戦争ゲーム   作:マンボー豆腐

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第7話

 

 

NPCの心音を、静かな部屋のベッドの上で身を委ねながら聞くのは、現実世界を忘れてしまいそうな程に心地好い。

 

とは言えど、おれは自分の人生にそれなりの愛着があるし、現実世界の日常にそれほど絶望していない。

 

確かに時々、どうしようもなく虚しくなる時もあったが、だからといって大勢の人に迷惑をかけるような死に方に走ることはない。

 

おれだって、これでも散々に暗闇から抜け出してきたのだ、他人に言えないような経験もあるし、見捨てた人だっているが、それでも生きてきた。

 

人並みに開き直って生きていく事に成功したおれではある、が、やっぱり人並みに現実逃避したくなる時だって、たまにはある。

 

例えば、ゲームをやめて日常に戻ってからの最初の仕事で、散々にやらかしてしまったりとか。

 

そんなおれを、尻尾を巻いて逃げ込んだおれを、NPCのアストルフォは何も言わず受け止め、優しく慰めてくれた。

 

今も、一糸纏わぬ胸に抱いたおれの頭を、ただ撫でてくれている。

 

 

ゲームをホームからスタートして、たまたま最初に出くわした彼女を部屋に連れ込み、かれこれ2時間以上

 

 

情けなさに溜め息を溢す程度には、気を持ち直したおれの心情を察したのか、アストルフォが優しく声をかけてきた。

 

「落ち着いた?」

 

「ああ…悪かった、いきなり」

 

「もう、あやまらないでよ。ボクはキミのものなんだから」

 

「…そうか、そうだな」

 

「そうだよ。ボクたちNPCにとって、キミの遠慮は美徳とは限らないのさ」

 

「…あぁ~」

 

「アハハッ、よしよし…良かったぁ、元気出てきたねぇ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男性NPC相手にモノすンごく甘えまくってるホモホモ詐欺マン系色情マンなあなた様ン、いい加減によろしいでしょうか」

 

(あっ、いえ、大丈夫です、はい)

 

彼女の冷めきった声が頭に響き、流石のおれも畏縮した。

 

「今は周囲にも聞こえているので、普通に喋ってくださいあなた様」

 

「あ、そうなの」

 

彼女の声と同時に、アストルフォの動きがとまって、ついでに眉も下がった理由はそれか。

 

「今回の任務は今のあなた様にピッタリの任務です、耳の穴かっぽじってよく聞いてください」

 

「え、今のきみの声って耳で受け取ってんの」

 

「いいえ、今の声に鼓膜は関係ありません。たとえです」

 

「なんか、今のきみ、ちょっとおかたくない?」

 

「こちらに帰還してから一貫して無視されると、いやあ流石にアレですねははははは」

 

「ははは」

 

 

 

「説明します」

 

「ハイ」

 

 

 

 

「今回は救出作戦です」

 

救出、その響きに自然と身が引き締まる。

 

「ネウロイの勢力圏内に、生きた状態で取り残されている人間を回収し、カールスラント軍へ渡します」

 

おれの心情を察したらしいアストルフォが、逃げるように体を離した。

 

おれも改めて礼を告げ立ち上がる。

 

浮かない顔だ…どうしたものか。

 

「場所はわかっているのか?」

 

「勿論です、あなた様。カールスラント国内の3ヶ所、それぞれ同時に救出を開始します」

 

背を向け、下着を身に付けていくアストルフォを横目に、おれも服を来ていく。

 

「各所に戦力を振り分け、独自に行動させるのか?そういえばできたな、それ」

 

「基本は、あなた様と共に行動しますが、今回のような事もあります。それで……」

 

説明を聞きながら、今回のメンバーを考える。

 

彼女とのやりとりに気が行っていたおれは、アストルフォが静かに退室したことに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

「それでは、ブリーフィングを始めます」

 

会議室に彼女の声が響き渡る。

大きなスクリーンと、簡素な机、多数のパイプ椅子。

灯りを落とした室内には、今回選んだNPCとおれ。

 

皆、どこかギラついた目で、映し出された情報を読み取っている。

 

「今回は3ヶ所同時に実行します。チームも、アルファ、ブラボー、チャーリーの3つに分け、さらに役割ごとの班に分けます。目標の回収を行う救出班、敵の排除を行う制圧班、そして両班を指揮する統制班です。まず、現地の気象は……」

 

知識の無いおれは、視界に映し出される補足情報をフル活用して、少しでも情報を頭にいれようとする。

 

天候から地形、周囲のネウロイの配置や、予想される敵の増援などなど。

 

以前なら、たいして気に留めなかったし、実際そこまで高度なシミュレーションをするゲームではなかった、しかし今はそうも言っていられない。

 

「次に、手順です。まず大まかに言いますと、各チーム同時にゲートから統制班と制圧班が進出、救出班はホーム周辺空域にて空中待機。統制班の指示に従い、制圧班が空中のネウロイを優先的に排除、それから目標周辺の地上ネウロイを排除します。殲滅の必要はありません、目標周辺を制圧したら、統制班の判断で救出班を呼びます」

 

スクリーンに次々と情報が加えられていく。

 

おれは、英数字や見慣れない記号ばかりのそれを、あまりおえていない。

 

いや、彼女やNPCがナビゲートしてくれるのだろうが、とはいえ把握していないのは問題だ。

 

「救出班が進出する際に、本作戦最大のポイントがあります」

 

フムン、なにかしらん。

 

「大音量で『ワルキューレの騎行』を流しながら、目標へ向かってください」

 

なんでさ!?

 

「なんでさ…」

 

思わず、おれ。

 

「目標に、我々は人類である、とアピールし、ネウロイとの誤認を防ぐためです」

 

と、彼女。

意外とまともな理由…なのか?

 

「なにより、盛り上がるでしょう?」

 

「不謹慎か」

 

「なにをいまさら。話を進めますよ」

 

「あ、うん」

 

「おおまかには救出班がヘリで目標を回収し、制圧班の援護のもと、統制班の指示で開かれるゲートでホームに帰還し、ある程度の治療をしたあとでカールスラント軍の基地へ移送する…というのが、流れとなります。次に……」

 

正直、おれいらないんじゃないか説が有力に思われるが、それこそ今更であると言い聞かせるおれであった。

 

 

 

 

 

ホームのデザインを、『バンシー級原子力空中空母』に似せたのは、アニメ版『戦闘妖精雪風』の出撃シーンがとても好きだからだ。

 

基地地下からの発進シーンと、断片的に見られるバンシー級からの発艦シーンが特に印象的で、みかけの寸法より遥かに広い内部空間があるホームの、いかにもゲーム的な矛盾を活用して、仰々しいギミックを仕込んだのである。

 

「ブラボー制圧班、サブフライトデッキより発艦。チャーリー統制班、フライトデッキより発艦。チャーリー制圧班に許可が出ました。あなた様、発進シークエンスを開始してください」

 

空港にあるような、各機の離着陸状況などを表示する掲示板に、おれの機の状態も出撃と示された。

 

「了解、音声入力、発進シークエンススタート」

 

重々しい機械音、独特な警報音、おれを乗せた洋上迷彩の『三菱 F‐2A』が床ごと動き出し、そのままエレベーターで上昇、カタパルト脇で一度停止。

 

今度はカタパルト側の誘導ロボットが床を走りこちらへ来て、機体の着陸用の脚を掴むと、いままで乗っていた床のタイヤロックが外れ、ロボットが機体を運ぶ。

 

そうしてカタパルトへ運ばれた機体の脚は、射出するための装置へと、やはり自動で固定される。

 

何度やっても、胸が高鳴る凄い光景だ、たまらない。

 

普通のゲーム時代は飽きてスキップしていたが、その頃と比べ物にならないほど、ワクワクする。

 

「あなた様、発進どうぞ」

 

「チキンブロス、出撃する!」

 

なるほど確かに、不謹慎なのは今更だ。

 

最早心地よいGを感じながら、出力を増し、ホームから少し離れて待機する。

 

「アルファチーム、集合確認。ブラボーチーム、集合確認」

 

すぐに、おれの参加するチャーリーチームも集まった。

 

編隊をくみ、時を待つ。

 

「全チーム集合確認。あなた様、一言おねがいします」

 

「えっ」

 

「お約束、というやつですよ。さあ、おねがいします」

 

「あ、えー……みんな、おれはな、優秀な人間ではない」

 

なんとなく、皆の視線を感じる。

 

「けど、役に立ちたい、という思いはある。おれは十代の頃なんざ遊び呆けていたけれど、ゲートの向こうでは老若男女問わず必死に戦い、死んでいる……怖いだろうに、おれなんて皆の助けがなければ腰を抜かすだろうに、彼ら彼女らは勇気で捩じ伏せ努力している」

 

自然と、操縦管を握る手に力がこもる。

 

「おれは、ゲートの向こうの人々を尊敬する。おれは、彼ら彼女らの力になりたい。けどおれだけでは、焼け石に雀の涙を垂らすようなものだ、だから……皆、どうか付き合ってくれ、おれのわがままに」

 

本当は、もっと上位者らしい振る舞いができれば良いのだが。

 

もっと堂々と、傲慢に、声高らかに、いまだ何故おれなのかも知らないおれが、皆を好き勝手振り回すことを、もっと格好良く宣言できれば良いのだが。

 

どうにもおれは、どこぞの主人公みたいな素質は持ち合わせていないのだ。

 

「なあ、旦那」

 

ダヴェンポートの声が、静かなおれたちの間に響き渡った。

 

「こういう時は、もっと元気良く言うもんだぜ」

 

「……」

 

「そーそー、シャキッとしないと、いいかげん怒るよ」

 

不機嫌そうなアストルフォの声が、耳に届く。

 

「ボクたちが苦労して共通化した存在理由を、キミが一番認めてくれないんだ、ボクたちは悲しいよ」

 

「まったくだ」

 

グレッグの声が、さらに続ける。

 

「アンタはトップだ、何は兎も角な。不満もあるだろうが、それならそれで偉そうにふんぞり返って、思うさままに俺たちを顎で使えばいい。俺たちゃ、アンタの手足であり武器さ。俺たちみんな、アンタがゴキゲンに笑ってくれるんなら、棺桶の上で踊ってやらぁ」

 

「……」

 

「だからよ、ほら、もっと威勢よく叫びな!俺たちゃNPC、アンタが考え、アンタが作った、アンタのもんだ!どうか付き合ってくれ?ばっきゃろう、そんな他人行儀望んじゃいねぇ!無償だって何度も言わせんな、こんにゃろう!サア、もう一度言ってみろ、アンタは、俺たちを、どう扱ってくれるんだ!?」

 

「……チキンブロス4より、作戦参加の全NPCに告ぐ」

 

 

 

 

 

「おれの、望みを叶えろ。おれを喜ばせるために、全てを使え」

 

「おれは彼らを助ける、そうしたいから、そうする…おれは、ストレスを吹っ飛ばしてスカッとしたい!」

 

「だから皆、行くぞ!派手にヤるぞ!」

 

一斉に、了解の声が響き渡った。

 

頼もしさに、体が震える。

 

「ゲート開け!作戦開始!」

 

おれたちは、巨大なゲートへ一斉に突っ込んだ。

 

 

 

 

< コラボステージ:欧州妖霧戦域妖精乱舞 >

 

 

 

アタシはここで死ぬのだと確信していた。

 

同期の娘たちのように、空中で爆発したり、墜落して四散したりとは少し違うけれど、ネウロイにやられてしまうのは間違いない。

 

ストライカーユニットを破壊され、死にたくない一心で不時着しようと足掻いた結果、人独りが寝転がれる程度の広さの崖の出っ張りに乗っかって……結局、通りすぎるネウロイを見過ごす事しかできず。

 

気が付けば、日中のはずなのに太陽がボンヤリと霞むくらい、ネウロイが撒き散らす有毒物質が濃くなっていた。

 

怪我だらけで、出血もしている……ある意味、ストライカーユニットごと焼けたために、脚の動脈が止血されているのは幸運か……虫の息なアタシには、魔力も微量しかなく、魔力による防毒フィルターを兼ねた呼吸補助の魔法すらも維持することが困難だ。

 

痛い、片方しか開かない目に、毒風がしみる。

 

悲しい、こんな思いをするならいっそ、一撃で消し炭にしてほしかった。

 

「……マ…」

 

嗚呼、飛行型ネウロイが、ついでにしとめる気なのだろう、こちらへやってくる。

 

「……ママ……」

 

新型だろうか、やけに速い。

 

初めて見る形だろう、ぼんやりとしか分からないが、そんな気がする。

 

アタシは、アタシは今から彼奴に、粉々に砕かれるのだろうか。

 

なにもできず、ただ黙って。

 

 

………くやしい、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ、ヘイ!ヘイ!!聞こえてるかい、お嬢ちゃん?チョッパー様の参上だぜ!」

 

 

「……え?」

 

 

 

『彼』は勇んでゲートを越えていった。

 

『彼』のNPCたちもまた、猛々しく瞳を輝かせ、それに続いた。

 

 

 

が、真っ先に交戦したのは『彼』ではなく、最も緊急を要するとされたアルファチームだった。

 

「サンダーヘッド、対象はまだ生きてんのか?」

 

制圧班の1機、チョッパーことダヴェンポートが統制班へ訊ねる。

 

「サンダーヘッドより制圧班、救出対象の生存を確認、ただし可及的速やかに救出する必要がある」

 

2機の『FFR‐31 シルフィード』に護衛された、アニメ版の戦闘妖精雪風に登場する『FEP‐1 早期警戒管制機』に搭乗する、統制班の男性NPCが事務的に答えた。

 

「優先目標をマークする。撃破せよ」

 

制圧班の各機に、救出対象のウィッチに近いネウロイが、赤い四角の枠線などで示される。

 

「よっしゃ、急ぐぜグリム!」

 

「了解!」

 

制圧班のうち『マクドネル・ダグラス(ボーイング) F‐15C』が2機、それぞれダヴェンポートとグリムの操縦によって、パトロール中とおぼしき飛行型のネウロイへ。

 

「遊びは無しだぜ、バクシー!」

 

「あたぼーよ!」

 

そしてグレッグとバクシーの『フェアチャイルド A‐10C』2機が、点在する廃家屋をしらみ潰しに襲撃している、地上型のネウロイへ。

 

大気を切り裂く轟音を響かせて、牙を向けた。

 

(…なに、が…)

 

死が迫っていたウィッチは、狭くなった視界で、次々おこる爆発を幻覚だと考えた。

 

先程、無線機が壊れているにも関わらず、聞こえてきた男の声も。

 

耳に届く爆音の他に、どこまでも響き渡るかのようなエンジン音らしき音も届くのだが、それは今までに聞いたどの航空機とも違う。

 

(まさか…ネウロイが同士討ち?)

 

少なくとも、人間が助けに来てくれた、などという考えは微塵もなかった。

 

そんな彼女へ、再び声が届けられる。

 

「そこのウィッチ、聞こえるかしら?」

 

統制班の『FEP‐1』に搭乗している女性NPCの声だ。

 

 

ところで、作成されているNPCのデザインは、様々だ。

 

オリジナルもあるが、多くは元ネタが存在しているし、そのなかには未成年者お断りの実に健全な物もある。

 

たとえばウィッチに声をかけたこの女性NPCは『催〇クラス ~女子全員、知らないうちに妊〇してました~』というゲームに登場するヒロインたちの姿を元にデザインされたNPCの1人であり、同じゲームがデザイン元のNPCは他にも参加している。

 

「助けに来たのよ、私達。もう少しよ、もう少し頑張って、すぐに助けるからね」

 

(……うそ)

 

優しく、若い印象の女性から、助けると言われて。

 

もしやウィッチが、と僅かに希望が湧いた。

 

しかし無線機は壊れていたはずだと、やっぱり死に際の夢なのではないかと、不安に苛まれながら僅かな希望を無視することはできず、かわいた喉から絞り出す。

 

「たすけて……たすけて、ください」

 

声の主が今どこにいるのか、空軍か、陸軍か、カールスラントの飛行機もストライカーユニットの音も聞こえてはこないが。

 

「ええ、ええ!もうすぐよ!」

 

「まかせとけ、今行くから、待ってろよお嬢ちゃん!」

 

あいかわらず聞いたことのなかった轟音が響き、初めて聞く声に励まされ、あちこちで爆発が起きている。

 

もしかしたら、本当に助かるんじゃなかろうか…四肢の感覚が殆ど無くなり、眠たくなってきた彼女は、必死に意識を保とうと自分を励ます。

 

「…だいじょうぶ、たすかる、もうすこし…」

 

 

 

 

 

「おらーっ!オネンネしやがれネウロイどもっ!」

 

「チョッパー、グリム、早くしねえと仕事とっちまうぞ!」

 

「は、はい!」

 

「うるせーやい、そっちこそサッサと平らげちまえってんだ!」

 

「ハッ、いうじゃねえか!」

 

「こきやがれ!」

 

「サンダーヘッドより制圧班、私語は慎め!」

 

(……だい、じょうぶ?)

 

本当に助かるのか不安になっては来たものの、彼女は必死に瞼を開け続けた。

 

 

 

 

 

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