IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第328話

「これはっ……」

「素直にとんでもないな……」

 

数カ国合同の元で執り行われている試合、それらを見つめるのは各国の政治や経済の重役やIS操縦者などなど。それらが目にするのは男性IS操縦者であるカミツレの戦い方。最初こそ荒々しくチンピラ上等の喧嘩術に等しい戦い方、だが今度は一転して自らが持つ技量や機体の特性、相手の弱点を突くなどした中々にテクニカルな戦い方。二極的な戦いをする彼に各国は素直に様々な感想を浮かべている。

 

素直な恐怖、嫌悪感を出す者。これらはベラルーシに色濃く出ている、自国の操縦者を倒されているのだから無理もない。カミツレの言動からして彼はISの親として動いている事も理解出来るが、余り共感は集められていないように思える。

 

その戦いを評価する者、荒々しい戦いをする者など国家代表にも多く存在する。それを彼もやっただけだと捉える者もいる。そしてまだ彼がISを動かして長い時間が立っていないのにもかかわらず高等技術を物にしている事に興奮している姿もある。

 

「ISには、意志や人格がある……これは確定だな」

 

他の重役たちが様々な言葉を発する中で一人のIS研究者が呟いた。その者が最も気にかけていたのはカミツレの戦闘中の言動であった。彼はあたかもISを一つの命にように語っていた、それは篠ノ之 束が提唱していたISには意志があるという物と合致する。そして彼は篠ノ之 束と婚約関係にある……即ち事実であると思うと興奮せずにはいられない。

 

「何故意志を宿らせたのか……次はそこを考えるべき」

 

 

「いよいよ次はイタリアかぁ……完膚なきまでブチのめしてほしいねぇ……」

『既にプランは1万と2千通り用意してますけど何を使います?』

「何で既にそんなに用意してあるのかを俺は聞きたいんだが」

 

控室に戻ったカミツレは、スポーツドリンクを喉奥へと流し込みながら身体のほてりを鎮めてリラックスした状態で居ながら次の試合の事を考えていた。本人に自分は叩きのめされて世界にはもっと上の存在が居るという事を国の上層部は知るべきだと思われているほどに慢心している。現世界最強のアリーシャの実力は確かな物、そんな彼女の教えを受けているその候補生にも敵う相手などいる訳が無いと思い込んでいる。

 

『故にカミツレに勝って欲しいと言ってきたわけですね、国家代表が勝ったとしてもそれは国家代表と候補生としての経験差とか云々で有耶無耶にされるのが見え見えでしょうから』

「実際国家代表と候補生の差はそれだけでかいからそれはある種妥当ではあるとは思うけどな……」

 

だからこそ自分と一夏に白羽の矢がだった。同じ候補生、まあ一夏は違うが同じような立場である故に同格かそれ以下とも言うべき存在である自分達が彼女を打倒して欲しい。元々あった最強のイメージに罅を入れて危機感を持たせる事こそが自分達の役目。正直言って面倒だが、自分達は精一杯試合に取り組むだけでしかないので結果的にそれに応える形になる。

 

「因みに相手はどんな感じなんだ」

『超速度特化型の機体セッティングですね、武装も全てが実弾兵装でエネルギー兵装は0です。そちらに回す物があったら速度に回すって感じです。言うなれば翼部分は超高速機動を実現する為のエネルギーウィングという代物らしいです』

「名前からして翼の形したエネルギーソードか」

『正解です』

 

イタリアが重視している研究は速度、それこそ世界最速のISはイタリアのテンペスタシリーズだと言われている程の超速度。ミサイルに並走するのも当たり前の超速度、その速度を活かした"稲妻軌道動作"は捉える事が困難。一度ペースを握られたらならば取り返す事は不可能と言われる程。それを実現したのがアリーシャなのである―――が同時にこの速度が曲者でもある。

 

『まあカミツレもお察しの通りでしょうけど速度が速い=強いなんて事はありません。その最高峰の速度の特性を活かせる人間が乗れば強いですけどそれ以外の人間が乗ったらくそ雑魚です。初心者が乗ってはいけないIS№1と言っても過言じゃないです、ああいや№1は初期の白式ですかね』

「速度特化だもんな……まともに制御する事も大変だろ、しかもただ速いだけなら軌道を読む事も簡単だろうし待ち構えてミサイル叩きこむだけでもいいし、逆に蹴り込んでも良い訳だからな」

 

カミツレもカチドキも己の戦法の選択肢に超高速戦闘があるのでそれらの弱点もしっかりと把握している。ヨランドに叩きこまれている技術もそれらをカバーする為の物でもあるし、その弱点をカバーする最たるものが『リミットオーバー・ドライブ』なのである。だが逆に言えばそれだけの弱点があるのにその候補生はテンペスタを完璧に扱い切っているという事になる。

 

『技術で言えば候補生の中でも上から数えた方が確実に早いでしょう、後当然ですけど"稲妻軌道動作"とか"瞬間加速"は平然とできますよ。まあ"個別連続瞬時加速"は流石に出来ないみたいですけど』

「流石にそれ出来ちまったらイーリスさんの立つ瀬無いだろ。俺だってお前の補助が無かったらまともに出来ないんだぞ」

『それでも二回に一回は出来るから十分じゃないですか?』

「だってお前がタイミングとか教えてくれたからじゃんそれだって」

 

そんな会話をしているとこの親子はある事に気付いたのであった。そう言えば自分達の前に一夏とその候補生は当たるのではないのかと。

 

「……なあカチドキ、一夏とその候補生当たったらどうなる?」

『さぁっ……一夏の努力次第でしょうけどカミツレ対策の対高速機動訓練もしてますし、私達のスピードに目は追い付けてますからね……案外喰い付いたりするんじゃないんですかね』

 

そんな時だった、控室が揺れるような轟音が木霊してきた。それに思わず二人は無言になってしまい、ある可能性が脳裏を過ったのであった。

 

「……なあカチドキ、今のって……」

『……ええ、恐らくあれです。雪片夏之型を思いっきり振り抜いた時の衝撃波と衝撃音だと思います』

「『……あの馬鹿まさか……』」


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