ナターシャが1組の副担任補佐となった同日、各教室にて放課後の特別HRが執り行われていた。学園祭でのクラスごとの出し物を決める為に盛り上がりを見せていた。そんなクラスから上がってくる提案を纏める立場にある一夏は不慣れなリーダー役を頑張って務めながら皆を纏めていた。千冬からの指示で書記としてカミツレが付いているが、それでも十分なリーダー役を務めている。が今彼の頭を非常に悩ませている物があった。
「男子二人のホストクラブ」「織斑&杉山とツイスター」「織斑 一夏 杉山 カミツレとポッキーゲーム」「男子二人と王様ゲーム」と以下etc……。これに一夏は凄まじい頭痛を覚えてしまった、彼女らは自分達を如何活用するかという事しか考えていないのかと。
「カミツレ、取り敢えず全部却下で削除」
「削除完了っと」
黒板に書かれたそれら全てを消したカミツレにクラス中から悲鳴のような声が上がった、一部からはまあそうだよねぇとこれを予見している声も混ざっていた。予見していたなら少しは止めてくれても良かったのではないだろうか。
「何でよ!!独断反対~!!」
「私達は嬉しいのに!!」
「理由を述べよ~!!」
と非難轟々である。寧ろこちら側が文句を言いたいのになぜこんな事になっているのだろうか……一夏は溜息を付きながらカミツレに目配せする。頭痛するから理由はそっちから言ってくれという事である、状況から一夏の言いたい事は大体察せたカミツレは溜息を落としながら理由を言う。
「まず第一に学園祭はクラス全体が行う催し、それなのに俺達だけに働かせて女子は高みの見物をするという事」
「それは違うよ!!裏方をしっかりやるよ!!」
「仮にさっきの案を採用して一体1時間に何人を回せると思うんだ、それなのに二人以外の女子全員が裏方に回る必要があるとは思えない」
「ぐっ……地味に正論……」
「第二に採用した場合、俺達への負担がでかすぎる。俺達は何時休憩して、何時学園祭を満喫したらいいのか具体的な案の提示を願う」
冷静且つ無慈悲なほどに正確に差し向けられてくるカミツレの言葉に女子達は次々と反論の言葉を失っていく。カミツレとしてもこんな物やりたくはないので、全力で正論をぶつけて行くので容赦がまるでない。
「第三、俺達が全く持って楽しくないし利がない。女子のみが得をする、それがIS学園の学園祭と認識するが宜しいか」
「「「宜しく無いです……」」」
「ならもっと真面目に考える事、これでいいか織斑」
「おう。俺の言いたい事全部確り言って貰えたから文句無し!」
という訳で新しい案の出し直しと空気を新しくする一夏に女子たちは、今度こそと新しい案を出していく。実はこの二人の組み合わせはバランスがとれているのかもしれない。カミツレが厳しい面、即ち鞭を担当する事で相手を叱咤。一夏は優しい面である飴、空気をリセットしつつ周囲に優しく語り掛けていく。それを考えると二人の組み合わせは悪くはないのかもしれない。
「んじゃ……一番賛成案が多かったのはラウラ提案のご奉仕喫茶なんだけど…これでいいと思う人は改めて挙手を願います」
「「「は~い!!」」」
そして結果として1組の出し物となったのはラウラ発案のご奉仕喫茶となった。クラスメンバーがそれぞれ衣装を纏って客相手に商売する、所謂メイド喫茶の亜種的な出し物になる事に決定した。尚、当然というべきか一夏とカミツレも執事として接客する事が求められているが…一夏とカミツレは女子達にも等しく負担が行くなら文句はないらしくあっさりと受け入れた。
「それでご奉仕喫茶ねぇ……まさかあのラウラがそんな発案をするとはな…」
職員室の千冬へとそれを提出しに行く一夏と一応書記として付き添うカミツレは、HR中の話を千冬にすると千冬は意外そうな表情を浮かべながら何処か頭が痛そうに眉間に皺を寄せた。ラウラから出るとは思えないような発案だ―――だが副官から出たと考えると十分にありえるから嫌なのだ。
「クラリッサの大馬鹿者が……!!ラウラに何を吹きこんだっ…!!!」
「織斑先生落ち着いて落ち着いて…。またストレスが胃に来ますよ……?」
「またカミツレの世話になる事になっちゃうぜ?」
「安心しろ。杉山の料理は未だに食べ続けている」
「それは教師として如何なんだよ……」
そんな事を言われても、しょうがないレベルなのでカミツレは何も言わなくなっている。不定期だが束だって食事を食べに来るのだから、もう何とも思っていない。それに千冬には恩もあるので料理を作る程度なんでもない。
「あっやべもうこんな時間かっ!?すいません、俺アリーナで真耶先生と訓練する約束あるのでこれで失礼します!」
「おう確り励めよ」
深く頭を下げてから職員室から出ていくカミツレを見送った千冬と一夏、真耶もカミツレと訓練する日があると張り切って仕事を終わらせてからいく。表情だけで訓練の有無が分かるほどに分かり易い。
「織斑先生、そう言えば少し聞きたかったんだけど良いですか?その、弟として……」
「何だ改まって」
「その、俺の訓練とかするのって大変じゃない…?学年主任で仕事とかあるのに……それだったら俺、別の人にコーチを頼もうかなって……」
それを聞いた千冬は弟が自分を気遣っている事を理解したが、生意気な事を言うなと軽く頬を抓る。
「いててててっ!!?」
「生意気な口を利くな、お前を教える程度負担にならんわ。少しでもすまないと思うならさっさと強くなるか、偶には私の身体をマッサージする位しろ」
「千冬姉……」
「それにな一夏、私はお前の力になるのは吝かではないと思っている。家族なのだ、遠慮などするな。支えあってこその家族だ」
胸へと押し当てられた拳に姉の気持ちと力強さの両方を感じる一夏、同時に仄かに心が暖かくなるような感覚を覚える。やっぱり姉の偉大さには勝てないという認識と姉の優しさを実感した時の物、矢張り心地よい物だ。
「ああそれじゃあこれからも頼るから宜しくな、千冬姉」
「精々私を食い物にしてでかくなってみせろ一夏。それと織斑先生だ」
「ああっ!!ああそれと後一つ、相談みたいな事あるんだけど」
「何だ一体?」
弟に頼られて少し気分がいいのか顔を朗らかにした千冬はコーヒーに手を伸ばした、こんな気分がいい時に飲む珈琲はきっと美味なのだろうと思いながら啜った時―――
「セシリアと乱ってカミツレの事、好きだったりするのかな?」
「―――ぶぅぅぅぅっっ!!!!??」
思いっきり噴出してしまった。霧状に成り果てた珈琲は思いっきり一夏へと噴き掛けられてしまい、一夏はそれを避ける事も出来ずにまともに食らってしまった。白い学園の制服はコーヒーに染まってしまい、一夏はややコーヒーの掛かった顔を上げながら千冬を見つめる。
「……酷くありませんか…このリアクションは……?」
「い、いいいいい一夏、おまっおまままっまお前っ……!?」
椅子から転げ落ちそうなりながらも動揺を隠しきれない千冬、ガクガクと身体を震わせながら一夏の肩を強く掴みながら激しく狼狽えた様子のまま声を出す。
「い、いちち、いいいい一夏ぁ!?い、一体如何したと言うんだ!!?お前が他人の恋愛感情に気付くだと!!!??誰かぁ救急車を大至急だぁぁぁぁあ!!!!私の弟を助けてくれぇぇ!!!」
「ええええええええっっっ!!!!素直に相談した結果がこれってなんですかぁぁぁっっ!!!??」
「い、いや学園長にISの緊急展開許可を貰い私が直接病院に運ぶ!!落ち着いて待っているんだ一夏、私がお前を救ってみせるから、お姉ちゃんに任せておけ!!!」
「いや千冬姉が落ち着けよ!!!カミツレ達といい千冬姉といい何でこんなに俺を病気扱いするんだよ!!?」
「お前が乙女心を理解するとか天災に匹敵する事象に決まっているだろうが!!!!!」
「なんでさあああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!?????」