「危なげなく一回戦突破ですわね」
「ああ。訓練して来た甲斐があったって奴だな」
トーナメント表を眺めながらカミツレとセシリアは一息つきながら次のフォーメーションについて確認を取っていた。第一学年の優勝候補の一つとして数えられている自分達、それに恥じぬように戦って行こうと思いながら次の対戦相手を見る。次の相手は三組の女子同士が組んでいるペア、代表候補という訳でもないが油断していては痛いしっぺ返しを食らう事も十分に考えられるので慎重に行かなくてはならない。
「セシリア、そう言えば俺さっきリチャードさんって人と会ったんだけど。セシリアの親戚って言ってたけど」
「ええっ!?リ、リチャードおじ様が来てらっしゃるのですか!?」
「ああ、親戚っていうのはマジみたいだな」
セシリアは何処か嬉しそうな表情を浮かべながら笑った。リチャードはセシリアとはそれなり縁が深いらしく、両親を失ったセシリアを何かと気を掛けて援助をしてくれた人でもある。セシリアが代表候補の道もあると示してくれたのもリチャード本人で、セシリアにとっては様々な意味で恩人なのである。
「結構爽やかな人で好きだな俺は。良い人そうだし」
「カミツレさんにもそう言っていただけて私も嬉しいですわ。おじ様はイギリスでも随一の有力者として名を馳せているのです、様々な場で顔が利きますし私もお世話になりました」
「それじゃあ、もっと良い所を見せて……喜んで貰わないとな」
「はいっ!!」
決心を新たにしながら挑む第二回戦、その一般生徒である女子が相手である三組の女子コンビ。一般生徒としては手強いといえる実力を携えながら迫ってくるが……
『調整終了、行けます』
「セイヤァァァァッッッ!!!!」
「キャアアア!!!」
最大出力のままで見事な機体制御を行いながらカミツレは一刀の元にカスタム元である「打鉄」を斬り伏せた。スロットルワークをカチドキに委ねた事でより集中する事が出来たカミツレの攻撃、それは千冬から教わった剣戟を再現したままヨランドの機動によるブーストが掛かり更なる破壊力を生み出しながら襲い掛かった。対戦相手もその攻撃をシールドで防御しようとしたが、加速によって倍増した威力はシールドだけでは受け止めきれずにSEをごっそりと削ってしまう。
「流石は、カミツレさんですわ!!私だって、ヨランド代表に鍛えて貰った力がありますわ!!」
カミツレと共に訓練に励んだセシリア、彼女もヨランドの凄まじいスパルタ訓練によってレベルアップを遂げている。
「そ、そんなっ……!?ティアーズで攻撃しながら自分も移動して攻撃なんて……!!?オルコットさんはそれが出来なくて、一旦操作をやめる筈なのに!?」
「何時までも、私は歩みを止めているわけではないのですわ!!!」
愛しい彼の隣に居たい、強くなって彼を支えてあげたいという直向きな思いで訓練に励んで来たセシリアは一層の進化を遂げていた。今までは計算を行った上で相手を絶好の射撃位置に誘導を行い、瞬間的にティアーズの制御をストップさせて自らが攻撃を放つというのが最大の戦法であったが今はそれを超えた。激しい訓練の中で会得したのは
頭の一部でティアーズを確りと制御しつつ、一部では自らの身体を動かして攻撃を行い、一部ではそれらを総合しながら計算を行うという事を同時に行えるようになったのである。同時に複数の事を行いながら計算を行うのは脳に負担が掛かる筈なのだが…セシリアはその負担をものともせずにそれを行使する事が出来るようになっていた。実質、彼女は一人で三人として行動しているのと同義になっているとヨランドは語っていた。
「さあカミツレさん!」
「おうよっ!!」
その手に持ったブレードをセシリアの方へと蹴り飛ばすカミツレ、飛ばされたブレードをセシリアは繊細なティアーズの操作でそれを受け止めると、なんと柄頭の部分にティアーズをセットするようにしながらそのまま一気に押し出すように動かす事で、即席のブレードビットとして運用し始めた。
「えっちょ嘘でしょ!?」
「残念ですが、現実ですわ!!」
ブレードを持ったビットと化したティアーズ、予想もしなかった事態に動揺しまともに行動が出来なくなってしまう生徒に容赦なくティアーズは襲い掛かる。それを落とそうと必死になっているが、繊細なコントロールと相手の行動の先読みで全く当てる事が出来ない。そしてそれに執着していると……
「セイヤァァッ!!!」
「キャアアア終わったぁぁぁっ!!!」
真下から蹴り飛ばされてきたブレードが身体へと炸裂して体勢が崩れ、更にそこを追い打つかのように迫ってきたティアーズによってSEを削られてしまった。
『SEエンプティ!!この試合は杉山 カミツレとセシリア・オルコットタッグの勝利です!!』
勝利を手にした二人は声援を受けながら、ハイタッチをしながらピットへと戻って行くとそこにはカミツレも先程官僚を振り払うのにお世話になったリチャードがドリンクを持ちながら待ってくれていた。
「やぁお二人さん、名コンビじゃないか。ほいスポドリでよかったかな」
「有難う御座いますリチャードさん、態々差し入れなんて」
「何を言ってるんだい、この位当たり前だよ。それにしてもあれは凄かったな、あんなのを練習していたのか?」
「いえ、あれは私のアドリブです」
それを聞いてリチャードは目を見開いてしまった、アドリブであそこまで息の合った事が簡単に出来る物なのだろうか。カミツレにしてもブレードを蹴る力や方向などを計算しなければ行けないし、セシリアもそれに合わせるように操作を行わなければ行けない……この二人は矢張り息が合う者同士という事なのだろう。
「でもよくアドリブであそこまで……」
「まあ相手が相手でしたし。代表候補生相手だったら出来ませんよ」
「ブレードビットというのも私がこう言うのがあったら良いなぁというのを、以前カミツレさんと話した事がありましたので」
「いやそれでも素晴らしい、矢張り君が我が国に来てもらって嬉しいよ」
ガッシリと握手をするリチャードに恥ずかしそうに頬を欠くカミツレ、何時も勉強を教えてくれているセシリアだからこそ次が読めたのが大きな要因なので、訓練を積んでいれば誰でも出来るとカミツレは呟きつつ恥ずかしいのかトイレに行ってくると去って行ってしまう。そんな彼の後ろ姿を見ながら謙虚で良い子だなと頷くリチャードは、カミツレがいなくなった事に便乗してセシリアに言う。
「セシリア、絶対に彼を物にしなさい。彼こそ君の伴侶に相応しい男性だ」
「いやん♡恥ずかしいですわおじ様♡」
「いやいや彼以外にありえない。セシリア、彼のご家族にご挨拶に行くが来るだろう?」
「勿論行きますわ!!!」
余談だが、カミツレの家族はセシリアとの結婚には大賛成で兄の一海に至っては
「俺の弟をお願いします!!!」
と涙を流しながら土下座までして喜んだとか。そんな事になるとは知らないカミツレ、彼の未来は本当にどうなってしまうのだろうか……。