IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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投稿が滞ってしまい申し訳ありません。病院に行っていたら、想像以上に時間を取られてしまいました。


第39話

「さぁツェレ、本日もやって行きますわよ!!!本日はいよいよ、最大出力でのスロットルワークの挑戦ですわ!!」

「わ、分かりましたっ…!やってやりますよ!!」

「その意気ですわ!!」

 

ヨランドがIS学園に滞在し始めて1週間、その間も運営準備で忙しい真耶と千冬はカミツレの事をそれぞれ違った意味で心配しつつも仕事を早めに終わらせようと努力していた。ヨランドは折角なので、学年別トーナメントを見物してから帰国すると決めたらしく、それまではカミツレの訓練を受け持つ事となった。フランスの代表が一生徒を指導し続けるのは拙いという事で、ヨランドはフランスから来た教育実習生という事で押し通す事になった。この設定にするまでに、千冬はかなり苦労したらしくまた胃が荒れてしまっているとか……。

 

「ぐっ……!!言う事を聞けよ、相棒……!!」

「そうそのまま出力を上げ続けるのですわ!その際にも最大の注意を払い続けるのです!!」

 

ヨランドの訓練は常に相手の最大値を計った上での物、成長期であるカミツレの最大値は鍛えれば鍛える程に上昇していく。それに加えて本人が非常にガッツがあり、今まで指導して来た女子達とは明らかに喰らい付き方が異なりそのまま飲み乾そうとする貪欲さはぞくぞくとヨランドを駆り立てた。どんなに厳しい訓練でも、必死にそれに向きあって自らに取り込もうとする姿勢に思わず恍惚とした顔を作り見つめてしまう。

 

「セイヤァァァァアアアアッッッ!!!!!」

「素晴らしい、素晴らしいですわツェレ!!」

「カチドキ、俺に力を貸せぇぇぇっっ!!」

 

そんなカミツレに応えるかのように勝鬨もカミツレに付き従うように共に鍛錬に挑む。本来出来ない筈の事を可能にしているのはカミツレの努力だけでなく、勝鬨が自分から力を貸しているかのような物を感じさせている。必死に鍛錬に励んでいるカミツレは気付いていないだろうがヨランドは確りと気付いていた、彼と勝鬨がまるで一体化しているかのような美しさすら感じさせる動きをしている事に。

 

「(機体稼働率73%……これは、数年以上同じ物に乗り続けた代表候補生でも中々出せない数値ですわ。これは、本当に逸材ですわ)」

 

ISには意志がある。正確にはそれぞれのISコアには独自の人格が形成されており、ISを心から信じて通じ合っている操縦士はISと完全に通じ合えると言われている。しかしそれに科学的な根拠はなく開発者である束博士がそう語っているに過ぎないが、世界最高峰と言われている操縦士達はそれを肯定するような発言を残しているので事実であると認識されている。しかし、それを確かめる事が出来るのは本人たちのみで、未だに未知の領域とされている。

 

「(あそこまで直向きにISと向き合っているツェレを見ると思い出しますわね…わたくしの昔の事を……)」

「そうだっカチドキ、今だっ!!」

「っ!そう、今ですわよツェレ!!!」

 

目の前で遂に指導していた技術、『瞬時加速』の上位技術である『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』の発動を成功させるカチドキは、ハイパーセンサーですら補足不能になる程の速度を叩き出した。成功させたカミツレは着地に失敗し、カチドキと共に地面に叩き付けられたがその表情は痛みではなく驚きに染まっていた。やり方とコツ、そして見本を見せて貰っただけでやれと言われた難度特Aクラスの技術の成功。ただただ驚く相棒(カミツレ)に対してその相棒(カチドキ)は各部から放熱を行った。

 

「で、出来た……?」

 

機体のログを確認して見るとそこには確かな証拠が合った。『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト):成功』と表示されていた。成功率が低く使える者が限られているとされる加速技術、その使い手とされるのは千冬を始めとした国家代表クラスの者達ばかり、生徒でこれを成功させた記録を叩き出した者は未だいない。

 

「ツェレ本当に凄いですわぁ~!!流石はわたくしが見込んだ方ですわ!!」

 

駆け寄ってきたヨランドは満面の笑みを浮かべた、自分の見立てと素質は間違っていないと。未だに信じられないのか間抜けな顔をするカミツレ、だが目の前で我が事のように喜んでいるヨランドを見ているうちに自覚が生まれてきたのが徐々に表情が崩れていく。

 

「や、やった…やったぜヨランドさん!!!お、俺出来たぜリボルバー!!!」

「ええ流石ですわね!!それこそ貴方の努力の結晶ですわ!!さあ今の感覚を忘れないようにもう一度ですわ!!」

「おう勿論!!」

 

立ち上がったカミツレは先ほどの感覚に身を委ねて、再度行おうとして出力を上げようと勝鬨もそれに合わせるようにするが……カミツレも意識せずに勝鬨はそのまま膝を付いてしまった。

 

「へっ?カ、カチドキ如何した?」

『システムエラー、機体冷却不十分。解除を推奨』

「ま、まさかオーバーヒートですか!?いけませんわツェレ、急いで解除を!!」

 

『個別連続瞬時加速』は本来機体出力に優れ、機動性が売りなISで真価を発揮する技術。言うなれば、あの一夏の白式のような高い出力を有している機体だからこそ扱いきれる物。しかし、勝鬨はそこまで出力自体は高くはなく、カミツレの事を考慮して防御面を強化しているので機体出力に比べて重量が重い。よって『個別連続瞬時加速』を行った場合、機体に必要以上の負荷を齎してしまいオーバーヒートを引き起こしてしまったのである。

 

「あちっ!!あちあっつぅっ!?何これマジで熱いんですけど!!?あっぢぃぃぃっ!!!」

「ツェレ早く解除を!!」

「アァァチャチャチャチャチャチャチャッアチャァァァ!!?」

 

熱さに悶えながら勝鬨を解除するカミツレ、身体にこびり付くかのように燃え滾る勝鬨。オーバーヒートという今まで体験もした事もない出来事に驚きを覚えつつ、勝鬨に無理をさせてしまった事をすまなく思うカミツレ。折角出来た技術ではあったが、封印した方が良いとヨランドに言われてしまい、思わずガックリするカミツレであった。そんなカミツレを励ますようにしながらもヨランドはとある人物との模擬戦を薦めてきた、その相手とは……

 

「えっ俺がカミツレと戦うのか!?」

「……マジで?」

「マジですわ」

 

同じ男であり、尊敬する千冬の弟である一夏であった。

 

 

 

「―――っ?オーバーヒートにリボルバー……へぇ……中々やるじゃん。じゃあ、そろそろ、君の価値をこの大天災である私に見せて貰おうかな……ねぇ―――ち~ちゃんのお気に入り君?」


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