IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

9 / 341
第9話

精一杯やった、やれる事は全力でやったと確信を持っている。同時に俺は思う―――相棒になってくれたカチドキと真耶先生に心からお礼を言いたいと。あの時ブレードが零れたのは偶然だったのだろうか、運命の悪戯かは分からないけれどそのお陰で逆転の一手となりジャイアントキリングまでとは行かないが引き分けまで持って行けたのは間違い無い。今度の休みは相棒の修理に使おう、感謝を込めながら自分の手で直してあげるのが一番のお礼何だと俺は思う。

 

そして真耶先生、今日この結果を得られる事が出来たのは紛れもないあの人のお陰なんだろう。覚えが良くない俺の為にメニューを組んでくれた上に遅くまで付き合ってくれた。ISの整備や設定のコツまで何から何まで教えて貰えた。あんな立派な先生に出会えた事が俺の学園生活の中で一番の僥倖だったのかもしれない。さてと……まずは真耶先生にお礼を確りと言う所から始めようかな。

 

「ハァハァ…」

「カミツレ君お疲れ様です!!」

「杉山大健闘だったな、よくやった」

 

ピットへと戻ったカミツレを出迎えたのは真耶と千冬であった。最後の一撃での位置の関係上、セシリアのピットの方が近かった事と次はセシリア対一夏である事、その次はカミツレと一夏である事を踏まえてセシリアと同じピットへと戻るように指示がされている。出迎えた真耶の笑顔と少し微笑みを作っている千冬を見て気が抜けてしまったのか、カミツレはカチドキを解除しながら崩れ落ちるように座りこみそうになったがそれをセシリアが支えた。

 

「ハァハァ……ミス……?」

「お疲れ様ですミスタ、さあお手を貸しますので確りなさってください」

 

柔らかい笑みを作りながら手を貸してくれるセシリアの助けを借りながら壁へと寄りかかったカミツレは肩で息をするように荒い息を吐き続けていた。勝負が終わった途端に押し寄せてきた安心感と張り詰めていた気が緩んでしまった感覚によって身体に上手く力が入らなくなっている。それを見て千冬は無理もないかと彼へと冷えたスポーツドリンクを差し出すとカミツレをそれを受け取ってグビグビと流し込むように飲み始めた。

 

「プハァ!!はぁぁはぁぁぁっ……きっっっつい!!!」

 

実感の篭った本音を思わずぶちまけた。今日まで溜め込んできたストレスが爆発したかのような言葉に全員が少し苦笑いを浮かべてしまっていた。

 

「でもカミツレ君、本当に大健闘でしたね!!あそこまで立派に戦ってみせた上にあのオルコットさん相手に引き分けなんて……教えた私が言っちゃいけないかもしれませんけど、本当に始めて2週間とは思えないですよ!」

「ははっ、真耶先生のお陰ですよ……本当に、有難う御座いました……!!」

 

その場で正座をしながら土下座をするかのように深く頭を下げた。攻撃、回避、防御、あらゆる基本を教えたくれた上に長い時間自分に付き合ってくれた真耶に対しては感謝の言葉を幾ら尽くしても言い切れないほどの恩が出来てしまった。心から彼女への感謝で溢れている。そんな弟子からの言葉に真耶は真っ赤になりながらあたふたと必死に言葉を作ろうとしている。

 

「そ、そそそそんな私なんて基本を教えただけで、後はカミツレ君が自分でそれを生かして力を発揮したからですよぉ!!」

 

それを見つめる千冬はあの真耶に出来た弟子の光景に思わず微笑ましい気持ちが出来てしまった。そしてそれと同時に羨望のような眼差しを送ってしまった。正直カミツレがあそこまでやるとは思っても見なかった。最初の予想ではある程度善戦こそするがセシリアに敗北すると思っていたのだが、結果はそれを覆し健闘した上での引き分けであった。これは大いに褒められるべきだろう。

 

「オルコット、お前も残念だったな。だが終盤辺りはかなり良かったぞ」

「有難うございます織斑先生。でも不思議なんです、負けた筈なのに悔しさも怒りもなくてその、清々しさと楽しさが心を突き抜けてるんです……」

 

今まで感じた事もなかった感覚を味わったように困惑した表情を浮かべる少女に共感したかのように軽く頭を撫でた。

 

「私もそれは経験した事がある。互いに全力をぶつけ満足が行く試合をした時にはそのような感情が生まれるのだ。それを感じられるのであればお前はもっと上へと昇れるだろう、精進を続けろよ?」

「はい!!」

 

素直に返事を返すセシリアに頷いた千冬はカミツレへと視線を向けた。そこでは漸く頭を上げたカミツレが真耶から如何に自分の力でこの結果をもぎ取ったのかを力説されており、照れているかのように頬を赤らめている。何故か小動物的な可愛さを刹那に感じたが何故だろうと?を浮かべながら其方へと足を動かす。

 

「真耶、その辺りにしてやれ。それと私にも話をさせてくれ。お前はオルコットの準備を手伝ってやれ」

「あっ、そうですね!では行って来ますね!!カミツレ君は確り休むんですよ!?」

「分かって、ますよ……」

 

壁により掛かっているカミツレは精も根も尽き果てているかのようにぐったりとしている、それもその筈だ。これは公式な試合ではないが彼にとっては初めての本格的な試合であったのだから。しかも相手はイギリスの代表候補生であるセシリア、その試合は引き分けという結果。それに至るまでの苦労などを考えれば順当な状態と言える。

 

「よくもまああれだけの成果を上げたな杉山、教師としても個人としても良くやったと褒めさせて貰うぞ」

「有難う、御座います……それと、ちょっと意外な感じがします」

「何がだ。私とて褒める時は褒めるぞ」

「いえ、俺はなんか織斑に味方して俺の相手している暇はないって印象があったんで……」

「あぁ……」

 

そういう目で見られていたのかと若干心外そうに顔を歪めるが、そう解釈しても可笑しくはないと気持ちを切り直した。確かに自分には強い影響力があり弟を守る盾となる事が出来る。守れる力があるのならば守ろうとするのが家族という物なのでその考えはある意味正しいと言える。

 

「否定はしないが一応私は教師なのでな、必要以上に一夏に味方はせん。裏ではあいつを守るが表であいつを優遇するような事はせん」

「そうなんですか……すいません、変な事言いました」

「気にするな。お前から見たらあいつは恵まれているからな。そう思われていても仕方ないという物だ。杉山」

 

千冬は屈みながら静かにカミツレの頭を撫でた、出来るだけ優しく。

 

「お前が今日まで努力して来た事は知っている。その努力の結果として今があるんだ。それを噛み締めて明日に繋げろ。私も出来る限り力は貸す、だからこれからも頑張れよ」

「はい、先生……」

「その代わりと言ってはなんだが、どうだ私の指導を受けないか」

「ちょっと先輩、だからカミツレ君の指導者は私ですって!!!!」

 

真顔でそんな事を言ってくる千冬を咎めるようにやって来た真耶はカミツレから千冬を守るかのように間に入りながら手を広げている、それに愉快そうに笑い千冬の声がピットに木霊する。

 

「ハハハハハハッ!!!いいではないか生徒は教師に指導されるものなのだからな!」

「だからカミツレ君は私の弟子で、師匠ポジは私なんですぅ!!」

 

目の前で繰り広げられる教師同士のやり取りに何処か笑いがこみ上げている中、セシリアから個人間秘匿通信(プライベートチャンネル)が飛んできた。

 

『嬉しそうですわね、ミスタ』

『……そう、ですね嬉しい、ですね……俺は、良い先生に巡り合えて幸運なんで、しょうね……』

 

そう返しているうちに安心感からか猛烈な睡魔がカミツレに襲い掛かりあっという間に深い眠りに誘われてしまった。今日まで彼は夜遅くまでセシリアからの講義を受けその後もベットの中では彼女に対する対策を講じていた為に余り眠れていなかった、それと模擬戦による疲れが出てしまったのだろう。真耶と千冬が言い合っている間にカミツレはすやすやと寝息を立ててしまっていた、久しぶりの幸福感に満ちた眠りへと。

 

この後、眠りに落ちてしまったカミツレは心労と疲労によってもう戦えないと判断され、一夏との勝負は中止となりセシリアとの試合のみが行われる事となった。結果としてはカミツレとの試合でレベルアップしたセシリアに剣道ばかりやって来た一夏が勝てる訳もなく、全く寄せ付けない戦いを展開した彼女の圧勝となった。その日はこの二試合のみで終了となったがこれによって大きく未来が変わっていくのをカミツレは知りもしなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。