TAKASHI友人帳   作:闇と帽子と何かの旅人

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零 走り出せ明後日の方向へ

 タカシという名前で思いつく人物とは誰だろうか。

 花屋の息子で出会う人々にでかいと驚かれる奴。誰からも本名で呼ばれないふとっちょ。全国模試で一位をとるし種族は関係ねぇと悪魔娘への愛を確信する金髪イケメン。

 前略オフクロ様と律儀に毎回手紙を綴る高校生。ラケットを持つと人格が変わる寿司屋の息子。アイドル志望の娘の為に勤めていた会社を辞めてカフェを営んでいる父親。

 

 他にも様々な人物が思い浮かぶ。同じ名前を持つ自分と恐らく関係ないが、そんな破天荒な人物が誕生するような日本に生まれてしまったのだろうと思う今日この頃。

 生まれ変わってからというものの、常人には見えてはいけない人達が見えてしまうようになったのが原因だ。角があったり、異様にでかかったり、お面付けてるコスプレさん達とか色々。

 これはおそらく死を経験したら開眼するというアレの副作用じゃないかと俺は考えている。確か、ちょく……勅旨の魔眼だっけか開眼するの。俺の眼を見た相手は俺の言葉に酔い痴れる。

 

 そう――全ては勅旨となる。

 

 なるほど。律令制の時代ならTUEEEできる眼だな。俺の和歌を聞け! と叫びつつ、何処でも平安貴族達が駆けつけて和歌による宇宙の平和が成立する世界だったのか。

 本当にそんな眼だったら良かったのに。現実は変な人とか生き物()が見えるだけ。たまに悪霊みたいなのまで見えるのが困る。紫のボディコン姉ちゃんどっかに居ないかな。

 窓から見える清々しい青空に疲れながら、過去の自分(黒歴史)を振り返っていると下の階から塔子さんの声がチャット風に聴こえてくる。無論俺もチャット風にすぐさま返事を返す。

 

 Touko:貴志くーん。

 Takashi:何かな。

 Touko:そろそろ朝ごはんができるから降りて来てね。

 Takashi:hai! カカッと行くます!

 

 あの人は本当に素晴らしいお方だ。身寄りの無い子供を引き取るという慈愛に満ち溢れた、まるで聖母。けして逆らってはいけないし、待たせてはいけない。お声をかけていただいたなら即反応せねばならない。

 恐らく死後教会に聖人として認定されるに違いない。まだ彼女が起こした奇跡は一度だけなので世間的には福者だろうが俺の中では既に聖人認定です。

 

 こうしては居られない。カカッと階段をおりて塔子さんと滋さんが待っているであろう食卓へと俺は優雅に舞い降りる。

 

 「貴志君おはよう」

 「貴志おはよう。よく眠れたか」

 「おはようございます! 塔子さん。滋さん。おかげさまでよく『わっ』うおわっ!?」

 「貴志君?」

 「どうした貴志、急に驚いて」

 「……あ、いえ。蚊か何かが飛んでたみたいで……今日も美味しそうですね。いただきまーす」

 「暖かくなってきたからなぁ。蚊取り線香を買わないと」

 「そうねぇ……滋さん。帰りに買ってきてくれないかしら」

 

 俺は冷や冷やしながらも誤魔化す事に成功する。滋さんはこんな下手な言い訳も真剣に聞いてくれる人間の鑑のような方で、この人も現代の聖人候補である。

 

 そんなお二方に比べて……少し視線を上げれば悪戯っ子のような笑みを浮かべている極悪非道な妖が居た。

 

 食卓について朝食を食べようとしたら、天井からぶら下がって曲芸を俺にかましてくる。毎日微妙に趣向を変えてくるので何時も驚いてしまう。ある時は食卓のテーブルの下に待機していたのか俺の足元から飛び出すし、ある時はドアを開けようとしたら突然体が動かなくなり、金縛りにあったかと思えば彼女に羽交い絞めにされていたりする。

 妖の女の子に負ける筋力の無さに我ながら呆れて声が出なくなってしまったほどだ。いつも思うが彼女の悪戯は正直心臓に悪い。小声で彼女に文句を言おう。

 

 『あはは。やーい驚いた驚いた』

 『塔子さんや滋さんは見えないんだ。大人しくしていてくれって頼んだだろ……』

 『一日の始まりにタカシを驚かさないと気がすまない。悪く思うな』

 『えぇ……』

 

 こう毎日隠された俺の能力が塔子さんや滋さんにバレそうになると頭が痛い。能力者であるが故に過去迫害された経験がある。魔女狩りのようなものだ。そんなくだらない騒動にお二方を巻き込んではいけない。だから俺は隠さなければならないのだ。

 いや、本当に頭が重いぞ。偏頭痛持ちではないのだが、これも能力による副作用なのだろうか。そんな風に考えながら朝ごはんを食べていると、塔子さんと滋さんが微笑ましいものを見るような表情でこちらを見ていた。

 

 「いつも仲良しねぇ」

 「気付けばいつも貴志の頭の上に居るな」

 「あっ」

 

 二人に指摘されてはじめて気付く。先ほどからの頭の違和感の正体は猫に化けた彼女だった。

 

 「こらっ。食事中は頭の上に乗っちゃダメだって言ってるだろ」

 

 俺は頭の上に居座る彼女に文句を言うが、彼女は何処吹く風。しょうがないなあと思いながらも朝食を食べ終え、塔子さんに見送られながら滋さんと共に行ってきますを言うのが大切な日課なのだ。

 

 

 

 

 途中で滋さんと別れ、暖かい気候に後押しをうけながら自然と学校へと向かう足は軽やかで、友達百人できそうな勢いだね。辺りの見慣れ始めた景色を楽しみながら小学校一年生の気分で歩いていると、ふと見覚えのある人影にであう。

 いつか見た妖のおじさんだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 これはまだ俺が自分の能力に慣れていなかった頃の話だ。

 両親が亡くなり。親族の間をまるで黄色い救急車に乗る患者のように、大学病院の押し付け合いに巻き込まれるかの如く、幼い俺はたらい回しにされていた。まったく失礼な話である。

 学校に行っても前世で培った精神力や新たに獲得したこの能力のせいで釣り合う人間がおらず、端的に表せば友達なんて作ったら人間強度が下がると孤高の狼を気取っていた。 

 

 今日も一人公園で知識の中にある俺と似たような力を持っている、とある国の第11皇子がお決まりのキメポーズと共に放つ台詞の練習をしていると、同じく公園で遊んでいた幼い者達がキャーキャー喚き始めたではないか。

 フフッ。俺のポージングとキメ台詞に恐れをなしたか。まだ幼い者達だが圧倒的強者から本能的に逃げ出すその生存本能は賞賛に値する。子供達は親に手をひかれながら公園を後にしている。

 だがよく見てみると彼らは俺を見ているわけではないようだ。ならば何故喚きながら逃げるのだろうか。答えはこちらの方へ近付いてくる禍々しい気配(オーラ)が雄弁に語っていた。

 英雄の卵(子供達)監視者(保護者)だけでなく、定例ブリーフィング(井戸端会議)をしていたであろう万国正義院(主婦達)すら声をあげながら逃げていくではないか。まだ見ぬ自分以外の強者に好奇心を抑えきれず、そのオーラの方向へ振り返ってしまう。

 

 視界を陵辱される。嫌でも目に焼き付いてしまうその姿は異様だった。夏真っ盛りだというのに漆黒の衣(コート)を羽織り、その下は無明の闇(全裸)という独特な個性溢れるセンス、隠し切れない強者のオーラ。眼前を圧する闇よりもひときわ黒く釣られたる存在に対し、これは普通の人ではないと確信を以て断言し得る。

 

 「おや? 一人で遊んでいた君はボクを見ても逃げないのかい?」

 

 ああ、やはりこの眼前の闇は(変な人)だったのか。

 強者特有の道徳を蹂躙するそのさま、不敵な笑みを浮かべる常世(日常)では存在することを許されない者。稀に常世へ迷い込む力強き妖は見えない人にすら、そのあふれ出る力を感じさせてしまうかの如く、普通の人々は彼らを認識していないのにも関わらず妖力の強い妖を自然と避けていく。本当の強者というものは孤高なのだろうなと常日頃考えていたものだ。

 

 「……慣れていますから」

 「慣れている?」

 「ええ、よくあるんですこういうことが」

 「何だ? 親に酷い事でもされているのか?」

 

 何故か親の事を聞かれたが、もしや俺の隠しきれない強者のオーラを感じ取って親も名のある強者なのかと思ったのだろうか。話しかけてきた時はこちらをからかうような表情だったのに、今は真剣な表情でこちらを見ている。

 正解なようで不正解だな。両親ではなく祖母が強者だからだ。彼女の武勇伝をよく父から聞かされていた。今はもうあまり覚えていないが。

 

 「親ですか? もう両親はいませんよ」

 「そうか……君は寂しくないのかい?」

 

 なんだろう。寂しさというキーワードが不意に心を切なくさせる。強者は孤独である。しかし同時にその孤独すら受け入れ、ありのままの自分を出すのが本当の強者なのだ。

 まだ未熟である俺は目の前の強者()のように本来の自分をさらけ出せずにいた。喉に小骨が突き刺さるようなもどかしさ、あるいは焦燥からか、自然と口から言葉が漏れていた。

 

 「ひとりで生きていきたいなあ」

 「……」

 

 さっさと独り立ちして、様々な世のしがらみから解放されたい。率直に言えば義務教育早く終わってくれないかな。子供に混じって勉学に励むというのは中々にくるものがある。

 それに本物の強者である彼にはわからないだろうが、未熟な俺は能力に振り回され普通の人間に迫害されている日々が腹立たしく、義務教育とのコンボで毎日がハードモード。いつか目の前の強者()のように、はたまた自由に孤高にあの空を駆ける鳥のように羽ばたいていきたいものである。

 不意に暖かみのある感触が俺の全身を包み込む。妖が羽織っていたコートを何故か俺に被せてきたではないか。彼のコートは小さい自分には少し大き過ぎるようで、フードが顔に覆いかぶさって前が見えなくなる。何をするんだと文句を言おうとしたのだが、フードをめくり終わる頃には時既に遅く、妖は俺の目の前から姿を消していた。 

 

 

◇◇◇

 

 

 「お久しぶりです」

 「ん? 君は……」

 「あの時コートのお礼を言えずにいたから……今なら貴方の優しさがわかる気がします」

 

 当時ぶかぶかのコートを羽織って帰ると、お世話になっていた家の庭で俺の帰りを待っていた彼女――現在俺の頭上に住み着いている妖の女の子に指を指されながら笑われたな。

 恥ずかしい思いをしたと、あの時は思っていたが今ならわかる。彼なりの優しさだったのだと、強者でも友を作って良いのだと、同じ強者の立場(フィールド)にいる先達の彼は俺に伝えたかったのだ。

 

 ――誰彼構わず群れるだけの弱者にはならなくていい。だが同じ志を抱く者とは(ライバル)になれる。

 

 シャイな彼はあの時言葉を残さずに去っていったが、その誇り高き強者の――言葉なき熱い思いは数年越しに未熟だった俺へと確かに伝わったのだ。

 

 「コート……ああ! あの時の坊やか! 大きくなったな……」

 

 ああ、ようやく同じ強者として俺を認めてくれたのだろうか。話しかけた時は怪訝な表情だったが彼の眼は優しいものになり、俺も心が熱くなる。

 一度しか邂逅していない強者との再会。かつて俺が貰った物と似たような漆黒の衣(コート)を着ている彼。漆黒の衣の下は、あの時と同じように無明の闇(全裸)が広がっていると思っていたのだが少し違った。彼は無明の闇(コートの下)を縄で縛っていた。ひょっとしたら力を持つ者故の、己への戒めだろうか。

 相変わらずだなと俺の口元が緩む。こちらの笑顔に気付いたのか、彼も笑顔を向けながら笑いかけてくれた。まるで強者同士特有の互いの健闘を称え合う場面(ワンシーン)のようだ。

 そういえば自己紹介をしていなかった事に今更気付いた。先達に失礼の無いよう自己紹介しなければ。

 

 「僕は夏目(サマーアイズ)夏目貴志(サマーアイズトゥス・カシ)。貴方の名前を教えてくれますか?」

 

 祖母が友を作るときに友人帳なるものを記していたのを思い出した俺は、おもむろに黒い手帳を取り出す。俺も自分の友人帳を作ろうと思ったからだ。自己紹介をし終え、手帳を出しながら相手の答えを待っていると、彼の名はなんだろうかと期待が膨らむ。だが、本物の強者が簡単に名を教えるはずも無く。

 

 「ウッ……もう職務質問は嫌だぁああああああああああああああ!!」

 

 彼は封印されし記憶(トラウマ)でも呼び起こしたかのように突然叫びながら、走り去っていってしまった。

 シャイな彼はまたもや俺に何かを伝えようとしているのだろうか。すぐに彼の思いを理解できない俺はまだまだ未熟だなと痛感する。

 いつかまた出会える日が来るのだろうか。それは今の俺にはわからないけど、一人ではないのだと教えてくれた彼に感謝を覚えながら通学路を歩みだそう。

 

 『春先はああいうのが多いな』

 

 頭上が定位置になりつつある猫に化けた彼女の言葉に耳を澄ませながら、新たな出会いに期待しつつその場を後にした。




登場人物系

頭上の妖 原作4巻巻末の観察帳2に出てる木の妖 お茶目なヒロイン兼にゃんこ

サマーアイズトゥス・カシ ここ最近はちゅうにびょうを抑えてるつもりが悪化した意識チョモランマ級邪気眼系主人公 ライバル(予定)は番傘眼帯


※投稿動機はギャグ系の夏目友人帳SS増えろ!という純粋な動機ですよ
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