IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第66話

波の音が打ち寄せている崖の上、旅館から程遠くない距離にあるそこで月を見つめているカミツレの姿があった。アメリカとイスラエルで共同開発された軍用IS『銀の福音』の暴走によって巻き起こされた緊急事態は無事に束とカチドキへと転送されたデータの活躍によって収束した。束は条約でも禁止されている軍用ISの開発について問い詰めると悪い顔をしながら笑っていた。本人としても酷く面白くないのだろう、カチドキも下手をすれば両国保有コアが全て停止するかもしれないと語っている。因みにこの時一夏が

 

『軍用のISを作るの駄目だけどラウラとかは大丈夫なのか?一応軍事利用はしてるんだろ?』

 

と千冬に質問をした。着眼点自体は悪くはないと褒められながら解説をされていた。アラスカ条約によって確かに禁止されているが、ラウラの部隊である『シュヴァルツェ・ハーゼ』はIS配備特殊部隊とされているが広報的には軍内部に設立されたレスキュー部隊とされている。ラウラも何度も任務で人命救助をこなしている経験がある、加えて『レーゲン』は軍に管理されているISではあるが装備などは全て競技用やレスキュー用となっている。しかし『銀の福音』は最初から軍用に作られたISが存在するという事が問題だと千冬に言われて一夏は納得していた。

 

「……あの声は、俺にだけ聞こえていた……」

 

 

『―――やっぱり、貴方に言って正解だった……貴方こそ、博士の絶対の理解者…。』

『―――お願いします、私に触れてください……。ナターシャを、休ませて上げて……。』

 

 

「カチドキ、あれは……福音の声なのか」

『その回答について博士からの許可が必要となります』

「何で?」

『コア№451と会話する許可、カミツレはそれを取っていないのでお答え出来ません』

「成程ね……でもそれ答え言ってるようなもんじゃね?」

『言っている意味が分かりませんね』

 

軽口を叩きながら遠回しながら答えを教えてくれたカチドキ、話をするようになってからどんどん人間的な言葉使いや言い回しを覚えている。既に人間臭くなってきている、ある意味人間より人間らしいかもしれない。そんな相棒へ有難うと言ってから空を見上げて見る、美しい満天の星空が広がっている。許可さえあればこの星空を飛んでみたいものだ。

 

「なぁカチドキ、お前達ISってこの空の向こう側を飛ぶ為に作られたんだよな」

『はい。私達IS本来の使用用途は宇宙での活動を想定したマルチフォーム・スーツです。なので本来は大気圏外での使用が本来の居場所です』

「そっか……だったらさ、何時か行ってみないか宇宙に。俺も一度行ってみたいんだよ…」

 

寝そべりながら自然と出た言葉、素直な思いでもあるし一度宇宙に行ってみたいというは本当に抱いた事がある夢でもあった。子供の頃は宇宙に関する番組を見てワクワクしたものだ、今でも遠い遠い光の国からやってきた光の巨人の事も大好きで欠かさず見ている。宇宙は人間にとっての目標であり、無限に広がるフロンティアなのだから。夢を見ない方が可笑しい。

 

『……私も是非行ってみたいです、そして嘗てガガーリンが言った言葉を言ってみたいのです』

「地球は青かった―――夢のある言葉だな、ロマンティックだ。是非とも実際に目にして言いたいな」

『はい、私の夢です』

「いい夢だな……」

「うんうんいい夢だよね」

「全く……ってうぉぉぉっ!!?」

「やっほっ☆」

 

余りに自然な流れでの会話だったので気付くのか遅れてしまった、隣には満面の笑みを浮かべている束の姿があった。よっこいしょと言いながら隣に腰掛けて星空を見上げる、隣に腰を下ろした彼女を拒む必要もない。そもそも相棒のお母さんなので拒む理由も特もない。そのまま空を見上げる。

 

「今聞いた夢だけど束さんの夢でもあるんだ、私は宇宙に行きたいそんな夢があるんだ」

「俺はいい夢だと思いますよ、宇宙は人間の憧れですし俺も夢に見た事ありますよ。宇宙を自由に泳ぐ夢」

「あっそれ束さんもあるよ。子供の時にさ、宇宙の本を読んだ時だったかな。あの時の感動を実際に体験したいんだよね」

 

始まりは純粋な子供の夢、それが今では努力さえすれば届きそうな所まで至れている束。空を自在に飛んで、戦えて、緻密な作業も出来る。確かに宇宙で活動するには理想的なスーツだ。

 

「束さん、聞いてもいいですかね。なんで「福音」は暴走したんですか?」

「簡単だよ。あの子は耐えられなくなっちゃったの」

「耐えられなくなった……?」

「そう……コアには人格があるのは分かるよね?」

 

勿論と返す、自分の相棒であるカチドキだってその一つなのだから。なら理解しているだろうと続ける束はコアの一つ一つに宿っている人格はそれぞれ個性を持っている。カチドキのようなコアもいれば、空を飛ぶのが大好きなコア、人と接するのが好きなコア、様々な個性を持っている。

 

「コア№451は優しくて空を飛ぶのは大好きな子でね、でも人を傷つけるのは大嫌いな子なの」

「もしかして軍用にされたのが原因……?」

「そう。今のIS同士の戦いは所謂スポーツとして整備されているでしょ?それなら何とか許容出来る、でも軍用となると人を殺したり深く傷つける事になる。それがあの子にとっては耐えられない位のストレスになっちゃったの」

 

やりたくない事を強要された事によるストレスと精神的な負担、それがコア人格に負荷を掛けてしまいそれが今回の暴走の発端となってしまった。だがそれでも暴走して他人を傷付けたくないと思った451は、カミツレと深い絆で結ばれている且つ近くに束がいたカチドキに全てのデータを送信し止めて貰えるように頼んだ。それが事件の真相だった。

 

「じゃあ、俺が聞いた声は……そのコアの声だったのか……」

「カッ君……声を、聞いたの?」

「はい。確かに聞きました」

 

それを聞いた束は嬉しそうに微笑み、そしてカミツレの肩に頭をおいた。

 

「有難うね……私の子供を助けてくれて」

「俺は何も……実際助けたのは母親である貴方ですよ束さん」

「ううん。あの時のあの子は完全に暴走してて、束さんの言葉を聞いてもくれなかった。それなのにそれを助ける事が出来たのはカッ君とカチドキの信頼関係があってこそだよ」

「そ、そう言われると……照れるな」

『気分が高揚します』

 

素直にそう言われると嬉しくなってしまう、改めて束に自分とカチドキの仲を認められたような気がした。本当の意味での相棒であるとお墨付きを貰ったかのような気分になってしまう。

 

「君がISを動かしてくれて、束さんは嬉しいよ……私以外にISの本質を理解してくれる人がいるんだから……」

「俺は本質なんて分かっちゃいませんよ、俺にとってカチドキは相棒で仲間なだけですよ。一緒にアニメとか見たりするね」

『YES.YES.YES.』

「フフフッそれでもいいよ、私の理想とした関係なんだから……」

 

そう言いながら更に体重をかけて来る束、それを支えるカミツレ。そのまま見上げた星空は先程よりも輝いてみえる、兄と一緒に見ていた夜の空とはまた違った美しさがある。そんなカミツレに束は飛びかかるように抱きついた。

 

「とぉ!」

「わぁっ!?」

 

覆い被さるかのようにカミツレを見下ろす束は仄かに荒い息をしながら、彼の目を見つめつつも両手を合わせるようにして指を絡み合わせる。月をバックにするように自分の上に乗っている束、神秘的な物を感じてしまうカミツレは頬を赤らめて顔をそらす。微笑ましげに笑う束は意地悪そうに質問をする。

 

「背けないでよ。私の事、嫌い?」

「き、嫌いじゃ、ないと思います……」

「なら私を見てもいいんじゃない?」

「……ううっ何で大人って意地悪なんだ……」

 

渋々顔を前へとし直す、すると束はそれに合わせるようにカミツレに身体を重ねる。先ほどまで遠かった顔が近くまで迫り吐息が混じりあうほどに近づき、彼女の右手が自分の頬に重ねられ柔らかな感触が頬に伝わる。

 

「た、束さん何をっ……!?」

「さっき言った私の夢、あれは正確じゃないんだ。私の本当の夢はね」

 

左手に絡まる彼女の手に力が込められる。心臓が更に高鳴っていく。

 

「全てのコアと一緒に宇宙に行くの」

「一緒に……?」

「そう。でも子供たちには親が必要でしょ、だから私も行くの」

「は、はい……」

 

唇が重なりそうなほどに近い距離、吐息が顔に掛かる。それが思考を鈍らせていく。

 

「子供には親がいる、分かるでしょ……?」

「え、ええ……」

「だから、カッ君……コアのお父さんになってくれない……?」

「えっ―――」

 

 

 

to be continued……


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