IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第61話

「海っ!見えたぁっ!」

 

山を穿つような長いトンネルを抜けた先から溢れ出してくる太陽の光、それに一瞬視界を奪われる。その後に訪れてくるのは太陽の光を受けて輝きを放っている大海原。幸運な事に快晴に包まれた空からサンサンと降り注ぎ日の光が、美しい海を更に美しくする。同時に漂ってくる心地が良い潮風が届けられてくる、その相乗効果で車内の女子達はお祭り騒ぎ。

 

「カミツレさん海ですよ、遂に見えましたわ」

「ああ見えてるよ。海か…見慣れている筈なのに少しワクワクするのは何でだろうな」

 

そう言葉を零したカミツレに周囲の女子達も同意した。学園は海に囲まれた島に作られている、故に海など見慣れている筈なのに高揚感を感じている自分達がいるのにはやや不思議な感覚を覚えずにはいられない。矢張りビーチの有無などが関係しているのだろうか、カミツレも久しぶりに泳げる事に少しばかりに嬉しさを覚えていた。何処か嬉しそうな顔を浮かべていたのが見えたのか、前の席のシャルが顔を覗かせる。

 

「杉山君は泳ぎは得意なの?」

「それなりだな。不得意ではない程度に泳げる」

「へぇ~」

 

適当な話を飛ばしているとバスは停車した、目的地であった旅館前へと到着したからだ。停車したバスからは千冬の指示に従って下車し、整列していく。千冬の指導力が目に見えて分かる場面でもある、そんな生徒達が並び立ち旅館の方々への挨拶が始まる。数日間お世話になり面倒を掛けるのだから当然の行いでもある。挨拶も終わり、それぞれが部屋へと向かって行く中一夏はカミツレへと声を掛ける。

 

「なぁカミツレ、俺達って部屋どうなるんだ?」

「取り敢えず普通の個室とかはごめんだな、夜中に女子が入り込んで来るのは嫌だからな」

「夜ぐらいは普通に寝たいもんな」

 

それもあるがそうじゃないだろとツッコミたくなるが何も言わないでおく。兎も角女子と同室もありえない、そうなるとどうなるのだろうか……。と思っていると教師二人(千冬と真耶)が近づいてきた。

 

「お二人の部屋こっちですよ」

「付いて来い」

 

その言葉に従って後に続いて行く一夏とカミツレ、他の女子達は付いて行きたそうな表情を浮かべていたが千冬がいたので追跡はしようとしなかった。してお説教は勘弁願いたいのだろう、態々自分から自由時間を削るような真似はしたくないだろう。快適な室温で保たれている旅館内部を進んで行く4人、そしてある部屋と辿り着いた。そこは教員室と書かれたプレートが下げられている。

 

「あれ教員室?俺達の部屋って…此処?」

「まあ妥当な所だと思うぞ俺は」

「話が早くて助かる、此処ならば生徒も忍び込む事もないだろう。忍び込んだら夏季休暇は延々と補習にしてやるがな」

「お、恐ろしい……俺だったら絶対に嫌だぞ」

「いやお前は既に夏休みは強制奉仕活動だろうが」

「そうだったぁぁぁぁっっ!!!!???」

「忘れんなよそこ」

 

勝手に絶望している一夏などは放置しつつ、部屋割りは千冬と一夏。真耶とカミツレという事になっている。真耶の場合、恐れずに入ってくる恐れもあるが部屋の広さなどの問題もあるから分けるしかない。それでも隣には千冬がいるので何があっても直ぐに対処出来る。それに師弟関係の二人ならば問題は起こさないだろう、一夏も千冬が一緒なら下手な事も出来ないだろうし。

 

「織斑、お前は荷物を置いたら海にでも行け。私と真耶は仕事がある」

「分かりました織斑先生。おっしカミツレ早速行こうぜ!!」

「勝手に行け、俺は自分のペースで行く。荷物の整理もしたいからな」

「そっか、んじゃ先行ってるぜ!!」

 

と着替えを持って廊下を走っていく一夏、後ろから千冬の声が飛来したので歩きなおす。はしゃぎすぎだと零す千冬の言い分も分かる気がするが、彼の気持ちも理解出来るカミツレは荷物を置いて着替えなどを用意するが……行きたいような行きたくないような気がしてきた。

 

「……忘れてた、周りが水着の女子だらけって事じゃねえか……!?」

『今更ですかカミツレ』

「何で、今まで気付けなかったんだ……!?」

 

学園の環境に慣れてしまったのか、周囲が女子だらけでも何とも思わなかったがここではそうも行かない。制服ではなく水着なのである……しかも男は一夏と自分のみ……中学校の時、水泳の授業で男子が少なく女子が多かった時はそこまで何も思わなかった。その時は学校指定の水着であった、だが今度はそうも行かない。セシリアや乱の水着を選んだ事も考えると、その辺りも自由な筈だ。という事は……。

 

「……やっぱ、行かないで済む方法ないかな…」

 

遠い目で海を眺め始めるカミツレ、男としては羨ましく思われる反面もあるが同情を掛けずにはいられない場面でもある。

 

『カミツレの自由にすれば良いと思います』

「カチドキ……」

『しかし、その場合には貴方の恋人達の怒りを買う事を覚悟してください』

「それもいやだよ!!?」

 

水着を選んで欲しいと言ってきている時点で向こうはその姿を見て欲しいと言っているのと同義、行かなければどんな目にあうかなど想像も容易い……つまり、自分に残っている選択肢は行くしかないという事である。別の意味で命の危険を感じ始めるカミツレは、絶望に心を染めながら着替えを持って教員室から出て着替えの為に別館へと向かっていく。

 

「ああっ…神様、助けてください」

『神などいません。いたとしても休暇を取ってベガスでカジノに勤しんでいます』

「慰め有難うよこんちきしょう!!!」


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