IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第64話

合宿二日目。一日目とは打って変わって本日は丸一日、午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる事になる。特に専用機持ち達は大量の装備が送られてくるので酷く忙しい一日になることは決定されている。唯一暇なのは専用機持ちではあるが、明確に国への所属が決まっていない一夏とカミツレ位だろうか。

 

「先生、俺は先生の手伝いって事でいいんですよね?」

 

専用機持ちといっても元はIS学園所有のIS「打鉄」のカスタムであるカミツレに追加の装備などあるわけがない、故にやる事がないので教師陣の手伝いをしようと思って真耶の元へと駆け寄った。今現在専用機持ちのみが集められたビーチの外れに待機しているが、事によっては一般生徒の方にも向かう事になるだろう。

 

「そうですね……カミツレ君の場合は私達のお手伝いをしてもらうのが一番ですかね……カミツレ君専用のパッケージとかも送られてませんし」

「それが一番だろう。実はイギリスから、臨海学校に合わせて専用機を送るという案もあったらしいがな」

「えっそうなんですか?」

「ああ」

 

イギリスは入学直後の対抗戦後、セシリアの連絡を受けてからカミツレを受け入れる為に積極的な動きを取っていた。その一つが彼の為の専用機開発も早くから行われていたらしく、既に7割以上が完成しているとの事。今の状態でも使用するには問題はないらしいが、BT技術を使用した特殊兵装が未完成の状態であるという事らしい。

 

「基本的な物は出来ているらしい。だが、そんな中途半端な物を送るよりもより完成度を高めるほうが優先だと取り止めになったらしい」

「まあそれが俺も懸命だと思いますよ。幾ら基本が出来てるって言っても、焦って貰う必要は無いですし。俺にはカチドキが居ますし」

 

個人の為に開発されるものはそれだけ時間に費用と細かな調整を行うべきである、未完成品を押し付けられるのも自分としても困るし自分専用の調整がされておらず扱いづらい専用機など使ってられないというのが本音。そして、出来るだけ長く「勝鬨・黒鋼」を使用していたいという心理もあった。所謂カチドキという相棒とは一緒に居られるが、自分と戦い続けてくれていた「勝鬨・黒鋼」とはもう直ぐ別れる運命にある。それを少しでも引き伸ばしてくれるのならば、寧ろ感謝すべきだと思いつつドックタグを撫でる。

 

「そうか、まあいい。カミツレ、では此方を手伝え―――」

『千冬教諭、お話の途中申し訳ありませんが接近警報です』

「何だと?」

「まさか、敵か!?」

『ある意味では』

「やっっっっっほ~~~~!!!!!ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~ん!!!!!」

 

地響きにも似ているかのような音を掻き鳴らしながら何かが此方に接近して来ていた。凄まじい勢いで海水を巻き上げながら此方へと向かってくる人影が見えた、いや見えてしまっていた。海の上を走っていたそれは大きくジャンプする、そしてそのまま千冬へと飛びかかるかのように向かってきたが―――

 

「チェストォッ!!!!」

「ヘブゥゥ!!!?」

 

千冬は鮮やかに軽く跳躍しながら跳びかかって来たそれへと回し蹴りをクリティカルヒットさせた。回し蹴りを食らった影は砂浜を抉るように吹き飛ばされて行き、その勢いで数十メートルを移動した所で漸く停止した。千冬の身体能力の異常性が垣間見える瞬間でもあった。

 

「わぁっ……」

『飛距離47.81m』

「フム……砂浜だから上手く跳べんかったのが原因か……50を越えないとは」

「いや普段は50越えるんですか!?」

「楽勝で越えるぞ」

「すげぇやっぱり半端ねぇ……」

 

しかし一体千冬が蹴り飛ばしたのは一体なんなんだったのだろうか……ある意味で敵とカチドキは言っていたが……。そんな時、カミツレの背後の地面が盛り上って何かがカミツレを背後から抱きしめた。

 

「ニャハハハハ!捕まえたぞカッ君!!」

「うわっ!?捕まった……ってアンタかよ束さん!!!!??」

「やあやあまた会ったねカッ君!いやぁ挨拶遅れてごめんね、そこのち~ちゃんに蹴り飛ばされちゃってさ」

「全く……相変わらずうるさい奴だ」

「ねっ姉さん!!?何故此処にっ!!?」

 

思わず箒が驚愕に目を見開いて叫んでしまった、千冬の補佐としての仕事を頼まれた箒も専用機組側に居たのだが……まさかの姉との邂逅に驚いて声を張り上げてしまった。箒も姉の行動の全てを把握出来ない、というか束が余りにもフリーダムなので予測は誰にも出来ないのだが……。

 

「やあやあ箒ちゃん!元気そうで何よりより~♪」

「ね、姉さんもお元気そうで……」

「うーん身長伸びたねー、うんうん成長してるようでお姉ちゃんは嬉しいぞ~箒ちゃん~♪」

 

きゃう~ん☆と言いながら箒に抱きついてしきりに頭を撫でる束と困惑している箒、こうしてみると矢張り二人は姉妹なのだなと思うほどに似ている点が多い。箒をなでる事に満足した束は一旦離れたが、箒は未だに混乱しているのか視線が泳ぎまくっている。

 

「た、束さんえっと……」

「おおっいっくんおひさ~♪君元気そうだね~」

「ええまあ元気と言えば元気です、かね……?」

「うんうん若者は元気が一番だよ君」

「いや束さんも十分若いと思いますけど」

「んもういっくんってば天然の女誑しなんだから、エッチ!!」

「えっちょっと今の何処がエッチになるんですか?!ってうぉい鈴はなんで遠ざかるんだよ!!?」

 

胸を隠すように腕で身体を庇いながら身を捩った束、一夏は何故そう言われなければいけないのか分からず困惑する。一応一夏の名誉の為に言っておくが、束の胸は見てない。強いて言うならば全体を見ていたので胸は見ているようで見ていない。

 

「そ、それで束さんは何で此処に?」

「暇潰しかな、まあ強いて言うのであればいっくんとカッ君のデータを見たかったからかな。男でIS使えてるから、そのデータは束さんとしても興味あるし」

「成程……んじゃ取り敢えず「白式」から見ます?」

「見る見る~!!よいではないか~よいではないか~!」

 

と超ハイテンションのままで一夏の「白式」にタブレットを接続してデータチェックを開始する束。彼女自身も気になるがセシリアと乱はカッ君と親しげに呼んでいる関係が一番気になるのか、それを問いただす為にカミツレの元へと訪れた。

 

「あ、あのカミツレさん……あの篠ノ之博士と面識があったのですか……!?」

「教えてくれれば良かったのに…!!」

「下手に教えたら凄い面倒になりそうだし……それに面識があったというか束さんが一方的に押し掛けてきてご飯食べに来たというか……」

「お前はあいつまで餌付けしていたのか……」

「その第一号が何言ってんですか」

「私の場合は栄養管理だからいいんだ」

 

などと何処か誇らしげにしている千冬に若干呆れたような目を向けているカミツレは「白式」のデータをみている束へと目を向けた。次は自分の相棒の番なのだから準備ぐらいはすべきだろう。

 

「カチドキ、準備はいいよな?」

『何時でも万事OK―――やっぱり少しお待ちを』

「おいおい……如何したんだよ」

『データを受信、じゅじゅじゅじゅ―――』

「お、おいカチドキ?」

 

突如として乱れ始めたカチドキの声、思わず声を震わせてしまった。ノイズが入り混じった音がドックタグから漏れていく。

 

『デ、デデでータッヲヲヲヲヲヲじゅっじゅじゅじゅじゅ受信、中……』

「お、おいカチドキ!?束さんなんかカチドキが変な事に―――っ!!!?」

 

異常が起きているカチドキに不安と心配が入り混じった声を上げて束の助けを乞おうとするカミツレ、きっと彼女なら何とか出来るのではないと期待と不安が混ざった声を上げた時、カミツレは凄まじい頭痛に襲われた。頭の中に激しい電流が流れているかのような激痛が身体を貫いて行く。

 

「がああああっっ……!!!」

「カ、カミツレさん!?如何なさったのですか、確りしてください!!!」

「如何したんですか一体!?さ、さっきまで元気だったのに!!?」

「あ、頭が、頭が割れ、そうだっ……!!」

 

思わず蹲り頭を押さえて苦しむカミツレ、激痛は留まる事を知らずに寧ろ痛みが先程より強くなって行く。頭が壊れそうなほどの痛みが心を蝕んでいくかのような感覚を与えて来る。

 

―――……、……。

 

「ッ!!?な、何だ……こりゃ……!?」

 

―――もう、いやだ……。

 

「ッ!!?」

 

―――もう、嫌なの。だれか、助けて―――。

 

「ッ!!?ハア、ハアハア……」

「カ、カミツレさん大丈夫ですの!?」

「あ、ああ……痛みは、治まった……」

「で、でも何でいきなり……!?」

 

カミツレが苦しみから開放された時、千冬へ緊急事態発生の報告が届けられた。まるでカミツレの異常はそれに合わせられていたかのようだった。そして、事態は一気に悪化していく……。

 

「専用機持ちは全員集合だ!!緊急事態が発生した、全員私に付いて来い!!束、お前も一緒に来い。いいな」

「構わないけど、んじゃ箒ちゃんもね。傍に居てくれるとお姉ちゃん嬉しい!」

「……はぁ、篠ノ之構わんな」

「え、ええ……」

 

束は全く表情を変えずに千冬の後に続いて歩き出して行った、しかしその表情の裏に隠れている感情は良いものではなかった……最愛の子供を心配する母親のような表情であった。


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