その日、カミツレの姿はアリーナにあった。「蒼銀」のスラスター出力を『キャノンボール・ファスト』用に組み上げたプログラムをカチドキが完成させたので、それとの親和性をカミツレ自身の目と手で確認する為に整備室で作業をし、帰りに軽いテストを行う為にアリーナを訪れていた。使用出来る時間は僅かなので早く行動を起こす必要がある、ISを展開しプログラムを実行して出力を変更する。
「始めるぞ」
『OK! START YOU'RE ENGINE!!』
「……今度はドライブか?」
『イッテイーヨ!!』
「……キュウニ、マッハ……」
相棒の特撮物への嵌り方は少し何とかしなければ行けないと決心しつつ、スラスターに火を点して一気に加速する。一気に加速していく「蒼銀」は普段よりもピーキーな操作性になっており一度稼動させると強制的に最低出力は60%に保持されるという物になっている。これに負荷を掛けて速度を落とす事は出来るが、負荷を掛けなくすると再び出力は60%へと戻され加速するという仕組みになっている。
「ぉぉっ……!!」
ループを描くように曲がる、そしてストレートになると強制的な加速。高機動中の意識分配を減らそうとしているカチドキなりの気遣いらしく、カチドキはそれ以外の事に集中するらしく。何せバトルレースなので攻撃による妨害は勿論許可されている。故に本体から独立して操作する事が出来るBT兵器を保持しているカミツレは非常に有利となっている、セシリアもそれに当て嵌まる筈なのだが…当日には高機動パッケージである「ストライク・ガンナー」に換装すると本人が言っていた。それはティアーズを固定してブースターとして使用するらしいので、実質BT兵器を使えるのはカミツレだけとなる。
「おおおっっ!!!」
『SP-SP-SPEED!!』
『瞬時加速』を使用して更に速度を高める、高機動用プログラムを作動している状態では『瞬時加速』にて使用されるエネルギーも通常時よりも高くなる為に速度が今まで以上に爆発的に跳ね上がる。それに今の内に慣れておかないと本番で大失敗を起こしてしまう恐れがある。普段の物より約3割程高い速度に戸惑いながらもそれに順応して行く。
「しゃあっ!カチドキ、最後の仕上げだ!」
『OK!!! FOR-FOR-FORMULA!!』
そして遂にもうカチドキではなくベルトさんと呼んだ方が良いのかと思い始めてきたカミツレは自分の最高の技術である物に踏み込んだ。「
「っっっ―――!!!!!!」
超高出力のエネルギーが各スラスターから点火されていき、残像所か一瞬世界から消え失せたかのような爆発的な速度を生み出す。味わった事すらない速度の領域、一瞬時の薄い膜の切れ目が目に焼きつくほどの速度に困惑しそうになるがそれをヨランドからの教えが引き戻す。
『高機動時における最大の注意は平常心を持ち続ける事ですわ。それが抑制剤となって常に本来の自分をみせ続けてくれますわ』
常に自分を見続ける、余裕が本当の自分と心の安定を導いてくれるとの教えが困惑から開放してくれる。そして時の中を突き進む「蒼銀」を制御しながらカミツレはアリーナの地面に着地した。それと同時に各部から放熱が行われていくのを見て、確かな実感と感覚を掴む事に成功した。
『個別連続瞬時加速の成功を確認。NICE DRIVE!!』
「あんがとさん…というかカチドキ、お前マジでドライブに嵌ってる?」
『YES。あの作品は私達ISのコア人格としても興味深いテーマを扱っております。何よりストーリーも面白く、ベルトさんがユニークです』
「まあ分からんでもないか……」
確認も終了したのでピットへと帰還し展開解除を行う、大きく息を吐きながら部屋へと戻る事にした。
『今現在、コア・ネットワーク内の人格会話ではどの仮面ライダーが一番好きかという事に触れております。カミツレはどれを推しますか?』
「俺ぇ?うーん……どのライダーも好きだからなぁ、でも一番印象深いのは555かな」
『気が合いますね、流石相棒。ですが№1なのはドライブなのは譲りません』
「そもそも全部のライダー好きだから、それに優劣を付ける気ねぇよ」
そんな会話を相棒としているとその途中で部活終わりのセシリアとバッタリ出くわした。
「あらカミツレさん、カミツレさんも訓練からのお帰りですの?」
「ああ。セシリアは?」
「私はテニス部での練習が終わったのです」
「テニスか…やっぱり練習きついか?」
「ええそれなりには。さすがIS学園ですわ、潤沢な資金と環境があるお陰かレベルも非常に高くてやり甲斐がありますわ♪」
そんな笑顔を浮かべるセシリアに相槌を打ちつつもテニスウェアに身を包み、優雅且つ美麗にショットを放つ彼女の姿を想像して思わず心がときめいてグッと来るカミツレであった。しかしそんなテニス部の練習も厳しいものなのか、やや息は乱れ少しダルそうにしている。
「これからセシリアは部屋か?」
「はい、シャワーを浴びるつもりですわ」
「そっか…それなら後で俺の部屋に来ないか?これでもマッサージには自信あるんだぜ?」
「ま、真ですの!!?」
「ああ偶には、俺からサービスしてあげないとな」
その言葉に目を輝かせるセシリア、これは是が非でもやって貰おうという決意が現れる。そしてこれでカミツレとの仲を深める事も出来るのだからいい事尽くめである。
「それでは一度部屋に……いえ何でしたらカミツレさんのお部屋のシャワーで……」
「勘弁してくれ……」
「フフッ冗談ですわ♪」
一度お辞儀をしてから軽いスキップを踏んで部屋へと向かって行くセシリアにまだまだ勝てそうにないなと思いながらも自分も部屋へと戻って行く。軽い感じで言ってしまったが、今から少し緊張してきてしまった。