「…なんか、嬉しい一日だったな」
セシリアと乱に本音をぶつけ通じ合う事が出来た、それに喜びを感じつつ後日一緒に出掛ける約束をしたカミツレは笑顔を零しながらベットに横になる。滲み出してくる喜びに身を預けたまま天井を見上げる、師匠や尊敬している人達とは違った意味での理解をしてくれた二人には感謝しか言い表せない。
「これからも、世話になっちゃうけど……なんか、嬉しいな」
笑顔のまま言葉を漏らすカミツレ、溢れ出している歓喜に身を預けて続けている。心からの信頼を預けられる人と出会いと絆に感謝、そんな思いを浮かべているカミツレへカチドキが話し掛ける。
『カミツレ、少し宜しいでしょうか』
「カチドキ?ああ良いけど、なんか用?」
『少し、話をさせていただきたいのです』
カチドキが自分から話しかけて来る事は珍しい、今までも報告や警戒の推奨やらで話しかけられたりはしてきたが話したいという理由で話し掛けられた事は余りない。一体どんな話をするのかと少しの期待を寄せながら相棒の声に耳を傾ける。
『実はカミツレにお伝えしなければならない事があります』
「俺に伝える事?」
『はい、本来ならばもっと早く伝えるべきだったのですが……カミツレにとって大切な時間だった為に遅れてしまいました』
「あ~……気を遣わせちゃったか?」
『タイミングを逃しただけですのでお気遣いなく』
こうして思うと本当にカチドキがコアの人格、言うなれば人工知能的な存在とは本当に思う事は出来ない。皮肉も理解する上に人間的な会話も出来る、冗談も飛ばす事も出来る。本当に人間と喋っているかのような気分になる、故にカミツレもカチドキの事を相棒と思いISとは思っていない。自分と共に歩む仲間であり相棒、それこそカチドキなのだ。態々セシリアと乱が帰るまで待ってくれたという事なのだから。
『ではお話します。間もなく貴方を尋ねる方が来ます』
「客……って事で良いのか?それなら準備とかしないとな。んでその客って?」
『それは―――』
とカチドキが言おうとした時、鍵が掛かっている筈の部屋の扉が独りでに開き始めた。その音に思わず飛び起きたカミツレはそちらに視線を向ける、まさか強硬手段に取ってきた何者かと思って警戒する。そこに立っていたのは長身の女性、空のように青いワンピースを纏っていながら頭には兎の耳を模しているカチューシャと思われる物を付けている。不健康から来ているのか眼の下にある隈で少々分かりにくいが、その顔を見た時カミツレは知人を思い浮かべた。
「篠ノ之に、似てる……?」
箒に顔立ちが似ている気がする、何処か何となくだがそんな気がする。箒のような凛々しさはないが身体つきは似ているような気がする。箒と同じく自重をしないボディラインにブラウスはサイズが合っていないのか、悲鳴を上げている。そんな言葉を掛けられた女性は嬉しそうに口角を上げながら中へと入って扉を締めると、いい笑顔を向けながらカミツレを見た。
「ふふふ~ん君ってば良い眼をしてるねぇ~。うんうん流石はこの私が眼を付けただけの男の子だよね~♪箒ちゃんと似てるってもう嬉しいこといってくれるね~!」
「な、何なんだ……?」
いきなり嬉しそうに笑いながら小躍りする女性にやや引き気味になってしまう、箒の事を知っているようだが一体この女性は何者なのだろうか……?
「やぁやぁ初めましてフール・ジョーカー君!」
「フ、フール・ジョーカー……?えっと、杉山 カミツレです……?」
「うんうん挨拶は大事だからね、古事記にも書かれてるから!やっほ~皆のアイドルの束さんだよ~♪」
「あっどうも……んっ…?篠ノ之…束…ってISの開発者ぁ!?」
「あっいいリアクションだね、束さん的にポイント高い!」
突如として目の前に現れた人物はISの開発者にして現在国際指名手配されている超要注意人物であり、稀代の大天災と呼ばれる科学者の篠ノ之 束であった。何故そんな人物がこんな所に居るのかと混乱し掛けるが、カチドキが落ち着くようになだめてくれるお陰か直に落ち着く事が出来た。
『博士お久しぶりです。お元気そうで何よりです』
「うんうん、あの時振りだね~№274♪元気そうで安心したよ~」
『ナンバーではなくカチドキとお呼びください。それが私の名前です、相棒が私にくれた名前です』
「ふ~んそうなんだ~……へぇ~……」
それを聞いて更に興味深そうにカミツレへと視線を向ける束。何処か興味深そうに、面白い物を眺めるかのような見方に何か変な事でもしただろうかと困惑するカミツレだが、実は束に言いたい事があったのである。
「えっと、束博士……?」
「何かなジョーカー君?」
「……その呼び名もなんか気になりますけど…まずは有難うございます」
「…っ?如何してお礼を言うのかな?」
「カチドキから聞いたんですよ、話す為には博士の許可が必要だって。貴方が許可をくれたからこそ俺はカチドキと話す事が出来たんですよ。ここまで付き合ってくれた相棒にお礼だって言いたかったから、博士とは一度直接お礼を言いたかったんです」
そう言いながら頭を下げるカミツレに束はやや驚いた顔を作るが、更に面白い物を見つけた子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。
「やっぱり君は面白いね。ISを物ではなく個人として捉えるなんて、早々出来ない事だよ」
「そうですか……?俺は付き添ってくれた物には当たり前だと思いますよ。俺の爺ちゃんも言ってました『大切にされて、付き添ってくれた物には神様が宿る』って」
『私は八百万の神ではありません。しかしカミツレの気持ちは私としては嬉しい限りです。それと博士、私が見る限り栄養バランスの不足による健康面の悪化が見られます。カミツレ、出来る事ならば料理を作ってあげてくれませんか』
「んっ勿論いいぞ、相棒の頼みなら尚更だ。んじゃ博士直ぐに作りますから座って待っててください」
そう言うとキッチンに向かって料理を始めるカミツレ、その言葉に従って座った束は調理をしながらカチドキと会話しているカミツレを見ながら微笑ましい笑いを浮かべていた。自分の子供が仲良く一緒に作業をしているのを見る母親のような優しい顔を作りながら。
「カチドキ、博士って何が好きなのか分かるか?」
『検索中……以前博士と話した時にはカボチャやキャベツが好きだと言っておりました』
「カボチャにキャベツか……それはあるからそれをメインにしてみるか。うし、カチドキも手伝えよ」
『分かりました、私に出来る事があるのであれば』
「(そう言えばち~ちゃんも美味しい美味しいって言ってたなぁ…ちょっと楽しみになってきたかも)」