「漸く…戻ってこれましたわね。あの人がいる場所へ……」
IS学園の正面ゲート前へと降り立った一人の令嬢は愛おしむように学園を見つめながら白のロールスロイスから降り立った。日本の夏の熱気にややうんざりとしながらも、それでもあの人の生まれ故郷なのだから許容しなければと思いつつも高揚する気分を抑えられない令嬢こと、セシリア・オルコットの姿があった。イギリス本国での仕事を終えて日本へと戻ってくる事が出来た。
オルコット家の当主の仕事に加え国家代表候補生としての報告、専用機の整備と再調整、それ以外にバイオリンのコンサート参加や旧友との親交、そして―――両親の墓参り。両親の墓を訪れるたびに彼女の胸には痛みがあった、如何して自分だけを遺して逝ってしまったのかと……だが今回はそれだけは無い、ずっとしたかった報告をする事が出来た。思い人が出来、その人と結ばれた事であった。
「(今度参る時はカミツレさんと一緒に参りますわ、どうかその時まで待っていてください……)」
「お嬢様、御荷物は此方でお運びしておきます」
「お願いしますわ」
背後から声を掛けてきた自分の専属メイドでもあるチェルシーがそう告げる、荷物の事などはチェルシーともう一人のメイドに任せて自分は早速カミツレに会いに行こうと足を踏み出そうとした時の事であった。
「お嬢様は杉山様にご挨拶に行かれますか?」
「チェ、チェルシー!?に、荷物を運びに行ったのでは……!?」
「一つ確認しておく事を恥ずかしながら失念しておりまして、戻って参りました」
チェルシーにしては珍しい事もあった物だと思いつつ、それに耳を傾けた。が
「あの白、そして黒の下着は杉山様用でしょうか?」
「―――えっ」
思わず顔から血の気が引いていった、何故それを知っているのだろうか。絶対にバレないように裏取りとリチャードの奥さんであるドロシーに相談して吟味した勝負下着、ウォルコット家とオルコット家の力を使いながらこっそり購入し、二重底のスーツケースに隠しておいた筈なのに……如何して……!?
「きっとお選びになったのはドロシー様ですね、殿方を誘惑するにはとても有効な物です。必ず有効に活用し、杉山様を物になさってください」
「―――な、何で知っていますの……?」
「蛇の道は蛇ですわ、お嬢様」
「ごっめんね~セシリア♪面白そうだからチェルシーちゃんにも言っちゃった♪」
イギリス本国のドロシー・ウォルコット、セシリアにとっては頼りになりもう一人の母親のように何でも相談出来る人物ではあるが…その実は愉快犯的な所があるという事をセシリアは失念していた。
「セシリア、連絡通り今日だったな帰ってくるの」
その声を聞いた時、思いっきり胸が高鳴った。高鳴る胸を一度手で押さえ、冷静に平静を装いながら振り返る。そこには愛しの彼が此方に手を掲げながら出迎えをしてくれていた。燃え上るような歓喜に身悶えする身体を抑えながら優雅に挨拶をする。しかし彼女の内心は真夏の白昼夢―――もとい、妄想で溢れ返っており妄想のカミツレと熱い抱擁とキスを行いながらいやんいやんと身震いしていた。
「――セシリア……?あの、大丈夫か……?」
「ハッ!?いえ大丈夫ですわ、先程まで車の中でしたので少々立ち眩みを……!!」
「そ、そうか?なら良かったけど」
「ええ、全くです」
!?
「んっ?あれ、すいませんどちら様?」
「お初にお目に掛かります杉山 カミツレ様。セシリア様にお仕えするメイドでチェルシー・ブランケットと申します。以後お見知りおきを」
何時の間に荷物を運び終えたのか、戻って着ていたチェルシーがカミツレに挨拶を行っていた。確かに将来は自分の夫となる男性への挨拶は必要だが、まさかこんなタイミングで顔を見せるとは……相変わらず心の機微に鋭いと思うセシリアであった。
「あっそうか貴方がセシリアが以前話してくれたメイドさんの……初めまして、杉山 カミツレです。今後ともよろしくお願いします」
「はい杉山様。―――時にご無礼を承知にお聞きしたい事がございます。杉山様はお嬢様に対してどのような印象を抱いていらっしゃいますか?」
「セシリアにですか?そうですね……美人で優しくて優秀、そして俺に良くしてくれる素敵な女性ですね」
「いやですわカミツレさんってば♡」
素直な気持ちを形にして言ったカミツレに思わず顔を赤くしながら顔を振るセシリア、後偶に見せる今のような仕草が堪らなく可愛いと付け足す。それを聞くとチェルシーは笑顔を作りながら感謝を述べる。では逆にセシリアは自分の事をなんと言ってたかと聞くとチェルシーはお茶目そうに笑顔を作りながら人差し指を唇に運んだ。
「女同士の秘密、です♪」
思わずドキっとしかけそうな魅力的な笑みに此方を笑い掛ける。セシリアは再び
「セシリア様の事を宜しくお願いいたします、杉山様ならきっとお嬢様を支えてくださると信じております」
「ええ。俺にとって彼女は大切な人ですからね、俺に出来る限りの事はするつもりです」
「力強いお言葉、嬉しい限りで御座います。それと私の事はチェルシーとお呼びください、将来は私がお仕えすべき殿方、使用人と思って砕けたもので結構ですので」
「いえそうはいきませんよ、年上の人には敬語が基本ですから俺は。多分これはずっと変わりませんよ…それと俺はカミツレでいいですよ。それと……そういう事は早くないですかね」
やや困ったような表情を浮かべるカミツレに対してチェルシーは少し悪戯気な笑みを浮かべる。
「いえそんな事は御座いません、お嬢様が選んだ殿方ですので。それにリチャード様は既にカミツレ様をお迎えする準備をなさっております故」
「リ、リチャードさん……幾らなんでも気が早すぎるよ……」
「それに……少々お耳を」
チェルシーは耳打ちするようにある事を伝える。
「お嬢様は既に、カミツレ様を受け入れたいと言っておりますわ。色んな、意味でね♪」
「……チェルシーさんにはなんか…敵いそうにないな…」
「恐れ入ります」
この後、チェルシーの元にもう一人のメイドが荷物の運搬が終わったと報告し自分達は帰るのでセシリアを頼むと言われて彼女らが帰っていく。そしてカミツレがセシリアに話しかけるまで、セシリアはずっと妄想の中でカミツレと過ごしていた。それゆえか現世復帰した時には、顔を真っ赤にしてカミツレの腕に顔を隠すようにしながら学園へと入って行った。