IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第7話

1週間後、真耶の予想通りにこの日に行われる事となったクラス代表決定戦。カミツレはこの日に向けて出来るだけの努力をして来たつもりでいる。真耶からの負けない戦いを伝授の為の厳しい訓練を耐え抜いてきた。真耶からも合格点を貰いある程度の自信も付き、何より訓練が模擬戦の形式だった為にネックだった実際に戦えるかという点を解消してくれている。今カミツレは一夏と共に第三アリーナのピットに待機しながら気持ちを落ち着けて模擬戦に備えている。

 

「なぁ箒」

「何だ、一夏」

 

同じピット内には戦う相手でもある一夏が幼馴染である箒と共にいた。変わらず能天気そうな表情が目に付くが今は不思議と苛立ちはなく高揚感と落ち着きが同居している。自分がやれる事を本気でやったからこその自信なのか、それともこれでも負けたとしても納得が行くからだろうか。

 

「なあ箒、俺さ一週間前ISについて教えてくれって言ったよな」

「ああ」

「俺、剣道しかやって無かった気がするんだが……」

「……」

「目 を そ ら す な」

「お、お前のISがないのだからしょうがないだろう!!」

「いや、他にも色々あっただろ知識面とか!」

「……」

「目 を そ ら す な っ」

 

控えめに言って完全にスルーするつもりでいたのだがそれを聞いて完全に呆れ返ってしまった。怒りではなく呆れと溜息が深く顔を覗かせた。今日に至るまで約2週間、この模擬戦があると発表された日から考えると1週間の時間があった訳だが、話を聞いた限り操縦訓練などを一切してない所かまともな知識も身に付けていないという事になるのだが……。そして彼に来る筈の専用機も未だに届かない、散々な事になっている。

 

「おい杉山何だその溜息は!!?」

「そりゃ吐きたくもなるわ……今日まで俺があれだけ努力してたっていうのにお前らは何、剣道だけしてたのか」

「えっカミツレは何やってんだよ!?」

「真耶先生にお願いして操縦訓練を付けて貰ってた。そもそも男性IS操縦者を助ける仕組みが教師陣には出来てる、真耶先生にさえ言えば訓練機だって回して貰えてた」

「マジかよ!?くそ、先生に相談すれば良かったのか!!!」

 

まさか思い付きもしなかったのだろうか、真っ先に思い付きそうな物だが……悔しそうに嘆いている隣で箒は顔を険しくしながら一夏の足を思いっきり踏んづけた。

 

「いってぇ何すんだよ!?」

「お前は私の指導では不満だというのか!!?」

「だって実際に剣道しかやってないぞ今日まで!!」

「僅か1週間ではどうせ付け焼刃にしかならん!!ならば元々あるお前の剣の腕前を上げるのが最善なのだ!!」

 

箒の言い分にも一理はある。分からなくもない意見というレベルだが恐らく一夏はISの稼働時間が極めて少ない。だが付け焼刃以前に刃すらない状況に近いのだからせめてISを動かして感覚だけでも感じておいても良かったのではないかと心から思う。二人が言い合いをしている最中、真耶と千冬がピットへと入ってきた。

 

「織斑君来ましたよ!織斑君の専用IS!!」

「織斑さっさとこっちに来い、チェックを開始する。杉山、お前は行けるか」

「そこの大馬鹿よりは準備万端ですよ」

「フッ、お前の努力は真耶から聞いているぞ。私も少なからず応援させてもらおう。行って来い、杉山」

 

凛々しく口元に浮かべた笑みのままサムズアップを掲げた千冬の声援に思わず敬礼を返してしまったカミツレ。兄と一緒にやっていたサバゲーの影響なのかそれとも千冬が教師というよりも教官な気がしてならないからだろうか。それに勇気を貰いながら胸元に下がっている待機状態である勝鬨に意識を集中するとその身に相棒を纏った。各所に追加装甲とやや大型化されている両肩のシールドが特徴的な「勝鬨・黒鋼」が展開された。千冬は初めて見るカミツレの展開速度に思わずほぅっと言葉を漏らした。これが訓練を始めて約2週間の者の速度とは思えない早さであったからだ。矢張り真耶の教え方が良かったのもあっただろうが、加えて彼の直向きな努力の賜物だろう。出撃の為にピット・ゲートへと足を進めていくカミツレ。それを追いかけるように真耶が後ろから声を掛けた。

 

「カミツレ君!」

「真耶先生」

「頑張ってください、悔いが無いように全力を出し切ってください!!」

「……はい、行って来ます!!勝鬨・黒鋼、杉山 カミツレ、行くぞっっ!!!」

 

気合と気迫を込めた声と共に勝鬨は火花を散らしながら敵が待つアリーナへと飛び出して行った。アリーナの空中には、既に青い装甲が特徴的なIS…ブルー・ティアーズを纏ったセシリアがライフルを保持しながら待ち構えていた。

 

「ミスタ・杉山、貴方からですの?てっきりあちらからかと」

「今さっき専用機が来たんだとさ、それで織斑先生に言われて俺から出たって訳」

「そうでしたの、それはそれは……」

 

楽しげに雑談をしている二人、それは同室にいるからこそなのか。既に試合開始の鐘は鳴り響いているので何時試合を始めても構わないのだが互いに武器の引き金を引こうとしない。カミツレもその手に焔備(アサルトライフル)を構えるがセシリアは引き金を引かない。

 

「さてとではミスタ、始めますか。失礼に当たると思いますので加減は致しませんわ」

「代表候補生にそう言って頂けるとは光栄の極みという奴ですね、こちらも全力でぶつからせて頂きます」

 

刹那の静寂の後、互いが構えているライフルの銃口が向けられ引き金が引かれた。セシリアの構えるスターライトMKⅢ(ライフル)はレーザーライフル、放った直後に相手に到達するような速度で向かってくる。予測到達速度は約0.4秒、対してこちらのライフルは実弾でレーザーとは到達速度が違う。だがそれをカミツレは理解している、真耶の手を借りてセシリアの事を調べ、武装や戦法などもチェック済み。そして考えていた通りに身体と勝鬨が反応してくれた、銃を撃つと同時に身体を動かしシールドを身体の前面へと動かし防御を行った。レーザーはシールドによって弾かれ、弾丸は僅かにセシリアの腕装甲を掠めるか掠めないかの所を通り過ぎていった。

 

「……如何やら思った以上に出来るようですわね、楽しい戦いになりそうですわ」

「そう言ってくださると嬉しいですね」

 

瞬時に互いは距離を取った、そして連射性で優れるアサルトライフルを保持するカミツレは一定の距離を取ったまま連射を行う。それらを迷う事なく巧みに回避しながらもライフルで狙いを付けるセシリアは同じく連射連射連射、しかしカミツレのような乱れ撃ちではなく相手の予測進路を計算に入れた偏差射撃。容赦なくカミツレへと襲い掛かっていくが自分へと襲い掛かる正確な射撃なんて想定済みだった。今日の為に夜な夜なベットの中で必死に対策を考えそれを真耶に相談し共に考えたのだから。

 

「読まれているっ……!!」

「おおおおっっっ!!!」

 

自らを鼓舞する雄たけびを上げながら射撃を続けながら勝鬨に絶対の信頼を置いた。そもそも自分にセシリアクラスの偏差射撃を避ける技術はない、ならば当たる事を前提にしてしまえば良い。今日までの訓練で真耶にライフルによる射撃を行って貰いその経験とデータを勝鬨に入力しオートガード機能にパターンを加えた、そのガードによって偏差射撃は尽く防御されていく。

 

「良いぞ、良いぞカチドキ!!その調子で行けぇぇぇっっ!!」

「くっまさか、此処まで読まれているなんて……!!」

 

相棒へ感謝を口にしながら更に攻撃を行い続けるカミツレ、その気迫と予め用意周到に準備して来た同室の彼を初めて恐ろしく思ったセシリアの中に焦りと動揺が生まれる。偏差射撃は緻密な計算と安定した精神が生み出す調和の射線、片方が僅かにでも揺れ動けば射線は乱れてしまう。少しだが射線が乱れた事に笑いを浮かべたカミツレはシールドの内側に手をやるとそこからブレードを抜き放った。

 

「ブ、ブレード!!?」

「セイヤアアアアァァッッッ!!!!」

 

それを全力でセシリア目掛けて投擲した、普段ならば落ち着いて打ち落とせた筈のそれを動揺により射撃ミスを犯したセシリアは僅かにレーザーを外してしまった。そしてブレードはウィングの一部へと直撃し爆発させそれを落とした。

 

「ッシャア!!!」

「わ、私のブルー・ティアーズが!?」

 

思わず拳を強く握りこんだカミツレ、成功した行動によって齎されたリターンは確実に自分を有利してくれる。此処まで思惑が上手く行ったのも真耶の協力があったからこそだ。カチドキに搭載する武器を追加したいと相談し、武器の種類を増やすのではなく既存の武器を増やす選択をしたカミツレは両方のシールドの裏側にそれぞれ2本ずつのブレードを追加して貰っていた。真耶に感謝を抱きながらセシリアへと挑戦的な視線を向ける。それを受けたセシリアは自分のISの象徴的な物が破壊されたのにも怒りが沸かずに嬉しさと驚きで満たされていた。

 

「まさか此処まで……感服致しましたわミスタ・杉山。加減はしないと言っておきながら心の何処かで見縊っていたのかもしれませんわね……謝罪致しますわ。ですが今度こそ本気で参りますわ!!行きます!!!」

「ああ、来なミス!!」




勝鬨・黒鋼

IS学園の訓練機である打鉄をカミツレの専用機とした物。通常の打鉄と異なり装甲が増量されシールドを大型にし防御面を強化している。
それにより機動性が低下しているがカミツレが初心者という事もあって機動性が落ちた事で結果的に操縦性が向上し扱い易くなっている。
装甲は本人の技量上昇によって外すかを検討するもよう。
基本的に武装面に変更はないが武器が増量されており予備のブレードとライフルが追加されている。ブレードはシールドの裏に二本ずつ格納されている。

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