IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第98話

「それでは今日は高速機動についての授業を行う」

 

一組の美人スパルタ教師事、千冬の声が第6アリーナに響き渡った。IS学園には授業の目的に適している各種アリーナが存在しており第6のアリーナである此処は中央の巨大タワーに直結しており、そこを中継点として高機動実習を行う事が出来る。その他には1年専用の訓練用アリーナや専用機持ち専用のアリーナもあるなど、流石は世界唯一のIS教育機関である。一体此処を建設するのにどれだけの金が動いたのだろうか…。

 

「皆も知っている通りこの第6アリーナは高速機動訓練目的に使用されるアリーナである。中央のタワーを周回や中継点とする事でISの高速機動に適した場となっている、今日の授業もそれらを生かして充実した物にするよう心掛けるように」

 

千冬の言葉に素直に了解の意を示す皆、そしてまずは見本を見せるという事で専用機持ちの中から数名を抜擢して実演をして貰う事になった。その抜擢されたのはセシリアとカミツレ、そして一夏であった。セシリア抜擢の理由は高速機動パッケージを装備しているのが大きな理由である。ビット全てを機体に接続し、推進力に回す事でハイスピードを可能にしている。その分、操縦者であるセシリアの実力が顕著に現れるのだが彼女ならば問題ないだろう。

 

一夏は「白式」その物が機動力特化型といっても過言ではないセッティングなので高機動の実演としては申し分ないと判断されたからである。実際「白式」の機動力は第三世代型の中でも指折りの物であり、世界最速のISを謳うイタリアの「テンペスタ」にも負けず劣らずの機動力を誇っている。

 

カミツレの「蒼銀」も機動力が高いという理由もあるが、それ以上に機体その物が次の世代への進化を視野に入れられたタイプで出力面の調整やシステムを弄るだけで高機動パッケージ並の機動力を確保出来るという理由が存在している。イギリスの技術者が目指したロマンの形、とリチャードは語っていた。BT兵器の「ヴァンガード」を推進力にしない代わりに「ディバイダー」の出力制限を解除する事で高機動パッケージ並の速度を確保出来る。

 

「それと通常装備ですがスラスターに全出力を調整されてますので、制御には気を付けてくださいね」

 

露骨に弟子に頑張れ~と笑顔を送ってる師匠、そんな真耶に苦笑いをしながら軽く手を上げて返事をする。幸いカチドキのシステム制御と高機動プログラムで準備も出来ている、軽くストレッチをしつつカチドキを展開する。

 

「えっとこうやってああやって……よし準備できた。前もってラウラに教わって正解だったな…カミツレ、俺漸く予習の重要性って物が分かったよ」

「分かったならいいが遅くないか?」

「カミツレさんと比べると雲泥の差ですわよ?」

「これから努力して、取り戻せるように頑張ります…」

 

二人の言葉の正しさに今までの自分に辟易しながら高機動用補助バイザーを装着する一夏、しかし頑張って遅れを取り戻せるように頑張ると宣言する。カミツレはカチドキが自動でハイパーセンサーの調整などを行っているので必要としない。

 

「それでは行きますよっ……3・2・1……ゴッ~!!!」

 

身の丈に合わないほどに巨大なフラッグを振るった真耶、その合図と共に三人は一気に飛翔していく。一気に加速して音速へと達していくIS達、流れていく景色は風に溶け込み、瞬間に無数の線になって自分を取り巻く風になる筈なのにそれら全てを鮮明に捉える事が出来ている。普段ならば見る事の出来ない超速度の中、また違った味わいがある。音すら置き去りにして、未来へと向かっていくISに身体を委ねる彼らはそれを制御しながら今の中を進んでいく。

 

「すげぇっ…世界ってこんな顔をもしてるのか……」

 

思わず感動してしまった一夏、自分の知らなかった世界の顔を見て感動に浸っていた彼だが脇をすり抜けて行く二人を見て自分も負けてられないとその後に続いていく。機動力では負けない一夏だが、経験と技術的な差の影響か追従する事は出来ても並び立つ事は出来ない。

 

「ぐぐっ…!!全然並べねぇ……!!」

「高機動訓練は俺も積んでるからな、お前とは経験値が違うんだよ」

「そういう事ですわ、まずは慣れる事が重要ですわ」

「まあそうだよなっ…!!」

 

矢張り自分はまだまだこの二人に並ぶ事は出来ない、しかし付いていく事は出来る。自分はまだまだ未熟であると同時に成長の余地があるという事を再認識できる、きっと何時かこの二人に並び立つ事が出来る筈だと信じて頑張って行こうと誓いながらタワーの頂上から折り返し、アリーナの地上へと向かって降り立った。

 

「うむ流石はオルコットだな、見事な操縦技法だ。杉山も中々の物だったが…お前は何時「稲妻軌道動作」を習得した?」

「ライトニング・アクション……ってなんですか?俺は別に特別な事やってませんけど、教えて貰った通りにやってるだけです」

「(あの残念完璧淑女めぇ……!!!ISに乗り初めて1年も満たない奴に「稲妻軌道動作」を教えよってぇ…しかも無自覚だと!?)……後で説明してやるから私の所に来い」

「はい分かりました…なんかいけない事やったかな……?」

 

千冬は思わず高難易度技術指定されている技術を自然な形で実行できるほどになってしまっているカミツレ、彼の技術を素直に認めつつもこれを教えた犯人に怨みを込めた唸り声を出してしまった。本来は強化指定代表候補生が習得するレベルの技術で、カミツレのようなまだ初心者というべき存在が習得して良いような物ではない。確りとどういう物か教え込まなければ……。

 

「それと織斑、初めてにしては中々良く機体制御が出来ていたぞ。高機動時に必要なのは平常心と落ち着いたハンドリングだ、それを常に心掛けろ」

「はい分かりました織斑先生!」

「いい返事だ、精進しろ」

 

肩を叩かれた一夏は少し照れくさそうにしながらも姉に褒められた事を嬉しそうに笑った。これもナタルのメニューとラウラの指導のお陰だ、後でお礼を言わなければ。

 

「では各自は班に別れて訓練に入れ、今年は「キャノンボール・ファスト」で異例の一年の参加が認められている。励めよ!!杉山来い、教えてやる」

 

号令を掛けてから千冬はカミツレを呼び出して、一対一で先ほどの事に付いて話をしつつ、理由を説明する。カミツレはヨランドにそう言う風に指導された事を言うと千冬は溜息を吐きつつ、喜ぶべきなのか怒りを燃やすべきか迷ってしまう。

 

「……まあいい、それとカミツレ。お前のポスター中々セクシーだったぞ」

「……まさか、買ったんすか……?」

「無論だ。全5種コンプリート済みだ、いい身体をするようになりおって……そろそろ食べ頃か」

「ち、千冬さん不穏な事言いませんでした?」

「何本気だから気にするな」

「気にしますって!?」

「冗談だ」


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