IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第65話

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥の大座敷、そこには空中投影ディスプレイによって様々な情報が映し出されている。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエルが共同開発していた第三世代型の軍用ISである『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域から離脱したという連絡があった。その後の衛星による追跡の結果『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。IS委員会上層部からの通達により我々がこの事態を対処する事になった」

「ぼ、僕たちが軍用ISの対処を行うんですか!?」

 

思わずシャルが声を上げてしまった。代表候補生は万が一の状況下に陥った場合、国力の一つとして戦いに出向く事もあるためにそのような訓練も受けているが実際にそんな事態になるとは思ってもいなかった。そもそも軍用のISを開発する事は国際条約で禁止されている事なのに、なんて事をしてくれたんだと思わず一夏は思わずにはいられなかった。そんなシャルを宥めるように千冬は声を出す。

 

「話は最後まで聞け、何もお前達に軍用ISの相手をしろとは言っていない。するのは教師陣で編成された部隊でお前達は周辺海域の封鎖作業を手伝って貰いたい」

「な、何だそういう事か……俺はてっきり軍用のIS相手に戦えっていわれるんじゃないかと……」

「そんな無茶な命令が通ってたまるか…危険な役回りは教師に任せておけ―――その前に、束」

「んっ~何?」

 

千冬は箒の隣に座っている束へと声を掛けた。

 

「お前ならばISを強制停止させる事が出来るのではないか?」

「……私も今調べてみたけどね、福音ってISに使われてるコア№451は完全に暴走状態にあって操作を受け付けない状態なの。正確なデータすら吸い出せなくて、束さんでも遠隔操作で強制停止は出来ないんだ」

「そうか……無理を言ってすまなかったな」

『織斑教諭、お話の途中失礼しても宜しいでしょうか』

 

千冬がややがっかりしている所へカチドキが声を上げた、カチドキの事を知らないメンバーはいきなりの声に驚き何処から聞こえて居るのかと探そうとしているが答えはあっさりとでた。千冬と束がカミツレの方を見たからだ。千冬は簡単に事情を説明し、声の主がカミツレのISのコア人格であると明かす。

 

「コ、コアの人格って……そんな事ありえるんですか!?」

「有りえるも何も今あるのが現実でしょ……アタシも信じられないけど」

「むぅっ……逃した魚はでかいという事か……」

 

と代表候補達がそれぞれの反応を示している中、唯一違った反応を見せていたのは一夏であった。カチドキが初めて喋った時のカミツレのように目を輝かせていた。

 

「おおおおっ!!すっげぇぇぇ!!!何で喋るんだ!?俺の白式も喋るようになるのか!?なあなあ!!!」

『それは知りません。私は貴方のISのコアではないので、というか話の腰を折らないでください』

「あっごめんなさい……」

「この事はトップシークレットだ、誰にも漏らすな。カチドキ、続けてくれ」

『では……先程、私はデータを受信しました。その受信とデータの解凍が終了しました』

「そのデータとは?」

『銀の福音、その現在の詳細のデータです』

 

その言葉に一同は思わず目を見開いた。カミツレが凄まじい激痛に襲われている時に受信していたデータが「銀の福音」のデータとは誰も思ってもいなかった。千冬に言われてそれをディスプレイへと転送しそれを全員で確認すると、それは紛れもない今現在福音がおかれているデータで間違いはなかった。

 

「これは何処から送信されてきたんだ」

『コア№451からです』

「それって……今話してた「銀の福音」本人から送られてきたって事かカチドキ!?」

『はい』

 

カチドキの言葉に再度驚かされた。コア自身がデータを送信して来たという事、そしてそれをカチドキが受け取っていたという事実。ISのコアはそれぞれが相互情報交換の為のネットワークを設けている、元々宇宙で活動をする為に位置情報を交換するために構築されていたコア・ネットワーク。それを利用して「銀の福音」のコアがデータを送った、という事になるが…一体何故そんな事が……。

 

「ち~ちゃん、データをタブレットにコピーさせて貰うよ。これで強制停止させられる可能性が出て来た」

「頼む、それならば危険を犯す必要が無くなるかもしれん」

 

異常な事態だがこれはこれで朗報とも言える、束でもデータがなければ手を出せなかった所へ舞い込んできた光。それが福音のコアから齎された、正に福音というべき情報だ。しかし、ここで疑問も浮上してきた。それを口にしたのは一夏だった。

 

「でもさ、なんでその福音はカチドキにデータを送信したんだ?コア・ネットワークってコア同士のネットワークなんだろ、それなら俺達のISのコアにも送ったとしても可笑しくはないんじゃないか?」

『それは簡単です。カミツレと私が相互理解し、既に音声での会話を行っている事は全てのコアが認知しています。それを踏まえた結果、私にデータを送信したのです。近くに博士もいましたからね』

「あっそっか……んじゃもう一つ、なんで暴走なんてしたんだ?確り管理されてる筈だったんだろう?」

 

そう、根本的な疑問はそこにぶつかる。そもそも何故ISが暴走を起こしたのか全くの謎なのだ。二ヶ国が共同で開発し試験稼動を行っていた、という事は確りと二つの国の管轄下に居たという事。それなのに突如として謎の暴走を引き起こした、しかしそれでもコアはデータをカチドキへと転送を行っていた。腑に落ちない点が余りにも多い。

 

「……よしアクセス出来た!!ち~ちゃん、なんとか束さんのコントロール下に入れられたよ。取り敢えずさっきのビーチに遠隔操作してもいい?私も調べたいし」

「それが恐らく一番だろうな……よしやってくれ束」

「了解」

 

その言葉に思わず全員が溜息を吐いて安心感を露わにした、これで危険な任務に従事する事もなくなったのだから当然だ。

 

「いやぁ無事にアクセス出来て良かったよ。新しく開発した新型ISを一時的にち~ちゃんに渡して対処して貰うとかして貰う羽目にならなくて♪」

「……今サラッと言ったがISコア、まだあるのか……?」

「そりゃあるよ。全世界に明け渡したものが全てだと思ってた?研究用とかに自分で持ってても可笑しくは無いでしょ」

 

またさらっと言った言葉、世界に公開したらこれだけで争いが起きそうな事だ。思わず千冬は頭痛を感じつつも無意識に胃を押さえてしまった。如何してもこうも自分の回りや友人は問題ばかり起こすのだろうか……と思わずにはいられなかった。

 

「アレッ?」

「如何したまた問題か」

「いやさ、コントロール出来るんだけどなんか展開解除が出来ないッぽい?これは直接見て見ないと分からないけど」

 

束の不穏な発言にやや心配を抱えながら、千冬を始めとした専用機持ち達は先程まで自分たちがいたビーチへと足を運んだ。一応軍属であるラウラが『レーゲン』を展開してもしもの時に備える。やがて見えた来た『銀の福音』それはその名に相応しく全身が銀のISだった。一番目を引くのは頭部から生えている巨大な翼であった。束はそれを静かに着地させコードなどを接続し『銀の福音』のシステム自体にアクセスを開始する。

 

「ほいほいほいっと……んっ~?システムエラーばっかりだ、暴走の影響なのかな?」

「時間が掛かる、という事か?」

「うーん多分」

 

皆がそれぞれ福音への視線を向けている中、カミツレは妙な感覚を覚えていた。真っ直ぐと束の前で鎮座している『銀の福音』それが何処か此方を見ているかのような気がしてならなかった。不思議な思いを感じながらそれを見ていると頭に再び痛みが走った、だがそれはあの時よりも遥かに弱い物。

 

「ぃっ……」

「どうかしましたかカミツレさん?」

「いや……」

 

痛みと共にまた、何かが感覚に訴えかけて来ていた。ノイズに塗れていた物ではなくクリアでハッキリした物が頭に届いて来ていた。

 

 

―――やっぱり、貴方に言って正解だった……貴方こそ、博士の絶対の理解者…。

 

「理解者……?おい、何を言って……」

「カミツレさん?」

「今、何か聞こえただろ?正解だったって…」

「いや、何も聞こえなかったぜ?」

 

自分にしか届いていなかった声、不審に思うカミツレだが声は連続して響いてくる。嬉しそうに笑う子供のような無邪気な声で。

 

―――お願いします、私に触れてください……。ナターシャを、休ませて上げて……。

 

「ナターシャ……?」

「カミツレ?お、おい今は束さんが作業中で」

 

声に導かれるように『銀の福音』へと迫っていくカミツレ、この声が一体なんなのかは分からない。しかし自分を求めている事だけは分かる、悪意ではなく純粋な思いからの言葉。それも分かる。なら、それに従ってみようと思った。

 

「カッ君どったの?」

「ちょっと、失礼します……」

 

束が作業している中、そっと伸ばされた手は『銀の福音』へと触れた。冷たい装甲に触れた途端にタブレット内に表示されていたエラー表示が全て消えていき次に表示されたのは『全システムオールグリーン』という言葉だった。そして『銀の福音』の展開は解除され搭乗者であった金髪の女性がカミツレに覆い被さるように倒れこんできた。それを見た束は心から歓喜の嵐を感じ、それに表情を染めた。

 

「ああっ―――やっぱり君こそ、君しかありえないよ……!」




まさかの展開、でもこれは最初から構想がありました。

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