IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第72話

「まず一言、言わせて貰う。ごめんなさい、酷い事言っちまって」

「あ、頭を上げてください……!謝ってもらう事なんて……」

「いやあるよ。ごめん、気が立っちゃってさ…最低だな俺って」

 

整備室で再び邂逅した二人、カミツレと簪。やや気まずい空気に包まれていたがそれを破ったのはカミツレ、彼女へ頭を下げて謝罪を行った。カミツレも冷静になってあの時の事を思い返すと辛辣過ぎていた、幾らあのような事があったとはいえ頭ごなしに否定する事から始める事は明らかに間違っていたと分かる筈なのに……。あの時の事が、ある意味でトラウマになっているのかもしれない。

 

「でもお姉ちゃんが、盗聴器とか仕掛けたのは事実で……」

「ああ、それは事実だが君は関係なかった。本当に悪かった……俺もまだまだ余裕がないみたいだな……それで今日はしっかり話をしたい。一からな」

「は、はい!」

「改めて…杉山 カミツレ、まだそうなったって訳じゃないけどイギリスの代表候補生になる予定だ」

「す、凄い……入学からまだ3ヶ月ぐらいしか経ってないのに……!?え、えっと更識 簪です!日本の代表候補生をしてます、一応……」

「宜しく。更識さん」

「あっ簪でお願いします杉山さん!」

「俺もカミツレでいいよ」

 

改めて自己紹介からの握手を結んだ二人は少し微笑んで、言葉を受け取った。

 

「と言っても実質的な物でさ。俺の専用機開発の希望をイギリスが出してくれて、それでお願いしただけで試験に受かった訳じゃない。だから実力というかなんというか微妙な所だとは思うよ」

「それでも凄いですよ!試験じゃなくても国に努力が認められたからこそ、専用機の開発の依頼が来たんですから!」

「そう言われると……少しは実感が湧く、かな」

「そうですよ!だって入学前は全くISとか動かした事ないのに、それでもその実力が評価されて専用機の開発希望が来るって事は本当に凄い事だと思いますよ!もっと自信を持ってください!」

 

目を輝かせながら此方を見つめてくる簪にカミツレは少し照れる、セシリアとも乱も違うタイプの少女。素直に自分を褒めて尊敬しているかのような視線を向けられるのは初めての経験、動揺も混じりながら照れを隠せない。

 

「それでどんな機体になるってこれは聞いちゃいけないですかね!?」

「ああいや、別にもう直ぐ学園に来るし……別にそうでもないんじゃないかな。でも説明得意じゃないからな……来たら整備する時にでも見せるよ」

「ほっ……良かった聞いてよかった事で……でも良いですよね専用機……」

「ああっでも俺は今のでも構わなかったんだけどね、後ろ盾が欲しかった俺としてはこうするのが有力な手段だったからね」

 

なんだったらずっと変わらなくても良かったよ、と答えるカミツレに簪は何処か羨望の眼差しを向けていた。その言葉には本心しかなく、カミツレは本気でそう言っていると簪も理解している。心から専用機である『勝鬨』に対する思いがあるから言える台詞だと理解する。

 

「それであ~……言いづらいんだけどさ、簪さんは自分でISを作ってるって聞いたけど」

「ッ…はい。「倉持技研」が開発を担当してくれたんですが…織斑 一夏の専用機を作るから開発は中止するって言われて……」

「それで自分で作ってるか……凄いな」

「い、いえ……肝心な部分がまだまだで動かすにはまだ課題が多くて……」

 

矢張り企業や機関が国からの援助を受けて開発をする物であるIS、7割は開発が終わっていたと言ってもそれを完成されるのは非常に難しい。それでも彼女は一人で努力して9割の所まで自力で持っていく事が出来ている、それは間違いなく賞賛されるべき物だろう。そう言うと簪は顔を真っ赤にしながらそらしてしまった。

 

「にしても…日本政府に呆れたもんだな。開発の中止とかをするなら他の企業やら機関に委託してもいいもんだろうに」

「私の専用機になる筈だった『打鉄弐式』は「倉持技研」独自の技術が導入される予定だったので他に回せなかったんだと思います。それでも放置は納得行きませんけど……」

「そもそもそれが可笑しいじゃないか。言い方はあれだけど、貴重なISコアと優秀な代表候補生を遊ばせているし簡単に君に渡しているのも可笑しい。それに放置する位なら最初から専用機を別の所に委託するじゃないか」

「それは、確かに…」

 

それを聞いて政府の不手際というよりも、アフターケアの無さに次第に簪も怒りを感じるようになって来ていた。元々は「倉持技研」に抱いていた物は政府へと向き始めている。

 

「そこで簪さん、他の企業とかに専用機の開発を委託しないか?そうすれば君のISは完成すると思うんだけど」

「そ、それはそうですけど…でも、政府とか「倉持技研」が認めるかどうか……」

「そこは俺に任せてくれないか?俺には頼れる人がいるんだよ」

「頼れる人?」

 

簪は素直に一体どのように頼れる人があるというのだろうかと首を傾げた。千冬や真耶の事を言っているのかと尋ねるが違うと言われてしまい、誰なのか分からなくなった。

 

「俺の頼れる人って言うのは俺が尊敬する人とお世話になってる人なんだ」

「ハァ……」

 

世界トップクラスのIS操縦者でフランスの国家代表であるヨランド・ルブラン、そしてもう一人はイギリスの大貴族で大きな影響力を持っているリチャード・ウォルコット卿。世界的に名が知れ渡っている超ビックネーム、そんな二人とコネクションを築いているとは簪も思いもしないだろう。本当は此処にISの開発者である束も加わるのだが……まあ言えるわけも無いので伏せておく。

 

「まあ兎に角だ、これからはその仲良くしていこうよ。簪さん」

「はっはいよろしくお願いします!」


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