと向き合う形を取っているが、まだやや顔が痛みに歪んでいる。本格的に胃の調子が悪く痛みが強いようだ。一時期、
「と、兎に角世話を掛けてしまったな……」
「いやまあ、それはもう良いんですけど…マジで普段の生活大丈夫ですか?」
「無論、大丈夫だ」
凛々しく男らしい笑みを浮かべながらサムズアップ、一見すれば本当に頼りがいがあって心配なんてする気起きないのだが、吐血紛いな事をされた後では説得力など、無いに等しい。何となく、先程薬のゴミを捨てたゴミ箱へと目を向けてみる。そこには、何やらシュレッダーに掛けられている手紙のような物が山のようになっている。しかも近くに纏められている複数のゴミ袋にも同じような物が……。
「着かぬ事をお伺いしますけど、もしかしてアレって全部……ファンレターですか」
「……ああ。毎日届いてくる」
「うわぁ……」
「因みに、学園内のみだ。あのゴミ袋だけで3日分な」
「アレで!?しかも学園内のみって、外から含めたらもっと凄い量!?」
流石は世界に名高い戦乙女、織斑 千冬。彼女ともなるとファンレターの量も尋常では無くなるという事だろうか……だが、幾らなんでもこれは多すぎる……。そりゃこれほどの量になれば、掛かるストレスも相当な物だろう。学園外から来る物は事前に処理されるらしいが、中からはそうは行かないようだ。
「最初はな、確りと目を通していたんだ。紛りなりにも私宛の物だ、精一杯気持ちを込めた物もあるだろう……だがな、時を重ねる毎に自乗でもしたのかという勢いで増えていくんだ。もう、到底読んでなどいられない……」
「千冬さん……」
「しかもな、中には剃刀が入った物や誹謗中傷まで入っている物まであるのだ。私とて、人間だ……傷付かない訳、無いんだぞ……?」
「胸、貸しましょうか……?」
「……すまない、背中を、貸してくれ……」
カミツレは素直に後ろを向いた。千冬は何かをブツブツと言いながら、カミツレの体温を感じつつも身を預けた。本来教師である筈の自分が生徒のカミツレにこんな事をするなんて、自分が許さないが…様々なストレスが襲い掛かってくる現状、少しの間でも強い自分を投げ捨ててでも誰かの厚意に甘えたくなってしまった。久しく感じる男の肌の感触、カミツレの背中の大きさに何処かほっとするような思いを覚えつつも、暫しの間、それに甘えた。
「すまんな杉山、教師として情けなかった。もう大丈夫だ、持ち直した」
「本当に大丈夫ですか……?」
「ああ。流石に誰かに甘えなさ過ぎたのが悪かったらしい…真耶にも言われたが、これからは適度に誰かに甘える事にするさ」
「迷惑を掛けちゃってる身としては、申し訳ない限りですが……俺も力になるので偶には休んでください」
そんな風に、申し訳なさそうだが何処か力強く言うカミツレ。そんな彼に何処か保護欲のような、庇護欲のような物が沸くと同時に悪戯心が沸いてきた。頷きつつカミツレの腕を取り、そのまま胸へと抱き寄せて深く抱きしめた。
「っっ!!!??」
「ああっ……有難うな。そこまで私の事を心配してくれて、嬉しいよカミツレ」
「ちちちちち千冬さん!!?ああああの、わ、あわわ分かり、ましたからは、はなして……!」
真耶の時とは違い、頭は千冬の肩の上だがそれでもガッシリと抱き締められている事に変わりは無く、パニックに陥ってしまう。女友達もまともにおらず、フォークダンスの際も手を取らず指を合わせる程度しか経験が無いカミツレにとって、この状態は余りにも刺激が強すぎる。千冬のような美人に深く抱き締められるなど、許容量をあっさりとオーバーしてしまう。
「ああもう、如何してお前は優しい……?有難う…本当に、な」
千冬にとっても一夏以外で此処まで気を遣われ、優しく接してきた男は初めてだった。美人であるが、戦乙女という称号が周りを気圧してしまい、まともに会話をしてくれる男性などいなかった。高嶺の花のような扱いをされてしまい、一夏以外の男の前に弱音を吐くなど以ての外だった。だが、今回はポロっと言ってしまった。
「如何してお前は年下なのだ……?同い年であれば好みだったというのに、実に残念だ」
「あ、ああああああの、お願いですから、はな、して……」
「んっなんだ、お前は女を知らんのか。ならば私が相手をしてやっても良いぞ?」
そっと、耳に囁くように千冬は言うが、それでカミツレは完全にオーバーヒート。頭から蒸気のような物を噴出してそのままノックアウトされてしまった。そんなカミツレを見て、寝かせながら千冬は大声で笑った。
「ハハハハハッ!!!矢張り知らんか、やれやれこの程度では、ハニートラップに掛かってしまわないか心配だな杉山!!ハハハハハハッ!!!」
豪快そうに笑う千冬の視界の中で目を回してしまっているカミツレ、完全に千冬に遊ばれてしまっていたようだ。
「しかし、お前の優しさは嬉しかったぞ。ふふふっ…同い年云々は本気、かもしれんがな♪」
「……ふんっ!!」
「おいおい、そんなに怒るな杉山。悪かったから」
「ったく知りませんよ千冬さん何か!!もう差し入れもしませんから!!!」
「悪かった悪かった。なあ、この通りだ。なっ?」