「よぉリチャード、今回は無理言って悪かったな。苦労掛けただろ」
「いえさほど苦労はしませんでしたよ、それにカミツレ君の活躍を見たいというのはご家族としては当然の心理ですからね。それを引き留めるなど無粋にもほどがあります」
「グラララララッ全くだ」
その日、カミツレいや杉山一家はイギリスにある政府専用のIS稼働施設に姿があった。本日そこで行われるのはイギリス代表候補生となった杉山 カミツレとヨーロッパ各国から厳正なる審査によって選ばれたIS操縦者による公式戦が行われようとしている。本来ここには政府関係者以外立ち入らせる事は無い筈だが、孫の戦う姿を見たいと思った白鯨がリチャードに話をした所、リチャードが正式な許可を取って此処へと招待した。
「にしてもやっぱり政府のお偉いさんばっかりだな、テレビで見た事がある顔ばっかりだぜ」
「そうよねぇ~ヨーロッパ内での政府ニュースで見た顔ばっかりよね。しかも妙にこっちを見てくるわね」
「そりゃ愛理がきれいだからだよ」
「んもう照れちゃうわよぉん♪」
とサラッと惚気る仁志と愛理、実際に愛理の美しさに見惚れている政府の高官は数人存在している。カミツレの家族構成のデータなどは各国が保有している、少しでも自国に有利に進める為の材料として様々な用意がされているが美魔女である愛理に驚きを隠せないのは確かにある。そんな両親の横でかずみんは、肩を竦めながら御馳走さんと溢し、白鯨は適当な所でやめとけよと注意する。
「まあ実際は皆さんとコネクションを築く為のチャンスを窺っているという所でしょう。何せ少しでも関係を築ければそれから多大な利益になるかもしれませんから」
「どいつもこいつも束ねんの身体目当てって事か……弟の嫁の一人に変な目使うんじゃねぇよ……」
「いやかずみん、あっているようでそれ間違ってるからね?」
束は頻繁に杉山邸にいるので少しでも接触したいのだろうが、仮に関係を築いたとしてもまあ接触は無理だろう。何せ天災の束なのだから。
「それじゃあ我々のVIPルームへと行きましょうか、そこなら余計な視線やらも無いから安心して過ごせますよ。私の妻も待っております」
「そりゃ待たせちゃ悪いな、行くか」
政府関係者は去っていく白鯨らに何とか話しかけたいのだが……リチャードが厳選した護衛メンバーがそれらを阻みつつ、白鯨の鋭い視線を受けて結局それらは失敗するのであった。そんなことがある中、カミツレはというと……
「漸く来たぜ……ヨランドさんとのリベンチマッチ……」
「そう言えば前との戦いは途中で二次移行してたから、ある意味不完全燃焼って言ってたもんな」
控室で準備運動をしながら共に参加する一夏と適当な雑談を行っていた、本来一夏は参加する必要はないのだが参加しなかった自分への面倒が増えるのではないかと思った一夏は参加する事にした。
「おうよ。まああの時は戦う前から二次移行してたとしても負けてたと思うけど、今なら使い慣れてるからそれなりには行けると思ってる」
「機体熟練度的な感じ?」
「大体合ってる。いきなり新型使いこなせとかだって無理ゲーだろ、俺はライダーじゃねぇからな」
「そこはロボアニメの主人公で良くね?」
そんな適当な会話をしている二人だが、今日に至るまでほぼ毎日互いにぶつかり合ってきたので互いの成長ぶりは理解しているつもりでいる。特に一夏は最近更に武器の扱い方が上手くなってきているカミツレに軽く戦慄を覚えている。ISコアたちが作ったライダーの武器を模した武器らをほぼ完璧に使いこなしているのは戦う身としては結構つらい。そんな一夏も剣の使い方、フェイントのタイミング、機動面での大幅な改善などカミツレから見ても大きく成長している。流石にまだ「稲妻軌道動作」は使えないが近いうちに習得する見込みもある。そんな会話をしていると控室の扉がノックされた。
「んっ誰だ?まだ時間じゃないよな」
「ああっまだ1時間近くある」
『杉山君に織斑君。イタリア政府関係者が是非ご挨拶をしたいと言って来てるけど如何する?』
ノックの後に室内アナウンスでリオノーラのところの研究所副所長の声が聞こえてくる。彼が控室での受付を担当しており、下手な相手を通さない、二人が拒否したら会わないという事を伝える事になっている。
「居ないって言っといてください」
『え"っ。いやそれはまずいよ、元々控室で待機なのに何処に行ってるんだって事になるし』
「えっ~じゃあ会わないとダメなんですか?」
『政府関係者としては会って欲しいかなぁ……面倒事にならないし』
「はぁっ……んじゃ後でジュース一本ずつ奢って下さいね」
『了解!ドクペでいいかい?』
「「なんでドクペ!!?」」
『いや最近所長が嵌ってる日本のアニメにそれが出てるらしくて、大量に購入したのが余りまくってて……』
それを聞いて高笑いする自称狂気のマッドサイエンティストが脳裏をよぎるカミツレと一夏、そして義姉になるかもしれないリオノーラは何をやっているだと溜息をつくとそれでいいから入れてくれと許可を出す。少しすると今回戦うイタリア政府高官が入ってくる。スーツを身に纏った青髪の女性、胸が大きいのかその部分のスーツが悲鳴を上げているように見える。
「どうも初めましてお二方、私はカルール・メンドゥーサよ。愛称はカルメン99、好きなように呼んでもらって構わないわ」
「イギリス国家代表候補生 杉山 カミツレです」
「織斑 一夏です。えっと、まだ所属は決まってないです一応」
「宜しくね」
優し気で人懐っこい笑みを浮かべながら挨拶を交わすカルール、第一印象はそこまで悪そうな人ではない。だが下手にそう考えていると危険なので警戒心は持ち続ける。
「無理言って面会を受け入れてくれてごめんなさいね、実はちょっとしたお願いがあってね」
「お願い……ですか」
「ええっそれとまずは警戒はしないで欲しいのよ、私は貴方たちを勧誘とかするつもりないから」
「えっなんでですか」
「だって勧誘するにしても貴方たちに対するメリットが無いじゃない、その一点で言えばイギリスがぶっちぎりだし。だから下手に勧誘したら逆に損をするって思ってるからよ」
それを聞いて少しだけ警戒心を解く、話が分かる大人というのが良く分かってきた。
「それに私はアリーシャから貴方たちの話を聞いてるし諦めてるから」
「アリーシャさんから……ですか、なら信頼してもいいかもしれないですね」
「おいいいのかカミツレ、あっさり信用して」
「良いんだよ。これで掌返すなら自分の国と国家代表を傷付けるのと同義だぜ」
「そういう事♪」
ウィンクをするカルールに毒気を抜かれたように一夏も肩から漸く力を抜く、そして彼女はスカウトする気がないなら何故自分達に会いに来たのかを尋ねてみる。
「まあ簡単に言えばうちの候補生をブチのめしてほしいのよ、完膚なきまで」
「おいおい穏やかじゃない頼み事っすね……でもなんで?慢心してるとか?」
「ううん違うのよ、寧ろ慢心しているのはうちの政府の方よ」
カルール曰く、イタリア政府の首脳陣は自分達の力に絶対的な自信を持っている。それ自体は悪くはないとは思うがその自信が行き過ぎているのが他国をやや下に見るような考えがあるらしい。それは2代目ブリュンヒルデと呼び声高いイタリア代表であるアリーシャの存在もそれを加速させる要因にもなっている。自分達こそ現世界最強のIS国家だとという考えを持つ人間が多く、今回の試合も絶対に自分達が勝つと思っているらしい。
「行き過ぎた自信はただの慢心と虚栄の塊。アリーシャもそれを注意してるんだけどねぇ……お手上げ状態なのよ……はぁ」
「「うわぁっ……」」
「今回の選抜された子は慢心とかしない良い子なんだけどね、その子も政府が危ないって思ってるのよ。だから彼女も全力も出すから自分を倒してほしいって思ってるのよ」
「自国の候補生にそう思わせる政府ってどういう事だよ……」
「本当に情けない話よね……」
その候補生もアリーシャの指導を受けており、勝手に次期代表候補と呼ばれているらしい。本人は実力不足で相応しくないのに勝手に評価されて不服というかなりストイックな人物らしい。
「了解しました、兎に角全力で戦って勝って欲しいって事ですね」
「まあ最初から全力で行くつもりだしな、言われるまでもないって奴だ」
「有難う、そう言ってもらえると助かるわ~。このカルメン99お礼言うわね!」
「……その愛称気に入ってるんですね」
「ええっ勿論!」
妻「何故カルメン99……」
私「いやイタリアっぽい名前考えてたら不意に浮かんで」
妻「元ジャックとか出ませんよね?」
私「おう転倒王者元キングの悪口はそこまでだ」