IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第63話

「うううっ……折角カミツレ君が選んでくれた水着……師匠の威厳……うううっ」

「おい真耶そんなに泣くな」

「ねえカミツレさん、如何して真耶先生泣いてるの?」

「回ってきた仕事ミスって、処理に追われてたら泳ぐ時間無くなったんだと」

 

時間が経った旅館内、夕食の時間となった大広間三つを繋げた大宴会場に集められた一同は旅館の豪華な食事を味わっていた。この旅館の決まりなのか旅館内は浴衣で過ごして欲しいという話があった為か、ほぼ全員の生徒が浴衣を纏っている。カミツレと一夏も当然浴衣であり、静かに食事を楽しんでいた。

 

「美味いな……新鮮な海の幸を堪能出来るとは贅沢だ」

「うぅ~ん最高!刺身っていいわねぇ!」

 

左隣に座っている乱もそれを味わっている、日本食もかなりの好みで食欲も旺盛。実に良い事だが…カミツレには心配な事があった。それには右隣に座っているセシリアだった、彼女は生の魚を食べる事に抵抗があるらしく昼間もかなり警戒していた。それで夕食にも刺身が出て来ている、それでまた食べれずにいるのではないかと隣を見てみると顔を青くしていた。

 

「大丈夫かセシリア……?」

「だ…ぃ……じょうぶ、ですわ……」

「いやそんな風には全然見えないわよ……アンタ正座辛いならテーブル席に行ったら?」

 

IS学園の生徒はすごく国際的、多国籍且つ多民族そして多宗教。それらを考慮して旅館の料理もそれらに適応されている、料理面の材料は勿論食べ方にも配慮されており正座が出来ない生徒の為にテーブルも完備されている。其方に移動して食べるのも普通にありなのだが……セシリアと乱はこの席を勝ち取るために努力して来たのである、全てはカミツレと隣の席に座る為に……。しかしこれではセシリアが余りに不憫である。

 

「セシリア…あ~……俺も一緒にテーブル席に行くからさ、なっそれなら大丈夫だろ?」

「し、しかしそんなお手数な事は……!」

「気にするなって。ほら、乱さんもそれで良いだろう?」

「別に構いませんよ。私は別に正座とかに固執してませんし」

「も、申し訳御座いません……」

 

実は、セシリアの足の痺れでやや艶掛かった声に少しドキドキしていたカミツレであった。そんな事もあったが無事に夕食も終わりカミツレはゆっくりと温泉につかり、昼間の疲れを癒したのであった。そして部屋へと戻ろうとしていたその途中、丁度千冬と一夏の部屋の扉に箒やセシリア、乱が揃って耳を当てている光景を目にした。傍から見れば異様な光景である。

 

「おい、怒られるぞんな事してたら」

「「カ、カミツレさんしっ~!!」」「杉山静かにっ!!」

 

と必死の形相と小声の警告を受けるカミツレ、一体何がどうなっているのだろうか。もう呆れたので部屋に入ろうとしたがその時、扉が開け放たれて三人は思わず鼻を打った。中から扉が開けられたのである。千冬が何処か意地悪な顔を浮かべながら見下ろし、それに三人は愛想笑いを浮かべたまま硬直している。そしてこちらを見た千冬、同時にカミツレは察してしまった。

 

―――ああっこれは手遅れで巻き込まれるなっと。

 

案の定引きずり込まれたカミツレは三人と共に部屋の中へと入るしかなかった。そして、ついでと言わんばかりにこの場に居なかった鈴、ラウラ、シャルロットも連れて来られてしまった。本人達からしたら本当にいい迷惑だろう、部屋でゲームをしていたらいきなり教員室へ呼び出されたのだから。

 

「……つまり何、扉の中から声が聞こえてきてそれを聞いてる篠ノ之を見つけて興味本位で聞いてたら夢中になってた。それに俺が気付いたその声で千冬さんにバレたと、完全に俺達巻き添えじゃないですか」

「全くよ…私ポーカーで調子良かったのよ?」

「僕とラウラは人生ゲームやってたよ、まあ僕は普通だったから良かったけど」

「私はまあ最下位だったが楽しかったぞ人生ゲーム」

 

ジト目で見られた三人は気まずそうに顔を伏せる。部屋の中で行われていたのは千冬が一夏にマッサージをされていただけだったのだが、三人は淫行か何かと思ってしまい思わず聞いてしまったらしい。

 

「全く私がこれにやられると思うのか?」

「これって……千冬姉酷くね?」

「それに私はやる側だ」

「んでその相手は俺ですか」

「分かっているなカミツレ、どれっ来い」

「お断りします」

「つれない奴め」

 

流れるような会話にどれだけ似たようなやり取りをしたんだと一同は思う。カミツレからしたらセクハラという名の千冬の道楽(ハニトラ訓練)なので断るのも板についた物である。何時もなら断ったとしても千冬がやめる事無く続けるのだが……流石に他のメンバーがいる中ではやらないようである。

 

「おい一夏、お前は一旦風呂にでも行って来い。汗臭い」

「えっマジで?カミツレも行くか」

「入って来たばっかりだぞ俺は」

「んじゃ俺一人で行くか……」

 

とタオルを持ってそのまま部屋から出て行く一夏は皆にごゆっくりっといい残して去っていく。カミツレなら兎も角他の女子には辛い言葉だろ、ラウラすらやや緊張気味なのだから。

 

「さてと……折角この人数だ、何かゲームでもするか」

「ゲームって変な事をする口実じゃないでしょうね千冬さん」

「んっバレたか。私がカミツレに勝ったら、何時ものあれをするつもりだったのだが」

「だろうと思ったよったく……」

「まあいい。それではカミツレとオルコットと乱音、お前達は行って構わんぞ。その他には少々聞きたい事がある」

 

開放された二人はほっとした顔で胸を撫で下ろしながら、カミツレの後に続いて部屋から立ち去って行った。千冬と同じ部屋という空間から開放された事でほっとしたのか、思いっきり溜息をついた。

 

「はぁぁぁぁっ緊張したぁぁぁっ…」

「ただのマッサージだったなんて……流石に考えすぎでしたわね……」

「(あの時の目マジだったな……抜け出せて正解だったな)んじゃ約束のマッサージするか…俺の部屋には真耶先生もいるけど事情説明すればいけるだろう」

 

という事でカミツレの部屋でマッサージを行ったのだが……カミツレのマッサージに思わず声を出してしまった二人、その声にやや興奮を覚えてしまうカミツレだった。そして二人の気持ち良さそうな様子に便乗して真耶からもやって欲しいと言われてしまい、カミツレは三人にそれをやる事になってしまった。

 

「先生、肩がすげぇ凝ってますよ。偶には接骨院とか行った方がいいですよ」

「んっ……そうですね、私凄い凝っちゃうんですよ……」

「(胸ですわね)」

「(胸ね)」

「(何も考えない考えない)」

 

 

 

 

 

誰も居ない大海原、星空を投影するかのように海面には星の輝きが煌いている。空と海、二つに輝く星々の光。その狭間、全てが星に満たされている場所に彼女は立っていた。星の光に身を委ねているかのように彼女は、そこに立っていた。幻想的な光景、それに満足するかのように彼女は、篠ノ之 束は笑った。

 

「この世界は、もう面白くないと思ってた……でも―――君には資格がある」

 

瞬間、大きな波が海上のスクリーンを打ち壊した。星空のみに身を委ねた束は苛立ち波へと手をかざすと、巨大な水飛沫が水柱となって上がった。

 

「―――資格、そう君はそれを持っている。『予測出来ない特異点(フール・ジョーカー)』である杉山 カミツレ君……後は時が来るのを待つだけでいい……待っててね―――。約束した時間は、必ず来るから」


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