「カミツレさん、逆に考えてしまえばいいのですわ。ならばこれ以上お相手を作る必要なんてないと」
「あっそっか!あの人が味方に回るなら本当にカミツレさんは安全って事になるじゃない!」
「そういう考え方もあるのか……というか、二人は良いのか……?」
「「何よりカミツレさんの安全が第一!!」」
「ハハッ……強いな二人とも…」
束からの告白を受けたカミツレはこの事を素直にセシリアと乱に話した。隠すべき事ではないし恋人である二人には知って欲しいという気持ちが大きかったから、いい顔はしないだろうと予想し酷く怒られる事も覚悟をしていた。しかしそんなカミツレの予想とは裏腹に、二人は寧ろ好意的な表情を作りながらそれをあっさりと受け入れていた。
元々一夫多妻制度をカミツレを守る為に利用しようと考えついた二人、愛する人を守るためならばこの位は受け止めてしまえる。話を聞く限りでは束の気持ちと言うのは本当に強い上に純粋、そして確かな物である。そして、束ならば申し分ないほどにカミツレの後ろ盾になってくれる。これほどにカミツレを守れる話もないわけである。それに…これならばより多くの恋人を作る必要もないという理由もある。
「女って強いなぁ…」
自分だけならきっとこの結論には至る事なんて出来なかっただろう、しかし二人は自分の為にそれは必要であるし相手の気持ちが真実なら受け入れてしまってもいいと言う。同時にカミツレは思う、セシリアと乱が恋人で良かったっと心からそう思った。そう伝えると二人は顔を真っ赤にしながら抱き付いてくる、それを受けて抱きしめ返す。まだまだ未熟な自分だけど、これからも彼女達の為に頑張って行こうと改めて決意を固めるのであった。
「ところで……博士に一体どんな状況でそれを言われたのか興味ありますわ」
「私もですね、是非教えてください。私達もやりますから」
「えっやるって何で……!?」
「「私達はやってないからです!!」」
「……乙女心って複雑ぅ……」
この後、束との状況などを根掘り葉掘り聞かれ同じ事をすると言う恋人の相手をする事になったカミツレ。消灯時間ギリギリまでそのような事をしていたせいか、眠りに就き、朝真耶が起こす時には心配になる程に眠りが深かったという。
「カミツレ、なんか眠そうだけど大丈夫かよ…?」
「……俺に質問するな…」
「昨日の事で疲れが残ってるのか、だったら俺やるからもうバスに乗ってて良いぞ」
「自分の事は自分でやる、お前もさっさと手を動かせ」
翌朝、朝食後直ぐにIS及び専用装備撤収作業が始まった。二日間世話になった旅館にも本日別れを告げる事になる、作業も間もなく終了する頃合になりバスへと乗り込もうとした時の事だった。見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
「ねえ、杉山 カミツレ君っているかしら?」
「んっ織斑お前先に乗ってろ、俺に客みたいだ。はい俺がそうですけど」
一緒に乗ろうとしていた一夏を先にバスに乗らせつつ振り向きつつ素直な返事をする。そこにいたのは千冬と同世代に見える年上の女性、青いサマースーツはカッコよさと凛々しさ、そして美しさを強調しているかのよう。大きく開けられた胸元がセクシー、掛けていたサングラスを外しつつ金色の髪を靡かせ微笑んでくるがカミツレはその女性に見覚えがある。そう『銀の福音』の操縦者であった女性である。
「君がそうなのね…私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ」
「杉山 カミツレです。一応イギリスの国家代表候補生です」
「ええ知ってるわ、今世界中で話題だもの。話は聞かせてもらってるわ」
求められた握手に応じると柑橘系のコロンが香ってくる、今まで会ってきた中でも特に女を意識させるかのような雰囲気にややドキドキする。が束の一件もあったからか落ち着きを絶やさない。そこへ千冬がやってくるとナターシャと軽く笑いあって握手をする。
「千冬、少し彼を借りてもいいかしら?話がしたいのだけど」
「そうだな……15分だけなら許可する。それ以上は予定が狂うのでな」
「アリガト、それじゃあ海でも見ながら話しましょうか」
「分かりました、少し行ってきます」
「ああ」
千冬の視線を軽く受けながらそのまま駐車場から歩き出すナターシャに続いていく、海が見える位置まで歩くそこでナターシャは歩みを止めて光る海へと視線を向ける。
「本当に有難うね、君のお陰であの子は苦しみから解放されたの」
「あの子って事は……貴方はもしかして、コアと話せるんですか?」
「まあそんな所かしら、私はコアの感情を読み取れる位なの」
あれからカチドキから『福音』のコアについて話を聞いているカミツレ、ナターシャも自分にかなり近い立場に居る操縦者であるらしい。条件の大半をクリアしているらしく残りの物も何れはクリアするだろうとされ、束の許可さえあればすぐにも話せるような関係にあったらしい。カミツレとカチドキ、ナターシャと福音は同じような絆を持っている。
「『福音』はどうなるのか聞いてもいいですか。あのコアは軍用のISになる事を嫌がっていましたけど」
「私もそれは理解していたの、だから上層部に必死に訴えていたのだけど……認められなかった。だからせめて私に出来るのはあの子と一緒に苦しむ事ぐらいだと思って、パイロットに志願したの」
強く握り締められた拳、そこにあったのは無念と悔しさの現れ。力が及ばなかった為に福音をあんな姿にしてしまった自分への怒りが確かにそこにあった、そして彼女が選んだのは一緒にその苦しみを背負う事だった。
「でも博士から二ヶ国に話を通してくれてね、あの子は軍用ISから競技用のISに生まれ変わる事になったの」
「そりゃ良かった。だから嬉しそうなんですね」
「フフフッ分かっちゃう?」
お茶目に笑うナターシャ、非があるのは明らかにアメリカとイスラエル。その二ヶ国に制裁を加える事を決めた束は『福音』を軍用から外す事、パイロットは変えないように迫った、この申し出が拒否された場合には二ヶ国全てのコアを停止させるという脅しを添えて。これに慌てふためいた二ヶ国は驚くようにあっさりそれを受け入れた。ナターシャにとってはこの上なく嬉しい知らせであった。
「そして……私はあの子の改修が終わり次第、IS学園に出向する事になったわ」
「えっマジですか?」
「ええっ。国としては厄介払いのつもりでしょうけどね、私としては嬉しい限り。だからその時は宜しくね、カミツレ君」
「こっちこそ」
もう一度を握手を結んだ時、千冬からも時間だという声が聞こえてきた。カミツレは今行くと言いながらナターシャに向き合う。
「それじゃあ今度会う時は先生ですかね、ナターシャさん」
「そうだとしたら素敵な再会ね、また会いましょうね」
そう言ってカミツレはバスへと急いで行く、それを見送ったナターシャはバスが出て行くまで見送ると海へ向けて笑顔を作る。
「私もカミツレ君みたいにあの子とは話せるのかしら……博士が言ってたみたいに……そうなったら素敵よね、そう思うでしょゴスペル?」
そんな声に応えるかのように周囲に鐘の音が響いた。