戦争ゲーム   作:マンボー豆腐

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第2話

 

 

「本当に、時間がろくすっぽ進んでないな」

 

ゲームをやめて、部屋を見渡す。

 

この天井は、よく知っているし、窓の外も見慣れた景色だ。

 

深呼吸して、立ち上がり、体のあちこちを動かす。

 

肉体も精神も疲労は無いが、妙な感覚だ、映画を観終えたあとのような浮遊感。

 

気分を変えようと、水を飲んで、トイレに行き、風呂に入って、ようやく落ち着いた。

 

「ふう…」

 

それでも、じわじわと広がる思い。

 

「楽しかった、な。ああ、楽しかった」

 

おれはそんな、常日頃から夢に生きているような、若々しい感性ではないが、やはり夢物語のような非日常というやつを体験して、なにも感じないほど枯れてはいない。

 

楽しかった。

 

恐怖の方が大きかったようにも思うが、一度こうして自宅にもどり、落ち着いてみれば、強く印象に残るのは楽しさだ。

 

「……いや、やっぱ夢だったかなぁ…狂ったとかじゃ、ないよなぁ」

 

時計の音は聞こえない、おれをよぶ妹もいない。

正常なのだと信じたい。

 

「……まだ、午前中か…そうか…うん、そうか」

 

遠足をひかえた小学生でもあるまいに。

 

ぶりかえしてきた高鳴る胸を、おさえきれそうにない。

 

おれは、トイレを済ませてから、ふたたびゲームを起動した。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、NPCがどうのと言っていたな」

 

 

今回は、まずホームの自室からのスタートを選択した。

 

机と椅子とベッド、その他鏡などの小物類。ろくに生活感のない、せせこましい部屋だ。

 

「お早いご帰還でございますね、あなた様」

 

「きみか、どこから」

 

「どこからでも、あなた様に声を届けることができます」

 

「おれ以外にも聞こえるのか?きみの声は」

 

「聞こえますが、必要とあらば聞こえなくすることもできます」

 

「わかった。ところで、えっと…」

 

「NPCが気になりますか、そうでしょうとも。個別に会いますか?まとめて会いますか?」

 

「いや、それもそうだが時間は良いのか?今、カールスラントとかいう国は、大変なのだろう…ああしまった、現実で調べておくべきだったな」

 

「時間については、何ら心配御無用にございますです、ええ。なにしろあなた様は任務を選択しておりませんので、はい」

 

「なに?」

 

「現在このホームは、切り離された時空間にございますから、ここでいくら過ごそうとも、あなた様の故郷でも、任務で向かう場所でも、時間は進みません」

 

「そ、そうか…まあいい、まずはNPCがどんなもんになったのか見るとしよう」

 

確か、各NPCの待機場所として部屋を設定していたな、ほとんどデフォルト状態だったが。

 

 

 

 

 

<コラボステージ:欧州撤退戦2>

 

 

 

 

結論からいうと、どっと疲れた。

 

すさまじい美人たちから、すさまじい勢いでアプローチされるのは、正直いって素人童貞の身では荷が勝ちすぎる。

 

たとえば現在、新たなステージであるカールスラント郊外の高空を共に飛んでいるNPCたち。

 

機首に『雪風』と書された『FFR‐31MR/D スーパーシルフ』に搭乗している二人の少女、名をサヤカとナナ。

 

…そうだよ、かの公式傑作擬人化病気SF萌えアニメ『戦闘妖精少女 たすけてメイヴちゃん』に登場した『スーパーシルフちゃん』と『メイヴちゃん』だよ、悪いか…。

 

二人の美声と美貌をこれでもかと押し当ててくるもんだから、逆に戸惑ってしまってはぐらかしたら、何故か任務終わりに三人でシャワーをあびることになっていた!

 

キャバクラだとかガールズバーだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

 

 

そしてもう一人、『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』と呼ばれるパワードスーツを装着しているのは『艦隊これくしょん』に登場する『駆逐艦 雪風』…の、デザインをした少女。

 

名はユキ。

 

一見、無垢だが、なんていうかその…ラッキースケベが、ですね…はい。

 

あ、任務おわったあと?良くできたら、たくさんほめて欲しいんですって。

 

性的な意味で。

 

砂糖も多すぎれば自然と苦い顔になるわけで、他の女性型NPCもそんなんだから、少々つかれたおれは、安息を得ようと男性型NPCをたずねたわけだが…。

 

 

―――それは大変でしたね。まったく彼女たちときたら、ぼくらとちがって紳士協定を結んでいませんから、好き放題やってしまっているのですよ……え、協定?そりゃもちろん、褥での御世話をする順番ですとか、疲れている御様子ならば夜這いをひかえるとか、そういった諸々を取り決めたんですよ。ぼくらの愛が、負担にならぬようにと……え、急用ですか?それは残念、是非またぼくの部屋に来てくださいね。プレイグッズの豊富さには自信がありますから―――

 

 

もうやだ、そんな設定したおぼえないぞ、こわい、おうちかえりたい、でしたら即行任務終わらせてどうぞと彼女に言われ。

 

 

おれは、ネウロイが撒き散らす毒の霧によって枯れ果てた森林地帯上空高度17000mに、爆装した『FA‐1 ファーン』で出撃した。

 

今回の主な目的は、都市部へ向かっている地上型ネウロイを攻撃することで、同行している飛行型ネウロイも勿論狙わなくてはいけない。

 

ファーンは翼下に4、胴体下に3ヶ所、ミサイルなどをぶら下げることができるが、だから今回は精密誘導爆弾を胴体下の中央1ヶ所に2つ、胴体下両サイド2ヶ所にもそれぞれ2つの計6つ、翼下には空対空ミサイルを1ヶ所につき2つの計8つ。

 

それにしてもさすがゲーム仕様、搭載する物の重さやバランスなどをろくに考えなくて良いのだから。

 

離陸重量?荷重?こんな形の物体が、素人の手で飛んでいるのだから、今更だ。

 

ちなみに、スーパーシルフ雪風は偵察用のくせして空対空ミサイルをしこたま積んでいるし、IS雪風は形こそ『打鉄』だが、カラーリングは白だし、右手にビームライフル、左手にシンプルな盾と原作ファン憤慨ものである。

 

「よし、みんないくぞ」

 

「あれぇ?敵ってジャムですか?」

 

「ちがう、あれはネウロイ」

 

「そうですよユキちゃん、ネウロイです」

 

「わかりました、あれを殺せばいいんですね、がんばります!」

 

「そう、あれも敵。攻撃対象」

 

「さあ、お父さんのために、がんばりましょうねぇ」

 

雪風がたくさん…胸が熱くなるな…。

 

しかしながら、眼下に広がる毒の霧を思うと、そんなアホな思いでは誤魔化しきれないほどの不安が募る。

 

ネウロイに化学兵器を禁止する条約なんてないし、風の如何によって広範囲に汚染が広がる。

 

それに、仮に元を絶ったとして、除染するには相応の苦労を要するであろうし、ネウロイは地下資源を貪っているから、ネウロイによる占領が長期化した場合、場所によっては資源が枯渇しているかもしれない。

 

ネウロイを根絶したあと、汚染されず、資源も潤沢に残っている地域を巡っての世界大戦…などという、あんまりにあんまりで極端な妄想をしてしまう。

 

さすがにそれはないだろう、気を取り直して、ダブル雪風と共に降下してゆく。

 

毒と言えば、やられたネウロイが崩壊する際の破片というか粉塵、あれもヤバそうだが、ひとまずおいておく。

 

「サヤカ、ナナ、雪風、さっき話した通りだ」

 

「は~いお父さん、まかせてください」

 

応じるサヤカの声と共に、ファーンのディスプレイにシンプルな英語が表示された。

 

雪風だ、スーパーシルフに搭載された戦闘機械知生体。

 

おれは『深井零』ではないし、この雪風も似て非なる存在の筈だが、それでも雪風は俺に言葉をかけてくれた。

 

期待する、と。

 

「ああ…見ててくれ、雪風」

 

感動と重圧で泣きそうだ。

 

しかしどうせなら、電子頭脳が同期しているもう一機の雪風こと『メイヴ』も出撃させればよかったか、しかしさすがにややこしいか…などと思うおれをスーパーシルフが抜き去り、離れていく。迎撃にきた飛行型ネウロイへ先んじて攻撃をかける様子。

 

こちらより低い高度から緩やかに上昇し、スーパーシルフと向かい合おうとしているネウロイ群10機。

 

おれの後方、遥かに低い高度を水平飛行で、おれとユキと地上の間に先回りしようとしているネウロイ群10機。

 

どちらのグループもあまり散開せず、規則正しい編隊を組んだまま。

 

「チュッ、チッ」

 

「ヒュッ」

 

「チェッ」

 

通信機から、おそらくはサヤカとナナの会話が聞こえてきた。

 

高速言語だ、そういう設定もあったことを思い出す。

 

当人たちは立派に会話として成立しているのだが、おれは対海賊課というわけでもないから当然聞き取れず理解できないし、他のNPCにしても高速言語を使える者は少ない。

 

だが雪風などは別らしい、翻訳された文章がファーンに送られてきた。

 

《ナナちゃん、シャワープランだけど、まずお父さんの汗を》

 

「ファーンまてストップだ表示しなくて良い」

 

たのむからシリアスにしていて欲しい、せめて任務中くらいは。

 

「ご安心ください、あなた様。彼女たちはこの世界の現状をシリアスに受け止めております」

 

レーダーから、スーパーシルフと向かい合っていた方のネウロイが4機、ミサイルを受け消失。

 

ほとんど垂直に近い角度で降下しているおれは、首を持ち上げ、突っ込んでいく彼女らの方に目をやる。

 

幾条もの赤い光を潜り抜ける、飛行機雲がかろうじて見えた。

 

ビームの正面突破だと?おれにはとてもできそうにない、彼女らには恐怖が無いのだろうか?

 

地平線でわかたれた、晴れ渡る空の爽やかな色と、地表を覆う霧のおぞましい色を背景にした雪風の戦いにみとれてしまいそうになる。

 

「おっと」

 

ファーンが、促すかのように、敵機接近の警告。

 

「ユキ、地上目標を優先」

 

「わかりました!」

 

ユキは進路そのまま、グッドラック。

 

おれは機体の表裏を逆転、進路をこちらへ向かっている飛行型ネウロイへ。

 

そのネウロイ10機は、おれの進路変更へあわせてこちらへと上昇しはじめた。

 

するとファーンの、俯瞰視点のレーダーに、敵機を中心とした赤い円形の線が表示される。

 

「なんだ、これは」

 

敵機の現在高度やIFF信号などの情報は以前からあったが、このサークルは見たことがない。

 

「ネウロイの予想攻撃範囲です。雪風が算出いたしました」

 

すかさず、彼女。

 

「サークル内は、現時点で予想される、ネウロイがビームによる攻撃を開始する距離です」

 

「わかるのか」

 

「予想です、ご注意くださいまし。現時点のネウロイの情報は不十分ですからして」

 

なるほど、タイプが違うからまだデータを得ていないのだろう、サークルが表示されていないネウロイもいる。

 

「ありがたい」

 

感謝を込めてロックオン、1機につき2発、空対空ミサイルを次々発射。

 

射撃時のコールをしようと口を開き、固まってしまった。

 

(FOX…何番になるんだ、このミサイルは)

 

本当に今さらだが、おれはそういったことを全然把握していなかった。

 

やれやれまったく、ゲームでこれなのだ。

 

普段の職場でのダメっぷりが脳裏によみがえり、溜め息。

 

「Kill」は4、サークルに入らないよう、機体をひねり反転。

 

ふと、レーダー情報から、ユキが地表スレスレまで高度を下げ、無数に蠢いている地上型ネウロイ集団のド真ん中に突っ込んだ事に気が付いた。

 

「ユキ、大丈夫か」

 

ついつい心配になり、再び飛行型ネウロイを正面にとらえるための右旋回中、声をかける。

 

「もんだいありません!」

 

はさみうちをかけようとしているらしい、飛行型ネウロイ6機のうち、左翼の3機を正面に捉えた。

 

「ユキ、被弾はしてないか?射撃に支障はないか?」

 

機体を傾けて下を見やれば、ろくに地表を見通せない有毒な濃霧の中、チカチカと閃光が。

レーダー上の地上型ネウロイも、数秒に1機のペースで消失している。

一見すれば順調だが、どうか。

 

おれはミサイルを発射しながら、回り込もうとしている右翼側だった3機へ。

 

「おっきな樹も、お花も、みんなみんな死んじゃってます、だから地形にさえ気を付ければ、とってもかんたんです!」

 

「あ、うん」

 

「Kill」3つ、こちらも順調だ。

 

今のところは、空対空ミサイルが随分と優位だが、そのうち何らかの対抗手段をとるだろう、情報の秘匿など考えずに撃ちまくっているし。

 

仮に残骸が他者に回収されても、時間経過などですぐに消滅されるらしいのだが、不安ではある。

 

いつかは、怪獣だとか、宇宙人だとかと戦うべく造られた空飛ぶ乗り物を、引っ張り出さないといけなくなるかもしれない。

 

「パパ、援護する」

 

不意にナナの声、同時に、おれが狙おうとしていたネウロイ3機がレーダーから消失。

 

「もう10機を落としていたのか」

 

呟いたおれに、サヤカが言う。

 

「敵の増援は、こちらで対処しますから、お父さんはユキちゃんと地上目標を攻撃してください」

 

「わかった、ありがとう」

 

進路変更、高度を下げて水平飛行、しかし対空砲などを備えているかもしれないので、あまり高度を下げすぎないようにしながら、地上攻撃モード。

 

視界に、爆弾用のレティクルが表示された。

 

目線よりやや下に、サークル。

その中心からのびる点線が、正面のクロスラインと結ばっている。

 

クロスラインの位置は正面に固定され、機体を傾けるとクロスラインを基点に、点線とサークルが傾く。

 

要するに、サークルの中心が爆弾の落ちる先、ということである。

 

それに加えて、精密誘導爆弾の場合、自動で地上目標にサークルの中心があわされ、ロックオンとなる。

 

この状態で投下すると、あとは爆弾が自らを制御し、目標へ吸い込まれるように着弾する。

しかも撃ちっぱなし式。

 

色々とツッコミたい方もいるだろうが、しかしこれが、ゲームでの精密誘導爆弾であるし、おかげでGPSも誘導要員も存在しないこちらの世界でも使えるのだ。

 

「さて…おっ?」

 

スーパーシルフの電子的な眼によってとらえた、ネウロイ集団の中心にて戦闘中のユキの様子が、ファーンのマルチディスプレイの一角に表示された。

 

ユキが中心かつ低空に向かったのは、ネウロイがその辺りに最も密集していたからだろう、なにせゲームにおけるISは基本的に近距離での戦闘を想定しているらしく、扱う兵器のほとんどの有効射程距離が10km以下。

 

しかしながらセンサー類や、小回りなどの機動性、防御面はファーンなどの戦闘機より優秀なので、近距離で攻撃的な戦い方になるのだろう。

 

実際、地上型ネウロイの攻撃の悉くを、物理法則をまるで無視した動き…たとえば時速およそ200㎞での直角ターンや、制動距離ほぼゼロでの停止などによって回避するか両肩付近に浮かぶパーツや手にした盾で防いでいる。

 

爆発による圧力や音速の破片なども、ユキの体にはダメージを及ぼしていない。

 

問題と言えば、手数だろうか。

 

次から次へとビームライフルで撃ち抜くユキだが、砲口はあくまでひとつ。

 

その点でいえば、おれにも仕事が残されているわけだ。

 

おれは、進行を続けている地上型ネウロイ集団の先端部へ、落としては目標を切り替えてまた落とす、ひたすらにくりかえし。

 

落とす、次の敵、落とす、次の敵、落とす、次の敵……。

 

順に着弾、起爆、衝撃波で吹き飛ぶ霧、立ち上る爆炎、露出していく地面。

 

見えた地面は酷いものだ、赤茶けて、硫黄のような色のまだら模様。

 

おれの爆弾でなったのではない、爆心地は黒と灰の色をしている。

 

とても森林地帯とは思えない。

 

そんな荒野を行くネウロイは、進行方向が爆撃されてなお、止まる様子はない。

 

前を行くネウロイに直撃し、隣が爆発に巻き込まれようと、後続は何事もなかったかのように屍を乗り越える。

 

勇敢さとはまた別次元の、機械的な行動故の恐ろしさに体が震えた。

 

投下、照準、投下、照準…。

 

スーパーシルフはその高速性と高度な頭脳と大出力のレーダーセンサーと強力な空対空ミサイルで、爆撃機と化したファーンにネウロイをまったく寄せ付けない。

 

投下、照準、投下、照準…。

 

思うに枯れた大地が、爆弾の命中率を高めている。枯れ落ち、倒れふした結果、遮蔽物に邪魔されることが少ないからだ。

なるほど枯れ葉材をまいたわけである。

ゲーム的な仕様の爆弾といえど、さすがに当たり判定がないから通過するとかは、無いからな。

 

投下、照準、投下、照準…。

 

どれだけの敵を撃破しただろう、体感的にはかなりの時間が経ったころ、彼女の声が耳に届いた。

 

「あなた様、もう十分です、あなた様」

 

「なにを、まだまだ残っているじゃないか」

 

「しかし既に先頭が市街地へ入りました。今回の任務ではそれをもちまして、終了となります。終わりましょう、あなた様」

 

「帰ろう、パパ」

 

「帰りましょう、お父さん」

 

「帰還しましょう!」

 

雪風まで、帰投せよ、と促してくる。

 

なんだ、らしくない。

 

「さあ、帰ったらシャワータイムですよ、お父さん…うふふ…」

 

ああ、正直ホームに帰るのは気が重い。

 

もっとながく戦っていたい、そう人類のために。

 

しかし、しかしだ、まわりがそれをゆるさぬ雰囲気なのだ。

 

おれはホームの平和のためにあえて、そう、あえて、攻撃をやめて帰らねばならぬのだ。

 

カールスラントの将兵よ、うら若き勇敢なるウィッチよ、臆病者と笑わば笑え!

 

 

「まずはローションの準備ね…」

 

 

聞かなかったことにしよう……。

 

 

 

 

 

 

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