IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第74話

「それではカミツレさん、私と共にやってきた専用機を御披露目しましょうか」

「ああ頼むよ、俺も見たかったんだ」

「では、行きますよ」

「お願いします真耶先生」

 

アリーナのピット内、その搬入口からは行ってきたそれは隔壁の暗闇を越えて明かりを受けて反射させてその姿を見せた。そこにあったのは青と眩しいほどの銀を纏ったISが自分を待ち受けていた。

 

「これが……俺の専用機……」

「はい。学園から提供されたカミツレさんのデータの全てを反映させて設計、調整がされた第三世代型のIS。イギリスのBT技術も導入された言うなれば私の「ブルー・ティアーズ」の兄弟機ですわ」

「開発コードは『Knights of the Round Table:Sir Galahad』となってますね。円卓の騎士、ガラハッド卿……聖杯の探索をした騎士ですね」

 

「最も穢れ無き騎士」と云われる聖杯を見つけた三騎士のうちの一人、湖の騎士(ランスロット)の息子。完璧なる聖騎士とも呼ばれているガラハッド卿、その名前と同じ名を授かったIS。東洋の剣士と似ているカチドキと西洋の剣士を体現したガラハッド。如何にも似ているような気がしてならない。見た限りでは防御重視型のISのようにも見えるが実際のスペックは動かして感じて見るのが一番だろう。カミツレはドッグタグを「ガラハッド」へと掲げる。数秒するとガラハッドから声が漏れ始めた。

 

『情報更新完了しました、おはよう御座いますカミツレ』

「五体満足って奴かカチドキ」

『いえ、言うなれば2万5千パーツ満足です』

「そりゃ結構だ」

 

コア同士のデータ移植は無事完了したのか「ガラハッド」のコアにはカチドキが、今まで「ガラハッド」であったコア人格は「勝鬨・黒鋼」へと移ったらしい。心なしかこのドッグタグに宿っているのは全く別の人格だという事が感覚として理解出来る。

 

「……有難う、そしてお疲れさん」

 

そのまま既に別の機体となってしまった「勝鬨・黒鋼」への最後の別れとお礼を述べたカミツレはそれを真耶へと手渡した。あれはこの後どのようになるのだろうか、内部データ解析の為に研究所へと送られるのだろうか、それともデータだけ抜き出してコアを初期化して学園の訓練機に戻るのだろうか。それは分からないが今まで本当に世話になった事に対して礼を述べて、新たな機体へと向き直った。

 

「だけど、俺には不満なことがある」

『私もです』

「フ、不満ですか!?一体何が……!?」

「『名前が好みじゃない』」

 

とカミツレとカチドキが同時にそう漏らすとセシリアは一瞬ポカンとしてしまったが、真耶はくすっと笑いながらそうですよねと呟いた。

 

「最も穢れ無き騎士、ガラハッド、完璧な聖騎士?おいカチドキ、俺がそう見えるか?」

『いえ全く。貴方は未熟でまだまだ幼い子供です』

「だろ?全然俺に似合ってない。そうだな……カチドキ、お前ならなんて名前を付ける?」

『勝鬨・大将軍』

「うおい大将軍って形かお前」

『冗談です』

 

お茶目に冗談まで言うコア人格、此処まで人間臭い人工知能なんて他に有り得るだろうか。そんな相手と極当たり前のように口を利くカミツレも一般的に見れば異常なのかもしれない、だがこれは既に彼にとっては日常の一部分でもあるのだ。

 

「そうだな……決めた、機体の名前は『勝鬨・蒼銀』だ。丁度そんな色してるしな」

『最初に沿ったネーミングですね、私好みです。ではそう登録します……登録完了―――今からでも大将軍付けませんか?』

「気に入ってるのかよ……大将軍」

『まあ如何でもいい事は放置して、早速最適化(フィッティング)を開始しましょう』

「……」

 

無言になりつつも溜息を吐いたカミツレはその言葉に従って、新たなカチドキの身体に身を委ねる。最初から自分の為に作られているのか異様にフィットする感覚がある、これが自分専用の専用機……不思議な高揚感を感じつつも最適化を待つ。

 

『私の中にカミツレが入ってくる……面白い感覚です』

「戯言抜かしてねぇでさっさとしろ、何時も俺がお前を纏ってただろうが」

『確かにそうでした』

 

途中黙っているのが嫌なのか小言を挟さんでくるカチドキへと突っ込みを入れながら作業は進んでいく。そして20分ほどすると最適化と一次移行が完了し、完璧な意味で新たなISがカミツレの物となった。

 

『作業工程100%終了、武装チェックを開始します。多連装ライフル「スターダストmkⅣ」近接ブレード「スパークルエッジ」防御兼推進システム「ディバイダー」BT兵装「ヴァンガード」全兵装チェック終了です』

「基本を押さえたって感じの武器だな、まあ奇抜なもんばっかりじゃなくて良かったよ」

『ライフル、ブレード、盾、ビット。あらゆる距離の対応が可能となっているようです』

「にしても盾?それって武装なのか」

『この盾は武器にもなるようです』

「マジか、推進って言ってたけどこれもBTシステムがあってこれを蹴り飛ばしたら相手を追尾するとか?」

『その発想はありませんでした』

 

カチドキと会話をしながら軽く身体を動かしてみるカミツレを見るセシリアと真耶、完全に彼の物となった「勝鬨・蒼銀」は「勝鬨・黒鋼」よりもかなりガッチリとしている印象を受ける。両肩の位置にある盾もその印象を強めている。翼のように大きく広げられているそれには新たなBT兵器が仕込まれており、不思議な威圧感を放ち続けている。

 

「うん、いい感じだ」

「お似合いですわカミツレさん」

「ええ。「黒鋼」は無骨なカッコ良さがありましたけどこっちは洗練されたカッコ良さがありますね」

「蒼銀……これからも頼むぜカチドキ」

『了解しました』


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