戦争ゲーム   作:マンボー豆腐

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戦争ゲーム

 

 

おれは、しがない小市民であり、ろくに家庭も築けずに日々仕事に励みつつ、風呂と趣味と睡眠とエロスによって精神の安定をはかるような男である。

 

今日も、よく晴れた休日だというのに真っ昼間からゲームをはじめるありさまだ。

 

「さて、どれにするか」

 

最近ハマっているのは、とあるフライトシューティングで、様々な空飛ぶ乗り物を操ることができる。

 

それこそ『飛行船』から『宇宙船』まで、様々だ。

 

おれは、社会的にはもう大人だというのに、胸を高鳴らせながら起動し、ステージや機体を選択していった、そして。

 

「…あっ?」

 

一瞬間、眠りに落ちたような感覚。

 

気が付くと、おれはゲームと同じように、『FFR‐31 シルフィード』の単座コクピットへおさまっていた。

 

しかし猛烈な違和感。

 

「なん……えっ?」

 

宇宙服じみたパイロットスーツや、肌着や、オムツなどの肌触り。

 

無機質なグリップや、シートなどの感触。

 

吐き出す息、供給される酸素、流れる冷や汗、微かな薬品臭さ。

 

「おかしい、いや、おかしい」

 

目眩がする、心臓が破裂しそうだ。

 

確かに、没入型のゲームではあったが、しかしこんなにも現実感のあるものなどでは、なかった。

 

不安でパニックになりかけたその時、無線機から聞き覚えのない声。

 

「ご安心くださいませ、あなた様」

 

女性だ、若い、声だけで姿も見えない誰かに言われても、とても安心できない。

 

「あなた様は現実に戻ることができますし、こちらの世界で死ぬことはありませんし、今のあなた様はゲームの時の感覚同様に、自らの機体を操縦することができます」

 

「いきなりなんだ…だれだ、きみは」

 

「失礼、わたし戦闘補助用知性体です。パーソナルネームはありません、あなた様の好きなように呼んでくださいませ」

 

目眩がひどくなった気がした。

 

「おっと、あなた様の体調が予想よりも酷いご様子。ただいま調整いたしましょう」

 

目眩がおさまった、吐き気や動悸なども。

彼女?の匙加減ひとつで、おれ自身が操作されてしまうのか。

気味が悪い。

 

「どうなってる、なんだこの状況は」

 

「あなた様は選ばれたのです、この世界をより良くするための英雄として」

 

「なんだと?」

 

「戦ってください、なあにゲームとおなじでございますよ、いつもの通りです、いつもみたいにパァッと気晴らしをしてくだされば、それで良いのです」

 

わけがわからないし、夢とも思えない、この理不尽な現象に、怒りが込み上げる。

 

現在おれが座しているらしい機体の、コクピットキャノピーを力一杯に叩く。

 

痛い。

ゲームでは、ありえなかった。

 

「ふざけるな、いきなり。今すぐ帰る」

 

「帰るのは勿論可能ですよ。任務を終えたあとならば」

 

「なんだと」

 

「選択したではありませんか、あなた様。ゲームのスタートを」

 

「狂った理屈だ、キャンセルだ」

 

「しかし、既に時は動いております。御覧ください」

 

「う゛っ!?」

 

 

まるで夢を見ているかのように、視界を埋め尽くす映像と、立体音響どころではない情報量。

 

「こちら、現在進行形、こちらの世界の現実でございます」

 

燃え上がる町、弾け飛ぶ軍人、悲鳴、怒号、絶叫。

 

「主様がこうしている間にも、ネウロイは活動を続けています」

 

地獄だ、まさに。

 

戦争を知識やゲームでしか知らない小市民のおれには、あまりに刺激の強い光景。

 

胃液が込み上げる。

 

「おっと」

 

映像が消え、吐き気もすぐにおさまった。

不気味にもほどがある。

 

「……これを、どうしろと」

 

「いつもどおりですよ、主様。パパっと殲滅、いたしましょう?なあにコクピットは防御力場で守られていますし、わたしのサポートもありますれば、まさにゲーム感覚でございますよハイ」

 

「……おれが死ぬ事は、本当にないのか?」

 

「これっぽっちもございません」

 

「元の現実へ帰れるんだな?」

 

「当然です、ちなみに、こちらで過ごした時間と現実の時間は一致しません。浦島ではなく、こちらで1日過ぎても、あちらでは1秒とたっていません。逆も同様です」

 

普通に考えて、よしやろう、とはならない。

ならないが、何故だろう、やらなくてはならないという使命感が。

一秒でも早く助けにいかなくてはならないという、焦燥が。

人類に仇なすネウロイ赦すまじ、という怒りが、どうしようもなく湧きたってくる。

 

きっと彼女の仕業であろう、ちがいない。

 

「……くそが」

 

おれは操縦管を握り直した。

 

悔しいが確かに、おれはこういったシチュエーションへの憧れがあるし、心の何処かでワクワクしている。

 

自分自身の感情かどうかわからないが、この高揚感に身を任せてしまいたいと、強く思う。

 

思ってしまう。

 

とても悔しい。

 

「音声入力……発進シークエンス、スタート」

 

ゲームでの音声入力と同じ様に、呟く。

 

途端に警報、振動、そして床が機体をのせたままスライドしてゆく。

 

「まじかよ」

 

「まじですよ」

 

勢いにまかせ、なんとなくで、はやまった。

しかし時既に遅し。

 

機体は、フライトデッキへ運ばれている。

 

ちなみに、おれのホーム…つまり機体が置かれている場所の外観などは、『戦闘妖精雪風』のバンシー級を元にしてある。

 

「…ちびりそう」

 

開かれた隔壁、叩き付ける轟風。

遥か雲の上を飛び続ける、空中空母からの出撃となる。

ゲームでさんざんやってはいたが……今となっては、あまりに怖い。

 

「おいやっぱキャンセルだ」

 

「発進、どうぞ」

 

「う゛っ!おいいいひぃええええ!?」

 

カウントすらせず射出され、衝撃と共に緑色の空へと駆け出した。

 

涙を滲ませながら、強張る体で必死に出力をあげ、機首を上に向ける。

 

「おっ、ちょっ」

 

ゲームと同じ様に、とは言われたが、やはり体がついてこない。

気分はペーパードライバーだ。

 

「ふう…よし、おちついてきたぞ」

 

「ではゲートを開きましょう」

 

「まてまてまて、いや確かにな、ゲーム感覚で空を飛べている。感動的だ、素晴らしい、これが夢でなければな」

 

「ご安心ください、これもまた現実です」

 

「そうか。しかしだな、おれの今の体は、えっと、あちらのものと同じだろう?」

 

「そうですよ」

 

「なら、なんの訓練も受けていないこの体では、超音速戦闘機による戦闘機動など、耐えられるとは思えない。首がおれたらどうする」

 

「ご安心くださいませ、そういった諸々含めて防御力場により保護されております。万が一もないように、わたしも尽力いたします。さあ、ゲートを開きますよ」

 

「あ、いや……ああもう、わかったわかった、行くよ」

 

進行方向の空に、いかにもゲーム的な、超空間通路が開かれた。

 

 

< コラボステージ:欧州撤退戦1 >

 

 

トンネルをぬけると、そこは帝政カールスラントの上空だった。

高度18000m、早朝、晴れ、朝日が美しいが眩しく煩わしいのもまた事実。

スモークのバイザーをおろす。

 

コクピットのマルチディスプレイの一角に、なんともゲーム演出らしく、画像が写し出された。無数の黒煙、閃光。町全体が燃えているらしい。

 

「ひどいな」

 

今回の目的は、侵攻してくるネウロイを攻撃することで、足止めを行っているカールスラントの戦闘機とウィッチ、それに地上部隊を手助けする、というもの。

 

ヘルメットのバイザーに表示された情報を読み取りながら、機体をひねり、急降下、同時に推力をあげる。

 

まずは空中のネウロイ群だ。

音の壁を容易く突破しながら、兵装類の安全装置を解除。

目視はできないが、シルフィードがもつ電子の眼ならば捕捉できている。

ちゃんとネウロイのみを敵と識別しているのか、不安になりはしたが、おれの気持ちを読み取ったかのようにマルチディスプレイの一角でネウロイであることを裏付ける様々な情報が表示される。

『雪風』のような、高度な中枢制御体を搭載している、という設定は無かったはずだが、ゲーム故の仕様か、はたまたフェアリィ空軍の主力制空戦闘機は伊達ではないということか。

 

「よし、あーっと……チキンブロス4、交戦する」

 

哀れなバーガディシュ先輩にあえてあやかったハンドルネームを口にする。なぜ4なのか?他のプレイヤーと被ってたからだ。

 

進行方向の先、乱戦しているウィッチとネウロイの集団へと向かうネウロイ4機編隊を狙う。

 

「くそ、おちつけ」

 

妙に緊張している自分に言い聞かせながら、深呼吸。

 

胴体下の、空対空ミサイルならば7発搭載できるウェポンベイが開かれ、ミサイルを発射して、別目標に切り替えて、また発射、それを4回。シューティングゲームらしく、すぐにミサイルが補充される。

 

対JAM用の高速空対空ミサイルが、白煙を吐き出しながら突き進み、おれの機体の遥か先を行く。

 

(たしか、マッハ10くらいまで加速するんだったか?)

 

白煙をおいかけてもいいが、敵はきっとビームのようなものを撃つだろうし、ゲームの頃より大分遠目に想定した反撃される相対距離になるまえに上昇した。

 

(おっ)

 

視界の端に、「Kill」の文字がひとつ、ふたつと表示されていき、計4となる。

 

見えはしなかったが、初戦果だ、4機撃墜。

 

「よし!」

 

垂直上昇からさらに機首を傾け、ぐるりと宙返りして、機首を下方へ。

 

互いに相手と夢中になっているらしい、乱戦中のウィッチ

たちへ加勢すべく、速度を増しながら降下。

 

「そうだ。なあ、きみ」

 

「はい、なんでございましょう?」

 

「今おれが向かっている先のウィッチたちとは、無線で交信できるかい?」

 

町並みが見えてきた、さすがにおれの視力では、飛び回っているはずのウィッチたちを認識することはできないが、うっすらと飛行機雲は見えた。

 

ウィッチは3人、ネウロイは7機、個別ロックオン。

ネウロイは気付いていないのか、かわらずウィッチたちを追い回す。

今、シルフィードの左右エンジンポット外側にあるハードポイントには何もついていないので、ネウロイの数は丁度いい。

ウィッチたちは必死に逃げ回っているらしく、とても優勢にはみえない。

しかし、おかげでウィッチとネウロイの距離が保たれており、ミサイルの破片でウィッチにも被害が及ぶ可能性は低い、らしい……シルフィールドの示す加害範囲によれば。

 

心配ではあるが、このまま接近してガン攻撃での巴戦を挑んだり、事故をおそれて手を出さないよりはウィッチたちにとってもマシだろうと、決めた。

我ながらゲーム的な判断だ、これが身内とかならば絶対できないだろうに。

 

「可能ですが、あなた様」

 

「なに?」

 

「彼女たちの使う言語は、お得意で?」

 

「…翻訳機能」

 

「ないです」

 

「そっかあ…」

 

いや確かに、ゲーム時代も言語が異なる場合は、あらかじめ用意された定型文でしか話せなかったけどさあ……。

 

「なんでもいい、ミサイル攻撃に巻き込まないよう、彼女たちへ警告したい」

 

「では代わりにわたしめが」

 

「できるのか、たのむ、早く」

 

ぐずぐずしていては、ネウロイとの相対的な距離があっというまに近くなってしまう。

 

「わかりました。アー…」

 

よく聞き取れないが、彼女が端的に警告したのは、何となく伝わった。

 

「――!!」

 

それに対する怒声も通信機ごしだろうが、聞こえてきた。

 

きっと、ふりきれるならとっくにやってるわよファッキンビッチとか、そんなだろう。

 

「警告しました」

 

「ありがとう」

 

言いながら発射ボタン、ウェポンベイが開き、空対空ミサイル全弾発射。

直後に大急ぎで上昇しながらの右旋回、ミサイルの白煙をみやりながら距離をとる。

 

 

すぐに表示された文字のなかに「Kill」が6、「Hit」が1あった。

1機、命中したは良いがまだ飛んでいるらしい。

 

「おっと」

 

しかし好機とみたらしきウィッチたちが、いっせいに襲いかかり撃墜。

一瞬、接近して挨拶でもと考えたが、さっさと次の敵へ向かうことにした。

 

周囲には、まだまだネウロイがいて、やることはいくらでもある。

 

 

リアルなウィッチの生々しいズボンという名のパンツを拝みたい気持ちもあるが、眼下にひろがる惨劇や、レーダーから消えゆくウィッチを無視できるほど、おれの性欲は強くない。

 

「B2、スターボード」

 

ちょっとかっこつけて、向かう方向を宣言しながら最寄りのネウロイへと旋回。

 

「あなた様、仰られたスターボードは逆側です、そちらではありません」

 

「……そうか」

 

「少し混乱しているご様子。ですが妙ですね、脳に異常は見当たりません」

 

「もう落ち着いている。ありがとう、すまない、だから少し話しかけないでほしい」

 

「左様で」

 

恥ずかしい。

 

ああ、恥ずかしい。

 

二度とやらん。

 

 

「そんなことよりネウロイだ」

 

 

2機のネウロイが、一人のウィッチを追っている。

ウィッチは、魔法の障壁をはっているためネウロイのビームや実体弾を防いでいるが、シルフィードによれば片側のストライカーユニットが不調らしい。

被弾したのかまでは、さすがに不明だが、なんにせよミサイルを使えば巻き込まれる。

 

「ああ、もう……怖いな」

 

スロットルレバーのスイッチを押し、近接戦闘モード、ガトリングガンのレティクルを表示。

 

ロックオンした先頭のネウロイの斜め横から、同じ進行方向へ合流するかのようなルートで接近をこころみる。

 

呼吸が荒くなる。

速度が出すぎている、これでは後ろへついても、あっというまに追い抜いてしまう。

 

減速しながら徐々にカーブ、ウィッチとネウロイと縦一列になるのを目指す。

 

ほどなくして塵のように小粒だが、目視できる距離に。

 

ゲームでは、場合によっては普通に攻撃される距離。

 

(……気付いていない?いや、無視しているのか?たとえば、ネウロイがレーダーを使っているとして、シルフィードのレーダー反射断面積が小さいために、脅威と判定されないとか…いや、おれの機体の速度を考えれば、無視はしないだろうし、そもそもシルフィードからレーダー照射しているのだし…ううむ?)

 

現在速度は800㎞、ウィッチとネウロイは約300㎞、すぐに射程距離だ。

 

おれはネウロイ2機の後ろについた。

射線がウィッチに被らないよう注意しつつ、レティクルをロックしているネウロイへ重ねる。

ようやく、おれが狙っていた方ではない1機が急旋回をはじめる、だが同時に、ウィッチを追い続けている1機へ射撃。

 

2秒は無い、1秒半の射撃の後、めちゃくちゃな急上昇。

アフターバーナーもたいて、宙返り。

 

ひっくり返った視点で、急旋回をおえたネウロイのビームが、掠めるのが見えた。

 

「Kill」の文字。

 

少なくともレーダーで見る限り、追われていたウィッチはまだ飛んでいる。

 

機体を捻るようにしながら、下方のネウロイへ。

 

レティクルがうまくあわせられない、回避を優先。

 

すれちがいざま視界の端に赤い光、幸い被弾はしていないらしい。

 

シルフィードの機首を引き起こしながら、距離をとる。

 

この機体には魔法のシールドをはる機能などない上に、小回りやなんかの運動性能もあちらが上だろう。

 

警報がやかましい、シルフィードを傾け水平に緩やかな左旋回、ネウロイとの距離がぐんぐん離れ、ウィッチもこの隙に距離をかせいだようだ。

 

おれはこのまま、向かってくる別編隊を狙うことにする。

 

スイッチをおして近接戦闘モードを解除、ガトリングガンのレティクルが消える。

 

別に、ミサイルと併用できないわけではないのだが、ややこしいので切り替えたのだ。

 

音の壁をこえながら、4機編隊のネウロイと向かい合う、ただし視認できない程度には遠い。

 

ロックオン、4発発射、見届けずに進路変更、また別のネウロイへと向かう。

 

長い一日になりそうだった。

 

人手が欲しい、NPCを僚機として連れてくるべきだった。

 

しかし、しかしだ。こんなにもリアルな世界で、おれが欲望の赴くままに作成したキャラクターたちと対面しては、現実に帰りたくなくなるかもしれない。

 

「ちなみに、ですが」

 

「なんだ、急に」

 

「あなた様のNPCたちは現在、単純な会話しかできないプログラムを遥かに越えた人間のような自我を獲得し、加えて皆があなた様を慕っております」

 

「なんとまあ、恐ろしいことを言うな。自我だって?反乱されてはたまらないぞ。おれを慕っているから、なんだというんだ」

 

「ですから、反乱防止兼あなた様の不安を取り除く最善策はですね」

 

「うん」

 

「セックスです」

 

「うん…うん?」

 

「NPCたちは、あなた様に愛されることを強く望んでおります」

 

「だから?」

 

「確かめあい、刻み付けるのです、愛を。さすらば皆が幸せ、大団円です」

 

「冗談はよしてくれ」

 

「ご安心ください、妊娠も性病もございませんし、具合は

人間の女性と同等……いや、それ以上のはずでございます」

 

「……」

 

「心踊るでしょう?あなた様がイメージし、作り上げた者達が、人膚の暖かさと柔らかさでもって、誠心誠意あなた様を受け入れようというのです。勿論、コスプレなども可能ですよ」

 

「それは……フムン。考えておこう」

 

ええい、そんなことより今はネウロイだ、と自分に言い聞かせながら、おれはミサイルを発射した。

 

シリアスにいこう、シリアスに。

 

こんなバカなことをしている間にも、恐ろしい勢いでカールスラントの戦闘機が墜ちていくのだ。

 

シルフィードによれば、地上部隊はちらほらとしか残っておらず、町のいたるところで無限軌道のかわりに脚を生やした戦車のような地上型ネウロイが歩き回っている。

戦闘機とウィッチは合わせても20に届かず、対して飛行型ネウロイはまだ30機ほど。

 

 

ウィッチでさえ、毎度攻撃を防げるわけではないのに、回避するしか術の無い戦闘機では……。

 

「あっ」

 

遠くの空で燃え上がる何かが見えた。

 

人が死んでいるのだ、嫌になるほどあっけなく。

 

この世界が本当に存在し、この世界の人間もおれとおなじように一喜一憂しながら人生を歩んでいると、証明する術など持たないが、少なくともおれは、この世界の人間の死に心を痛めていた。

 

「ええい、くそっ!」

 

ミッションはまだ、始まったばかりだ。

 

ネウロイはおれを脅威とみとめたらしく、周囲のネウロイが次々に、こちらへと方向転換。

 

おれは急加速しながら前方の3機をロックし、ミサイルを発射。

 

機首をあげつつ旋回し、上へと逃げる。

 

「む?」

 

表示されたのは「Hit」が3つ。

 

「耐えたのか、ミサイルを」

 

「あなた様。敵もまた、学習するのです。ミサイルが迫っていることに気が付いたネウロイは、姿勢を傾けることで、自らの体で最も厚みのある部分をミサイルに対面させたのです。結果としてコアは無事、今まさに再生しています」

 

「そうか。ゲームのようだが、そこまで単純でもないのだな」

 

気がつけば、20ほどのネウロイが接近してきている。

 

急旋回、上昇してくる別の3機と向かい合う。

 

「ぬおう!」

 

まだ斜め下にいるその3機をロックオンした直後、3条のビームが放たれた。

 

高度差があったためか、真正面から直撃することは無かったが、シルフィードの後端をとらえたようで、振動と被弾した際の警告に血の気が失せる。

 

「わ、わ、おいこれどうすんだ、火は出てんのか?フューエルカットなんてどうやればいいんだよ!」

 

「御安心くださいませ、ゲーム同様、すぐにおさまります」

 

「そうなのか?あ、ほんとだ…ちくしょうめ!」

 

「ですがダメージの蓄積にご注意くださいませ。限界をこえますと、任務失敗、ホームから再出撃となります」

 

ミサイル発射、今回は1機に2発、計6発。

 

見届けずに急上昇、右旋回、そして別の2機へと急降下。

 

真上からの攻撃、ふいに表示された「Kill」ふたつ。

 

「1発目でコアのすぐそばまで装甲が吹き飛び、直後の2発目で致命傷となったようです」

 

「そうか!」

 

ネウロイは2機だが、こんどは4発と3発。

 

今更だが仕様上、弾は捨てるほど使えるので、確実な撃破を優先しよう。

 

逃げるべく左へ旋回する直前、実体弾で迎撃を試みたらしいが、ミサイルを捉えるのは難しいようで、2機とも撃墜。

 

「おや」

 

レーダーをよくみれば、ネウロイの多くがおれに向かった隙に、ウィッチと戦闘機が合流、見事な連携で反撃にでていた。

 

おれを追いかけるネウロイへ、1機づつ狙いをさだめ、一丸となって攻撃。

 

巴戦に持ち込まず、一撃離脱を心がけている様子。

 

 

「すごい、やっぱ本職は違うな」

 

当然だ。おれのように、ダラダラと遊んでいたのとはわけが違うのだから。

 

「おっ!」

 

シルフィードの警告にしたがい、急上昇しながら左へ。

 

後ろへ回り込んでいたネウロイを見落としていた、迂闊。

 

「余所見をするからですよ、あなた様」

 

「その通りだな」

 

エンジン出力全開、ぐんぐん上昇、ネウロイはついてこれない。

 

十分に距離をとったら、Uターンする。シルフィードの翼端から引かれる飛行機雲の美しさといったら!

 

「そういえば、シルフィードはネウロイの攻撃を事前に察知できるのか?」

 

「攻撃時の照準用電磁波を検出したようです。ですが発射される直前ですから、タイミングはシビアでございます」

 

「まあ、弾速は光速なのだろうからな」

 

高度差を活かし、追い縋るネウロイへ次々発射。

 

ウィッチや戦闘機も、反撃に転じてからは、落とされていない。

ネウロイの数が上回っていたから、各個撃破されてしまっていたのかもしれない。

 

 

 

結局、残りが10をきったところで、飛行型のネウロイはどこかへ去っていった。

 

「あなた様、時間は十分に稼げたようです、地上のネウロイも進行を停止、新たな飛行型ネウロイの到着を待つようです。今回の任務は成功しましたよ」

 

「今回ね、まあこの世界の軍には悪いが、とりあえず俺は一息つけるわけだ」

 

「その前に、あなた様」

 

「――!」

 

「うん?」

 

「カールスラントの軍として、誰何をしていますよ。所属や官姓名、味方なのか否かなどです」

 

眼下では、上昇限界が近いのだろう、低速旋回するシルフィードをウィッチや戦闘機が必死に追いかけていた。

 

「無視するのもなあ……宇宙人とでも言っておいてくれ、ネウロイとは敵対しているとも」

 

「かしこまりました、ですがよろしいので?」

 

「なにが」

 

「もっとこう、後々ベッドで頭かかえてもだえるくらいの台詞を言いましょうよ」

 

「…やめてくれ、ただでさえ宇宙人とかちょっとはずかしいなと思ったんだ」

 

「そうですか、では」

 

「――!」

 

「――」

 

「――!?」

 

「――」

 

「――!!」

 

おれの知らない言語で、あちらの質問に受け答えしているらしい、彼女。

本当いったい、何者なのだろうか。

 

「あなた様、あちらは全く納得していませんが、御要望通りに伝えましたよ」

 

「では帰る、疲れた」

 

「了解いたしました。ゲートを開きます」

 

「まて、彼らが見ている」

 

「いいではありませんか、見せつけてやりましょう」

 

「しかしだな」

 

「ご安心ください、どう足掻いたところで勝手な侵入など不可能です」

 

「ううむ…」

 

「それに、実に宇宙人らしいではありませんか」

 

「やかましい。わかったから帰らせて」

 

「かしこまりました」

 

空中に、行きと同じ通路が開かれ、おれはホームへと帰還した。

 

「それにしても、はは、宇宙人てあなた様、ははははは」

 

「やめて」

 

やめて。

 

 

 

 

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