第69話
「まだ暑いんだろうな…」
『現在の温度は30度、予想最高気温は33度です』
「まだ暑くなるのか……この時期での肉体訓練は応えるなぁ……」
室内で首からタオルを下げつつコップに注いだ冷えた麦茶を呷る、喉から奥へと落ちて行くこの冷たい感覚が堪らない。今日の訓練ノルマを終えてシャワーで汗を流したがそれでも身体は火照り続けている、窓を見れば高々と昇っている太陽が忌々しいほどに燦々と日を降り注がせている。曇ってくれれば少しは涼しくなるだろうに……。
「あ~あ……実家に帰りてぇ」
『それには教師陣の許可が必要となります、現在認可待ちです』
「分かってるよ、言ってみただけだ……入学してからまだ一度も帰ってないんだ、言う位許してくれ」
IS学園は特殊な教育機関であるがそれでも一教育機関には変わらない、故に夏季休暇も存在する。つい一週間前に学園は夏季休暇に突入した。学生にとっては最大の脅威であるテストという道を乗り越えた先にある
夏休みに入った生徒達は母国に帰ったりするのも多い、代表候補生達は長期休暇には帰国し報告や専用機の調整などが入る。故にセシリアや乱と言った恋人も先日帰国して行った。間もなく開発が完了するという自分の専用機関連で自分もイギリスに行くと思っていたが、その途中でテロや誘拐などのリスクを考慮し専用機はセシリアが戻ってくるのと同時に学園へと搬入し、学園で最終調整を行う事になるとセシリアから聞かされた。身の安全の為に実家への帰省も許可が下りるまで許されないカミツレは、毎日訓練と自習をしながら学園で過ごしていた。
「んっ~……夏休みスペシャルのアニメも特撮もまだだし……昨日の奴でも見直そうかな?」
『私もあれは好きです。光線技が堪りません、公開撮影などがあるならば是非行ってみたいです』
「俺もだよ、あっそうだ決めた。まずはあれからやろうっと」
カミツレは適当なTシャツを着直すとそのままドッグタグを首に掛け直して廊下へと出た。国際的な施設IS学園、多額の費用で建設されただけあって全館空調完備が成されている。こんな暑い夏には感謝したくなる、そのまま人が少なくなっている廊下を進んでカミツレが向かったのは整備室であった。
「今日はお前の整備を徹底的にやる」
『整備ですか。しかし間もなく専用機が来るのにする意味があるのですか?』
「あるよ。今まで俺と一緒に過ごして来てくれたんだぞ、その感謝をするのは当然だろう。お前だけじゃなくて『勝鬨・黒鋼』っていう機体その物に敬意と感謝を払うんだ」
『そう言う事でしたか。それならば否定する意味はありませんね、それがカミツレの感謝の仕方ならば止める資格は相棒の私にはありません』
「おう。完璧に整備するからな」
整備室に入ると夏休みなのか誰もいない、これはある意味好都合。一番端のスペースへと移動し、そして『勝鬨・黒鋼』を展開し備え付けられているチェック用の端末のケーブルなどを接続しつつシステム面のチェックと機体の状態を確認する。
「システム面に問題はなしっと……んじゃ機体自体のチェックを始めるか」
『やや軋みがある部分が幾つか存在します、そこをメンテする事にしますか?』
「ああ、そこをリストアップしてくれ。完璧に直す」
『了解』
整備が必要な部分のリストアップがされると同時にカチドキが機体からある物を投射する。それは現在の機体状況を詳細に反映させたデジタルワイヤーフレームによる3Dモデル、しかも手を翳して動かす事で自在に動かす事が出来あらゆる角度からの確認が出来る。
「おおっ凄いなこれ。分かり易いな」
『博士が気分転換と暇潰しに作った機能です。どうぞ使ってください』
「有難いな。こりゃ楽だ」
リアルタイムで機体の状況が反映される為、カミツレが機体を弄ると同時に投影されているモデルも共に変化して行くので状況を把握し易く何処を如何すれば良いのかも分かる。そこまで整備に精通していないカミツレでもしっかりとした整備を行う事が出来る。こんな物を作れるとは矢張り束は凄まじい天災だ。
「にしてもこんなの作れるなんてあの人凄いなぁ……」
『博士は映画のアイアンマンを見て〈束さんの方がいい物作れるよ〉とおっしゃられてこれを作りました。ですが博士は知っての通り優れた方です、故にこれを活用する事はありませんでした。ですのでISコアに何となく組み込んだのです』
「まああの人らしいな……でもこれ本当に凄いんじゃないのか?」
『はい。他にも機能はあります、少々お待ちを』
少し黙ったカチドキはプログラムの操作を開始した。すると勝鬨の腕部とブレードのワイヤーフレームが出現し、そのままカミツレの身体に装着された。当然投影されている物なので付けているという感覚はないが、腕などを動かしてみるとそれは腕を追従するかのように動いた。
「おおおっ!!これ面白いな!!」
『所謂擬似的な動作確認機能です、博士の手によってタイムラグは完全に0になるように作られています』
「へぇ~凄いなこれ。設計とかする人にとってはこれ滅茶苦茶欲しいんじゃないか?」
『でしょう。このプログラムだけで恐らく富豪になる事も可能でしょうから』
「流石あの人が作った物だな……。まあ折角つくってある物だ、利用させて貰おう」
『きっとお喜びになります。お父様にお母様の物を使っていただけるのですから』
「だから、まだだっつぅの」
そんな言葉を漏らしている時、整備室に一人の生徒が入りカミツレが使っている物を眼に見開いた。その目に染まっている光は感動と驚き、それ以外の物はなくただただそれに魅入られていた。それに気付いたカミツレが視線を向けるとそこには眼鏡を掛けた少女が夢中になって此方を見つめていた。
「凄い……やっぱり、ヒーローなんだ貴方は……!!!」
「……誰だ君は?」