IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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千冬さんを書くのがこんなに楽しいなんて……。


第33話

「……」

「いやほんと悪かったよ、杉山。なっ、この通りだ」

「ったく…千冬さんは自分の価値分かってないでしょ、男からしたら貴方は垂涎する美女なんです。そんな人にあんな事されたら、困るんですよ!!!」

 

日が落ちた頃。漸く機嫌を直したカミツレは自室から野菜を取ってきて、千冬に料理を振舞い、今は洗い物を行っていた。あんな事をされたとはいえ、数々の恩が有る為、強すぎる態度は取れない。なので千冬の遊びの一環として見る事にした。恐らくこれからもやられるだろうが、自分が無視すればいいだけの話だ……が、内心では確り無視できればいいなという願望に変わっていた。世界的にも見ても、トップクラスの美女である千冬、そんな彼女に遊びと分かっていても、これはドキドキせざるを得ない。

 

「分かった分かった。これからは余りしないようにするさ」

「(しないって言わないのかよ…)」

「しかし、あの程度で気絶するとは…ハニートラップをされたら危ないぞ。そうだな、その対策と思えば良い。私は楽しい、お前はハニートラップ耐性を付けられる。正にWIN-WINな関係という奴だな」

 

千冬の言い分にも一理あるので、何も言えなくなってしまう。確かに今までは自分にするぐらいなら一夏を狙うと思っていた、だがしかし各国から注目を浴びる存在になってしまった以上、そのような干渉がないとは言い切れない。そんな時、自分は確りと跳ね除ける事が出来るのだろうか。思わず不安に駆られた、それによって強制的に国に連行されてしまう…研究所へと送られるのとは別の恐怖、それが身体を貫いていく。その対策として、千冬からの行為を受ける……まあ確かに、千冬ほどの美女からの物を受ければ、生半可な女には靡けなくはなるが…。

 

「よくもまあ、ぬけぬけと…ハァ……もう勝手にしてください」

「ハハッスマンな、控えるようにはするから」

「信用ないっすよ」

 

まあ、千冬ほど確りした人なら大丈夫だろう、そして自分の為にはなるだろうと苦悩した末に申し出というかなんというか微妙なそれを、カミツレは受け入れる事にした。大半はストレスで倒してしまった際の千冬の、苦しそうな顔を和らげられるならば……という気持ちであるが。何かされると分かっていても、恩があるからか少しでも力になれるのならと、思ってしまい了承してしまった。だがまあ、千冬とこうして気兼ねなく話せるようになったのは良い事かもしれない。

 

「ふぅ…それにしても美味かった、馳走になったな。今度、私の行き付けの美味い寿司屋にでも連れて行ってやろう。無論、私の奢りだ」

「別に良いですよ。それと千冬さん、これからは食生活にも気を付けてくださいよ。カシスジュースとはいえ吐いたのは、千冬さんの身体がダメージを負ってる証拠なんですから」

「何だったらカミツレに飯を作って貰うのもありかもしれんな、お前の家の野菜も絶品だし料理も美味い。お前は良い婿になるな、どうだ私と結婚してみるか?」

「笑えない冗談ですねそれ。千冬さんは兎も角、俺はあいつの義兄になるなんてごめんですよ」

「ツレない事を言うな、こんな美女が誘っているんだぞ?」

 

と言いつつ、洗い物をしているカミツレの背後を取ってそのまま抱き着いて腕を回す。控えると言った傍からのこれであるが、三度感じる千冬の身体の感触に身体が硬直する。自分をからかっている、分かっている筈なのに身体が動かなくなった。頬に当てられた手から伝わる熱に肩に置かれた顎、背中に当たっている胸、女として完成されている千冬の身体が、誘惑するかのようにカミツレに攻撃してくる。

 

「少しは、いい反応をしてくれてもいいんじゃないか……?私はお前がその気なら、相手をしてやってもいいんだぞ……?」

「……っ!!(だ、駄目だ、これは訓練だと思うんだ!そうだ、ハニートラップの……!!)」

 

思い切って振りぬいて千冬を真正面から見つめ返すカミツレは、そっと千冬の頬に手を当て返すが、それに合わせるように更に顔を近づけながら、カミツレの腰へと手をやって更に抱き寄せる千冬。吐息が混じり会いそうな程に近い距離。完全に玩ばれていると分かっているのに、カミツレは限界なのか真っ赤になった顔を逸らすと、千冬は酷く愉快そうに笑った。

 

「うむうむ、清純な青少年で先生は嬉しいぞ」

「そんな青少年を玩ぶ先生はいいのかよ……」

 

そんな事もありながら終わった夕食会、食後のコーヒーを嗜みながら千冬はいよいよデュノア社に関する事への話へとシフトさせた。内心でやっとか……と思いつつも真面目な顔でそれに向かい合う。

 

「シャルルの事については完全に了解した、一夏の大馬鹿者が私を頼らん下らん理由もな。あいつは私が最終兵器か何かだと思っているのか?」

「まあ、少なくとも1組内では最終兵器織斑先生的な存在なのは、確かだと思いますよ」

「……カミツレ、そこは否定する所だろ……」

「さっきの仕返しです」

 

一夏については取り合えず一旦保留し、千冬が機を見て話を持ち掛けるとの事。カミツレは一夏に無干渉でいると宣言しているので、建前でもそれを保った方が良いと千冬が言うからである。それと、カミツレも将来が決まりかねない頃なのに、大変な事に巻き込んでしまった事を謝罪されたが、千冬に謝罪されても困ると受け取らなかった。玩ぶ事に関しての謝罪なら受け取ると言ったが、合意の上だろうっと返されてしまった。

 

「お前が気絶している間に、フランスの代表から調査結果が送られてきてな。それを元に作戦を立てようと思っている」

「マジですか」

「マジだ。それによるとデュノア社の内情は想像以上に切迫しているらしい」

 

千冬によるとデュノア社の内部は分裂が起きており、現社長であるアルベール・デュノア派とその正妻であるロゼンダ・デュノア派に別れている。ロゼンダはアルベールを社長の座から引き摺り下ろし、デュノア社を完全に手中に収めようとしているらしいが、デュノア社の主力となっている技術社員達のほぼ全員がアルベール派となっており、手が出しづらい。その為、ロゼンダ派はアルベールに全ての責任を負わせて引き摺り落とす手段として、愛人の娘であるシャルロットを利用する事を画策した。

 

「それをアルベール氏は察知し、自らのコネを使って彼女を代表候補の枠に押し込み学園へと送り出した」

「じゃあ、社長が全部悪いみたいな事って……」

「いや、続きがある。そこまではアルベール氏の描いた通りだった、しかし向かう途中にロゼンダ派の邪魔が入った。シャルロットに男装させ、男子としていくように命令されてしまったんだ」

「で、でもそれってリスク大きすぎませんか?」

「例え失敗したとしても、奴らにはいいのさ」

 

失敗し問題となったとしても、その場合は全ての責任をアルベールに被せ辞任に追い込む。成功した場合は第三世代型のデータを入手した上で、脅しを掛けて辞任に追い込む。残されたシャルは、遺体が残らないような殺し方をして、それを事故にでも見せ掛ければ本当は女だったという事を隠し通せる。全く以って、気分が悪くなる話にカミツレも顔を歪めた。

 

「そして、シャルルが男として学園に入学出来たのはロゼンダ派にIS委員会と繋がりがある者がいたからだ。そいつが委員会に手を回し、認めさせたという訳だ。委員会の半数は女尊男卑思想の連中だからな……そいつらがデュノア社を手中に収められるという事で協力、と言った所だろう」

「……真っ黒っすね」

「うむ、まっくろくろすけもビックリなレベルでな」

 

このような事を「腐敗」というのだろうとカミツレは思う。地位や名誉の為に簡単に人を殺したり、人生を台無しに出来る。人は目的の為になら醜くなれる、それを垣間見たような時間だった。

 

「でもそうなるとかなり厄介じゃないですか?IS委員会が絡んでるって……」

「何、その辺りは心配するな。自慢ではないが私は各国首脳陣にも顔が利くし代表とも知り合いだ。奴と私が両方面から圧力や交渉をしていくさ、進展したらお前にも伝える。その際にはシャルルを私の元へ連れてきてくれ」

「了解しました」

 

本当は軽い相談のつもりで千冬に話したこの一件、気付けばカミツレは事件の中心にまで足を踏み入れていた。しかし、それが逆に千冬という大きな力を借りる事にも成功し、それによってまた、彼の未来が変動する事になった。


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