『やぁ我が姪の夫よ、遂にやってくれたねぇ……我が姪も嬉しそうでなによりだようんうん』
「リ、リチャードさん勘弁してくださいよ…。恥ずかしいじゃないか……」
『ハッハッハッ!何を言う、自分の妻となる女性と仲睦まじく過ごす事を言われ恥ずかしがる事などないぞ!』
「……愛の伝道師」
『ガッハァッ!!!』
「ガチ吐血っ!!?」
投影型のウィンドウの向こう側にいるのはセシリアの親戚でありイギリスの大貴族、ウォルコット家の当主であり良き相談相手でもあるリチャード。久しぶりに向こう側からの連絡を受けたカミツレだが、そのリチャードは酷くニコやかで嬉しそうな顔であった。どうやらセシリアから話を全部聞いたようだ……。
『カ、カミツレ君そ、その呼び名だけはマジで止めてくれ……私にとっては思い出したくもない物なんだ……』
「よくんなもん姪に話しましたね……」
『あの時は良かったんだ…セシリアを元気付ける為だったんだ…それにもう忘れられてると思ったらバッチリ覚えてて……ガハァッッ!!』
「また吐いたぁぁっっ!!?」
この後も吐血を繰り返していたが、それは愛の伝道師という名前を聞いて急激に出来た胃潰瘍による吐血だったと判明。しかし本人曰く直ぐに治るので気にしない欲しいと言われたが、それほどに急激に胃潰瘍が出来たり治ったりするリチャードの身体の事が凄まじく気になった。まあ実際は千冬がカシスジュースを吐いたようにワインを吐いていただけだったらしいので、深く心配する必要はないだろうが……。
『そもそもあれは私が男女問わずに恋愛相談を受け、その恋愛が尽く成功してしまったから周囲に呼ばれるようになってしまっただけで私はそれを自称した事は一度もない!』
「まあんなもん自称してたら引きますけどね」
『だろ……?私もこんな名前なんて永遠に呼ばれたくはない、だが大事な姪が眩しい笑顔且つ賞賛の目的でそう呼ぶのだよ…もう辛いなんてもんじゃないよ』
軽くげっそりしているリチャードへ同情を込めた視線を送る、それは確かに気の毒だ…姪を励ます為に自分にとっての黒歴史を暴露し今度はその姪から頼られる形でその黒歴史を使われる……リチャードにとって辛い物でしかないだろう。
「まあうん……どんまいっす。んで今回連絡をくれたのはいったいどうしたんですか?」
『おおっそうだ、学園から送られてくる君の稼動データなどを解析中なのだがね。本当に驚いたよ!まさか君がBT兵器をあそこまで十全に動かせるとはね!!研究機関は狂喜乱舞しているよ』
なるほどその話だったかとカミツレは苦笑いを浮かべた。一応自分にもBT兵器を動かす為の適正はあるが、セシリアに比べると劣っており平均値から見てやや上程度の適正しかない。しかしそんな自分がセシリアとほぼ同等レベルのBT兵器の稼動をさせているのだから、イギリス本国の研究者連中から見たら脅威的としか言えないんだろう。実際はカチドキが稼動させているのであって自分は一切動かしていない。
「セ、セシリアにコツを教えて貰ったんですよ。彼女が普段どんな風に扱っているとか」
『成程、だがそれだけでこれだけ動かせるのは君のセンスが素晴らしい事の証拠だ。もっと誇っても良いのだぞ?』
「い、いえ現状に満足せず努力し続ける事が一番大切な事ですから(動かしてるの実際俺じゃないしなぁ……)」
『ふむ、日本のコトワザというのもあったな。確か……「勝利にして尚、武具の襷を緩める事なかれ」という物だったな、流石侍の国の男だなカミツレ君!』
恐らく「勝って兜の緒を締めよ」と言いたいのだろうか、まあ言いたい事のニュアンスは十分に伝わってくるので問題はないが……。しかしこうして褒められるのも悪い気分はしない、本来褒められるべきはカチドキなのだろうが……カチドキはさっきからコア・ネットワークに潜ってライダー談義に花を咲かせている、らしい。ドライブを布教するのだと息巻いていたが、ライダーはやっぱりバイクだろう意見やマッハやチェイサーの方がカッコ良いと苦戦しているらしい。
『私の妻も是非君にあった時に話をしたいと言っていたぞ。これは一躍スターの仲間入りだな』
「勘弁してくださいよ俺はそう言うの苦手なんですよ、せめて雑誌取材がギリギリですよ」
『ああそう言えば君は日本の雑誌取材を受けていたね。あれなら世界各国で翻訳されて発売されているぞ?』
「うッそぉ!!?」
カミツレが取材を受けたインフィニット・ストライプス10月号「IS男性操縦者特集、杉山 カミツレ氏に聞く」は世界初の男性IS操縦者に対して行われた雑誌取材という事で価値が非常に高く、全世界で翻訳され出版されている。政府機関にも参考資料として組み込まれており、各国はこれを基にしながらカミツレへの接触案を立案しようとしているとかしていないとか。因みに母国版にのみ付属しているポスターは今現在、超が付くレベルのプレミアがついており5種のコンプリートセットだった場合、凄まじい高値が付くとか。
「……うっそっ……?」
『いやマジマジ、私もあの雑誌は一応ポスターコンプも兼ねて買ったが貴族仲間から凄い譲ってくれと言われたからね。まあ断ったが未だにしつこく言われているレベルだ』
「……ええっ」
『イギリス国内ではファンクラブまで出来ているからな、君の人気は既に世界規模……ってあれカミツレ君?お~いカミツレく~ん?』
思わず頭を抱えてしまったカミツレは一言断ってから通話を切って、ベットの上で蹲っていた。それが恋人の二人が遊びに来て慰めるまで続いたとか。