「フフフッ♪」
思わず笑顔を浮かべてしまうセシリアは鏡に映りこんでいる自分の顔を見て更に笑ってしまう。微笑を作っている自分に嬉しさが込み上げてしまっている、笑いを押さえ込む事が出来ずにずっと笑ってしまっている。先日の夜、自分とカミツレは結ばれた。抱き続けていた思いを告白し、一糸も纏わぬ姿と互いの気持ちをぶつけ合って互いの想いを自覚し、支えあう事を誓った。その事が嬉しくて嬉しくて致し方ない。
「おじ様も驚きながら、喜んでくださいました…フフッカミツレさんと、一緒……」
リチャードにもこの事は報告したが本人としてはまさかいきなり最後の最後に使えば良いと思って教えた手段である『風呂場に突撃』という行動にでると思っておらず驚愕に目を見開いていた。少しずつ話を持って意識させていく、という初歩的な物からやると思っていたリチャードからしたら姪がこんな積極的とは思いもしなかったのだろう。まあいきなりこんな手段に出る女子なんて滅多にないだろうし。
『ドロシー……私達の姪ってこんなにも肉食系だったなんて知らなかったよ……しかし、セシリアよくやったぁぁぁっ!!!これでオルコット家は安泰だな!!後は幸せな家庭生活を営むだけだぞ!頑張れよ!!!』
『はいおじ様!!』
『あっ、一線は越えてもいいけど避妊とかは確りしなさい。寧ろ、彼の事を考えるとそう言う事も確りケアしてあげる事も大事だからな?』
『わ、私がカミツレさんの……いやんいやん♡』
などという会話があったのは余談であるが、兎に角リチャードが喜んでいたのは間違い無い。そしてセシリアは一つの覚悟をしながら制服を着込み、微笑ではなく鋭い顔を作りながら部屋を飛び出していく。廊下を歩いて向かった先は屋上、これから約束をした一人の生徒と話をするため。これからの為に確りと話をしておく必要があるとセシリアは考えている。それが自分がするべきケジメでもあると思ったからだ。
「……」
静寂が広がっている屋上で青空が広がる空を見上げる、今日もいい天気だ。こんな日はカミツレと一緒にこの屋上でご飯を食べるのが楽しいかもしれない。自分が腕を振るって作ったお弁当を仲良く食べながら、笑顔を作りあう光景を想像して胸が高鳴った。そんな高鳴りに心を委ねていると扉が開く音がした、ゆっくりとそちらへと顔を向けると自分が待っていた人物が顔を見せていた。どうやら約束通りに来てくれたようだ、まずそれに感謝するとしよう。
「ご足労頂感謝いたしますわ―――凰 乱音さん」
「あたし呼び出すって一体何様のつもりよ、全く……これでも暇じゃないのよ」
そう、セシリアが呼び出したのは乱であった。自分と同じく明確なカミツレへの好意を持っている女子、彼女との決着を付ける必要性がある。
「それは失礼致しましたわ、しかしカミツレさんについての事です。直にでも話して起きたいのですわ」
「カミツレさんについて、ですって……?」
「はい―――私、セシリア・オルコットは正式にカミツレさんとお付き合いをする事になりました」
「っっ!!!??」
驚愕に目を見開いた乱、そして同時に足元がガラガラと崩れていくかのような感覚を覚えてしまう。
「そ、んな……!!!」
「カミツレさんのご家族ともお話は済んでおります、正式な婚約関係と言っても過言では御座いませんわ」
「カミ、ツレさんの婚約、者……!?」
虚ろな瞳へとなり真っ青な顔になりながらも必死にセシリアを見つめる乱、真っ直ぐに保った瞳でセシリアを見るが彼女の目に嘘はなかった。そしてそれが真実だと悟ると座りこんでしまった、確かに自分はカミツレとの接点は少ない上にセシリアに比べて時間も少ない、それでも初めて本気で好きなった人だったカミツレを取られたという事が重く圧し掛かってきた。
「こうなった以上ハッキリさせておくのが筋、と私が判断いたしましたわ」
「……そう、確かに、ね」
凍りつきそうな身体を支えながら言葉を作ろうとする乱、それでも乱は必死に言葉を作った。自分が言いたい言葉を、思いを形作りながら……。
「なら、アンタが絶対に守って幸せにしなさいよ……あの人は、私のヒーローなんだから……!!!」
涙を流さぬように歯を食い縛りながら、カミツレの事を守って欲しいと願いを述べた。乱もカミツレの事は好きだ、好きでたまらないが好きだからこそ、その人が選んだ人との幸せを祝福するべきだと考えた。決死の思いで綴った言葉を受け止めるセシリアだが直に言葉を返す。
「それは心に誓っております、故に乱さんに頼みがあります」
「何よ……」
「私と一緒に、カミツレさんを守って欲しいのです」
「……えっ?」
思っても見なかった言葉に思わず乱は一瞬、呆気に取られてしまいポカンと口を開けてしまった。彼女は一体何を言っているのだと。
「何を、言ってるの……!?何を言いたい訳……?」
「私もオルコット家の全力を上げてカミツレさんを守ると誓うつもりです、ですがあの人は全世界から狙われる身なのです。悔しいですが、私の力だけでは守りきれませんわ……」
強く拳を握りこみながら歯軋りをするセシリア、全身から悔しさを滲ませながら柵を殴りつけた。セシリアらしくない行動に乱は目を白黒させながらそれを見つめていた、現実を見据えているからこそ悔しさに震えている彼女の姿を。
「だからこそ、カミツレさんの事を共に守ってくださる味方が必要なのですわ!」
「そ、それは分かるけどさ……つまりあたしに何をしろって言うのよ……」
「単刀直入に言わせていただきますわ、凰 乱音さん。恐らく、カミツレさんには一夫多妻制度が適応される可能性が非常に高いのです、故に妻の一人となって共にカミツレさんを守るお手伝いをしてください」
「……はあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!?」
思わず乱は腹から声を発して驚愕を言葉に変えて発してしまった。だが同時に頭の回転が速い乱は、それはどれだけカミツレの為になるのかという事も理解した。味方を増やすにはある意味それが一番手っ取り早い、今後の政治的な動きによっては妾などを取るのが安全な手段とも言える。
「……あたしが、カミツレさんの妻の一人に……?」
「貴方ならば信用出来ると私が判断いたしましたの」
「……諦めなくていいのね……うん、その話を受けさせてもらうわ!!」
「ではこれから宜しくお願い致しますわ!!」
ガッチリと握手を結ぶセシリアと乱、愛する人を守りたいそんな思いの元で手を組む。そして力の限りカミツレを守って見せると誓いあう。
「んじゃさセシリア、あんたこれカミツレさんにも当然言ってあるでしょ?」
「いえこれからですけれど?」
「一番重要な所じゃないのよそこぉぉぉぉぉお!!!!!!!?????」
「まあ認めてくださらなくても、身体を使えば…」
「あんた、本当に貴族のお嬢様……?」
「へっくし!!な、なんだ急に寒気が……」