IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第5話

専用機となる「打鉄」改め「勝鬨・黒鋼」を相棒として迎えたカミツレは真耶の指導を受けつつもセシリアからの指示を仰ぎながら毎日を過ごし自らを鍛える日々を送り続けている。実際にISを纏っての訓練は新鮮であり苦労も多いが真耶の丁寧かつ厳しい指導もあってか一歩ずつだが確実に前に進む事が出来ている。加えて毎日身体を鍛えるメニューも追加されていた、本当の意味での実力を付けるにはISの武装をパワーアシスト抜きで保持出来るような身体でないと駄目という事で真耶にメニューを作ってもらいそれも並行して行っている。

 

早朝に目を覚ましセシリアを起こさないようにそっと外へと出て校庭を3周し腕立て腹筋スクワットをそれぞれ100回行い、最初こそこの量だが徐々に量を増やしていくと真耶は言っていたのでまだまだ増えていくだろう。起床しメニューを終える頃には6時半になっている。他の女子達が少しずつ起き出して来るので部屋へと戻り軽く汗を流し朝食まで部屋でその日の予習と復習を行う。まだ学園に来て1週間だがこれを毎日カミツレは続けている、これも自らが研究材料になりたくないと言う思いがあるがそれでもサボりたいという気持ちは沸いていないのは素晴らしいと言えるかもしれない。

 

「んんんっっ……」

 

ノートに向かい続けていたが艶っぽい同居人の目覚めの声を耳にし一旦ペンを置いた、電気ケトルに二人分の水を淹れて電源を入れておく。少しずつ意識を覚醒させていくセシリアは布団から身体を起こしながら目を覚ましていく、そして彼女は机に向かい続けている自分に気付くと決まって普段の凛とした声ではなく可愛らしい声で言う。

 

「おはよう御座います……ミスタ・杉山……」

「ええおはよう御座います。もう直ぐお湯も沸きますから顔でも洗ってきたら如何ですか?」

「お気遣いどうも……」

 

朝に弱いのか目覚めたばかりの彼女は舟を漕ぐかのようにフラフラとしている、千鳥足のような動きで洗面所へと向かって行く。そこで冷たい水で顔を洗った後に暖かなお湯で爽やかに目覚めるのが彼女の朝となっている、洗面所から冷たいッ!とお決まりの言葉が飛んで来たのに少し笑いつつ沸き上がったお湯を紅茶の茶葉を用意しておいたポットへと注いでいく。朝を気持ちよく迎え今日も清らかに頑張る為のモーニングティーはセシリアには欠かせないらしい。洗面所から出てきた彼女はキリッとした普段通りの物だった。

 

「改めておはよう御座いますわミスタ、本日も良い朝ですわね」

「ええそうですね。さあ紅茶も入ってますよ」

 

カミツレもセシリアと共に紅茶を口にする、彼女が本国から直接取り寄せている茶葉は香り高く味も良く味覚と嗅覚に程よい癒しを与えてくれる。そしてこれで今日も自覚する―――今日も、自分の価値を示すための一日が始まる。

 

 

授業も進んでいく中、セシリアと真耶の指導のお陰もあってか想像よりも授業の内容を理解し把握している自分に驚いている。専門職の教師とその道のエリートに教わると矢張りかなり違うという物らしい。この二人に師事出来た事には矢張り感謝し今度何か形としてお礼をした方が良いのではと考えつつノートを書き進めていきながらノートの端に書いたメモ書きにある物に目が行く。自分の専用機として、首に掛かるドックタグとして待機状態にある勝鬨に追加で乗せる装備の案、流石に武器二つは少ないと思うのか予備を抜くとしても後一つ何をいれるべきかという物が書かれている。この事も真耶に相談した方が良いなと確信する中、千冬が授業をストップさせた。

 

「授業中ですまんがこれよりクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者は対抗戦だけで無く生徒会の会議や委員会などの出席などで……まあ学級委員と考えて貰っても良い。自薦他薦は問わない、誰か居ないか」

 

千冬が言ったのはこのクラスの代表者を決定するという事であった、話を聞くだけでも重要そうな立ち位置で大変そうな役割だ。出来る事ならば避けたい、自分は纏め役という物には向いていないしそもそも目立つ事が苦手、しかしこう言った物は結果という物をかなり残し易いというメリットもある。ならば自分の事を考えると立候補すべきなのではないかと頭の中で思うが発展途上な自分は不相応だと自分を収める。きっと立候補させられるのだろうなという予感があった。

 

「はいはい織斑くんを推薦します!」

「私もそれが良いと思います!」

「お、俺ぇ!?」

 

殆どの女子たちが一夏を推した、理由として男性IS操縦者だからというのと千冬の弟だからというものが大きいだろうがそれならばカミツレは何故推されないのか、それは普段の差と言える。休憩時間や放課後の殆どを自習や訓練に当てているカミツレは1組に全く馴染めておらずセシリア以外の女子たちの交流も全くなくカミツレの事が分からないのが原因。それに比べて一夏はミッチリと自習を行っている訳でもなく休める時にはしっかりと休み女子たちとも頻繁に会話などもしているので交流もある、それ故に一夏を推し易いという事があった。あたふたしやりたくないと困惑している一夏、しかしクラスの代表があれというのもあれだなと思ったカミツレは助け舟を出す訳ではないが手を上げた。

 

「杉山何だ?」

「私はセシリア・オルコットさんを推薦したいと思います。代表候補生ですしこの中では一番の適任者だと思います」

「ふふん流石ミスタ・杉山、よくお分かりですわ♪」

 

自分の事を良く理解し評価されている事に気を良くしたのかドヤ顔を浮かべているセシリアは胸を張った。空気が読めないような目でカミツレを見ている女子達もいるがそれにも一理あると一定の理解を示している女子達もいた。このまま一夏がセシリアを推してくれれば全て解決したのだが此処で彼は本当に余計な事をしてくれた。

 

「な、なら俺はカミツレを推薦するぜ!!」

「……マジかよ……」

 

まさかのセシリア推薦ではなく自分推薦であった、想像だにしなかった事に思わず頭を抱えてしまった。本当に余計な事をしてくれた、良くも巻き込んでくれたなと一夏を睨み付けてしまいそうになるがこのままならきっと相応しいのはセシリアだと千冬も理解して彼女に役目を与えるに決まっていると願った―――がその願いはあっけなく砕け散る事となった。

 

「推薦枠は織斑 一夏と杉山 カミツレ、セシリア・オルコットか」

「ちょ、ちょっと千冬姉⁉︎俺代表なんてやりたくなんてないぞ!?」

「黙れ推薦者がグダグダ抜かすな、それにそんな事を言うならば貴様も杉山を巻き込むな」

「だって俺だけ推薦されるって不平等だろ!?」

「何処がだ大馬鹿者。フム……二人のデータを取る良い機会にもなるか……。ではオルコット、織斑、杉山による模擬戦を行いそこで代表を決定する。それで文句はないか」

 

視線を巡らせて如何だと聞いてくる千冬にもう拒否権はないんでしょと問うと残念ながらと返されてしまい心から落胆した。あのままなら事なきを得たかもしれないのに此処まで事を大きくしてくれたなと一夏を鋭く睨み付けるがもう止めようもない現実に覚悟を決めて前に進む事にする。

 

「お、俺は嫌だ!カミツレだって嫌だろ!?」

「……分かりました、もう此処まで来たら引けないんでしょうね……どこぞの馬鹿のせいですけどやりますよ」

「俺のせい!?」

「私も異論ありませんわ、それで構いませんわ」

「では模擬戦の開始日はアリーナの確保が出来次第伝える、それまでに準備をしておくのだな」

 

授業終了後、セシリアが自分の席まで来て少し好戦的な笑みを浮かべて言った。

 

「このような事になりましたが私は正々堂々戦わせて貰いますわよミスタ」

「此方こそ、ご期待に沿えるように努力するつもりです」

「フフッそれで宜しいですわ、それと当日まで指導は続けますわよ。例え戦う相手としても確りと指導を行うのが礼儀です物ね」

「有難うございますミス」

 

 

「何でこうなったんだ……」

 

大体こいつのせいである。


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