IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第49話

「ハァ……折角の計画が……」

 

カミツレの家族に挨拶を終え外堀を埋め終わったセシリアは、自室にて溜息をついていた。確かに外堀を埋めるのは終わっている、カミツレの家族には勿体無いお嫁さんだの弟を宜しく頼むだのと良い返事を貰る事が出来た。リチャード共々これにはセシリアもニッコリであった……が、元々彼女はこの学年別トーナメント後にある事をすると決断をしていた。それは―――カミツレに対する告白である。トーナメントで優勝し、その余韻と共に告白をするというのが当初の予定であった……がそれは大きく瓦解してしまったので新しく告白のタイミングを考えなければならない。

 

「優勝と共に告白……これこそ良いタイミングだと思ったのですが……」

 

学園中に広まっていた噂、それが学年別トーナメントで優勝すれば一夏かカミツレか、どちらかと付き合うことが出来るという噂があった。最初こそそれを本気にし優勝を目指そうと思っていたはいたが…途中からこれは本当なのかと思い始めたセシリア。あくまで女子の間だけでの話というこの噂。ならば肝心の男子には話が通っていないのではないかと思った。そして、仮に誰かが優勝し告白を行ったとしてカミツレがそれを拒否した場合、何か騒ぎを起こすのではと危惧した。そこで考えたのが自分が優勝して、告白すれば良いという考えであった。セシリアとしてもタイミングが良いと考え決行しようとしたのだが……

 

「はぁ……如何しましょう」

 

結果としてトーナメントは中止になってしまい計画は頓挫してしまった。他の生徒がカミツレへ告白する事態こそは回避出来たが今度は自分の告白のタイミングすらなくなってしまった……。思えば自分は異性の友達も居なかったし、親の遺産を守ろうと必死になっていた故に恋愛についてやや分からない事もある。如何したらの良いのだろうか。

 

「そうですおじ様に相談すればいいのですわ!!」

 

セシリアに妙案が浮かんだ、リチャードは自分に貴族の何たるかを教え込んでくれた恩人。様々な事を教えて今の自分を作り上げてくれた人、結婚もしているしきっと力になってくれる筈。それに昔、自分の失敗を慰めるために色んな話をしてくれた際に

 

「俺はなセシリア……昔は凄い人気でさ、色んな男子に恋の手解きをしてあげたもんだよ……愛の伝道師なんて言われてた時もあったんだよ」

 

と自慢げに話していた事もあった。それほどまでに自信たっぷりに言えるほどに積み上げられた経験があるリチャードならばきっと、良いアドバイスをくれる筈……!!この後、リチャードに電話してその事を言った際、思わず吐血する勢いで言葉を吐き出していた。愛の伝道師と言われていたのは事実であるが、本人としては死ぬほど嫌な呼び名であり、セシリアを慰める為に口にした過去だったらしい。がアドバイスは確りと行ったリチャードは最後に

 

「有難うございますおじ様!いえ、愛の伝道師さん!」

『ガハッ!!!!ど、どういたし……まし、て……』

 

と言い残してそのまま倒れこんだ。その後奥さんに見つけられ、膝枕されながら慰められたとか。

 

「おじ様からのお言葉、しっかりと活用致しますわ……!!押せ押せ、ですわね!!では早速この一番強い方法から……!!」

 

 

「ふぅぅ……良いお湯だ」

「だなぁっ……」

 

そんなセシリアが意気込んでいる最中、カミツレは一夏と共に大浴場に身体を沈めて疲れを癒していた。今まで大浴場は女子達が使っていた関係で男子は使用出来なかった。しかし、教師陣の努力によって男子の大浴場使用許可が下りたのである。それを一緒に聞いた一夏とカミツレは珍しく一緒に喜び、共に風呂に入っている。仲が良くない二人ではあるが同性であるために気を遣わずに済むという点に置いては、カミツレは感謝している。一夏は普通に風呂に入れる事に喜んでいるが。

 

「なあっカミツレって風呂って好きなのか?俺は大好きだけど」

「んっ~……そうだな…好きではあるな、風呂は命の洗濯だからな」

「おっ良いなその言葉。俺もこれから使わせてもらおうっと」

「おい勝手に使うな」

「硬いこと言うなって」

「まあ好きにしろ……」

 

普段であればこんな穏やかな会話など想像出来ない二人ではあるが、完全にリラックスしている今はまるで友達のように会話が弾んでいる。今日までずっとシャワーで我慢して来た二人にとって、大浴場は途轍もない程の贅沢と言える代物になっている。肩まで沈んでいるからか、全身の疲労と凝りが溶けていくかのような虚脱感に飲み込まれて行きそうになる。

 

「にしてもさ……俺達も何時の間にか、この学園の生活に馴染んでるよなぁ……女子校なのに」

「確かにな…」

 

言われてみると不思議な物だ、特殊な立場にあるとはいえ此処が女子校であるのには変わらない筈なのにすっかり此処の生活に馴染んでいる。女子ばかりの中で食事をするのも、授業を受けるのも、話をするのにも慣れている。不思議な物だ。

 

「俺最初不安しかなかったのに、何時の間にか不安なんか飛んでたよ」

「あっそ……」

「お前は如何だった?」

「俺か……?」

 

風呂の暖かさに酔っているのか、何時にも増して口が緩いのを感じているカミツレ。最初にあったのは一夏に対する怒りと怨み、憎しみばかりだった。自分の命が危険な場所にあり研究材料にされない一心で努力し続けていた毎日。しかし何時の間にか努力するのが当たり前になり、一夏への怒りは胸の奥へとしまっていたかのような気がする。もう、それで良いような気がする……。

 

「さぁな……忘れちまったよ、んな昔の事。今と未来だけを見て生きてればいいんだよ、俺達は」

「……カッコいい事言うなぁ…」

 

何処か羨望の眼差しを送ってくる一夏。カミツレとしては、これから大変になっていくのだから一々昔の事なんか考えている暇などない、今に全力でぶつかって良い未来を見るしかないという意味だったのだが……一夏にはそこまで読み取れなかったようだ。純粋にカッコ良い言葉としか受け止めれていない。

 

「なあカミツレ、一つ聞いても……あれ、カミツレ?」

「……」

「寝てる…?ああいや、気持ちいいから目を閉じて集中してるだろうな。俺ちょっとのぼせてきたから上がるか、んじゃ後はゆっくりな」

 

気を利かせた一夏はそのまま音を立てないようにゆっくりと出て行った、が一夏は気付いていなかった。カミツレが静かに寝息を立てている事に、本当に眠ってしまっている。久しぶりの風呂にリラックスしてしまい夢現になってしまっている、半分寝てしまっている状態。うとうととしてしまっていた、そして前のめりに顔から湯船に突っ込んだ時に目を覚ました。

 

「ゲホゲホッ!!!やばいやばい……気持ち良くて半分寝てた…こんなところ見られたとか最悪……ってあれ、織斑の奴いないな」

 

目を覚ましたカミツレの視界に一夏の姿がない、既に浴場から出て部屋へと向かっている。それを知らぬカミツレだが、それならばと確りと身体を湯船に沈める。今度は眠らぬように時々、顔にお湯をぶつけながら。

 

「いいお湯だ……」

 

そんなカミツレを見つめるような視線が脱衣所から注がれていた、そして扉を開けて浴場へと入ってきた。カミツレは一夏かと思って顔を其方へと向けたが全くの見当違いであった、そこにいたのは……

 

「お、お邪魔、致しますねカミツレさん……」

「っ!!?セ、セ、セ、セシリアァァッ!!!?」


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