IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第91話

「―――っ」

 

日も傾き始めてきた頃、カミツレはベットの上に座り、身体を休めながら天井を仰いでいた。腕と身体には恋人の体を抱き締めた時の柔らかさと体温が染み付いているかのように香っている。その香りはあの時の感触と感覚を容易く思い出させ、顔を赤くさせてしまう。そして……

 

『―――私の、ファーストキス…カミツレさん……嬉しい、ですわ……』

 

唇に残っているセシリアの暖かくも柔らかく、甘かった唇……思わず何度も唇を触れてしまうほどに鮮明に記憶に焼き付いている。自分のファーストキスでもあり彼女にとってでもあったファースト、それを互いに捧げあった事は大きな意味を示しているに加えて自分が誓った思いの証明でもある。

 

「……柔らかった、な……」

 

忘れる事の出来ない思い出、自分の事を理解し、支えてくれると言ってくれた素敵な女性との大切な思い出を確りと胸へと刻み込む。生涯を通しての宝になるべき記憶であり出来事、思わず微笑を作ってしまう。思わずまたしたいなと素直に思ってしまった、そんな自分に恥ずかしくなりながらも笑っていると目の前に影が落ちた。その影はじっと自分を見つめた―――束だった。

 

「やっほっほ~い♪」

「おわあああぁぁっっ!!!?」

 

いきなりの事に驚きながらベッドから落ちるカミツレとそんな彼を見て愉快そうに微笑んでいる天災、篠ノ之 束。この部屋に現れる度に思うが、一体何処をどうやって現れているというのだろうか。瞬間的に出現したかのような神出鬼没さ、全世界指名手配になっているが未だに捕まっていないのも理解出来る。

 

「カッ君お久しぶり~♪」

「ビ、ビックリさせないでくださいよ……はぁぁっ……んでご飯ですか?」

「うん♪」

 

まあ彼女が此処に来る理由なんて十中十、食事しかありえない。それ以外だと自分の事を誘惑でもしに来るぐらいだろう、まあ千冬のお陰で割と今までの物は簡単に受け流して来たのだが……そんな事は置いておいてキッチンへと向かおうとするが、束は手を掴んで立たせようとしなかった。寧ろ隣に座りこんで目をじっと見つめてくる。

 

「今日はね、別のご飯を食べに来たんだよ」

「別の……ってどういう事です?」

「うん、こういう事」

 

そう言いつつ束は身を乗り出して近づいてきた、そしてそのまま…唇を軽く合わせてきた。子供がするかのように軽く合わせるだけの短いキス、しかしそれはカミツレの思考を奪うには十分すぎる物だった。一瞬で思考が死に、頭が別に意味で真っ白になって行く。漸く再起動出来た時には目の前の天災は微笑み続けていた。

 

「ななななぁぁぁっっ!!!!?」

「アハッいい反応♪」

「何するんですかぁぁっ!!!?」

「別にそんなに驚かなくてもいいじゃん、初めてじゃなかったんだし」

「―――っ!!?」

 

その言葉にカミツレは顔を青くしたり赤くするのを繰り返した、束はつまり自分とセシリアのキスを見ていたという事になる。一体どうやってと思う前に彼女ならばそんな事簡単だと思う自分と、何で見たという怒りたい自分、そして嫌な予感を察知した自分がいる事に気付いた。

 

「あの子がカッ君の初めてだったもんね、束さんもその位弁えてるよ」

「あっ……」

「でもね、二番目は負けたくないかな。こう見えて負けず嫌いだから束さんは」

 

だからね、と言葉を続けながら距離を詰めてくる束にカミツレは何も出来なかった。身体が動かなくなっていた、寧ろ動かしたくなかったのかもしれない。まがりなりにも束は自分の事を酷く好いてくれている、純粋な思いで想ってくれる相手を前にしたからか、僅かに応えたいという気持ちが沸いてきてしまった。それに気を良くしたのかカミツレを抱き寄せながら顔を一気に近づけ、軽く舌で唇を濡らして言った。

 

「―――今日は君を頂くね。いただきます」

「束さっ―――」

 

それ以上の言葉が続く事はなかった、束によって口を塞がれてしまったからだ。セシリアのとも違った力強く包みこむような物、しかしそれは長くは続かず束は唇を離して笑みを作る。

 

「うん、美味しい……もっと―――食べたいなっ」

「束さんあの、ちょっと待って……!!」

「うん分かってるよ、お互いの事を知ってからでしょ?約束だからね、そこは弁えるつもり」

 

そう言うと額にキスを落としてカミツレから離れて小躍りするように回る。

 

「今度はデートをしようね、それでもっともっとお互いの事を知り合ったらいっぱいしようねっ♪」

 

最後に投げキッスをカミツレへと飛ばすとそのまま部屋から出ていってしまった、何時もならIS学園で騒ぎが如何して起こらないんだと疑問に思う筈だが、今ばかりはそんな事を考える理由はまるでなかった。ぐったりと身体を床に投げ出しながら声を上げてしまった。

 

「あぁぁぁっ~……ああもう本当にいい女だよな束さんはったく!!!」

 

苛立っているかのように声を上げるが実際はそんな事はなかった、束の事は嫌ってもいないし好感を抱いているぐらいだ。だが如何にも素直になれない、そんな複雑な少年心が荒ぶっているのである。

 

『そう言いながら、ドーパミンやオキシトシンが脳内では多く分泌されているようですが』

「そりゃ……気持ち良かったからだよ!!!」

『それは結構です、お父様』

「喧しいわ!!!!」

『それとお父様、もっと幸せになれますよ』

「だからやめろって…なにっ?」

 

カチドキの言葉に思わず疑問を抱いて言葉が止まった、どういう事だろうかと考えるよりも結果が早くやってきた。それは扉を開けて元気いっぱいに自分に抱き付いてきた乱であった。乱は瞳をキラキラと輝かせながら自分を見つめている。

 

「聞きましたよカミツレさん、セシリアとキスしたって」

「あっああ……そうだけど」

「じゃあアタシも、してもいいですよね!」

「えちょ待って心の準備―――むぅっ!?」

 

 

「カ、カミツレ…?な、なんかやつれてないか……?それに引き換え、なんかセシリアと乱さんは元気そうだけど……」

「……聞かないでくれ。一つだけ言っておくぞ、女は、強いんだ……そして、行動には責任を、持て……」

「お、おう……」




次回から多分、第6巻の内容かなぁ……。

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