IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第99話

「にしてもカミツレ、お前は一体何処まで強くなるつもりだ?」

「俺が安心して暮らせるようになるまで、ですかね」

 

機体のチェックとスラスターの出力調整を行いながら千冬と会話をする、基本的チェックと調整はカチドキが全てやってくれているが全て相棒にやらせるのは心象的に悪い。自分でもチェックして相棒と一緒に仕事をしている実感が欲しい、自己満足的な行為だがカチドキからも悪い印象はないというから続けている。

 

「イギリスの代表候補になったからって俺はまだまだ危険な状態です、此処を卒業したらもっと面倒になりますからね」

「そうだな。今の段階で安心して暮らせるのはこの学園の特異性と狭さがあるからな」

「セシリアに乱ちゃん、俺には心強い恋人がいますけど自分でも力を付けたいんです」

 

そのために強くなる、そう言っているまだ未成年の少年に千冬は笑いを浮かべながら言った。

 

「いざとなれば束を頼る事も無い位に強く、か?」

「っ!?ちょ、何でそれを!?」

「本人から聞いたのさ、奴め嬉しそうに電話で言っていたぞ」

 

そこにある千冬の表情は純粋に親友が心から好きだと言える相手を見つけた事に対しての喜び、あそこまで人嫌いで他人に興味を示さず、世界に絶望までしていた親友に一緒に居たいと思える人が出来た。これを喜ばずにして何が親友かと言わんばかりに「蒼銀」に背中を預けながら言う。それに対してタイミングを見て言おうと思ってたカミツレは溜息を付いてしまった。

 

「ISの本質を理解した、そう奴は言っていた。私もカチドキの事を知った時は奴が言っていた言葉が全て正しかったと思ったよ。そして私が現役時代に何度も味わったあれは間違いなく、私の相棒の声だったとな」

「そうですか……すいません、束さんの事を考えるというべきだったんでしょうけど負担になるんじゃないかと思って」

「気遣いご苦労、だが親友の恋路を応援出来ない程度に器は小さくないつもりだ。それとこれからの事を考えると束の力は積極的に借りていくべきではないのか」

 

束の持っている影響力や技術力を考えると確かにそうかもしれない、ISのコアの製作は彼女にしか出来ない。そんな彼女との関係が明らかになれば他国はそう簡単に手を出さなくなるだろう。しかしカミツレは出来る事ならばそれは最終手段にしたいと思っている。

 

「それも確かにありなのかも知れません。欺瞞かもしれませんけど、俺は出来る事なら守りたいんですよ。俺を好きだと言ってくれる人達を…俺だって…」

 

力も遥かに劣る、立場も違う自分が言うのは場違いかもしれないがそんな願いを抱いている。今のままではきっといけないと分かっているからこそ努力を続けている、何時かは自分の力で好きな人を守りたいとそんな願いを持っている。

 

「やれやれ……それならもっと堂々としながら胸を張れよ青少年」

 

そう言いながら軽く小突いた彼女はそのまま他の生徒の元へと向かって行く、千冬にそんな言葉を受けたカミツレはそれを静かに見送った。目をやや白黒させつつも何処か嬉しくなりながら調整を続けた、今に出来る努力をし続ける事が自分のやりたい事に繋がるのだから。

 

「なあカミツレ、俺の「白式」の出力調整みて欲しいんだけど今大丈夫か?」

「あ、ああ少し待て……おしこれでいい」

 

そんな中やってきた一夏、一夏の「白式」は非常にワガママなセッティングの個性(パーソナリティ)を構築してしまっているらしく開発元である「倉持技研」は追加装備開発が出来ずにお手上げという事らしいと言っているがそれを聞いてもカミツレは呆れる事しか出来ない。食事を食べに来た束から聞いた話だが、元々「白式」は「倉持技研」が設計開発していた代物。しかし開発が頓挫して欠陥機として凍結されていたものを束がもらいうけ完成させた機体であるという。開発元と言い張っているが、実際完成させたのは束である。

 

「にしてもカッコいいよなぁパッケージ……俺も欲しいぜ」

「無い物強請りをしても意味はないけどな…ここの調整甘いぞ」

「えっ何処」

「此処だよ、違うだろここはこう言う設定にするべきだろ」

「あっそっか…これだとロスが大きすぎるのか…でもそうすると俺が扱いきれなくないか?」

「そうしないと、まずエネルギーロスがでかすぎて途中でガス欠になるぞ。扱えきれないなら扱える範囲でスロットルを絞れば良いんだよ」

「でもスロットルワークって結構難しいぜ?カミツレはどうやってるんだよ、やって貰ってるのか?」

「んな訳あるか。慣れと経験だよ」

「やっぱりかぁ」

 

一夏の機体セッティングを事細かく見ながら指摘しつつ、運用のコツなどを口にしていく。

 

「カミツレの奴もパッケージ無いんだよな」

「まあな、一応開発中って話だが明らかに間に合わないから「ディバイダー」の出力制限とかを解除しつつ調整でやっていくんだ」

「武装が豊富で羨ましいぜ…俺改めて千冬姉っていけね、織斑先生がどんだけ凄い偉業やったのか「白式」を使ってて思い知らされたよ」

「それは同感だ。ブレード一本で世界の頂点だからな、規格外にも程がある」

「ハァ……せめて牽制用の銃とか腕部バルカン砲ぐらい欲しかったよ…」

 

彼の愚痴も分かる、ブレードが一本という事は相手の機体特性に関らず懐に飛び込まなければ攻撃は出来ないという事なのだから。自分の動き方全てで相手を上手く誘導、肉薄して切り裂くという戦法しかない。幾ら一撃必殺の武器を持っているとは言えきついにも程がある。

 

「外付けでも良いから武器を付けるとか出来ねぇのかな……?」

「流石に俺もその辺りの事は言えないな…整備室の先生に相談でもしてみたらどうだ」

「一回そうしても見るか、燃費の相談がてら」

 

そんな事を話しながらカミツレは出力調整を続けていく、整備室でカチドキの整備していた経験が役に立っている瞬間とも言える。

 

「これで如何だ、大分変わった筈だが」

「おっアリガト……ってこれかなり遊び多くないか?」

「まずはこれで慣れるのがいいだろ、いきなりスロットルに遊びが無い状態だと危険だぞ。経験談だ」

「ふぅん……んじゃ一緒に回らないか?」

「そこは篠ノ之を誘うぐらいの器量を見せろ」

「んぐっ……悪いけど今度デート誘うんだけど、その時の行き先考えるの手伝ってくれよ……」

「自分でやれっと言いたいがいいだろ、三食奢りでな」

「……わ、分かった。背に腹は変えられない……!」


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