IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第92話

「誕生日ねぇ……」

「ああ。その日は中学時代の友達が集まってパーティを俺の家でやるんだけどさ、皆も来ないか?」

 

訓練を終えたカミツレは遅れながら夕食の席に着こうとした時、普段の面子が集まっているのに見付かり一緒に食べる事になった時の話題「織斑 一夏の誕生日」であった。

 

バースデイパーティ(誕生祭)か、日本式はどのような物なのか気になるな。私も参加させてもらおう」

「おう来い来い、鈴も来ないか?」

「あ~…まあ昔のダチに会うのも悪くはないわね」

 

ぶっきらぼうに串カツを食い千切りながら参加を表明する、一夏と一定の距離を取り続けている彼女だが最近の色んな意味で急激な成長を遂げている一夏には複雑な思いを向けながら友人として振舞い続けている。本心としてはもっと早くに成長して欲しかったと言った所だろうか。

 

「それじゃあ僕も行こうかな、折角のバースデイならお祝いした方が楽しいもんね」

「ああ、是非来てくれよ。いっぱいいた方が楽しいもんな、箒も来てくれるよな」

「ああ勿論だ」

 

その言葉に一番の笑顔を浮かべる一夏、最近漸くある程度のポーカーフェイスを習得したらしいが一夏らしくまだまだ隠しきれていない部分が多い。

 

「セシリアと乱さんは如何する?」

「カミツレさんが行くなら行きますわ」

「同じく」

「んでそのカミツレは如何するんだ?」

 

二人からの視線を集めながら答えを求められる男は静かにコーヒーを啜りながら少し思考する、なんだかんだで最近は彼とも悪くない関係を築いてきている。最初こそ考えられなかった関係だが…今なら祝っても良いような気がする。自分でも変わったなと思いを巡らせるほどに変化、転換している自分に何処か笑いを浮かべながら行く意志を伝えると一夏は嬉しそうに笑いながら紹介出来ると微笑んだ。

 

「あっそういえばカミツレの誕生日って一体いつ何だ?」

 

思わず聞いた時、セシリアと乱が凄い勢いでカミツレを見つめた。そう言えば普段から傍に居られている充実感や、漸くする事が出来た恋人らしい事に完全に気を取られて忘れていた。そんな彼の誕生日を知らなかった……充実していた毎日だったとは言え恋人の誕生日を知らなかったとは……。何たる不覚かと言わんばかりにカミツレへと視線を集中させている。

 

「俺か?別に良いだろ如何でも……」

「「よくないっ!!!!!」」

「アッハイ」

 

正直カミツレにとって誕生日は余り深い印象はない、実家では毎日が騒がしく楽しい日々だったので誕生日が全く印象に残らない。そもそも誕生日パーティをした記憶すらない、幼い頃はやっていたのかもしれないが全然覚えていない。故か自分でも何時が誕生日だったのか全然覚えておらず、徐に生徒証を取り出して確認する。

 

「え~っと……」

「杉山君覚えてないんだ……誕生日」

「ああ。マジで如何でもいいからな、ああ此処か。9月の……23日だな」

「同じ月だったのか俺達」

「みたいだな」

 

同じ月の生まれだったと驚く一夏と至極如何でも良さそうな表情を浮かべているカミツレ、本当対照的な二人である。がそんな二人をよそにセシリアと乱は全力でガッツポーズを取っていた、今年の誕生日を逃しておらず祝う事が出来るという事への安心感と喜びが全身を突き抜けて行く。

 

「んじゃまずはカミツレのパーティをやるか?」

「いいよ別に……態々年取るだけの日だぞ、んな事されても俺が困るわ」

「そっかぁ?普通に誕生日は祝うだろ」

 

本当に如何でも良さそうにしているカミツレにセシリアと乱は決意した、愛しのカミツレの為にサプライズのバースデーを行う事を。この後、セシリアは本国にいるチェルシーとリチャードに連絡を取ってどのようなパーティを行うべきかを協議しつつプレゼントの選別に掛かった。何せ自分には愛の伝道師が付いているのだから心強い、しかしそんな愛の伝道師は世界の何処かで吐血して嫁に慰められるのであった。

 

一方乱も何もしない訳ではなく、経験豊富な両親と親戚に連絡を取って一体どんな物を送ったら喜ばれるのかという物を真剣に悩むのであった。そして最終的に手作りの物に落ち着いたらしい。どんな物かは同日までのお楽しみにという事。

 

「にしても、その日って確かあれがあるんじゃなかったか」

「ああ。だから終わってからだな」

 

カミツレの言うあれとはISの高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』の事である。国際大会としても採用され行われている競技で、カミツレもよく知っているヨランドもそれに何度も出場し栄光をその手にしている。市のイベントとして行われる物にIS学園の生徒も参加するらしく、この場の箒以外全員が専用機部門の参加が義務付けられている。

 

「にしてもレースか……IS使ってやるってすげぇ豪勢なマリオカートだな」

「いや一夏、マリオカートと同一視するのはどうかと思うよ……?」

「だって赤甲羅とかの代わりにミサイル、キノコの代わりに『瞬時加速』とか適応したら完全にマリオカートじゃね?最近のマリオカートって海の中とか重力無視して走るし」

 

なんとも身も蓋もない言葉に一同は苦笑いを浮かべる、まあ言いたい事は理解出来るような気もするが…カミツレはマリオカートのキャラ選択画面に各国の国家代表を組み入れた物を想像して、僅かに噴出す。

 

「カチドキの高機動パッケージはない筈だからスラスターの出力調整とかもしておかないとな……「ディバイダー」とかしっかりやっておかないと大変な事になるからな」

「あっやべ俺もやっとかないとな……」

「あっそうだ。カチドキ、明日整備室行くから連絡しといてくれ」

『了解しました』


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