鼻唄混じりにシャワーから溢れてくる温かな水流で泡を流していく、実は部活直後に一度シャワーで汗は流しているのだが念には念を入れてと思いシャワーを浴びている。これから愛しの彼の部屋に行くのに、少しでも汗臭いと思われるのは恋人として嫌な気分なのだ。
「いえ、でもカミツレさんになら寧ろ……い、いけませんわ淑女としてはしたない!!」
一瞬危ない事を考えてしまったセシリアは顔面からお湯を被って正気を取り戻すが、顔が笑ってしまって致し方ない。あのカミツレにマッサージをして貰えるなんて嬉しすぎて可笑しくなってしまいそうだ、肌に触れて身体を解して貰える……考えるだけで妄想がスパークしてしまいそうになってしまう。そんな自分を諌めながら身体を良き拭いて、お気に入りのバラの香水を吹き掛ける。
「しっ下着はどうしましょう……」
帰国した時に愛の伝道師ことリチャードの妻であるドロシーの協力を仰ぎ、入念に吟味して手に入れた勝負時用の下着……決して派手過ぎず淡白すぎない調和の取れた物で事前にドロシーがリチャードに対して使って見た所、鼻血を垂らしていたとの事なので効果は絶対に期待出来る!が、それを今使うべきなのかという事である。
「……もういっその事、上の下着は付けないというのも……そ、そそそそんな恥ずかしい事なんて出来る訳ありませんわっ!!?」
それからセシリアはじっくりと30分、時間を掛けて服を選ぶのに要してしまった。そして彼の部屋の前へと立って控えめにノックする。あくまで淑女らしく、お淑やかに装っているが内心では興奮と緊張でいっぱいであった。結局彼女が纏っているのは無難なパジャマだった、がシルク製且つイギリスの高級店で購入した物なので一般家庭のそれとは一線を画している。
「セシリア、待ってたよ。さあ入ってくれ」
「え、ええ。お待たせして申し訳ありません、お邪魔しますわ」
「良いんだよ、レディの準備を待つのも男の甲斐性ってリチャードさん言ってたし」
「(愛の伝道師のおじ様ぁぁぁっっ!!!)」
今日も何処かで大貴族の当主が吐血する。
「やる前にお茶でも飲むか?リチャードさんから貰った奴が残ってるし」
「ええ、頂きますわ」
「んじゃ直ぐ入れるよ」
これほどに簡単なやり取りにさえ心が弾み、お茶を入れる動きをしているカミツレを見ているだけで幸せになれる。カミツレを守る為に複数の恋人を認めると最初に決めたのは彼女、しかし今は…今だけは彼を独り占め出来ているという事実が胸を満たし、ドキドキに拍車を掛けている。
「(はぁぁっっ……ますます魅力的な殿方になって行きますわぁ……)」
最初から彼の事を見続けているセシリアにとって今の彼は魅力的で理想の異性その物であった、初心者と指導者から始まった彼との関係。それが紡いできた絆は何時しか恋、愛へと変わって行く。彼の立場は気付けば初心者からイギリス国家代表候補生、自分と同じ立場になり交際を決め恋人同士……将来を誓い合った仲へとなっていた。
「はい、セシリアはミルクとかいれるのか?」
「いえこのままで結構ですわ、御気遣い有難うございます」
「気にしないでくれよ、恋人同士なんだから」
テーブルの上へと差し出された手、それへとそっと手を伸ばして互いの体温を感じあう。心から幸せを感じながら紅茶を飲む、心が落ち着いていくのが手を通じてカミツレにも伝わっているのか彼は笑顔を崩さない。
「それじゃあ、そろそろ始めるか。俺のベットで悪いけど横になってもらえるか?」
「はっはい宜しくお願いします!!」
思わず大きな声になりながらベットへとうつ伏せで横になる、僅かにかおるカミツレの匂いにイケない興奮を強く覚えてしまう。緩くなっていく頬が高揚して行き思わず匂いを強く嗅いでしまう。そして一言が掛けられてから、足へとカミツレの手が触れられた。瞬間電流が走るかのような感覚を覚えつつも、手馴れた手付きでカミツレのマッサージがされていく。始まっていくマッサージは上質なシルクのパジャマと肌の間で官能的な刺激を齎しながら全身に伝わっていく。その感触に思わず、ドキンと大きく胸が高鳴る。
「ぁぁっん……なん、て気持ち、良さ……」
「そりゃ良かった。にしても大分凝ってるな……身体のケアはしっかりしないと後で辛くなるぞ」
揉み解されていく疲労と募っていくドキドキと興奮、マッサージを施しているのは恋人なのだから無理も無い。そして足から腿へ移行していくといよいよお尻へと手が行こうとする、カミツレは全身のマッサージを請け負っているのだからやるしかない……と覚悟を決める。セシリアもゴクリと喉を鳴らした、毎日下半身の引き締めのストレッチをしているのだからきっと大丈夫だろうと思いながらその時を待つ。
「そ、それじゃあ行くよ……?」
「は、はい……ぁん♡」
柔らかな膨らみに指が沈んで行く、本当に人体なのかと思いたくなる程のやわらかさに真っ赤になりながら必死に解して行く……がその度に強く感触を感じてしまうと同時にセシリアから漏れてくる声に悶々と思いを募らせる。セシリアも頭が沸騰するほどに顔を赤くするが、それ以上に今まで以上の快感に声を出さずにいられなかった。出来るだけ抑えているつもりだがそれでも抑えきれない快感が突き抜けて行く。
「こ、腰に行かせて貰います…」
「お願いします……」
もう疲れてしまっているカミツレと快感で口の端から涎が垂れてしまうほどにだらしない表情を作り、快感の渦に身を委ねてしまっているセシリア。ゆっくり丁寧に。一つ一つの部位を指圧し解されている感覚は如何にも気持ち良すぎて可笑しくなってしまいそうになる、気付けばセシリアはもうそれの虜になっていた。
「よ、よし終わったぞ……」
「んっぅ~……なんて快感だったのでしょうか…からだが軽くなったようですわ♪」
「そりゃ良かった……」
セシリアはとても気持ち良かっただろうか、カミツレからしたら彼女が漏らす官能的な声に暴れようとする理性を止めるので必死でもうくたくたであった。身体を癒す為にやっているのに自分は何をする気なのだと、強く自分を諌めていた。同じくベットに座りこんだ彼の隣に座りなおすセシリアはすっきりしたような表情を浮かべている。
「本当に有難うございますカミツレさん」
「いいよ俺が言いだした事だし、世話になりっぱなしな俺がやれる事はやるさ」
「で、では一つ我が侭を言っても……?」
「んっ良いけど?」
そう言いながらセシリアの方を向いた時、柔らかい感触が唇に触れて甘い匂いが自分を包んだ。離れてセシリアは赤い頬をしながら照れながら笑っている。
「駄目、ですかっ……?」
「―――いいよ」
その言葉を皮切りにセシリアはカミツレを押し倒すように抱きつき、待ち侘びていたかのようにキスをし続ける。そんな彼女を受け止めたカミツレも我慢していたものを、解き放つようにそのまま深く抱きしめながら唇を合わせ続ける。
「ハァッ……んちゅぅ……ぁぁっ…」
「んんっ……んあっ、はぁはぁっ……」
部屋に響く水音と互いを抱きしめ続ける音と混ざり合った呼吸音、何度も何度も繰り返されるキス。落ち着き始めた二人の間には銀色の橋が築かれ光を放っていた。
「カミツレ、さん……」
「セシリア……」
もう一度二人は口付けを交わす、その日一番深くて熱いキスだった。
……誰か、一緒に野菜汁でも飲まないか……。