『みーたん!みーたん!!みーたん!!!』
―――兄貴。休憩中は確かに自由だけどもうちょっと静かにしろ、うるせえよ。
『何を言うんだカミツレ、お前にはみーたんの素晴らしさが分からないのか!?』
―――あ~あ~分かってるよ!分かってるから、周りに迷惑掛けるような事をするなって言ってんだよ!この前、みーたんも言ってたぞ。
『何だと!?それマジか!?すまなかったカミツレ!!!』
―――扱いやすっ……あっそうだ、みーたんとのボイスチャット会のチケット当たったけど兄貴使う?
『カミツレ……お前は神か』
―――くだらねえ事言うならやらねえぞ。
『すいません神様仏様カミツレ様!』
―――全く、まあ兄貴のそんな所嫌いじゃないけどな。んじゃやるからさっさと作業終わらせようぜ。
―――夢を見ていた、今では見れなくなってしまった夢の続きを。兄と一緒に騒いでいた日常の風景、当たり前であったはずの光景が当たり前ではなくなってしまった。悲しくて、寂しくて、懐かしいそんな夢を見ていた。あの時は騒がしくて兄と一緒に遊んだりするのが当たり前だった、兄の取り巻きとも呼べる三人組の三羽烏と釣りなど楽しく過ごしていた。本当に楽しい日々だった―――だがそれを過ごす事はない。
「カミツレさん、起きました?」
「……セシ、リア……?」
「カミツレさん大丈夫ですか、起きられます?」
「乱、さんも……?」
夢から覚めた、幸せな夢から覚めた先にあったのは学園の自分の部屋。ベットに横たわりながら此方を心配そうに見つめているセシリアと乱がいた、なんで彼女らがいるのだろうか。そもそも何故自分はベットの上にいるのだろうか、それすら思い出せない……何があってこうしているのだろうか。千冬と話していたような気がするのだが……。
「織斑先生から連絡を頂いたんですよ、それで私達が部屋に来るとカミツレさんが眠っていて…」
「先生に話を聞こうとしたんですけど本人から聞いた方が良いって言われて……何があったんですか?」
彼女らの瞳に嘘はないのだろう、純粋に自分の事を心配してくれている。それなのに自分は一瞬、彼女らのそんな気持ちを疑うような心持ちをしてしまった……自分を好きだと言ってくれた人の事を信じられないなんて、薄情な事だと自分に嫌悪感を抱いてしまった。そう思っていると彼女らの手が、自分の手に重ねられた。
「どうかお話ください、私達にも力にならせてください」
「カミツレさん…もしも、私が恋人になった事で悩んでるなら素直に言ってください。望むのだったら、私は素直に身を、引くつもりですから…」
乱は何処か辛そうにしながらもそう言い切った、元々セシリアから告白の話を聞いた時には彼の幸せの為に身を引く決心をしていた程。優先されるべきはカミツレ、自分の事は二の次。そう考えている乱を止めるようにその手を握り返した。
「違うんだ……俺は、俺は別に乱さんの事が嫌いになったとかじゃない。寧ろ、俺なんかの為に力になってくれるって言ってくれた時凄い嬉しかった……まあ混乱はしたけどさ」
「カミツレさん……じゃあ如何して……」
「……俺は…辛かったんだ」
一瞬話す事に躊躇するが、カミツレはそのまま口を閉ざさずに素直な事を喋る事に決めた。
「学園にいる事が辛かった、女子だらけの中にいるのが辛かった……でもそれに耐えて前に進むしか俺には選択肢がなかった。そうしないと生きられないと思ったから」
「……」
「それしか道がない……」
「だからこそ、気付けなかったのかな……本当は辛いって事に」
千冬にもした話をしていくカミツレ、それを受け止めようと必死に聞く二人は黙って向きあっている。そんな様子に気付けているのか分からないがカミツレは話し続けていく、溜まり続けていた物を吐き出すように止める事が出来なくなっている。そして話が終わろうとした時、セシリアと乱は堪らずに彼の手を強く握った。その表情は涙で溢れ返っていた。
「……申し訳、ありません……ごめんなさいカミツレさん……!!!」
「そんなに、苦しそうにしてたのに気付けなかった……少しでも見て欲しいなんて自分勝手な事ばっかり、アタシ考えてた……!!」
「二人とも……」
「私は、カミツレさんの事を分かっていた筈なのに……ただ、守ろうとしかしなかった……」
対抗戦の後、セシリアは知った筈だった。如何してあそこまで努力を重ねていたのかそれの理由を、しかし自分は力になって守ろうとしかしていなかった。カミツレの為に行動しているようでしていなかった、内面を支えてあげようとしなかった。共に苦しんであげようとしなかった……それで何が恋人か、そんな事を名乗れるのかと激しく自分を攻め立てる。
「あたしも、ただ憧れて、好きになってただけ……カミツレさんがどんな思いで努力してたって理解してたのに……」
乱がカミツレの惚れたのは対抗戦の時の戦い、その戦い方に彼の内面が投影されていたからだった。自らの価値を証明する為に必死に努力し、戦い抜き前へと進み続ける事まで見抜いた。そんなカミツレの姿に恋をしたのだ。だが、いざ学園で出会ってからはそれを理解してとは言えずに憧れの人に会えた喜びで舞いあがっていた。
「ごめんなさい……カミツレさん……!」
「すいません、すいませんっ…!!」
懺悔の涙を流し許しを乞うかのように泣き続ける二人、それを目の当たりにしたカミツレはその涙を見て驚きを覚えていた。彼女達は自分の事を心配してくれて泣いてくれているのかと、自分の事でもないのにここまで泣くのかと驚いていた。
「いいんだ、俺なんかの為に泣かないで……」
「カミツレ、しゃぁん……」
「でも、でも……」
「それだけで、俺は嬉しい……だから泣かないで……その代わりにさ…偶に甘えさせてくれないか。二人に……」
「「勿論です……!!」」
大粒の涙を流す二人の少女を抱き締めたカミツレ、愛しい彼の胸の中で泣き続けるセシリアと乱。この時こそ、本当の意味で彼女らがカミツレと共に歩き出そうとした時であったのかもしれない。
「俺って、幸せなのかも……」
そんな事を呟きながらカミツレが二人を抱き締める、これからは頑張っていくだけではなく好意に甘える事もして行かなくてはならない。それが、二人と共に居るという事ではないかと思った。