IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第89話

「カミツレさんあちらを見てください!あれなど面白そうですわ!!」

「へぇどれもこれもレベル高い物ばっかりね、さすがIS学園。予算はいっぱいあるって事ね」

「なんか生々しい気がする……」

 

両隣に美少女を連れて歩くカミツレ、その美少女はどちらとも恋人というのだから驚きである。セシリアと乱に腕を引かれながら学園内の展示品などを見て回る三人、女子生徒達はそんな光景を羨ましげに見つめているが誰も介入しようとしない。介入しようとアクションを取ろうとしただけで、二人のハイライトの消えた瞳がギロッと此方を睨み付けるのである。それで脚が竦んでしまいとても動ける状況ではなくなってしまう。

 

「「………」」

「なあ二人とも、一体如何したんだ?」

「「何でもない♪」」

 

例えそんな瞳をしていたとしても、愛しのカミツレから声が掛けられればすぐさま満面の笑みに切り替えて笑いかけるというスイッチ切り替え技術で悟られないようにしている。が、カミツレは周囲の女子達の様子が可笑しい事で察しているのか、冷や汗を掻きながら何も言わないようにしている。

 

「あっカミツレさん、私この料理部に行ってみたいですわ!」

「料理部はっと…何々、日本の伝統料理の数々の展示。料理体験に試食も可ってある…セシリア、此処に絶対行きましょう!!!」

「えっ乱ちゃんも興味あるのか?日本料理」

「いいえ、違います肉じゃがを覚えたいんです!!!」

 

乱の目的はどうやら肉じゃがを作り方を覚えるという事らしい。なんだか良く分からないが恋人達がそこへ行きたいというのであれば叶えるのが、恋人の役目にして使命というもの。実はカミツレも料理部には多少なりとも興味があり、一度訪れてみたいと思っていたのだ。その理由というのは……

 

「あっカミツレ君いらっしゃい!ようこそ料理部へっ!!」

「お邪魔しますよ真耶先生」

 

真耶が料理部の顧問であるからである。顧問であるという事を聞いたのは最近であるが、自分が料理に使っている野菜やレシピを教えて欲しいと頼まれた時、理由を聞いた時に顧問だという話を聞いたのである。今現在料理部の野菜は杉山家の『俺達の杉山ファーム』にて育てられたものを購入して使用しているとの事。

 

『いやぁ大量受注で大満足だ、俺達の作った野菜が認められたって言うのは良いもんだな!』

 

と兄である一海も喜んでいた。

 

「あっ杉山君、この野菜って杉山君のお家で作ってるんでしょ?何でこんなに美味しいの!?他の物とは比べ物にならないぐらい美味しいよ!!?」

「そうそう。料理部でこんなに美味しい野菜使った事なくてビックリしたよ」

「それにこのレシピカミツレ君の何でしょ?凄い美味しいんだよ~これ」

 

と野菜に関してはベタ褒めが次々とやってくる。自分にとっても自慢であり大好きな兄とその仲間達が作った野菜を褒められる事は酷く喜ばしい。祖父の跡を継いで、その農業技術を継承している兄だからこそ作り出せる野菜の美味しさ。それは杉山家にとって大きな自慢の一つである。

 

「でもカミツレ君が作ってくれた物とどうも味が違うんですよ……何が違うんでしょうか……?」

「レシピ通りに作っているのに違うんですか?」

「ええっでも何かが違うんですよね……」

「だったら今此処で実演しますよ」

 

その言葉にセシリアと乱はやや驚いた、彼が料理をするという事は知っているが何処まで出来るのかという事は詳しくは知らなかった。セシリアは一度彼の実家に行ったが、その時は結婚やこれからの関係についての会話だったのでその辺りの事は全く話さなかった。乱も実家を訪れて挨拶を済ませているがその時は、手伝いとカミツレの近況報告が主だった。

 

「そうですね……それじゃあセシリアと乱ちゃんが覚えたいって言ってた肉じゃがからやりましょうか。俺の母さんから習った肉じゃがを」

「いいですねぇ!!カミツレ君の肉じゃが私大好きです、手が空いてる料理部の皆さん集合です~!!」

 

そんなこんなでカミツレのお料理教室が開かれた、カミツレとしても自分の家で作られた野菜が使われているのだからやるのに普段通りに出来る。周囲の女子達の視線を集めつつも普段通りに調理を始めていく。

 

「この時にポイントなのが、此処で直ぐに切らずに少し時間を置く事なんだ。そうした方が良くなるんだ」

「「「へぇ~全然知らなかった!!」」」

「メモですわ、メモ……!!!乱さん、一言漏らさずにチェックですわ!!」

「分かってるわ、カミツレさん直伝の肉じゃが……!!!!」

 

恋人二人も真剣にそれを見ながらメモを取っていた、料理部の部員達も見習うレベルの集中力である。何故肉じゃがを覚えたいのかというと……日本では昔から肉じゃがが上手な女性と結婚した男性は幸せになると言われている……と聞いた事があるからである。それで是が非でも覚えたいという思いがあるのである。しかも肉じゃがのレシピはカミツレが母から受け継いだ物、つまりお袋の味……!!それを作る事が出来たならばきっと、カミツレを喜ばせる事が出来るという考えからだった。

 

「それで水は別に無しでいいんだ、野菜から出る水分だけで仕上げると味が濃厚になるんだ」

「水っと……」

「後は待つだけ……んっ?」

 

間もなく完成という肉じゃが、そんなカミツレの耳に爆発音のようなものが聞こえてきた。

 

「どうかなさいましたかカミツレさん?」

「いやなんか……何かが爆発するような音が……」

「ああ。きっと美術部の爆弾解体ゲームの音ですね」

「物騒なゲームだな……おっとそれでこの時に注目するのは……」

 

真耶の言葉もあってあまり気にも留めなかったカミツレは、調理の指導に戻った。が、その時真耶は窓の外を見ながら仄かに微笑んでいた。

 

「(名誉、挽回って奴ですね。私はこのまま護衛を続けますからね)」

「真耶先生、此処から重要ですから確りみてくださいよ」

「はい、確り見ます!!」

 

 

「ぐっ……がぁぁぁっ……!!!」

 

閉鎖されている校舎の一角、そこでは爆炎と煙が立ち込めていた。そこいら中に広がっている壁であった物の破片とISのパーツであった筈だった金属片。その中心地で崩れ落ちるかのようにしながら、必死に身体を支えている一人の女。苦しげに息と言葉を漏らしながら、目の前にいる二つの影を忌々しげに睨みつける。

 

「まだ意識があるなんて想像以上にタフいわね、でもまあもうまともに動けない筈よ。ISは大破、貴方も肋骨に左足、右肩と腕が完全に逝ってる。これで動けたら化け物ね」

「くそがぁぁっっ…!!」

「あらあら、もう少しお淑やかな言葉遣いを覚えた方が良いわよ。そう―――私みたいにね」

 

その言葉と共に一発の弾丸が飛来する、それは正確に左肩を貫きそこ鮮血が溢れ出す。苦痛に歪んだ声が溢れるが影は全く動じていなかった、それどころか冷静にもう再度弾丸を発射し今度は右足を貫いた。痛みにもがきながら女は倒れこんだ。

 

「ぁぁぁぁっっ……!!!」

「もう終わりね」

 

影は姿を現して女へと蹴りを加え、その全身に対IS用拘束チェーンを巻き付けて行き完全に拘束していく。特殊な合金とSE技術の応用が成されているこのチェーン、これで一度囚らえてしまえばもう逃げ出す事は出来ない。これでもう動く事も逃げる事も出来なくなった女は、屈辱に塗れたまま悪態をついて気を失ってしまった。

 

「ふぅ…応援有難うございます―――ファイルス先生。私一人では骨が折れましたから」

「私はあんまり役に立ってなかった気がするけどね、それに貴方一人で大分追い詰めてたじゃない」

「それでも一人だと逃げられる可能性もありましたからね、勝つ確率は少しでも高い方が良いじゃないですか」

「まあそうね、でもまあお疲れ様ね―――更識生徒会長さん」

 

二つの影の正体は楯無とナタルであった、彼女らと交戦していたのは学園祭に紛れて一夏かカミツレのISの奪取を目的としていたテロリストの女。一体何処の組織の人間なのかはこれから尋問して行くが、取り敢えずは上々の戦果と言えるだろう。

 

「それにしてもよく気付いたわね、彼女だって」

「これでも一応暗部の家の人間ですから、血と腐った人間の匂いには敏感なんです。後はまあ勘ですかね」

「御見逸れしたわね」

 

男子二人の何れか(一夏かカミツレ)を狙っていたこの女、すれ違った際に感じた違和感と血の匂いに楯無は素早く反応し彼女を立ち入り禁止の通路を通ってアリーナへと導こうとした。しかし、途中のこの場で目論見がバレてしまい敢無く戦闘を開始。狭い場所という事もやや抑え気味ではあったが、それでも国家代表は伊達ではないという事を見せ付けて圧倒した楯無。相手は劣勢とみるや撤退しようとするがそれを遮ったのは応援コールを受けたナタルであった。彼女の登場で撤退も出来なくなった相手は、戦闘を続行したが楯無とナタルのタッグに倒されてしまったのが事のあらましである。

 

「其方も済んだようだな」

「わたくし達の方も済ませてきましたわ」

「お疲れ様、如何だったかしら?」

 

その場に新たに現れたのは千冬とヨランドであった、二人はチェーンで拘束されている女を見下ろしながら溜息を吐いた。

 

「私も鈍った、ヨランドもいたというのに逃げられてしまった」

「不覚でしたわね……伏兵は十分に想定していたというのに」

 

どうやら二人の方も敵と戦っていたらしい。しかし戦果は芳しくなく捕縛した女の仲間と思われる操縦者を取り逃がしてしまった。あの千冬とヨランドの二人掛かりで逃がすなんて一体どれだけの手練れなんだと、楯無は冷や汗をかくが千冬の言葉に別の意味で汗をかいた。

 

「全く…無人機30機程度に足止めを食らうとは……」

「わたくしもまだまだ未熟という事ですわね。もっと精進しなければいけませんわ」

「……えっ」

 

千冬とヨランドは仲間と思われる相手を圧倒していた。その相手は勝つ事が不可能と察したのか撤退を始めた、その撤退を補助するかのように出現したISに似せて作られた機械群。それらを全て潰していたら追跡不能距離まで離されてしまったとの事、なので致し方なく戻ってきたらしい。

 

「さほど強くもない物に手古摺るとは……不覚の極みだ」

「全くですわ。わたくしの「シャティーナ・ブラーボ」は本国で整備中故に「ラファール」でしたが、それでもあんなに時間が掛かってしまうなんて……情けない限りですわ」

「ああ…「打鉄」だったとしてもあれは時間が掛かりすぎた。私も久々に鍛えなおすか……」

「……いや、なんか可笑しくない……?」

 

そんな教師と生徒会長、そして来賓の国家代表によって学園祭の平和は守られたのであった。「打鉄」と「ラファール」のオーバーホールと校舎一角の崩壊という事象と引き換えに……。


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