IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第35話

後日、全世界に真相が伝わる事のない取り繕われた真実が伝わった。

 

ロゼンダ・デュノアがデュノア社社長、アルベール・デュノア氏の殺害未遂の容疑で逮捕された。千冬が手を回したフランスの国家代表、ヨランド・ルブランが政府と国際警察に働きかけ彼女を逮捕させた。同時に集められた社長殺害の証拠や過去の不法行為の証拠、それらによってロゼンダは有無も言わせぬままに、逮捕されてしまった。そして同時に第三の男性IS操縦者である、シャルル・デュノアに関する真実も公開された。

 

『シャルル・デュノアは、ロゼンダ・デュノアがアルベール・デュノアを人質に取る形で強制的に男を演じさせられたアルベールの娘、シャルロット・デュノアであったと。そして、ロゼンダは彼女にデータの収集を命じた。しかし、ロゼンダはその任が終了した後、彼女を身元が判別できないほどに残虐に殺すつもりであった』

 

と全世界がこれに揺れた。同時にロゼンダ・デュノアへの批難が世界中から殺到した、全世界を欺こうとした罪は重く、彼女は二度と日の目をみる事もなく人生を終える事は確実と言われている。同時に彼女の行動を補助したとされるIS委員会のメンバーにも目が向けられた、本人らは否定しているがヨランド国家代表が集めた証拠によって逮捕が確実となった。

 

シャルロットは学園にて、織斑 千冬に助けを求め、千冬が手を回し、救われる事となったと世界に報じられ千冬の評価は更に上がる事になったが、本人は煩わしいだけだと語っている。

 

そして同時に、アルベール・デュノア氏は社長職を辞任し、その後をシャルロット・デュノアにする事を発表した。全く予期せぬタイミングでの社長辞任、これには頭目を失ったロゼンダ派も突然の発表に驚くばかりであったが、驚きは更なる物へと変化して行った。シャルロットはその場でアルベールへある命令を出した。

 

『私は学園で、代表候補生としてやらなければいけない事が残っている上に、社長としてはまだまだ未熟な身。だから、卒業するまで社長代理を続けろ。そして卒業後は社長代行を行うが、アルベール氏の息子が社長を継げる年齢になったら、彼を社長にする』

 

この命令にロゼンダ派は混乱するばかりであった、シャルロットの目的は父と会社を守る事。これによってデュノア社は少なくとも2~3代の間はアルベールが主動となって今まで通りに動かせるようになった。社長の命令には、流石のロゼンダ派もそう簡単には覆せない。これを覆すにはシャルロット本人をどうにかする必要が出てくるが、それも困難を極める。そのシャルロットは治外法権が国際的に認められるIS学園に匿われている。 名目上の国家不干渉とはいえ、学園に干渉すればデュノア社の信用に関わってしまう。デュノア社の掌握が目的であるロゼンダ派にとって、それは容認出来る物ではなかった。

 

これらによってシャルロットは被害者という側面を持ちながらも、社長の身までも守る事となった。マスコミによって操作される世論とロゼンダの企み、それを利用する事でシャルロットは自らの安全、自らを守る為に学園へと送り出してくれた父を守る事も出来るという大勝利を収めた。しかし、その大勝利の裏には、千冬ともう一人の男の影があったのは、誰も知らない真実であった。

 

 

「いやぁ……大人って恐いですね、千冬さん」

「大人とはそういう者だ。私に言わせれば、そんな大人を食い物にする子供も余程恐いがな」

「ハハッ仰る通りですね」

 

千冬の教員室にて洗い物をしているカミツレと、食後のお茶を啜っている千冬。今回のシャルロットを救う為に動いた功労者二人は、普段通りの日常を送りながら世界中を流れている大ニュース、それを嘲笑うかのように観賞していた。最早千冬の通い夫的な立場にも、慣れてきたのか平然と千冬の部屋に顔を出すようになったカミツレ、今回のシャルが社長になるという案を出したのも彼であった。

 

「しかし、よくも社長にするという案を思いついたな。あの後の事も、既に考え付いていたのか?」

「いえ全く。千冬さんが書いた筋書きなんて、俺には思い付きもしませんでしたよ」

「では何故思いついた?」

 

最後の皿を洗いながら、カミツレは何故今回のような大胆な発想が浮かんだのか。それは―――嫌がらせであると。

 

「嫌がらせ……つまり、どういう事だ?」

「ロゼンダの狙いはデュノア社の掌握で、シャルロットは使い捨ての駒でしょ。それなら、その駒に自分の目的だったデュノア社の社長になられたら、屈辱的だろうなっと思いまして」

「ハハハハハッ成程な!!それは屈辱だ、ああ歴史的な屈辱だろうな!!」

 

カミツレは自分の事を良く知っている、そこまで頭が回るわけなどない。だから今回の事だって考えたのは感情の重視、如何すればロゼンダが屈辱的な思いを味わうのかだった。使うだけ使って捨てる筈だった玩具、それが何時の間にか自分が至ろうとした頂に立たれる。その時に味わう屈辱はどれほどの物なのだろう…考えただけで愉悦に浸る事が出来るという物。それ以外の事は、シャルロットを社長にすると聞いた時に閃いた千冬に丸投げしたような物だ。

 

「それとカミツレ。明日にはデュノアが帰国するが、その際にヨランドが共に来るらしいぞ」

「えっ?噂に聞くフランスの国家代表で、今回すっごいお世話になった?」

「うむ。すっごいお世話になったフランスの国家代表だな。通称『超術のヨランド』と言ってな、相対した相手に適切な戦闘パターンを瞬間的に300は用意出来る、それほどに頭が切れる奴だ」

 

ヨランド・ルブラン、フランス国家代表であると共に超一流の戦術家でもある。元々フランスの軍属で、千冬のようなずば抜けた直感がある訳ではなく、戦場を渡り歩いた末に蓄積された経験、経験による感覚によってあらゆる戦術を組み上げる。使用しているISは『ラファール』を原型が残らないレベルでカスタムした『シャティーナ・ブラーボ』と共に数々の勝利を勝ち取ってきたとの事。

 

「後、菓子作りの腕前がプロ級だな。あいつの菓子は本当に美味い」

「へぇそりゃ凄いですね」

「後は年下好きだな、特に……お前のような日本人がタイプらしいぞ」

 

それを聞いて一気にカミツレの顔色が悪化した、見るからに血の気が引いて行き震え始めて行く。因みに一夏はタイプではないらしい、本人曰く「整い過ぎて、愛でる気が起きない」との事。千冬から弟が被害に合わないのは安心出来るが、自分のお気に入りのカミツレが被害があるのは容認出来ない。震えるカミツレをそっと抱き寄せた。

 

「大丈夫だ、私が守ってやる……安心しろ」

「千冬さん……」

「お前を玩ぶのは、私の役目だからな」

「んな事だと思ったわチクショオオオオオオオオ!!!!!」

「ハハハッそう照れるな、愛い奴め」


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