「んっ~結構いけるぅ~♪こっちも美味しいなぁ~♪」
「いっぱい作りましたからどんどん食べてもらっていいですよ博士」
「わ~い♪」
束の為に拵えたカボチャとキャベツ、その他の野菜を使った料理のフルコース。それらを笑顔で次々と食べていく束の食べっぷりに笑みを浮かべながら、急速で炊いた米のお代わりを盛って渡すカミツレ。千冬とも違った食べっぷり、千冬が何処か静かな一面を見せながら食べるが束は随分と違う。子供のような笑みを浮かべながらガツガツと食べる、対象的な二人だが美味しく食べて貰えるのならばカミツレ自身としては嬉しい限りである。
『いかがでしょう博士、カミツレの作る料理は』
「美味!!いやぁ束さんってば料理の味とか気にせずに栄養だけ摂取してきたけど、こう言うの悪くないなぁ。お料理ロボとか作るのもありだなぁと再認識した!おおっ今降りてきた、新しいISのアイデアが降りてきた!!」
「料理は心の栄養になるだけじゃなくて、食感で感じられる感覚で気分転換とかアイデアとかが浮かびますからね」
「うん、再認識したね。という訳でこのキャベツのパリパリ浅漬けお代わり!!」
「えっまだ食べるんですか?」
「食べるの~」
「はいはい今用意しますよ」
束の食欲に少し呆れつつも正直作りすぎてしまった気がする料理、それをもう全部食べ尽くす勢いに料理人としての一面が喜びを上げている。炊いたご飯も次々と料理と共に束の胃に収まっていく、そして心なしかやや不健康的な隈が消えていき肌が綺麗になっているように見える。気のせいだろうか。
「プハァッ~美味しいなぁこりゃち~ちゃんも夢中になる訳だね♪」
「それはどうも、お代わりいります?」
「大盛りでね!!」
食べる度に健康的に見えてくる束、そして全ての料理を平らげた束はつやつやとして肌を光らせていた。満腹になったのかおなかを撫でながら満足げな笑みを零している。
「プヒャ~もう大満足ぅ~♪ご馳走様でした~♪く~ちゃんの料理も良いけど、この料理も良いねぇ~♪」
「満足して頂けたようで俺も満足ですよ、にしても良くあれだけの量を……」
『一般的な成人女性が一度の食事で摂取する量の3倍は食べました』
「しかもなんか……凄い元気になってねぇか……?」
食後のお茶を啜っている束を食器を片付けながら見るカミツレ、あれだけの量を食べ切ったのも驚いたが今の束の姿も驚きに値する。一体如何してこんなに綺麗になったのか。それには束が笑顔で答えた。
「束さんの身体の中には特製のナノマシンが打ち込んであるんだよ。ナノマシンは摂取した食べ物とかを完全に分解して、100%身体に還元してくれるのだ♪しかも直ぐに身体に行き渡らせてくれるからね、重宝してるのよこれが♪」
「……すっげ」
『これが博士です』
一瞬納得し切れないような気がしたが、カチドキの言葉で全てを納得してしまった気がする。下手に理解しようとせずに束だからしょうがないと認識した方がいいかもしれない。それが混乱せずに納得する唯一の方法だろう。それを自然と咀嚼し、飲み込んで思考の一部にしたカミツレであった。
「いやぁ此処までの美味しさとは……なんだろうね、レストランとかの料理にない美味しさがある気がするのは何でだろうね?」
「いやそこで俺に言われてもな……というか、博士なんで俺の所に?」
「私の子供が宜しくやってくれる相棒に挨拶をしたい、それは別に親としては自然な思考じゃないかな」
「そりゃまあ……確かにそうですね」
言われてみれば当たり前の心理、独り立ちした子供が懇意している相手。そんな相手と会って話をしたいというのは確かに、一人の親としては自然な考えだ。特殊な関係だろうが束とISは間違いなく親子、それは間違い無いだろうとカミツレは自然に受け入れていた。束の機嫌をよくさせている事に気付かないまま。
「それで博士」
「別に博士じゃなくて良いよ、束さん的にもポイント低いし束さんでいいよ」
「わ、分かりました。えっとなんで束さんは俺の事を『フール・ジョーカー』って言ったんですか?」
『フール』とは愚者を意味する、『ジョーカー』とは切り札を意味する。何故そのような呼び方をしたのか不思議でならない。
「フール、即ちタロットカードの0たる愚者。それがどんな意味をしているか知ってる?」
「えっ?え~っと……確か正位置が型に嵌らないとかで、逆位置はわがままとかでしたっけ?」
『正位置は自由、型にはまらない、無邪気、純粋、天真爛漫、可能性、発想力、天才を意味します。逆位置は軽率、わがまま、落ちこぼれ、ネガティブ、イライラ、焦り、意気消沈、注意欠陥多動性などを意味します』
「そう。そういう意味を含んでいるのが愚者、だけど一部では愚者の事をこう呼ぶんだよ。運命を変えるものってね」
その言葉に怪訝そうな顔を浮かべるカミツレ。一方束は笑みを絶やさずに続ける。
「決められた計画の中に発生したありえないイレギュラー、運命の分岐点、自らの定めを変える宿命を持つ、トリックスター、それらを複合したのが愚者。束さんは君がISを動かせるなんて知らなかった。いっくんが動かすのは可能性としてはありえるかな、動かしたら面白い程度には思ってたけど君は完全な想定外な存在なんだ」
「イレギュラー、予想外……」
「そして、君はあらゆる意味で特異的な存在。ジョーカーというべきに相応しい、だから『
「それで俺を如何にかするつもりなんですか?」
「いやそんな気はサラサラないよ。もしも、私の子供を侮辱して汚すようなクソだったら、一族纏めて殺してたけど…君はISの本質を捉えて受け入れてるからね」
ニコヤかな束の笑み、それはカミツレの事を認めたと言っても過言ではない物を示している。カミツレがカチドキを一個人として、相棒として扱っている時点でカミツレは興味の対象となっている。そしてカチドキを目覚めさせる条件を満たした時、会ってみたくなった。子供を預けるのに相応しいかどうか……。会ってみて正解だった、カミツレは完全にISを人間のように認識している。
「束さんは君の事、気に入ったからね」
「料理的な意味でですか?」
「そうそう…ってちゃうわい。そうでもあるけど違うよ、君はカチドキが話したいと望むほどの存在。つまりISコアが覚醒するに相応しいって事……だから気に入ったんだよ『フール・ジョーカー』君……いやカッ君」
少し屈み見上げるようにカミツレにそう宣言する束、結局束が何を言いたいのか分からない。カミツレは相棒の母親に良い印象を持たれたと思う一面で、とんでもない事になってしまったのではないかと思い始める。そしてこの事を折角安定して来た千冬に話して良いのかと不安になってきた。
「それじゃあそろそろ帰るよ、ご飯美味しかったよカッ君♪」
「また来るならせめて前もって連絡してくださいよ、仕込み位したいんですから」
「分かったよ♪はいこれ束さんの連絡先ね♪何かあったら力になってあげるからね。前もってすればいいんだったら、週1で来るから!」
「それは来すぎでしょ」
「アハハッそれじゃあねカッ君、また会おうね」
そう言って窓を開けてそこから飛び降りるようにして消えて行く束、思わず窓の外へと視線をやるがそこに彼女の姿はない。あの一瞬で何処かに行ってしまったのだろう…取り敢えず連絡先を携帯に登録するが……なんだか大変な事になってきた気がする。
「なあカチドキ」
『はい』
「束さんってさ、凄い無茶苦茶やりそうだけどなんか……お茶目っぽいな」
『同感です』
「杉山 カミツレ君か……ち~ちゃんがお気に入りなのも分かったよ。ふっふっふっ……年下趣味も悪くないかもね♪」
「っ!!!?な、なんか悪寒が……」
『大丈夫ですカミツレ、恐らく博士が貴方に対して物騒な事を言っただけでしょう』
「いや安心出来る要素皆無じゃねえか!!?」