IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第40話

「まさか、織斑とやる事になるとはなぁ……」

「クラス代表選考戦では、カミツレさんが限界で行えませんでしたものね」

「それを言うなよセシリア……セシリアとの試合がハードで全部出し切っちゃったのさ」

「まぁお上手ですね♪」

 

その日、貸し切られたアリーナでは非公開の特別試合が行われようとしていた。男性IS操縦者のスペシャルマッチである、織斑 一夏 VS 杉山 カミツレ。入学直後のクラス代表選考戦では叶わなかったカード、それがフランス代表であるヨランドの手によって実現しようとしている。勝鬨の安定と放熱、システムの調整が済み、今現在は機体の調整をしながら試合の時を今か今かと、ピット内でセシリアと共に待ち続けていく。

 

「しかしまさか学園に、あのヨランド・ルブラン氏が居るなんて……予想もしておりませんでした。カミツレさんからご紹介された時は腰が抜けそうでしたわ」

「まあ俺も驚いたけどさ、結構良い人だよヨランドさんは」

 

ヨランドの指導は厳しいがそれは相手を思っての事、相手を常に成長させ続けながら全力を自覚させるという物。彼女の訓練を通して今までの全力を把握した上で、全力の最大値を上昇させる事が出来ている事をカミツレは知っている。『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』の成功が良い例である。カミツレの嬉しそう且つヨランドを尊敬するような言い回しにセシリアも同意するが何処か危機感を覚え始めた。以前、確かにイギリスの代表候補生に推薦するという話をしたがそちらは未だに正式な物を受けてもらっておらず、専用機の開発も彼は迷い続けている。このままではフランスに行ってしまうのかという事を考えずに入られなかった。

 

「(い、いけませんわ……カミツレさんがお喜びになっていますがこれは、私にライバル出現ですわ…しかも、相手があのヨランド・ルブランなんて相手が強敵過ぎますわ……!!!)」

 

ルブラン家は由緒但しい血筋であるだけではなく、名が知れ渡っている超名門貴族でありその現当主ヨランド・ルブランは歴代最高の当主と名高い。オルコット家の何歩も先へと行っている存在で自分も優秀さでは負けていないだろうが、彼女には圧倒的な経験がある。それを覆す事が容易ではない、如何にかいい方法を考えなければ…。そんなセシリアの不安に気付けずに勝鬨の調整を続けるカミツレだったが、何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「なあセシリア」

「えっはっはいなんでしょうか!?」

「セシリアってさ、ISを展開してる時に一体感を感じた時ってある?」

「一体感、ですか?」

 

質問の意図がよく分からなそうに首を傾げる、ISを纏っている状態はそれと一体化しているとも言っても可笑しくない状態。それを長年続けてきたセシリアとしてはその状態こそ一体化、一心同体とも言うべき物と考えているので一体感と言われてもいまいちピンと来なかった。

 

「一体感、と言っていいのか分かりませんが…ISが私が動かすまでもなく動いた事ならありますわ」

「えっそんな事ってあるのか!?」

「はい、本国で数回ありました。本国の技術者は無意識下による制御と言っておりましたが、あれは違うと断言出来ます」

 

セシリアは模擬戦の最中、死角から攻撃を受けそうになった。それに気付けはしたものの到底反応出来ない物だった、ダメージを覚悟したが相手からの攻撃は何時まで経っても自分を貫く事はなかった。それは何故か、動かしていなかった筈のティアーズが稼動し敵を攻撃していたからだった。しかし、自分はティアーズを動かした覚えなどなく理解が追いつかなかった。

 

「あれは、ティアーズが私を守ろうとしてくれたのではないか…そう思えるのです」

「不思議な話だな…それはある意味、一体感というよりもISと心が通じ合ってるって言えるような状態なんだな」

「ええ、とある方が言ってました。最高のIS乗りとは技術だけではなく、ISと共に空を舞うのだと」

「……セシリアの話を聞くと印象がガラリと変わる言葉だね」

 

ISが自らの意志を持って搭乗者を守る、それを聞いて一番に連想したのはセシリアとの戦いの時の事。シールドから零れるように落ちてきたブレード、あの時も少し思ったが勝鬨が自分の為にブレードを落としてくれたのかもしれないと今の話を聞いて思った、がそれは流石に無いだろう。セシリアのように長期間使っていたならまだしも、あの時は勝鬨に乗り初めて1週間程しかたっていなかったのだからありえない。下らない思考はこの位にしておくとしよう、間もなく試合の時間なのだから。

 

「さてと…織斑との戦いか、余程の事が無い限り真耶先生や千冬さん、ヨランドさんの訓練よりマシだろ」

「それは明らかに比較対象が可笑しいと思うのですけども…」

 

思わず呆れるような声を出してしまうセシリア、一部では英雄のように崇められている面々に指導されているカミツレ。気付けば入学当初よりも体格はガッシリとしたものとなり、腹筋も割れてきている。その身体を纏うかのように展開されていく勝鬨の姿は酷くマッチしている。重厚な鎧を纏った戦士、セシリアはそんな印象をカミツレに受けて頬を赤くした。

 

「全システムオールグリーンっと、調子良さそうで安心したぜ相棒。それじゃあ……セシリア、勝ってくるよ」

「はい。いってらっしゃいませ!!!」

 

セシリアに応援の言葉を受けたカミツレはゆっくりと、勝鬨を動かしながらアリーナへの発進準備を整えた。そして千冬からアリーナへ出ろという言葉を受けて勝鬨にこう誓った。

 

「お前にはまだ勝ちって物を上げる事が出来てないよな、今日はそれをお前にプレゼントしてやるよ。カチドキって名前に相応しい勝利って奴をよ!!」

『杉山いいぞ。出撃しろ』

「了解。勝鬨・黒鋼、杉山 カミツレ、行くぞっっ!!!」

 

力強い言葉と共に飛び出して行くカミツレ、その表情は何処か晴れやかとしている。そんな相棒を笑うように勝鬨は滑らかに出力を上げていく、彼の言葉に喜ぶように。


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