幼少の頃からまるで
そんな俺は初登校から数週間当然の如く周りから
麻雀で言うなら順風満帆の東風戦を戦いはじめた気持ちになった。あと
だが、順調な学校生活に待ったをかけるかのように、学校帰りにカエセカエセと言いながら借金取りのように迫ってくる変な動物に追われて逃げ惑っていると、いつのまにやら見知らぬ山中に迷い込んでしまっていた。何処だここ、あの有名なマヨイガか?
流石の俺でも途方に暮れてしまう。あたりを見渡すと朽ちかけた祠が鎮座していた。祠のお供え物だろうか、食べ物を口にしようとしている老人が佇んでおり、俺と眼が合ってしまう。
「おや、人に見つかってしまったか。こんな場所に若者が来るとは珍しいのう」
「貴方は……」
浮世離れをした強者特有のオーラを纏った、まるで仙人の様な出で立ちのご老人に思わず心が踊り声をかけてしまった。
「恥ずかしい所を見られてしまったのう。ほれ坊主、お主も一緒にどうじゃ?」
手際よく祠にまつられている食べ物を我が物顔でこちらに手渡してきていた。きっとこの祠に住んでいる神様なのだろう。俺はありがたく頂戴し神秘の力を授かる気持ちで食べ物を噛み締める。
「食べおったな。この事はわしとお主との秘密じゃぞ」
お茶目な表情でこちらを見ながら神託のように俺へ言葉を授け、指きりのような仕草をして微笑んでくる。なんと気さくな神様なのだろうか。秘密という
「そう言えばお主、どうしてこんな場所に来たんじゃ? 服も汚れておるし」
祠の神様に問われ我に返ると衣服が汚れているのに気付き、俺は神様の御前だというのにこの様な無様な格好で対面していたのかと思うと、途端に恥ずかしさがこみ上げて顔から火が出てきそうなのを我慢しつつ神の怒りを恐れ弁明をはじめていた。
「実は借金取りに追われて無我夢中で逃げていたら……ここに迷い込んでしまったんです」
「借金とな? お主若いのに随分と苦労をしておるのう」
祠の神様は優しげな眼差しを俺に向けながら、まるで我が事のように親身になって話を聞いてくれている。そう言えば何故あの謎生物はカエセカエセと言いながら俺を追いかけてきていたのだろう。たまにレイコとか言ってたし多分祖母の借金が原因かな。
なるほど。過去にたらい回しになった家々でレイコさんについて聞こうとした事があったが、親戚がレイコさんの事を話したがらなかったのは借金が原因だったのか。
その後も他愛の無い話で盛り上がり、そろそろ門限だなと思い神様から帰り道を教示してもらい、また遊びに来る事を約束して近くの山にも神様が坐わすのだなと不思議な気持ちで塔子さんや滋さん、木の妖精さんが待っているであろう家に帰宅し、今日の出来事を話す。
『タカシ……お前また変な奴に絡まれてたのか』
「変なってなんだよ。神様に失礼だろ」
『いや……まあいいか。話を聞く限り害はなさそうだ……聞いてるのか?』
近所の山に神様が坐わす事を教えてあげたのに、妖精さんはあのお方を変な奴扱いだ。失礼な話である。確かに最初は
常人には真似できないオーラを纏い、俺とは違い能力を持たない普通の人とは目と目が合ったりしないし他人に話しかけられる事も無いような感じだったし、あんな気さくで優しくて、慈愛に溢れる表情で俺のくだらない話に付き合ってくれるのだから神様である。
『おーい……タカシの分際で私を無視するな!!』
「……痛い、妖精さん痛い! ギブ! ギブ!」
『Give? もっとやって欲しいのか』
「違う! ギブアップ!」
山の神様との邂逅に思い耽っていると妖精さんが俺にヘッドロックをかましてきた。筋力では勝てないのですぐギブアップである。そんな風に妖精さんとのスキンシップを楽しんでいると、塔子さんからご飯よとお声をかけていただく。
カカッと食卓につき、帰っていた滋さんと共にいただきますと、いつもご飯を作ってくれている
日々の食事への感謝が深まり、普段よりも一層ご飯のおかわり量が増えてしまうのは、おそらく神の供物を口にしたおかげだろうか。
「あら、貴志くん。今日はいつもよりたくさん食べるのね」
「これで9杯目か、食べ盛りだな貴志」
「いつもよりなんだか食欲がわいてきて」
食欲旺盛さをアッピルしつつもご飯のおかわりは9杯までと決めているのは、謙虚な心を持とうという気持ちが神様との出会いにより、そういった信念がより深まりそうになったからだ。
『そんなに食べて腹を壊しても知らんぞ』
何やら足元で妖精さんが心配そうな表情をしつつ小声で語りかけてきたが、大丈夫だろう。何せ神様のご加護があるのだから。
食べ終わり、自室に戻ると急に苦しくなる。今日の疲れが今頃出てきたのだろうか。
『馬鹿だなお前は』
苦しくなり横になって休息をっとていると、妖精さん(Ver.猫)が俺の腹上に乗りながら馬鹿にしたような笑みで悪戯をしかけ、弱っている俺を
妖精さんの悪戯はいつもの事なのでひとまず置いておくとして、何故急に苦しくなったのだろう。俺はふと今日の出来事を振り返りながら考える。考えた末、俺が出した解は――
「しまった! お供えをしていない!」
そう。他愛の無い話を神様としたりしていたが、俺自身が供物を神様に捧げていない事に気が付く。神の施しを受け賜りながら、感謝の言葉だけで済ますとはなんと罰当たりな人間だろうか。
恐らく罰当たりな俺に罰が当たったのだろう。明日にでもさっそくお供え物を捧げに行かなければならない。
『まったくお前は……』
何やら妖精さんはやっと気付いたか馬鹿者めとでも言いたげな表情だ。ありがとう妖精さん。未熟な俺にいつも大切な事を気付かせてくれて。
ただ、俺にしかけてくる悪戯の頻度はもう少し下げてもらえないだろうか。口からエクトプラズムが出てきそうです。
◇◇◇
あくる日の学校の帰り道、俺はお供え物をスーパーで買ってからあの山中へと向かう事にした。神の機嫌を損なわないよう慎重に供物を選び終えた俺は祠へと無事辿り付く。
この厳選に厳選を重ねたザクロの実。神様は住んでいる祠のように肌が荒れていたので、きっと喜んでくれるに違いない。
無事再会を果たした俺と神様。お供えしたザクロは大層気に入ってもらえた。良かった。また持っていこう。
神様に気に入られた俺はそれからというものの毎日山へ行くようになった。
神様の
なるほど、八百万の精神を持っておられるのだろう。他の神の家にも遊びに行ったことがあるらしい。お茶目な神様らしい一面を垣間見た気がした。
そんな和やかで為になる日々が続く。だが、
己を高める為に学び、鍛えた学力を試す試練がようやく終わり開放的な気持ちになった俺は、ふと窓から山を見る。神様は元気だろうか。
「夏目ー! 試験終わったしどっか遊びに行かね?」
「西村、北本、用事があるんだ。ごめんな、また誘ってくれ」
「えー……川で釣りとかしたかったなー」
「西村、用事があるなら仕方ないだろう。無茶を言って夏目を困らせるなよ」
「ちぇー」
すまない白虎と玄武。俺もお前達と遊びたいのだが、どうも胸騒ぎがするんだ。後ろ髪を引かれる思いで俺は学校をあとにする。
はやる気持ちを抑えながら、俺は山へ向かう。道中橙色の看板やら人を模した模型のようなものがあったがどうでもいい。神様に会いたい。笑いあいながら為になる話を聞きたい。
俺の胸騒ぎが的中してしまったのだろうか。祠があった場所は無機質な重機で跡形も無く、更地にされてしまっていた。
「そんな……」
神様は無事なのだろうか。焦燥にかられ呆然としている俺の気持ちを無視するかのように、近くに居るのであろう小さき変な動物の声が能力者である故に聴こえてくる。
『このあたりも住み辛くなった』
『人間達は我らの住処を勝手に荒らす。だから嫌いだ』
『そういえば祓い屋が近くに来ていたな』
『さっさと逃げよう』
『逃げねば逃げねば』
呆然とする俺は意識しなくても聴こえてくる
許してはならない。神坐す山を重機で荒らすなど言語道断だ。まだ見ぬ敵への怒りからか、総身から騒ぎ出す鮮血の旋律に身を委ねていた俺は近付いてくる気配に気付けなかった。
『うまそうな人間がいるな。クッテヤル』
気付けば強盗のような
そうやって諭そうとしたのだが話を聞いてくれない。なるほど、カニバリズム系の強者だったのか。そりゃ普通の食べ物じゃ満足できないな。
でも俺食べられたくないです。なので必死に逃げる。こういった日常茶飯事に構っていられないほど今の俺は精神的に追い詰められていた。追いかけてくるカニバ系の強者。どうしようか考えていると物理的に後ろ髪を引かれる。
『また変な奴に絡まれてるな』
散歩の時間が終わったのだろうか。いつものように猫じゃなく妖精さんが人型で俺の髪を引っ張っていた。髪にダメージは勘弁してください。禿げたらどうするんだ。
そんな風に妖精さんと言い合っているとカニバ系強者が目の前に。とりあえず殴るかと考えていると、目の前の強者すら路傍の石に過ぎないと言わんばかりの強烈な
眼前の強者もその気配を感じたのか振り返る。それにつられるように俺は見た。見てしまった。
「おや、こんな所にも妖が。討ち漏らしか」
赤い眼、その片方を隠すように謎の模様を描いた包帯のようなモノで封じている。着物とはこうして着るのだと、まるで和の祭典から抜け出してきたような出で立ち。武器なのだろうか、番傘を片手に俺の目の前の強者を気配だけで圧倒している。只者ではない。
カニバ系強者は先ほどの勢いは何処へやら、身を震わせながら後退りしていた。おそらく逃げるつもりなのだろう。
番傘の彼は傘を地面に置き、どこから出したのか弓を取り出して構える。弓を引き、的に中るのが当然のように逃げ出したカニバ系強者を一瞬で倒してしまった。
自分とは住む世界が違う。完全に俺よりも上位の層に住まう
「君も見えていたようですが、大丈夫ですか?」
圧倒的強者である彼に優しく手を差し伸べられながら声をかけられる。
「ええ……ありがとうございます」
「ふむ。後ろにいるのは君の式ですか?」
「はい。大事な
先ほどから妖精さんは彼を無言で睨みつけている。おそらく俺と同じように敗北感を感じているはずだ。友を式と呼ぶなど、浅学の俺にはできない発想。
「なるほど。式を大切になされているのですね。先ほどから私を警戒して、君を害そうとする者なのか危惧しているようだ」
俺ははやる妖精さんを抑え、笑顔で語りかける圧倒的強者にこちらも笑顔で返す。
「毎日よくしてもらってます。大事な、大事な存在です」
「知り合いに一人、君のように式との関係を大切にしている方を思い出しました。私には到底真似できないでしょう。妖に感情を抱くなど」
かつての自分を見ているようで胸が締め付けられる。時代を越えてやってきた合わせ鏡のように、まるで自身を責めているかのような。
妖精さんや塔子さん、滋さん。優しい人達に出会えなかった自分はこうなっていたのかもしれないと身震いする。
「もうこの辺りに妖はいないようですね。ではまた、ご縁があれば」
「助けていただきありがとうございました」
「いえいえ」
圧倒的強者は名前も告げずに去っていく。本物の強者。孤高の体現者にまた出会ってしまった俺は打ちひしがれていた。
悔しい。圧倒的敗北を感じたのは初めてだ。あんな
こうしてはいられない。早く。早く買わなければ――番傘を。
『おい、タカシ!』
妖精さんの声を振り切り俺は風のように走る。走っていた俺は何かに引っ掛かってしまう。
「いてぇ……」
『馬鹿。急に走り出すから』
妖精さんが心配そうにこけた俺を覗き見るように近付く。だが、そんな事よりも俺は何に引っ掛かったのか気になり足元を見てみると縄があった。
どうやらコレに引っ掛かったらしい。縄が千切れている。縄で囲むように祠があり、とても厨二心をくすぐってくる。俺のそんな心境を察したのか祠が喋りだす。
『おぉ、結界が破れた。これで外に出られる』
これは強者の封印を解いてしまったのだろうか。もしかしたら本物の強者に敗北した俺に対する、今は居ない神様からの贈り物なのかもしれない。別の祠だが。
伝説の剣が出てくるのだろうか、はたまた最強の存在しか装備できない腕甲かもしれない。祠から飛び出してくるモノに期待が高まる。
――満を持して祠の扉が開かれていく。
「招き猫……だと……」
祠の扉から見えてきた光景に絶句する。可愛らしい猫の置物のような存在が鎮座している。パワーアップイベントかと思いきや、マネーイベントだったようだ。まさか祠から招き猫が出てくるなんて、俺はついて行けるのだろうか――神様のいないこの世界の
山の神様は祓い屋(国の行政代執行)により立ち退きを余儀なくされました。