IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第86話

軽快な音を立てながら開始を祝う為の花火が空へと打ち上げられていき、火薬による花が開花する。その直後に教師陣が操縦するISが、空にスモークの尾を引きながら上空を飛び回っていく。戦闘機がスモークを引きながらの曲技飛行( エアロバティックス)。戦闘機よりも自由且つ大胆な動きをする事が出来るISが織り成す曲技飛行は、IS学園ならではだろう。この日を待ち望んだ生徒がどれだけいただろうか、遂に開始されるIS学園の学園祭。世界的に見ても異例だらけの場にて開催される祭りへと多くの人が集っていく。

 

『IS学園学園祭をただいまより開始致します!!皆様、どうぞお楽しみください!!』

 

生徒会長である楯無のスピーチが終わったのを皮切りに開場が行われた。学園祭に次々と入場チェックをすませた人達が入っていく。国の優劣を決めるISの技術者や操縦者、ISそのもの等を多く保管管理しているIS学園としては学園祭は外から客を招き入れる為テロが行われるという可能性は否定しきれない。故に大げさとも言っても良い程の準備を行っている。それを除けば普通の文化祭ではある、内容はIS関係も多いので矢張り普通の学園祭とは言いがたいが。

 

「嘘っ!?一組であの織斑君の接客が受けられるの!?」

「いやいやカミツレ様でしょ!!」

「私はどっちも好きだなぁ。執事の燕尾服を着た二人……ぁぁなんて素敵なの」

「しかもゲームまであるみたいよ!!勝ったら写真を撮ってくれるんだって!しかもツーショット!!!」

 

中でも特に人気と言えるのが一年一組の『ご奉仕喫茶』である。クラスメンバーがメイド服や和服などを着て接客するのが目玉となっている、因みにメイド服はセシリアが実家とリチャードに協力を要請して送って貰った物を使用している。女子達はそれにかなり乗り気で着こなしながら接客に望んでいる。

 

「いらっしゃいませ♪どうぞこちらへ、お席へご案内させていただきますお嬢様」

 

セシリアもメイド服を着ながらノリノリで接客をしている、本職のメイドを雇っている身なのかかなり似合っているというか板に付いているような感じがする。因みにメイド服姿のセシリアを見た時、カミツレは思わず一瞬呆然としその可憐さに見惚れてしまった。そして心の中でガッツポーズを浮かべながらラウラへの賞賛の声を上げた。

 

「いらっしゃいませお嬢様方、本日のご来店をお待ちしておりました。さあどうぞ此方へ、席までご案内させていただきます」

「「「きゃあ杉山君凄い似合ってるぅ~!!」」」

 

「いらっしゃいませお嬢様…お、お席にご案内いたします」

「「「初々しい織斑君執事……いいっ…!!!!!」」」

 

そして矢張りこの二人は引っ張りだこな人気で店内を沸かせている、彼方此方から自分を呼ぶ声が響いており接客に必死になっているが何処かカミツレも一夏やや楽しんでいる節がある。普段出来ないような事をやっているからか、それともヤケクソでやっているのか分からないが中々似合っているのは事実である。一夏は持ち前の甘いマスクで元から人気を博している上、恥ずかしいのか初々しい仕草が人気を更に呼んでいる。カミツレは酷く似合っている燕尾服と本職のような言葉遣いと丁寧な動き、それが本物の執事のようでお嬢様になったような気分が味わえると人気を呼んでいる。

 

「(ふぅ…セシリアに頼んで特訓してもらって正解だったな…)」

 

実はカミツレ、恋人であるオルコット家の当主であるセシリアに執事としての軽いレクチャーを受けていたのである。当日に下手を打って恥をかくのも嫌なのでカミツレの部屋で、セシリアと乱相手に言葉遣いや動きなどの指導を受けていた。二人からしたらカミツレが執事になってくれるというシチュエーションを独占出来たので、特訓中は大満足であった。その特訓に託けて色々してもらったのは余談である。

 

「は~い順番待ちは2時間待ちです~!!!!」

「はい喫茶は学園祭終了までやるので大丈夫です~!!」

 

まだ学園祭開園からそこまで時間が経っていないというのに既に2時間待ちの行列が出来ているという、矢張り唯一無二の個性である男子を存分に活用しているクラスの人気の格は違った。しかしこれでは中々自分達も休めない、長期戦は覚悟しなければならない。クラスの皆も自分達が仕事をしない時間を設けてくれているので周る事は出来るだろうが、それまでに潰れないように頑張らないといけない。

 

「いらっしゃいませお嬢様、本日のご来店をお待ちしておりました」

「あらっ想像以上に立派な執事をしておりますのねツェレ♪」

「え"っ……ヨ、ヨランドさん……」

「来ちゃいました♡」

 

お茶目な笑顔を浮かべている女性、凛々しさと美しさそして豪華さを全て兼ね備えているドレスを纏っている正に貴族の家の当主という風格を漂わせている方がご来店なされた。それは本物の大貴族の当主でありフランスの国家代表、そしてカミツレの尊敬する人でもあるヨランド・ルブランだった。宣言通りにやって来たという事だろう……。

 

「ではバトラー、わたくしを席まで案内してくださいます?」

「畏まりましたお嬢様、不肖の身ではありますがご案内させていただきます」

「ふふっ宜しい」

 

軽く差し出してくる手を思わず取りながら、本物の主従関係のような物を醸し出しながら歩き始める二人。それを見た一夏は思わず

 

「うわぁすっげっ……マジのお嬢様と執事って感じ……」

「……織斑さん、私も本物の貴族でお嬢様なのですけどねぇ……?」

「ヒィッ!!?」

「わ、私の後ろに隠れるな一夏!?私も怖いんだぞ!?」

 

思わず嫉妬するセシリアは一夏の背後で、ハイライトが消えた瞳で二人を凝視していた。その際に漏れた声は低い上に恐怖を呷る物で思わず声を上げて後ずさって箒の後ろに隠れてしまう。そんな様子に気付いたヨランドは悪い笑みを浮かべながらカミツレの腕に胸を押し付けるようにしながら歩き続ける、カミツレは平静を保ってはいるがヒシヒシと感じるセシリアからの威圧に胃が痛くなってくる。幾ら恋人関係にあり、カミツレを守るという点に関しては許容出来るが……それでも限度があるしセシリアも年頃の女の子。恋人が他の女性とイチャイチャしている所を見ていて面白いわけがない。

 

「ツェレ、このお店のおすすめは何ですの?」

「此方のケーキセットでございます、しかしお嬢様ならこちらの最上級ケーキセットも宜しいかと」

「迷いますわね…あらっこの「執事のご褒美セット・極上級」とは何ですの?」

「……それは、ですね…。本来ご褒美セットはメイド及び執事にメニューの一部を食べさせるという物なのですが…極上の場合は互いに食べさせ合った上で写真撮影、ダンスを一曲とお嬢様のお願いを常識の範囲内で叶えるコースです」

「それはいいですわねっ♪ではそれをお一つ♪」

 

それにクラス中のメイド達と裏方チームがざわめいた、まさかあの極上を頼むお客がいるとは…ダンスを一曲というのは誇張表現抜きでこの教室の中心で2分ほどのダンスを一緒に踊る物で他人からの目を大きく引く、そして何よりこのメニューは値段が凄まじく高い。そのお値段なんと……5万円である。生徒達からしてもまさか頼む人は居ないだろうと思っていたとの事だったのだが…相手が悪すぎた。フランスでも屈指の大貴族、資産については潤沢すぎるほどにある。5万など安すぎる出費と言える範囲なのだろう。

 

「もう一度確認いたします。お嬢様のご注文は「執事のご褒美セット・極上級」で宜しいですね」

「ええ勿論ですわ。お相手は勿論、ツェレですわよ♪」

「……承知、しております」

 

学園祭が始まって早々だがカミツレは心底疲れてしまったが、もう心を無にして動こうかと真剣に考え始めた。


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