「なぁカミツレ……二人と付き合ってるのか?」
「ごふぉっ!!?だああぁっととととっっ!!?」
『姿勢制御実行、機体バランス強制修正終了。大丈夫ですカミツレ、私がいる限り不意の事故など有りえません』
『ちょっとカミツレ君大丈夫!?』
「な、なんとか……」
その日、カミツレと一夏は初めて一緒の訓練を行っていた。一夏の技量の急激な成長に合わせて一度、二人が共にやらせてみるのも悪くはないだろうという千冬の発案による物だった。真耶と千冬は学園祭の運営に関らなければ行けないので見れないが、その代わりにナターシャが代役を引き受けてくれるというので彼女主導の元で訓練が行われていた。がそんな中、一夏がカミツレへと放った一言で彼は大きくバランスを崩して墜落寸前に陥った。咄嗟にカチドキが姿勢制御を行ったので大事には至らなかったが。因みに、ナターシャは既にカチドキが喋る事は知っている。
「いきなり何だ変な事聞きやがって!!危うく落ちる所だっただろうが!!!」
『一夏、私がいる限りカミツレの墜落はないとは言え先程の発言は相手の集中力を奪う物です。控えるべきです』
「い、いや悪い…俺も興味本位で聞いただけで……ごめん」
「まあ大事に至らなかったから良かったけど…如何したのよいきなり?」
一旦休憩を挟む事にしてピット内に戻った三人はドリンクを飲みながら話をする事にした。内容は勿論先程の一夏の発言についてであった。あの超絶鈍感、朴念神と彼の事を知っている者から呼ばれている一夏があろう事か他人の恋愛に興味を示し聞いてきたのだ。これを驚かずにはいられない。
「いや気になってさ…この前食堂で飯食ってる時さ、乱ちゃんって呼んでたから」
「聞く限り、カミツレ君は今までそうじゃなかったのね?」
「今までさん付けで呼んでたんですよカミツレは。それが変わってたから少し気になって」
そこから一夏は連想を働かせたらしい。元々カミツレはセシリアと乱と仲がいいが、カミツレはずっと「乱さん」と呼んでいた。急に呼び方を変えるなんて何か切っ掛けがあった筈だ、元々仲が良いのが更に仲が深まったのならば付き合っているのではないか?それに加えてセシリアもずっと一緒に居るんだから、一緒に付き合っているんじゃないか?と連想をしたらしい。それを聞いたナターシャはやや頬を赤らめながら、あらあら♪とカミツレの方を見るが、彼は愕然と言う言葉がよく似合うほどに驚いていた。
「……お前、本当に大丈夫か?」
「いやマジで酷いって……千冬姉にも言われたばっかなんだから勘弁してくれ……」
「織斑君、貴方そこまで言われる位に第三者からしたら酷かったって事なんじゃないの?」
「ナ、ナタル先生まで……」
思わずナターシャにまで言われてしまい意気消沈する一夏。ナタルというのはナターシャのスタンダードなニックネームらしく、そっちでも構わないと言われたのでそう呼んでいる。
「まあ…その、俺はセシリアと乱ちゃんとはまあ……えっと、付き合ってる…」
「へぇやっぱりか、言ってくれれば祝福ぐらいするのにさ。でも、よく二人とも納得したな。浮気とかじゃないんだろ?」
「ああ……寧ろこれは二人から提案された事、だからな……」
「最近の高校生ってスゴいのねぇ……」
感心するような声を漏らすナタルだがこの場合は事態が特殊なので、最近の高校生全員がそう言う訳ではない。
「そ、それで何でいきなり聞いてくる……?」
「いやさ、恋愛しているカミツレなら相談出来るかと思ってさ」
「私は席を外した方がいいかしら?」
「あっ出来れば聞いて貰っても良いですか?ちょっと、女の人の意見も聞きたいんで」
一夏が相談したい事、と言うのは一体何のだろうか……。態々カミツレとナタルに聞いてくるとは……。
「そのさ…なんだ……俺、なんか箒が気になってきて、さ……」
「っ!!?」
「まぁ♪」
カミツレは思わず目を限界まで見開き、ナタルは青春の甘酸っぱい一幕に関れると嬉しそうに笑う。
「今まではそんな事、なかったんだけどさ……前に一人で訓練してる時さ、ちょっと失敗して地面に叩き付けられた時があったんだ。俺は別に怪我しなかったんだけどさ、箒が駆け寄ってきて凄い心配そうに俺を見てきて……」
『一夏、一夏!!大丈夫か、身体に異常はないよなっ!!?』
『あ、ああ…大丈夫だ。白式が守ってくれたから大丈夫だ』
『はぁぁっ……良かった、良かったっ……』
その時の箒の顔は忘れない、涙を浮かべ心から安堵しているかのような表情をして此方を見つめていた。自分の安全と無事を確認出来たことで漸く彼女の心から不安が取り除かれたかのような様子だった。
『箒、そのごめん……』
『もういい……でも気をつけてくれ、もう私を不安にさせないで……』
それから一夏の訓練には必ず箒が立ち会うようになり、一夏も彼女に不安を与えないように慎重になりながらも訓練をしてきた。やや心配しすぎな気もするが箒のあんな表情は見たくないという思いが一夏の中に生まれていた、それに従って努力をしていた。その話を聞いてカミツレは箒に関して思い当たる節があった。嘗てのクラス対抗戦で一夏は本当に危険な状態にあった、あの時彼女は自分も助けに行きたい思いでいっぱいだった。無力な自分に出来るのは祈る事だけだった、そして一夏が危険な行動に出た時、押し潰されそうになる程の不安に襲われた。
『一夏、今日も大丈夫だな。ほらっドリンクだ』
『ああっ有難う箒。でも毎回付き添って貰ってなんか悪いなぁ……』
『わ、私がそうしたいんだ…お願いだ、そうさせてくれっ』
その時からだった、一夏が箒の事が気になったのは。まるで懇願するように両手を組みながら向けてくる弱気な涙目の彼女を見た時に、今まで感じた事がない「ときめき」と「彼女を守りたい」のような物を感じた。感じた事もないような気持ちは日に日に大きくなっていき、箒に会う度に少しずつ大きくなってしまっている。箒と会う度に、彼女が無事であると心無しかホッとしてしまう自分がいる事にも分かった。
「それでその…俺の中にあるこのざわめき?みたいな物が全然分からないんだ……。一緒に居る時にはすげぇ安心するしもう、訳が分からなくて……。俺、やっぱり病気なのか?なぁ、教えてくれよカミツレ。俺、なんか可笑しくなっちまったのか!?」
「……」
話を聞いてみると確りとした理由と一夏の心境の変化が伝わってくる、箒の想いを受けて変化が始まった一夏の心。千冬から聞いた事があるが、昔は本当に大変な生活を送っていたらしく一夏も自分を助けてくれていたと言っていた。そんな環境に居たからか恋愛に興味が示せず、千冬から貰っていた家族愛という物にしか理解出来なかったのかもしれない。
「ちげぇよ。お前は正常だよ、俺だってセシリアと乱ちゃんといると安心するし心が暖かくなる。お前もそうなんじゃないのか?」
「な、何で分かるんだ!?」
「あらあら、織斑君は初恋をした事ないのね。それならしょうがないわね」
「へっ?」
「いいか、よく聞けよ。お前のそれは別に病気とかじゃない、前は酷く言って悪かった」
前から見下ろすように言うカミツレに一夏はゴクリと喉を鳴らした。
「お前、篠ノ之のことが好きになったんだよ」
「へっ?で、でも俺は箒の事は好きだぞ」
「それは友達として、じゃない?カミツレ君が言っているのは異性として、ライクじゃなくラブとして彼女の事を好きになってるのよ」
「ラ、ラブって……お、俺が箒を……っ!?ええええっっっ!!!!???」