無事に終了した学園祭、大盛況の内に幕を閉じた学園。その裏では大きな陰謀と力が蠢いていたにも関わらず、それらは強い力を持った大人と生徒会長によって倒されたお陰で平穏は緩やかに流れたままであった。それでも一部校舎が崩壊しているという事態が起こっていたが、それらは生徒会と教師陣が上手く処理したのか上手く誤魔化されていた。
「セイヤァァァッッ!!!!」
「っ!!そうですわ、もっと強く深く斬り込んで来るのですわっ!!!」
学園祭が終わっても彼らにとってはまたいつもどおりの毎日が訪れるだけであり、それを享受する。ただそれだけと言わんばかりに過ごしているカミツレは、宣言通りに学園に駐在し続けているヨランドに指導を受けていた。真耶の代役と本人は言っているが、本当の所は怪しいものである。
「まだまだぁっ!!!」
各部スラスターの出力を同時に全てを調整しながら肉薄しつつ接近戦を演じ続けるカミツレ、それを「ラファール」のブレードで全て受け止めて対処をするヨランド。『超術』と呼ばれるだけあってカミツレの行動パターンの殆どを予測し、それらから逆算した対処を行い続けている。激しい軌道を描きながらブレードでの剣戟を行い、そしてオールレンジから行われる「ヴァンガード」の射撃や突撃にも対処するという化け物のような事をやってのけている。
「はぁぁっ!!!」
「ぐっ!!!」
一喝と共に弾き飛ばされる機体、カチドキが同時に姿勢制御を行うがほぼ同時に銃撃の雨が飛来してくる。複数の処理を同時にカミツレとしながら「ディバイダー」で防御を行う、攻撃の切り替えと使い分けが余りに絶妙で此方に策を練らせる隙すら無い。
『接近警報』
「隙、ありっ!!!」
「ありませんっよっ!!!」
銃撃に気を取られ防御に徹し過ぎた間、そこへ投げ込まれてきたのは複数のグレネード。それが同時に点火され機体は凄まじい爆風によって吹き飛ばされてしまう、必死に機体の制御を行うが視界の先には「
「バースト!!!」
「ぐっ……!!」
発射の際、エネルギー量を調節する事でマシンガンとしての役割も果たす「スターダスト」。カミツレはその特性を利用し、一発にマガジン内全てのエネルギーを集約させて強力な弾丸へと変換して発射した。低い重低音と共に放たれた高出力レーザー、ヨランドが使用する教員仕様の「ラファール」へと炸裂していく。それだけでは終わらないと「スパークルエッジ」を突き立てるようにしながらブーストを行う。
「やり、ますわねっ……!!でも、わたくしはそう簡単に勝利はあげません事よ!!」
「っ!?」
突き立てていたブレードが突如として軽くなった、ヨランドから刃が外れていた。突き立てていたと思っていたのはそう思わせていたヨランドの演技、実際はまともに当たってすらいなかった。そして代わりと言わんばかりに抱きしめられたカミツレはそのまま、パイルバンカーを押し付けられた。そして……零距離でそのまま受け続けてしまい、全てのSEを使い果たしてしまった。
「だぁぁぁっ……ヨランドさん、化け物かよ……」
『全方位からの攻撃を把握しつつ幾つもの罠を仕掛け、そこへ巧妙に誘いこんだ上で強力な一撃を加える。有効な戦法と言わざる得ません、人間の経験と勘は時に我々を凌駕するという事でしょう』
「ホントだよな…」
完全な敗北を喫したカミツレ、別段ヨランドに勝てるとは思ってはいなかったがそれでもいい勝負は出来ると思っていた。自分とカチドキ、そして「蒼銀」だからこそ可能に出来る役割分担による攻撃。BT兵器をカチドキが制御しカミツレはブレードとライフルを用いて攻撃をするという手段なのだが…いとも容易くヨランドに突破されてしまった。少し自信を無くしそうである。
「もしかして、これって他の人にも通用しないわけないよな……?」
『カミツレ、ショックなのは分かりますが落ち着いてください。あんな事が出来る人間が複数いたら堪ったものではありませんよ、インフレもいい所です』
「まあ…そうだよな…」
寧ろ相手が完全に規格外なのである。ヨランドは千冬と並んで最強のIS操縦者の一人として名前が上がる人物、そんな彼女だからこそ初見で対処出来たような物でもある。BT兵器に馴れ親しんでいるセシリア以外の代表候補生ならば、対処する事も出来ず倒せるだけの力がある戦い方。自室にて今回の模擬戦の反省点を書き出そうとしているのだが……んなもん出てくる訳が無い、敗因はハッキリしている。相手がヨランドだった、それに尽きる。
「まだまだ道のりは遠いなぁ……」
遥か見果てぬ先に立っている憧れの人の背中、自分はまだまだあの人の背後にも立てていない。ヨランドの姿を彼方からハイパーセンサーで見つめているような状況こそ自分がいる現実、何時かその姿に迫りたいと強く思いながらもカミツレは何処か笑っていた。そんな時、扉がノックされた。
「カミツレさん、宜しいでしょうか」
「んっセシリア?どうぞ~」
聞こえてきた声はセシリアの物だった、鍵は掛けていなかったのでそのまま入るように言うと扉が開け放たれて恋人であるセシリアが入ってきた。軽い会釈をしながら鍵を掛けて隣へと腰掛けた。
「如何したんだセシリア?」
「そ、その…きゅ、急にカミツレさんに甘えたくなったといいますかその…つい来て、しまいました……」
上目遣いで此方を見つめてくるセシリアは酷く可憐で庇護欲が掻き立てられる程に刺激的だった、思わず彼女に手を回して抱きしめてしまった。
「きゃっ!?カ、カミツレさんいきなり過ぎますわ……♡」
「ご、ごめん…でもセシリアが可愛すぎるのが悪い……」
「もういけない人……でも、嬉しいですわ」
そう言いながらカミツレの腕の中で身体を回して向きあったセシリアは、真っ直ぐとカミツレを見つめた。
「実は今日はお願いあります、そ、その……恋人になったのですから、そのキ、キスをしたいのです……」
「えっ……」
消え入りそうな声で告げられた願いにカミツレの思考は停止してしまう、愛しい恋人からのお願いは極力叶えるようにしている彼。しかし予想外のお願いに硬直してしまう。頬を赤く染めながらセシリアは続ける。
「私達は将来結婚するのですし、その……えっと、も、もっと深い仲になりたくてその……」
「あっえっと、その……お、俺キスなんてした事無いから……あの…」
「そ、それは私も同じです…!!で、ですので……」
互いに赤くなりつつも目をそらせない、そんな時間が流れていく。そして二人は自然と顔を近づけていく、ゆっくりと上げられた手は磁石のように引き合いながら絡み合っていく。吐息は混じり合いながら甘く蕩けていきながら唇を湿らせて行く。閉じられた瞳、そのまま距離は縮まり―――一つになった時、甘い物が頭を溶かした。
「私の、ファーストキス…カミツレさん……嬉しい、ですわ……」
「セシリア…俺もだよ……」
そのまま互いを深く抱きしめあった二人は満足するまで、甘い時間を過ごしていた。一歩、大人の階段を登ったカミツレ。そんな彼に喜びを感じているのはセシリアだけではない。
「さて…そろそろご飯食べに行こうかな♪」
天災もまた、彼を好いている一人なのだから。