IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第42話

「……負けた…」

 

思わず呟いた言葉は中に浮かび上がっては消えていく、虚空に消えて何も残さなかった。ピットへと戻った一夏は「白式」を解除しながら上を見上げた。

 

「い、一夏残念だったな……」

「箒……」

 

此方の様子を窺うかのように声を掛けてくる箒、慰めるように言葉を掛けてくるのが何処か有難くもあり辛くもあった。絶えず必死に言葉を選んで励まそうとする箒の言葉は一夏に届かない、一夏の頭の中には先程の試合でのカミツレの言葉がループし続けていた。

 

 

『―――強いんじゃねえ、俺は強くなってるんだよ。俺は…真耶先生に、セシリア、千冬さん、ヨランドさん。俺は良い人たちに巡り合えた。その出会いが、俺に強くなる機会を作ってくれたんだよ!!!』

 

 

『―――基礎、理論、心、応用。俺はそれをあの人達から貰ってんだよ。俺だってな、情けない所は見せられねぇんだよぉ!!!!』

 

 

圧倒的な強さだった。自分とは比べ物にならない強さを彼は持っていた。始まりは同じ立場だった、だが持っていた考えや心構えは異なっていた。楽観的な考えをしていた自分と違ったカミツレは、常に自分を追い込むかのようなスタイルで自分を高め続けていた。女子校である学園の空気に困惑して、慌てていた自分とはスタートが全然違っていた。自分と只管に向き会っていたカミツレは何時の間にか、気付かない間に学園の空気にも馴染んでいた。

 

「なぁ箒」

「な、なんだ一夏?」

「カミツレって、本当に強いよな……今俺さ……」

 

カミツレの回避を見た、攻撃を見た、防御を見た、その全てが自分の何倍も上のレベルの物だった。それはただ単に努力してきたからこその結晶であり、その結晶を身体に宿しているが故の必然であったのだろう。それが酷く輝きを放って見えた、美しいと思った、尊敬した。

 

「すげぇワクワクしてる、カミツレって凄いよな!」

「一夏……?」

「負けたけど凄いワクワクしてる、箒と剣道の真剣勝負で負けた時みたいにさワクワクしてる。またやりたいってさ」

「そうか、そうか……ならばお前の目標は杉山か」

「ああ、決めた俺はあいつをライバルにする!」

 

そう意気込むと心が更に燃え上がった。自分でも分かるほどに心臓が大きく高鳴った。本気で倒したい相手を見つけた一夏の煌びやかな笑顔に箒の胸も高鳴り、今まで以上の高鳴りに息が詰まりそうになった。それほどに今の一夏は輝いて見える。それを隠すように箒は笑いながら言う。

 

「ライバルではないだろう、杉山から見たらお前は競争相手ではないのだからな」

「ゲッ…言うなよ箒ぃ……た、確かに今の俺はカミツレから見たら弱いかもしれないけどこれから強くなるさ!!」

「それで杉山と並び立つには何年掛かるんだ?」

 

辛辣な言葉が一夏の胸を貫いた。確かにそうだ、大きな差を付けられてしまっている自分がカミツレに追いつくのは並大抵な事ではない。加えてカミツレだってどんどん伸びていくのだから、追いつく事は難しい処の話ではないのだから。

 

「せ、折角盛り上がってるのに……み、見てろよ箒!!絶対に箒がビックリする位に強くなって見せるからな!!!」

「いや、私ではなく杉山を驚かせるべきだろう」

「ぐ、ぐぬぅ……」

 

ぐうの音も出ない正論に何も言えなくなってしまう一夏、そんな彼を見て笑いながら箒はそっと手を重ねた。

 

「大丈夫だ、私は常に傍でお前を見守っている。私と共に強くなろうじゃないか、なっ」

「ほ、箒……いきなり優しくなるなんて、熱でもあるのか?」

「……一発殴らせろ」

「な、何でだよ!?ぼ、暴力反対だってぐはぁっっ!!!!」

 

織斑 一夏、覚悟を持って強くなる事を箒に誓う。その直後、箒に一発を貰う。

 

 

「……」

「え、えっと……」

『残存SE93%、初勝利の戦歴としては素晴らしい物と言えます。お見事です』

 

カミツレとセシリアはピット内で硬直していた。未だ「勝鬨」を纏ったままカミツレは驚きで言葉を失い、セシリアは驚きで言葉が見付からずに動揺を露わにしている。そんな中で響く声、機械的で一切の乱れがない規則正しい音にすら聞こえる声は「勝鬨」の状態を報告しながらカミツレの事を賞賛する。しかしピット内には二人しかいないのに何処から聞こえてくるのか、簡単である―――カチドキから声が聞こえてくるのである。

 

「セシリア、気のせいか。カチドキから声が聞こえて来るんだが」

「私もそのように聞こえますわ…これは、幻聴でしょうか?」

『人間の言う「幻聴」は刺激を受けていないのにも関わらず何かが聞こえるように感じる事を示します。この場合には適応されません。この場合は「現実逃避」が87%で適切な言葉だと指摘します』

「……ああうん、一言言わせろ……お前誰だ!!?」

 

ただただ指摘する声にいい加減カミツレが突っ込みを入れた、勝利直後にも聞こえてきた声もこれが原因だとしたらこれは現実だ。だが如何してカチドキからこんな声が聞こえてくるのか全く理解出来ない。

 

『私はVer.7のISコア、№274のコアを使用したIS。機体名称「勝鬨・黒鋼」のコア人格です』

「コ、コア人格ですって!?ま、まさかそんな……!?」

「えっと、つまりカチドキって事で良いのか……?」

『はい。貴方が相棒と呼ぶ存在の人格と思っていただければ、理解をし易いかと思います』

 

ただただ驚く事しか出来ない、初勝利を飾った直後に自分の相棒のコア人格が話しかけてきている。これで混乱するなというほうが無理だ。

 

「ISのコアにはそれぞれ人格が形成されていると聞きましたが……まさか本当だとは、驚きです……」

『コア人格については篠ノ之博士が公表済みの筈ですが、世間ではそれが事実とは捉えておらず一部のみがそれを確認している事は承知しています。残念な限りです』 

「む、難しい事は分からんが…なあカチドキ、如何して今まで話しかけてくれなかったんだ。話せたら楽しかった筈なのに」

 

専門的な知識があるセシリアはただただ驚きと事実を受け止めようとするのに必死であったが、対するカミツレはそれをあっさりと受け止め、如何してもっと早く出て来なかったのかと質問する。彼としてはまるでロボットアニメの主人公とその相棒のAIのような関係、それにやや興奮気味なようであった。

 

『申し訳ありません。私達コア人格が表に出る為の条件は限られています、その最たる条件が博士の許可なのです』

「博士って…篠ノ之のお姉さんの事か」

『はい。ISの生みの親である篠ノ之 束博士です。博士が許可しない限り、コア人格は会話などは出来ません。現在コア人格を確認した事がある操縦士達も「言葉を渡し合う」意味での会話はあるでしょうが、私のように直接音声として言葉を発し、会話したという事はない筈です』

 

コア人格が音声でコミュニケーションを取る為の条件は幾つかあるらしく、カチドキの場合は機体の稼働率を75%以上にする事。カチドキに対して人間のような信頼を置く事、相棒として認識する事、束の許可を取る事が条件で合ったらしい。条件の内の二つはセシリアとの戦いの時点で達成していたらしく、あの時は少しばかり手伝いをしたらしい。

 

「へぇ…他の人も喋れたら良いのにな」

『それには同意します。コア人格を認識している操縦士とそのコア達は話したがっている場合が多いです。私もその一例ですが』

「ふぅん……それはラッキーかもな、他のコアに自慢出来るぜきっと」

『皮肉を検知』

「えっ今の皮肉に入るの?」

 

そんなやり取りをしながらカミツレは酷く嬉しそうに笑っていた。相棒と言える存在が本当の意味で相棒となった瞬間なのだから。しかし、それは嵐の中心へと自ら飛び込んだのと同義だというのを彼はまだ知らない。

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