「ジョ〜〜〜〜〜ダンじゃなーーーいわよ〜〜〜う!!!」
普段は静まりかえっていて、ほとんど誰も入ることがないレインディナーズの一室に、オフィサーエージェントが一堂に会するとなると、そこはまるで海賊船のような空間を連想させるくらい各々が自由になっていく。
着いたばかりの頃は、社長がすぐに来るだろうと大人しく座っていた面々も、痺れを切らすが如く騒ぎ立てるのも無理がないだろう。
そう。声高々に、Mr.2がくるくる回っていても無理はないというものだ。
「ふふふっ・・・みんな仲良くって訳にはいかなそうね・・・もっとも、その必要はないんだけど」
ロビンはそう言いながら部屋に現れた。何もないところから出てきたところを見ると、別の部屋からハナハナの実で身体ごと移動してきたのだろうか。能力を使いこなしてるな。先日の、海軍大将"黄猿"率いる軍艦の一戦でさらに能力に磨きがかかったというべきか。
何しろ、2人きりで海軍大将の軍艦をほぼ壊滅状態にしたのだから、懸賞金が上がるとみて間違いないだろう。
ロビンは、テーブルにつくオフィサーエージェントの面々に向かって続ける。
「長旅ご苦労様・・・よく集まってくれたわね。これだけの面子が揃うとさすがに静観」
「ここはどこなんだ、ミス・オールサンデー」
Mr.1が口を開いた。
ここに到着してからもずっと腕を組んで、口を閉ざしていた。たまに、一人だけ腕を組んで壁にもたれかかっている俺の方を見ていたようだが、それでも、初めてアクションを起こしたといえるだろう。
「そうね・・・あなた達はバンチに引かれて、裏口から入ったのよね。町は分かると思うけど・・・ここは人々がギャンブルで一攫千金を夢見る町。"夢の町"レインベース。そしてあなた達のいるこの建物は、レインベースのオアシスの真ん中にそびえる建物、この町最大のカジノ"レインディナーズ"その一室よ」
Mr.1は納得したのか無口のまま、前を向いたので、ロビンは一旦黙ってからまた、口を開く。
「他に質問がなければ話を進めるわ」
「そーともさ!さっさと始めな。それ始めな。やれ始めな」
ミス・メリークリスマスが机をバンバンバンバンと音を立てながら話を促す。このおばさん、移動している時も思っていたことだが、とてもせっかちで面白い。せっかち過ぎて言葉が足りない部分を結局説明することになるから、余計に時間をとってしまうところが特に面白い。
移動している時のことを考えていたら、ロビンはまた話を続け出した。
「だけどその前に、紹介しなきゃね。あなた達がまだ誰もが知らない我が社の社長・・・今までは私が彼の"裏の顔"として、あなた達に働きかけて来たけれど、もうその必要はなくなった。・・・・・・分かるでしょ?」
机の上にあるキャンドルの炎がゆらめき、部屋の中で威圧感が増していくと、誰も居ないと思っていたハズの上座の席から声がした。
「いよいよというわけだ・・・・・・!」
「「「な!!」」」
オフィサーエージェント達はみんな驚いて、声がした方を振り向いた。
「作戦名"ユートピア"・・・これが我々B・W(バロックワークス )社の、最終作戦だ」
クロコダイルは椅子をゆっくりと回転させながらこちらを振り向く。その表情は笑顔で、過剰な演出が好きなクロコダイルとしては、悪戯を成功させて満足といったところだろうか。
オフィサーエージェントはそのクロコダイルの思惑にまんまと引っかかり、声を張り上げる。
「「「え!!?!?ク・・・クロコダイル!!?」」」
「さすがにご存知のようね、彼の表の顔くらいは・・・」
ロビンはその様子を面白そうに見ながら喋ると、オフィサーエージェント達はそれぞれ、クロコダイルに疑問や驚きの声を上げた。
「不服か?」
クロコダイルは不機嫌そうに問いかける。
この中に、そう言われて不服だと答える奴はいないだろう。
オフィサーエージェントの中でも性格がまともな、ミス・ダブルフィンガーが代表して、その問いに答えた。
「不服とは言わないけど"七武海"といえば、政府に略奪を許された海賊・・・なぜわざわざこんな会社を・・・」
「・・・おれが欲しいのは金じゃない。地位でもない。"軍事力"。順序よく話していこう・・・このおれの真の目的。そして、B・W社最終作戦の全貌」
クロコダイルは、口に咥えた葉巻に火を付けて話し出した。
武器の在りかを示す"歴史の本文(ポーネグリフ)"を手に入れる為の国取り、その全貌を。
概ねロビンの言っていたことと一致したそれを、俺たちは途中でバレないように阻止しなければならない。
もちろん、"歴史の本文(ポーネグリフ)"を見ることを前提としているから、後でロビンと緻密に計画を練る必要がある。
しかし、麦わらの一味がいることでどう作戦が破綻していくか、その時の状況判断も大事だろう。
"偉大なる航路(グランドライン)"前半の海を航海してきたばかりの懸賞金3千万の男に、"七武海"を倒せるとは考えていない。しかし、Mr.3を倒しているのであれば、そこそこの実力を有しているとみて間違いないだろう。
「B・W社創設以来、お前らが遂行してきた全ての任務はこの作戦に通じていた。そして、それらがお前達に託す最後の指令状。いよいよ、アラバスタ王国には消えてもらう時がきた・・・」
オフィサーエージェント達が指令状を読んでいる。が、俺の元に指令状はない。あらかじめロビンから、ロビンと一緒に行動するとは聞いていた。
そうなるようにロビンが仕向けたのだろう。
オフィサーエージェント達は机の上のキャンドルの炎がで指令状を燃やした。
このそれぞれの指令状も、もちろんロビンは把握済みである。
「それぞれの任務を貴様らが全うした時、このアラバスタ王国は自ら大破し・・・行き場を失った反乱軍と国民たちはあえなく、我がB・W社の手中に堕ちる・・・!一夜にしてこの国は、まさに我らの"理想郷(ユートピア)"となるわけだ!!!これがB・W社最後にして最大の"ユートピア作戦"。失敗は許されん。決行は明朝7時!!!」
クロコダイルは俺らを見渡した。
オフィサーエージェント達も納得した顔をしている。
この国が堕ちた後の地位に興味があるといったところか。誰も失敗することなんて考えていないだろう。
「「「「了解」」」」
「武運を祈る・・・」
クロコダイルがニヤりと締めの言葉を言った時だった。
「その"ユートピア作戦"ちょっと待って欲しいガネ」
室内にある大階段。その大階段の上に位置する入り口から、Mr.3が入ってきた。クロコダイルは静かにMr.3を睨みつける。
「Mr.3!!あなたどうやってこの"秘密地下"へ!?」
ロビンが問いかけると、Mr.2が続けるように叫んだ。
「Mr.3!!!あんた一体どこから湧いて出たのようぅ!指令通りあちしが始末して・・・」
「待てMr.2!!!」
そのMr.2の発言と行動を止めるクロコダイル。
ウソの報告であんなに怒っていたのが嘘のようだ。
しかし、Mr.3は何で来たんだろうか。そのまま逃げることも出来ただろうに。
「湧いて出た?失敬な・・・スパイダーズ・カフェからずっとつけさせて貰っただけだガネ・・・社長、お初に!もう一度チャンスを頂きたくここへ参上いたしましたガネ。言い渡された任務を遂行しきれなかった私がMr.2・・・お前に命を狙われるのは当然の話・・・だから少々進路をまげて"エージェントの詰め所"スパイダーズ・カフェへ向かったのだ」
「・・・任務を遂行しきれなかった・・・・・・?何の話だ・・・!!」
「・・・ですから・・・麦わらの一味とビビ王女を取り逃がしてしまったことを・・・」
Mr.3はあの報告を知らない。
だから、逃げることもせずに報酬に目が眩んでここへ来てしまったのか。
クロコダイルはMr.3の発言に思わず立ち上がり叫んだ。
「取り逃がしただと・・・!!?奴らはまだ生きてるってのか!!!」
オフィサーエージェントの皆はおとなしく聞いていた。
「・・・てめェ電伝虫で何て言った・・・!!海賊共もビビも全員片付けたと、そう言ったんじゃねェのか!!?」
話が噛み合っていない為、Mr.3は不思議そうに話し続ける。
「?電伝虫!?何の話ですカネ。私は"リトルガーデン"で電伝虫など使ってませんガネ」
クロコダイルはその報告を聞き、椅子にまたドサりと座り込んで葉巻に火をつけた。
あの、クソレストランの報告が偽物の報告であることにようやく気付いたようだ。
考え込むようにしてクロコダイルは葉巻をふかす。
「・・・こりゃまいったぜ・・・アンラッキーズがあの島から戻らねェのはそういうわけか・・・1人や2人くらいは消したんだろうな・・・?」
「・・・イ・・・イヤそれが・・・!!」
「は?」
「・・・で・・・ででですが・・・!!情報に誤りが・・・!!奴ら・・・海賊の護衛は・・・本当は4人いて・・・!!鼻の・・・鼻の長い男が・・・まだいまして・・・!!!」
「てめェ・・・・・・」
一旦落ち着いたがクロコダイルがまたブチ切れだした。
Mr.3も正直者だな。案外姑息で卑怯という割には、素直な奴なのかもしれない。
「0(ゼロ)ちゃん!!?何の話をしているのか説明してちょうだいよう!!わけがわからナイわ!!」
しばらく大人しくしていたMr.2が、とうとう話を切り出した。
確かにさっきから他の面々も不思議そうに聞いていた。
俺とロビンとクロコダイル以外は何のことか分からないだろう。
といっても俺もロビンも、Mr.3はどちらにしろ死んでいたと思っていたが。
それから、クロコダイルはみんなに分かるように、麦わらの一味とビビ王女抹殺の任務を説明しだしたのだった。
「あちし・・・逢ったわよ!?」
Mr.2の目の前には麦わら帽子を被った男、緑髪の男、オレンジ髪の女、そしてビビ王女の写真が置かれていて、その写真を見てMr.2は汗をかいていた。
「なに!?」
「こいつらならあちし、ここに来る途中に逢ったわよう!!?」
そう言うとMr.2は今の写真に載っていた奴らプラスαに変身した。
これがマネマネの実の能力か。
真似という言葉では到底足りないくらいに本物のようだ。
話には聞いていたが、この男?がいないとB・W社の計画がそもそも成り立っていないとロビンが言ってたのも頷ける。
「そしてコイツがミス・ウェンズデーで!この国の王女ビビで!あいつらつまり"敵"だったってわーけなのう!!?」
「・・・そうだ、おれの正体を知ってる。野放しにしておきゃあ作戦の邪魔になる・・・そしてMr.3・・・お前の言う通り、確かに一人、さらに一匹、報告よりも増えているな・・・・・・まァ、ペットの方はおいといてもビビを合わせて5人・・・すでにこのアラバスタに入ってるとみて間違いねェだろう・・・Mr.2、さっきのメモリーを写真におさめろ」
「・・・しかし"社長"!!あの一味とビビは私が今度こそ必ず・・・この手で仕留めて・・・」
Mr.3は無謀にもこの状況でクロコダイルに意見した。
「黙れ、マヌケ野郎!!」
クロコダイルはそう言って、Mr.3の首を片手で締め上げて、スナスナの実の能力を発動していく。
Mr.3は身体中の水分をどんどん吸われていき、カラッカラのミイラのようになっていった。
もちろん、初めてクロコダイルを見たオフィサーエージェントの面々はその能力に畏怖しドン引きしていた。
「み、みす・・・みす・・・」
Mr.3が地面に四つん這いになりながら喚いている。このまま放っておくだけでも死にそうだが、クロコダイルは更に追い討ちをかける。
Mr.3から離れたと思ったら、いくつかあるボタンの1つを押した。
すると、Mr.3の床が突然開いて、そのまま下に落ちていった。
クロコダイルは外で泳いでいるバナナワニに対して、エサの時間だと言った。
突然俺がいるところの床も開くかもと思ったので、こっそり浮いておこう。
床の下からMr.3の叫び声が聞こえてきた気がした。
「・・・やってくれたぜ、あのガキ!殺しても殺したりねェ!いいか、てめェら。この5人・・・目に焼き付けておけ!!こいつらの狙いは"反乱の阻止"・・・!放っておいても向こうから必ず姿を現す!」
クロコダイルは新たな指令を言い渡した。"反乱の阻止"か・・・。
「・・・しかしゼロちゃん・・・たとえ王女といえど、ここまで動き出した反乱を止められるものかしらねい!!?」
Mr.2が質問をすると、クロコダイルはすぐに答えた。
「厄介なことにな・・・反乱軍のリーダー・コーザと、王女ネフェルタリ・ビビは幼馴染だって情報がある。70万人のうねりだ・・・そううまく止まらねェにしても、少なくとも反乱軍に"迷い"を与えることは確かだ。あの二人を合わせちゃならねェ・・・すでに反乱軍には"ビリオンズ"を数名、潜り込ませてある。そいつらの音沙汰がねェってことは、まだ奴ら直接的な行動には出ていない様だ・・・何としても"作戦前"のビビと反乱軍の接触だけは避けにゃあならん!!ミス・オールサンデー・・・この際だ、電伝虫を使っても構わねェ・・・"ナノハナ"にいる"ビリオンズ"に通達を!!奴らを発見し次第抹殺しろと!!王女と海賊どもを決して"カトレア"へ入れるな!!ビビとコーザは絶対に会わせてちゃならねェ!!!」
「はい・・・すぐに」
「さァ・・・お前らも行け・・・パーティーの時間に遅れちまう・・・俺たちの"理想郷(ユートピア)は目前だ・・・・・・もうこれ以上のトラブルはゴメンだぜ・・・!?」
「お任せを、社長(ボス)・・・!!」
「やーーったるわよーーーう!」
「楽しんできたまえ」
立ち上がったオフィサーエージェント達にクロコダイルはそう言って話を締めくくったので、俺も部屋を出るために扉に向かおうとした。
「おい、"Mr.i"!!・・・てめェはちょっと残れ・・・話がある!!」