「取り敢えずなんか飲むよな?麦茶でいいか」
「水でいいぞ」
「遠慮するなって、兎に角麦茶にするからな」
約束した通りに一夏の家へとやってきたカミツレは一夏に促されるままにソファに座りこんだ。それとなく室内全体を見渡してみると自分の家とは違う、リビングとキッチンが繋がっているタイプ。珍しいわけでもないがずっと学生寮にいたせいか新鮮に映りこんでくる。差し出された麦茶を受け取り、隣に座る一夏を一瞥してそれを啜った。
「くぅぅぅっ!!やっぱり暑い日には麦茶だよな!!」
「俺は緑茶派だけどな」
「えっマジで?熱いの飲むのか暑いのに!?」
「いやなんで緑茶=熱いなんだよ、冷やしてある奴に決まってるだろ」
「緑茶はやっぱり熱い物に限るだろ」
「んなもん人の好みだろ」
適当な会話を演じながらカミツレは如何も自分が変わっている事に気付く、最初こそ一夏と会話する事も嫌だったはずなのに今ではこうして普通に会話している。妙な怒りや憎しみすら沸かずに自然と話せる、学園入学当初は絶対にありえない状況だったのに…人間は変わる物、という訳なのだろうか。
「んで…何すんだよ」
「うーん一通りゲーム機とかあるけど……なんかやりたいのとかあるか?」
「任せる」
「んじゃ手堅い所でスマブラか?ちょっと待っててくれ、俺の部屋から持ってくるわ」
そう言いながらリビングから自室へと向かって行く一夏を見送ったカミツレ、ソファに身を委ねながら思わず天井を仰いだ。何で自分はあいつからの誘いを受けたのだろうか、未だにそれが分からない。滅茶苦茶な感情のままで手元にあったTVのリモコンを使って電源を点ける、適当な番組でも見て待とうと思っていたのだが早速点いた番組を見てボタンを撫でていた指が止まった。
『本日の特集は世界にたった2人の男性IS操縦者です!!突如現れたISを使う事が出来る男である織斑 一夏君と杉山 カミツレ君!本日は彼らについて御伝えして行こうと思います!』
TVで組まれていたのは自分達の事だった、世間にとって自分たちは格好のネタという訳でこのような番組がやられていたともしても全く可笑しくはない。見ていると案の定、大きく取り上げられているのは一夏の方であったがそれに何の感情も沸かない。元々千冬の弟という事で知名度も期待も圧倒的に上なのだから致し方ない、自分の番になる前に消す。これ以上見ていたとしても何も面白くない。
「御待たせ~…カミツレって何のキャラが得意なんだ?」
「クッパだな」
「げっ俺の苦手な重量パワー系……ま、負けてたまるか!俺のリンクの力見せてやるぜ!!」
早速ゲーム機をTVに繋げて起動させる一夏、それに渡されたコントローラーを握ってプレイを開始する。
「く、クソまだだ!!アイテムの逆転……あああっ!!?まさかの樽爆弾かよ!?」
「へいらっしゃいメテオ」
「ギャアアアアッ!!!これで6連敗かよ!?カミツレお前強すぎ!!?」
「お前が弱すぎるんだよ、次は手加減してルイージで相手してやろうか?」
「くっなら俺だって本気のマジキャラ、シークで勝負だ!!!」
尚、一夏は一勝もあげる事が出来ずに惨敗するのであった。
「なあカミツレ、聞いてみても良いか?」
「何だよ藪から棒に」
「一度聞いてみたかったんだよさ、カミツレって俺の事如何思ってる?」
休憩にとアイスを食べていると一夏がそう聞いてきた、頬張っているイチゴチョコアイスを食べ続けながらカミツレはやや怪訝そうな表情を作る。
「何でそんな事聞く」
「いやさ、入学してからずっと一緒のクラスだったけど俺カミツレの事全然知らないし。俺からしたらカミツレって凄い真面目で頑張ってるぐらいの印象しかない訳だよ、だったらカミツレからみた俺って何なのかなぁって」
「そうか…俺から見たお前…最悪の奴、俺が学園に入る事になった原因」
「ウゲッ……や、やっぱり悪いのか……?」
一夏もある程度は考えていたのだろうがそれでも本人を目の前に言われるとかなり心に来てしまう。それでもカミツレはやめずに続ける。
「お前のせいで俺は兄貴と一緒に爺ちゃんの跡を継ぐっていう夢を諦めるしかなかった、お前と違って俺の親族にはIS関係の事をやってる人は居なかったからな」
「夢を…俺、思ってた以上に迷惑掛けてたんだな……悪い」
頭を下げてくる一夏を見ると、自然と口が閉じて言葉を続けなかった。実験動物として扱われるかもしれないという恐怖、人間としてもう生きられないかもしれないという恐怖と戦いながら必死に努力して来た事などを敢て口に出さなかった。確かにあれは本当に怖かった、今でもその可能性が無いとも言いきれない。自分は目の前の男に人生を大きく狂わせられた―――でも
「俺はもう気にしていない、と思う。確かに色んな事があった、あったけどもういい」
「良いって……何でだ?」
「俺は―――色んな物を手に入れたからだ」
自分の全ての基礎を教え込んでくれる師匠である真耶、理論を指導しつつ傍に居てくれると言ってくれたセシリア、自分と一緒に歩いて支えると笑った乱、ISに対する心構えを示してくれた千冬、技術の応用と自分も知らない自分に合わせてくれたヨランド、一緒に歩いて一緒に前に進む相棒であるカチドキ、そんなカチドキの母親でありお茶目な束。狂った人生の中で色んな人達と出会い、その人達から色んな物を貰ったり見せて貰った。今までの人生ならありえないと思っていた物だ。特にあんな素敵な恋人達に出会えるなんて、絶対に有り得なかっただろう。
「だから、お前にキレたりしねぇよ」
「カミツレ……じゃあこれからは友達って事で良いよな!!」
「…まあいいか、好きにしろよ」
「おっしゃああぁぁぁっ!!!」
目の前ではしゃいでいる男のせいで人生が狂ったのに、そんな男と友達になる。なんとも酔狂な事だと笑われるかもしれないが、これもこれで悪くは無いかもしれない。彼だって自分と同じく大変な人生を歩んでいくのだからそれで勘弁してやる事にしよう、何時までも受け入れないのもみっともない事だ。
「それとさ、俺達ライバルだよな!!」
「えっいやないだろ」
「そこ真顔とそんな声で言うなよ!!なんか悲しくなってくるわ!」
「なんだ何やら騒がしいが……カミツレ来ていたのか?」
「あれカミツレ君?」
帰宅した千冬と真耶、どうやら途中で会ったらしくどうせだからと連れてきたらしい。そんな二人も混ざってその日は楽しい食事会が開かれたのであった。カミツレはその時、初めて家族と過ごす時の笑顔を浮かべて気持ち良さそうに笑っていた。
「ムッ……一夏、お前腕落ちたか…?」
「ええっ嘘だろ!?」
「きっとカミツレ君の料理が美味しいからですよ、先輩良く作って貰ってるじゃないですか」
「成程な、それなら納得だ」
「カ、カミツレ。いやカミツレ様!!頼む俺に料理を教えてくれ!!」
「面倒だから嫌だ」
「友達だろ!!?」
「面倒」
「カミツレェェェェエエ!!!!」
「うるせえぇぇぇ!!!!」
千冬さんが腕が落ちた、と言っていますが一夏の腕は落ちてません。
純粋に素材が違うからです、最近千冬さんずっとカミツレの料理食べてましたから。